てりとりぃ放送局アーカイヴ(2012年6月1日〜2012年6月15日分)

 1982年の名盤『AVALON』に収録された、哀愁漂うダンス・ポップ曲「MORE THAN THIS」。もちろん後期ロキシー・ミュージックを代表する曲のひとつではあるのですが、昨今の「MORE THAN THIS」ブーム、というのはさすがにロキシー・ファンからするとちょっと異常、と思わざるを得ません。いや決して否定的なわけではなくて、想像できなかったことなので唖然としてしまうワケです。今回は、そんな「MORE THAN THIS」のバリエーションをご紹介。(2012年6月1日更新分/選・文=大久)


Roxy Music / More Than This (1982)

 オリジナルです。EMIが公式にアップしている動画です。アルバム『AVALON』からの最初のシングルとして82年4月に発売されたこの曲は、イギリスでチャート6位にまで上がるヒットとなりました。そして同時に、いつも女をはべらせてクネクネとヘンテコな踊りを踊りながらフリーキーな歌を歌う、というグラムロックの雄としての(ホンの数年前までの)ロキシー・ミュージックのパブリック・イメージを完全に払拭するような、アダルト・コンテンポラリーの名曲として人気を博した曲でもあります。

10,000 Maniacs / More Than This (1997)

 時を経て1997年、アメリカのルーツ系ベテラン・ロック・グループの10,000マニアックスがこの曲をカヴァーし、シングル・リリースしました。そしてなんとこのカヴァーはアメリカでチャート25位にまで上がるヒット曲となりました。本家ロキシーのバージョンがアメリカでは103位だったのに、です。この曲はリード・シンガーでもあるメアリー・ラムゼイ嬢による牧歌的なバイオリン・ソロも大きくフィーチャーされており、ちょっと原曲と違うイメージが楽しめます。この曲はダンス・リミックス版もヒットを記録。


Charlie Hunter feat. Nora Jones / More Thans This (2001)

 2001年、ブルーノートから発売されたチャーリー・ハンター(G)のアルバム『SONGS FROM THE ANALOG PLAYGROUND』は、カート・エリング等のゲスト・ボーカルをフィーチャーしたコンセプト・アルバムでした。インプレッションズ「MIGHTY MIGHTY」やニック・ドレイク「DAY IS DONE」といった面白いカヴァーも収録されていますが、中でも出色なのが、ボーカルにノラ・ジョーンズを迎えて録音されたロキシー「MORE THAN THIS」のカヴァーでしょう。

"Lost In Translation" (2003)

 2003年、ソフィア・コッポラ監督で東京を舞台にしたちょっと風変わりな映画「ロスト・イン・トランスレーション」が制作されました。低予算のプチ・アダルト恋愛映画だったのですが、アメリカでこの映画は大ヒットを記録し、2003年の賞を総なめに。で、この映画の中で主人公のビル・マーレーがカラオケを歌うシーンがあるのですが、そこでヘッタクソ(笑)にも歌うのが「MORE THAN THIS」でした。もちろん演技でしょうが、もの凄くリアルな演出にみえて、おそらく吹き出してしまったのは当方だけではないように思うのですが。

Emmie / More Than This (1999)

 上記映画以降だけでも(あのデボラ・ハリーの)ブロンディー、ミッシー・ヒギンズ、ロビン・ヒッチコック、ダムネット・ドイル(カナダのSSW)他多くのカヴァー・ヴァージョンが生まれています。そんな数多あるカヴァーの中でも最もヒットを記録したのは、実は上記映画よりも前にリリースされた、このエミーという女の子が歌ったハウス・ヴァージョンで、なんと1999年にチャート5位まで上昇しています。実は彼女のこのカヴァーは、プレイステーション用ゲーム「DANCING STAGE EURO MIX」(ダンスダンスレボリューションのEURO版)で採用されていた曲で、まさに「ロキシーなんか知らない」という新しい世代にウケた、というワケです。

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 有名ミュージシャンが「自分が影響を受けた曲」を自ら集めて組んでみた、という英国のコンピ・シリーズ「UNDER THE INFLUENCE」というのがあります。その企画内容をいただこう、ていうわけじゃないんですが、また今年世界ツアーに出ることになったヴァン・ヘイレンを記念して、デイヴ・リー・ロス版「UNDER THE INFLUENCE」を勝手にやってみました。あ、勝手にとは申しましたが、実際に彼がカヴァーしたことのある曲ばかりです。それにしてもこういう曲をハードロック・バンドでやっちゃったワケですから、ダイヤモンド・デイヴ恐るべし、ですよね。(2012年6月8日更新分/選・文=大久)


Louis Prima / Just A Gigolo-I Ain't Got Nobody (1958)

 大ヒットを記録したデイヴ・リー・ロスのソロ2枚目のシングルの元曲。「Just A Gigolo」はもともと1920年代に作曲された曲なのだそうで、オリジナルということにはなりませんが、ルイ・プリマがやったメドレー形式でそのまんまデイヴはカヴァーしています。動画は1958年にTV出演した時のルイ・プリマ。横でなんだか不機嫌そうにコーラスを重ねてる女性はキーリー・スミス、当時のルイ・プリマの奥さんです(61年に離婚)。「THE WILDEST」というのはプリマのニックネームですが、奥さんがムッツリしているのはその対比をわざと演出しているから、とのこと。

