代作騒ぎに揺れた2014年、冬の日本音楽界。長髪にサングラス、髭面に黒ずくめの服といったヴィジュアルがTVやインターネット、週刊誌上を賑わせていたようだが、この問題の真偽・帰結を遠く離れて話を続ければ、ことポップスを愛好する者にとって、たくわえられた音楽家の「髭」には何か特別な興味を抱いてしまう節がある。表情を安易に気取られないためのサングラスも、受け手の心性に一役買ってしまうところがある。いささか強引ではあるが、今回の『てりとりぃ放送局』はそんな着想から選曲させて戴いた。題して「髭とサングラスとポピュラー・ミュージック」。(2014年2月28日更新分/選・文=関根)
Nick DeCaro / Under The Jamaican Moon
王道もいいところだが、このテーマならまずはここにソフト&メロウの第一人者、ニック・デカロの『イタリアン・グラフィティ』のジャケットを置いておきたい。こちらはスティーヴン・ビショップのペンによるアーバン・リゾート風の一曲だが、楽曲的には同アルバム収録のスティーヴィー・ワンダー「Angie Girl」のカヴァーもお薦めしたい。サビ突入時のコード感、ジェントルな歌声。春を待つカフェの店先をいつも夢想する。
Cooper & Ross / Only The Lonely
このジャケットを見て戴ければ、ニック・デカロをトップに据えたのも納得して戴けるだろうか。デカロはタキシードに身を包んでいたが、こちらの男性ヴォーカリスト、ジミー・ロスは真紅のスタジャンでポーズを決める。横に控えるキャシー・クーパー嬢のバンダナにも要注目だ。この佇まいからはどうしたって80's産業ロックの薫りを嗅ぎ取ってしまいそうになるが、鳴らされる音は紛うかたなきAOR・ミディアム・フロウター。
Leon Russell / Back To The Island
伸びに伸びた白髪と髭で、今や仙人のような風貌となってしまったレオン・ラッセルの、これはソフト&メロウ期の一曲。映像優先でこちらを紹介したが、やはり楽曲的には当時の奥方マリー・ラッセルと共に録音した同時期の2枚のアルバム『Wedding Album』『Make Love To The Music』をお薦めしたい。若い時分のスナップや映像をWebで探して戴ければお分かりの通り、サングラスを外した目元は眼光鋭く実にクール。
Wizzard / This Is The Story of My Love (Baby)
『てりとりぃ放送局』には過去何度か紹介されたと記憶するが、仙人的な髭と言えばやはりロイ・ウッドにご登場願わなくてはならない。このクリップはスペクター・サウンドに影響を受けた氏の楽曲に乗せ、そのキンキーな顔面ペインティングの変遷をランダムに切り貼りしたものと思しい。サングラスこそしていないものの、補って余りある、この人間グラフィティ的存在感。この楽曲自体は大滝詠一フレーズとしても知られる。
Hermeto Pascoal / Music From The Beard - Som da Barba
冒頭の二人を除き、後半は見た目の奇矯さが立ってしまう人選となってしまったが、前提として共通しているのはいずれも音楽的成熟度が高いと言うこと。ここでご紹介するブラジルの奇才、エルメート・パスコアルのライヴ映像は、それを「全身で表現」してしまっていると言っていい。柔らかなフルートの音がたゆたう中、歯に引っかけたピアノ線を爪弾き、自身の顎髭を指で擦って奇音を奏でる様に最初から度肝を抜かれてしまう。
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