2013年10月4日(金)

気まぐれ園芸の愉しみ
夏の名残の花火、ダリア

 夏の猛暑はどこへやら、ここ最近、一気に涼しくなった。虫の鳴き声や風にそよぐ葉の音も、乾いた空気に乗ってからりと響く。すっかり秋の音色である。
 夏から秋に変わる境目の季節は、なぜだか物悲しい気持ちになる。長袖に手を通すようになると、あれほど早く終わってほしいと願ったはずの真夏がもう懐かしい。そんな季節の狭間を彩るのがダリアだ。
 ダリアというと、一般的にはどんなイメージで思い

描かれるのだろう。大輪で花びらが多く、色が派手。なにもかもが日本の風情からかけ離れた豪華な花、という印象を持つ人が多いのではないだろうか。人間にたとえるなら、明るく情熱的なラテン系。
 確かに、原産国はメキシコなど南米の山地だから、このたとえも当たっているかもしれない。花色の種類は豊富で、青以外ならほとんどある。花の形もさまざまで、一重咲きあり、万重咲きあり、スイレンのよう

な形の花もあれば、糸のように細い花びらが束になったものまである。花の大きさも、ゴルフボールほどのミニサイズから、直径三十センチもの巨大輪までさまざま。皇帝ダリアという品種は樹高2~3メートルにも達する……。
 とにかく、品種ごとの違いが激しく、いちいち過剰なのだ。ダリア園などに行くと、それぞれの花の個性がぶつかって、リオのカーニバルさながらのにぎやかさだ。

 ところが、このダリアを実際に庭で育ててみると、「明るく過剰なラテン系の花」と簡単にくくれなくなる。花が重く、茎がひょろひょろとのびるため、支柱なしでは倒れてしまう。猛暑が苦手で、真夏は花数が極端に減る。意外にかよわいところもあるのだ。
 そして、九月も半ばを過ぎ夏が終わるころ、渾身の力をふりしぼるように花を咲かせる。華やかだが、どこかはなかない。その様子を見ていると、私はいつも

花火を連想してしまう。
 真夏に見る花火はひたすら楽しいが、秋口に見る花火には哀愁が漂う。花火が消えるのと同時に、夏のキラキラとした思い出も消えていくような気がするのだ。
 ダリアの花が力尽きてしぼむと、庭には祭りの後のような静けさがただよう。「今年も、もう残りわずかだな」と思う。
 毎年、名残惜しい気持ちを呼び起こすダリア。年を追うごとにこの気持ちが増していくのは、こちらの盛りも、いよいよ峠が見え始めているからなのかもしれない。
(髙瀬文子=編集者)



あのころ、みんなが恋していた!
『80年代アイドルカルチャーガイド』が発売

 まずはじめにお詫びを。本稿を執筆している人間は、世間で話題のあのドラマ「あまちゃん」をまったく見ていません。別に信条的な理由があるわけではなく、そんな時間に起きている機会がないから、という理由でしかないのですが。
 ともあれ、話題になっているのは承知しております。「あまちゃんブーム」に沸き立つ昨今、80年代という「特別な」ディケイドに花開いたアイドル文化。そう、

その「文化」という面を切り口にしたムック本が、このたび洋泉社から発売になりました。「80年代アイドルカルチャーガイド」という書名の通り、カルチャーとしてのアイドル現象を探ったものです。
 シングルCD1枚のジャケット写真撮影に丸1日、その加工・修正に丸2日、とか時間をかけてしまう当方のようなボンクラ・デザイナーとは比較にもなりませんが、巨匠・篠山紀信氏

は、80年代の松田聖子のジャケット写真撮影に関して「ほんの10分ほど」しか要しなかったそうです。この話は、本誌に掲載されたインタビューのためにお会いした、松田聖子担当ディレクター/プロデューサーでもあった若松宗雄氏から当方が直にお聞きした話です(スペースの都合で原稿ではカットしてしまいましたが)。
 それにしても、隔世の感、というものをヒトキワ感じざるを得ません。80年代に日本の女性アイドルに向かって「どんな音楽が好きですか」と訊くことは(タブーではなかったにせよ)ある意味「あえて質問しない」という項目でもあったからです。それは当然、当時のアイドル楽曲というものが、歌手本人の関知しない場所で楽曲が選ばれ、制作され、そして歌の歌唱だけを担当

