てりとりぃ放送局アーカイヴ(2014年5月23日〜6月6日分)

 当欄でも以前「BLUSETTE」の特集をしたことがありますが、1922年ベルギー生まれ、今年すでに92歳になったハーモニカの巨匠トゥーツ・シールマンス。2014年3月、今年予定されていたライヴ・スケジュールをすべてキャンセルし、音楽活動から完全に引退することを表明しました。この年齢まで現役バリバリだったことも驚異的ですが、何よりも世界中から圧倒的な信頼を得るハーモニカ・プレイヤーとしてその業績の数々は枚挙に暇がありません。今回はそんなトゥーツ氏の特集です。(2014年5月23日更新分/選・文=大久)


George Shearing Combo (1957)

 ちょうど第2次大戦中に音楽活動をスタートしたトゥーツはジャンゴに影響を受けてジャズの道へ。ギタリストとして活動をしていましたが、首からぶら下げたハーモニカも同時に演奏する、というスタイルで注目を集めました。そのギター&ハーモニカ、という演奏スタイルに感銘を受けたのが、ジョン・レノンだった事は有名ですね。動画は57年、ジョージ・シアリング楽団に在籍していた時の珍しい映像。

Mina & Toots Thielemans / Non gioco più (1974)

 ちょっと時代が飛びますが、例の「真夜中のカウボーイ」での名演で既に一躍トップ・ミュージシャンとなった(ハーモニカ・プレイヤーとしての)トゥーツが、イタリアの歌姫ミーナと残した共演映像。個人的には60年代のブリブリに可愛らしいミーナ・ファンなのですが、こちらで見られるちょっとデカダンで毒気をはらんだミーナ様も、相変わらずお美しい。

Toots Thielemans with Boston Pops / Midnight Cowboy (1980)

 で、その「真夜中のカウボーイ」のライヴ映像。80年にボストン交響楽団との共演で残された映像。以前にも書きましたが、この映画音楽が制作(ジョン・バリー/1969年)発表された時には、ハーモニカ・プレイヤーのクレジットは入っていませんでした。今では世界中の誰しもが知っている事実ですが。

Billy Joel / Leave A Tender Moment Alone (1983)

 客演の数は数知れず、名演への貢献も数知れず、というトゥーツですが、こちらは83年、ビリー・ジョエルが「AN INNOCENT MAN」収録曲の中でトゥーツをゲストに迎えて録音された曲のライヴ映像。もちろんライヴでもご本人に登場いただいていますね。トゥーツは日本の作品への客演も多く、89年にレベッカの曲なんかにも参加しています。

Mark King with Toots Thielemans / Hello It's Me (1998)

 たまたま今回のトゥーツ特集は共演演奏集、となってしまいましたが、個人的に一番驚いた共演がこちら。レベル42のマーク・キングがテレビ出演した際にトゥーツをゲストに迎えて生演奏を披露していますが、その曲がなんとトッド・ラングレン「HELLO IT'S ME」のカヴァー。マーク・キングはトッド・ラングレンの大ファンで、いつか彼に作品をプロデュースしてもらいたかった、とのことです。



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 1967年のボブ・ディランを指して「その視線は、客ではなくて、未来を見ている」と評した方がいました。それはその通りだな、と当方も思います。それから20年を経て、客はおろか未来さえ見ずに、自分のつま先だけを延々と凝視するアーティストが大量に発生しました。「シューゲイザー」と呼ばれる(英語だとShoegazing)バンドのことですが、今回はそんなつま先フェチの歴史を簡単におさらいしてみたいと思います(2014年5月30日更新分/選・文=大久)


The Jesus And Mary Chain / Just Like Honey (1985)

 シューゲイザーの発端をどこに置くか、は諸説ありますが、当方としてはジザメリのメジャー・デビューをその発端にしたいと考えています。キンキンノイズの嵐だったインディー期から脱皮し、メランコリックなメロディーを取り入れた「JUST LIKE HONEY」こそ「やる気なんてコレっぽっちもありませんけど?」的な耽美世界を見せてくれたからです。動画に出てくるボビー・ギレスピーがそれを証明してくれていますよね。

Ride / Like A Daydream (1990)

 当時はシューゲイザーなんて言葉はありませんでしたが、そういう音楽が英国発信で日本でも大きく話題となったのは事実。デビュー直後に大騒ぎとなったバンドのひとつがライド。ガレージ色の強いデビュー曲「CHELSEA GIRL」はそれほどでもありませんでしたけど、セカンド「LIKE A DAYYDREAM」はレコード店に入荷するやいなやその壁を飾る暇もなくあっという間にレジを通過しお客さんのレコード袋の中に収められたことをよく覚えています。

My Bloody Valentine / Soon (1990)

