1982年の名盤『AVALON』に収録された、哀愁漂うダンス・ポップ曲「MORE THAN THIS」。もちろん後期ロキシー・ミュージックを代表する曲のひとつではあるのですが、昨今の「MORE THAN THIS」ブーム、というのはさすがにロキシー・ファンからするとちょっと異常、と思わざるを得ません。いや決して否定的なわけではなくて、想像できなかったことなので唖然としてしまうワケです。今回は、そんな「MORE THAN THIS」のバリエーションをご紹介。(2012年6月1日更新分/選・文=大久)
Roxy Music / More Than This (1982)
オリジナルです。EMIが公式にアップしている動画です。アルバム『AVALON』からの最初のシングルとして82年4月に発売されたこの曲は、イギリスでチャート6位にまで上がるヒットとなりました。そして同時に、いつも女をはべらせてクネクネとヘンテコな踊りを踊りながらフリーキーな歌を歌う、というグラムロックの雄としての(ホンの数年前までの)ロキシー・ミュージックのパブリック・イメージを完全に払拭するような、アダルト・コンテンポラリーの名曲として人気を博した曲でもあります。
10,000 Maniacs / More Than This (1997)
時を経て1997年、アメリカのルーツ系ベテラン・ロック・グループの10,000マニアックスがこの曲をカヴァーし、シングル・リリースしました。そしてなんとこのカヴァーはアメリカでチャート25位にまで上がるヒット曲となりました。本家ロキシーのバージョンがアメリカでは103位だったのに、です。この曲はリード・シンガーでもあるメアリー・ラムゼイ嬢による牧歌的なバイオリン・ソロも大きくフィーチャーされており、ちょっと原曲と違うイメージが楽しめます。この曲はダンス・リミックス版もヒットを記録。
Charlie Hunter feat. Nora Jones / More Thans This (2001)
2001年、ブルーノートから発売されたチャーリー・ハンター(G)のアルバム『SONGS FROM THE ANALOG PLAYGROUND』は、カート・エリング等のゲスト・ボーカルをフィーチャーしたコンセプト・アルバムでした。インプレッションズ「MIGHTY MIGHTY」やニック・ドレイク「DAY IS DONE」といった面白いカヴァーも収録されていますが、中でも出色なのが、ボーカルにノラ・ジョーンズを迎えて録音されたロキシー「MORE THAN THIS」のカヴァーでしょう。
"Lost In Translation" (2003)
2003年、ソフィア・コッポラ監督で東京を舞台にしたちょっと風変わりな映画「ロスト・イン・トランスレーション」が制作されました。低予算のプチ・アダルト恋愛映画だったのですが、アメリカでこの映画は大ヒットを記録し、2003年の賞を総なめに。で、この映画の中で主人公のビル・マーレーがカラオケを歌うシーンがあるのですが、そこでヘッタクソ(笑)にも歌うのが「MORE THAN THIS」でした。もちろん演技でしょうが、もの凄くリアルな演出にみえて、おそらく吹き出してしまったのは当方だけではないように思うのですが。
Emmie / More Than This (1999)
上記映画以降だけでも(あのデボラ・ハリーの)ブロンディー、ミッシー・ヒギンズ、ロビン・ヒッチコック、ダムネット・ドイル(カナダのSSW)他多くのカヴァー・ヴァージョンが生まれています。そんな数多あるカヴァーの中でも最もヒットを記録したのは、実は上記映画よりも前にリリースされた、このエミーという女の子が歌ったハウス・ヴァージョンで、なんと1999年にチャート5位まで上昇しています。実は彼女のこのカヴァーは、プレイステーション用ゲーム「DANCING STAGE EURO MIX」(ダンスダンスレボリューションのEURO版)で採用されていた曲で、まさに「ロキシーなんか知らない」という新しい世代にウケた、というワケです。
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