Margaret Young / Big Bad Bill (1924)

 さあ、もの凄い古い曲が出てきました。1891年デトロイト生まれのマーガレット・ヤングは20年代に活躍したシンガーですが、25年に引退してしまっています(その後49年にカムバックを果たしたそうですが)。この曲は24年10月にブランズウィック・レーベルに吹き込まれたスウィングですが、ヴァン・ヘイレンは5作目『DIVER DOWN』(82年)でこの曲をカヴァーしています。

Roy Rogers & Dale Evans / Happy Trails (1952)

 デイル・エヴァンス&ロイ・ロジャースによって吹き込まれた「HAPPY TRAILS」は、40〜50年代にアメリカのラジオ番組でテーマ曲としてオンエアされ、カウボーイ達のアンセムとなった曲。また2人が共に50年代に出演していたTV番組でもテーマ曲になったとのこと。この曲は「さよならソング」としても有名だそうで、たしかにヴァン・ヘイレンが82年にこの曲をカヴァーしたときも、アルバム『DIVER DOWN』のクロージングとして収録されていました。ヴァン・ヘイレン版はアカペラでしたが。

Frank Sinatra / That's Life (1966)

 この動画は最近公式にアップされたモノですが、同曲の別な動画の再生回数を見てちょっとビックリしてしまいました(1000万回を優に越えてます)。シナトラの問答無用の代表曲なのでご存知の方も多い曲でしょう。デイヴ・リー・ロスは86年のソロ『EAT'EM AND SMILE』にてこの名曲のカヴァーを披露していますが、他にもアレサ、テンプテーションズ、ジェイムス・ブラウン、ボノ(U2)、ヴァン・モリソン等もこの曲を吹き込んでいます。

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 例えば「解像度」という単語を持ち出すまでもなく、実はデジタル技術の究極の目標は「アナログに最も近づくこと」です。では「究極のアナログ体験」とは何かと申せば、(異論はあるかもしれませんが)当方は「恋愛」だと考えます。つまり、デジタルに本気で恋をした瞬間に、アナログとデジタルは遂にその境界線がなくなります。一体お前は何を言ってるんだ、と言われそうですが(笑)すでに妄想ではなく、現実のお話でもあります。そんなお題をテーマに、象徴的な動画を選んでみました。(2012年6月15日更新分/選・文=大久)


Daft Punk / Digital Love (2001)

 タイトルもそのままドンズバの、ダフト・パンク2001年の大ヒット曲のPVです。元々素性を露にしないフランス出身のフィルター・ハウス系ユニットではありますが、同曲のビデオ・クリップはわざわざ(メンバーが大ファンだという)松本零士本人に依頼し、新規のフル・アニメーションで作ったことも大きな話題となりました。この曲は1979年のジョージ・デュークの「I LOVE YOU MORE」というアーバン・ファンク曲をサンプリングして制作されています。


Nyan Cat (original / 2011)

昨年世界で5番目に多く閲覧(7000万回超)されたという記録をもち、今おそらくアメリカで一番有名な動画です。このシンプルなネコの動きと曲が「中毒性が高い」ということで世界中の寵愛を我が物にしている「ニャンキャット」。動画を制作したのはテキサス在住の25歳の一般人ですが、実はこの曲はもともとVOCALOIDを使って2010年に日本で制作されたもの。その曲を前述のテキサスの青年が「UTAU」という別ソフトでリメイクし動画として完成させたものです。オリジナルは3分半の尺ですが、完全な中毒症患者のために、同曲を延々とループさせた10時間版100時間版や、MAD動画のボリウッド・ダンス版もあります。

【4歳の娘が】ワールドイズマイン【頑張ったよ】

 純粋な素人投稿動画です。YOUTUBEを含め、世界中の動画投稿サイトにある「〜〜を歌ってみた」という企画動画はその99%が試聴にさえ耐えないものですが、タマにこのような恐ろしい世界観を提示する傑作があったりします。「恋愛」とは違うのでしょうが、4歳の少女が初音ミクに恋をしたのは事実でしょう。曲は北米TOYOTAのTVCFでも使用された代表曲。ヴァーチャル・アイドルが歌うコトバとして、この歌詞は重い意味を持つわけですが、実存の4歳の女の子がこれを歌うと、さらに重い意味になりますね(笑)。


小室哲哉 feat.初音ミク / LOVE IS ALL MUSIC (2012)

 曲は97年に華原朋美が歌って大ヒットしたバラードのリメイク、ということになります。当方は個人的に初音ミク支持者ですが、正直この企画/曲をどう評価していいか今もって全くわかりません。好きでも嫌いでも、良い悪いでもなく、わからない、のです。この曲のクリエイターの方が初音ミクに恋をしたとは思えませんが、LOVE IS DESTRUCTIVE、ということなんでしょうか。

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