する役目を担うアイドル歌手たちは、同時にその楽曲の責任を100%背負う覚悟が必要とされていたからです。ウカツなことは言えませんでした。
 ですが今は時間もたち、早見優は「ハワイにいた頃に(アイドル時代の)ジャネット・ジャクソンが好きだったから、デビュー曲が(当初予定されていたフォーク調の)『潮風の予感』ではなく、ダンサブルな『急いで初恋』に変わって嬉しかった」とか、荻野目チャンが「姉達の影響で、ビートルズやクイーンが教科書でした」とか、斉藤由貴が「兄が大のプログレ・ファンで」という話が誌面に載る時代となりました。
 斉藤由貴に関して言えば、彼女の作品の多くのアレンジを担当した武部聡志氏の「僕の中で、ブリティッシュ・プログレの世界を歌謡

曲に盛り込みたかった」という発言もリンクする形で、今改めて彼女の作品感のひとつを紐解くことができるようになりました。余談ながら本誌では、彼女のシャア・アズナブル愛も伺うことができます(笑)
 そんな貴重なエピソードや本人による証言、検証コラムも充実した本書。80年代自虐史観(笑)からやっと逃れ、真正面からアイドル文化を探るいい機会が今なのかもしれません。
(大久達朗=デザイナー)
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●洋泉社ムック「80年代アイドルカルチャーガイド」早見優、荻野目洋子、斉藤由貴、尾崎亜美、武部聡志らのインタビューに加え、加藤義彦、川口法博、鈴木啓之、高岡洋詞、馬飼野元宏らによるコラムも充実。価格は1575円(税込)・発売中。



自主制作マンガ界の卒業制作マニア

 たんきゅん、というアーティストについては憶えておいてもいい。憶えても、間もなく想い出になってしまうけれども。たんきゅん

は、私立櫻梅女子中学生3年生、みやまゆ(宮崎繭子)とチャンユメ(花渡夢子)のふたり組。ただ今、受験勉強の真っ最中だ。201

2年に結成されたが、来年の卒業を期にユニットは解散、彼女たちの活動は終了する。たんきゅんの基本は、女子中学生のせつない気持ちを歌うガールズポップデュオ(プロフィールを引用)。昨年の暮れに発売された「サボッタージュ」は、ユーチューブでもMVも観賞できる。これがまあ、名曲。教室より屋上の好きな女子中学生にも、大人になりきれない中年男性(俺も俺も)にも、マイノリティへの応援歌として響いてくる。このファースト・シングルは7インチ・アナログ盤で、ちなみにセカンドの「ティーパーティーパーティー!」は8センチCD。トリッキーなライブを続けている彼女たちらしい。まさかアルバムはカセットテープで出しゃしないだろうね、なんて話は置いといて。昨年10月の雨の日、渋谷パルコ

の野外ステージライブにおいて、コミティア(創作マンガ同人誌即売会では最大規模)への参加を発表。何と、マンガ同人誌を活動の一環に加えるというのだ。またまた冗談を、と思ったら本当にマンガを描きはじめ、その様子をUST中継、そして一ヶ月後には「たんきゅんのJCシリーズ」と銘打った『サボッタージュ』を刊行した。今年2月には2冊目の『少年少女』を刊行。共に同名の楽曲からタイトルをとり、全3作で完結するという。自分たちを主役にした、乙女チック友情マンガの連作。画はみやまゆで、ストーリーはチャンユメが担当するも、たまに定規を駆使してアシストするチャンユメの苦闘振りが伺え、愛らしい。
 8月には、イベント「たんきゅんの課外授業」で本秀康からマンガ作法を学ん

だ経験をふまえ、ゲストを招いた番外編『たんきゅんS・O・S』も創られた。みやまゆの画力は目に見えて上達しており、もったいないから高校進学しても続けたらどうかと、進路指導主事に成り代わって記しておきたい。
(足立守正=マンガ愛好家)
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●左の動画は、女子中学生の気持ちを歌うガールズポップデュオ「たんきゅん」ファースト・シングル曲『サボッタージュ』MV。