 1990年は、シューゲイザーにとって忘れられない年となりました。なんといってもこのジャンルにとって問答無用の最高傑作が生み出され、2014年現在もこのアルバムを超える作品が存在しない、という恐ろしいほどのエポックメイキング・アルバムとなってしまったからです。以来24年を経ても、このジャンルを愛してしまったファンやミュージシャンによるこの音の解析作業はいまだにゴールが見えていません。


Slowdive / Catch The Breeze (Live/1991)

 個人的嗜好という意味をあえて棚に上げて申せば、シューゼイザー周辺にはとても魅力的な美しい女性アーティストが多く存在しました。こちらは91年デビューのスロウダイヴのTVライヴ映像。他のメンバーが一心不乱に床を凝視する中、美しいメロディーを紡ぎ出すレイチェル・ゴスウェル嬢ですが、実は耳に障害をもつ女性でもあります。それ故の轟音かどうかは判りませんが。

make some noises with Digital Delay (by M.A.S.F.) (2011)

 さて、先ほど「解析作業」という言葉を使いましたが、シューゲイズ・サウンドの解析作業の第一人者が日本にいます。MASFというエフェクター・ブランドを展開する人ですが、こちらの動画はそのMASFスタッフによるシューゲイザーのお試しセッティング。実はこれでも「極端にシンプル化」した例でして、例えばマイブラのケヴィン・シールズという人の場合、ライヴではこんなセッティングを使う人なので、その解析は困難を極めるのもご理解いただけるかと。

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 以前当コーナーで「とある音楽制作家のレシピ」といったお題目でデヴィッド・モラレスの特集をしたことがあるのですが、今回はレシピ第2弾。ビル・ドラモンド&ジミー・コーティーという2人組の特集となります。まあ例によってその正体は最後にネタバレしますが、こんだけハチャメチャなコンビもいねえだろ、と思える程に破天荒。こんにちアナーキーを気取り破天荒画像をツイッターに投稿する方々には、是非ご参照いただいた上で猛省を促したい、そんなレシピです。(2014年6月6日更新分/選・文=大久)


Doctor Who main theme (1963)

 まず最初の具材は、1963年以来現在に至るまで絶え間なく(註:実際には1年ほど休んでいた期間もありますが)続く、英国を代表するSFドラマの主題歌。50年にもわたって英国BBC-TVのキラーコンテンツであり続けるというのも凄いです。ロン・グレイナーという作曲家による同曲は世界初の「エレクトロ・ミュージック」と言われることも多い、スペイシー・トラック。

Sweet / Blockbuster (1973)

 続いては英グラムロック界が誇るオバカ・バンド、スウィートの代表曲。この曲を指して「世界で一番バカな曲」と言ったのはすかんちのROLLY氏(彼がイエモン吉井氏と同曲を共演カヴァーした際の発言)ですが、100%同意します(笑)。タイトルは「大流行」を指すスラングですが、文字通りこの曲は全英NO.1を獲得。まあこの曲に関するウンチクは、そのうち発売される(当方監修の)グラムロック本にて改めて。
Steve Walsh / Let's Get Together Tonight (1987)

 そしていきなり時代が飛んで87年英国産のオールドスクール・エレクトロファンク。スティーヴ・ウォルシュはラジオDJですが、87年「I FOUND LOVIN'」という曲(ファットバック・バンドのカヴァー)が大ヒット、続いて発売されたのがこちらの曲でした。彼は翌年イビザにて自動車事故で亡くなっていますが、海賊ラジオ全盛期の当時のイギリスで絶大な人気を誇るDJでした。
The Timelords / Doctorin' The Tardis (1988)

 そんなワケで、上記3曲にくわえゲイリー・グリッター「ROCK 'N ROLL PT.2」(以前掲載したので、今回動画は割愛)をネタに制作されたのが、こちらのタイムローズという2人組による曲。見事全英NO.1を獲得しています。まあ英国人なら誰でも知ってる曲ばかり強引に編集した曲ですからウケるのはよくわかります。が、実は当時、このタイムローズはサンプリングに関して全て無許可で(勝手に)使っていました。そのため、その後彼らは多くの裁判を抱えることになります。
The KLF / 3 A.M. Eternal (Live at the S.S.L.) (1989)

 で、そのタイムローズというのは、翌年世界的な大ヒットを連発することになるあのKLFの変名ユニットでした。もともとKLFは Kopyright Liberation Front(=著作権解放戦線)の頭文字ですから、確信犯であることも明白です。権利で訴えられる機会の多かった彼らは「じゃあこれでいいんだろ?」というアピールとして自身の作品を数百枚人前で燃やしてみせたり、フェリーから海上に投げ捨てたりしてます(その場面は彼らのアルバムのジャケ写に使用されました)。数々のスキャンダルでも有名な彼らですが、新聞全面広告を使った引退発表が、一番の衝撃でしたね。


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