2015年1月16日(金)

 
十三の夜


 放出(はなてん)、立売堀(いたちぼり)などと並ぶ、大阪の難読地名「十三(じゅうそう)」。安くて旨い酒が飲める、庶民的な歓楽街として知られる。中学生のころ、深夜テレビのローカル枠で流れる「雁亭のママ」「三笠名物、美女の逆立ち」などの怪しいCMとともに、この街のイメージをわたしに焼き付けたのが、「十三のねえちゃん」と声を張り上げる、藤田まことの曲だった。
 彼はコメディアンとして売り出す以前、一時期、歌手を目指していただけあって、歌が上手い。おなじみ「てなもんや三度笠」の主題歌を始め多くのレコードを残しているが、自ら作詞作曲した「十三の夜」は愛着が強かったのか、テレビの歌謡ショーなどでも好んで歌い、歌手・藤田まことの代表曲となった。

 だが、この曲、もともとは彼の個人パーティーで出席者に配られた非売品シングルで、当初、一般発売の予定はなかったらしい。入手した業界関係者から口コミで評判が広まり、急遽、リリースが決定したという。非売盤は市販盤と同じイラストのジャケットだが、品番は異なり、価格表記もなし。バーティー開催日と思

われる1970年10月25日の日付とともに「時節柄なるべく早くお召し上がり下さい。一流デパート・各レコード店では販売致しておりません」との注意書きが記されている。非売盤は黒、市販盤は紺と、レーベルの色も違う。
 レコーディングは「三度笠」「一本槍」に続くテレビ・シリーズ第3作「てな

もんや二刀流」の劇伴録音時、スタジオの空き時間に行われた。作業は深夜にまで及び、途中休憩で屋台の夜鳴きソバを食べたので、サビ「十三のねえちゃん」部分の伴奏にチャルメラのメロディーを入れた。以上は、編曲者・斉藤正雄さんから直接お聞きしたインサイダー情報である。
 斉藤さんは、関西を代表するアコーディオンの名手で、NHK「のど自慢」でラジオ時代から長らく伴奏を務めるなど、放送音楽の分野で幅広く活躍された。その昔、わたしが初めて担当した懐メロ番組でも、レギュラー出演していただいた。独ホーナー社でカスタムメイドしたゴージャスな愛器を抱え、生放送中、突発的にメイン・パーソナリティーが歌い出すや否や、たちまち伴奏を付けてしまう。レパートリーは無尽蔵

だった。
 ラジオにもかかわらず、スタジオ入りは、いつも舞台と同じスーツ姿。あるとき、目の覚めるような純白のスーツで現れた斉藤さんに水を向けると、こんな答えが返ってきた。「香港に古い馴染みのテーラーがありましてね。この前、ふらっと行って来たんですわ」
 ところで、2012年の

秋、鈴木雅之が「十三の夜」をカバーしたという怪情報が、関西の音楽業界を駆け巡ったことがあった。すぐにそれは、さだまさし書き下ろしの新曲「十三夜(じゅうさんや)」だと判明したが、マーチンがシャウトする「十三のねえちゃん」、聴いてみたかった気もする。
(吉住公男=ラジオ番組制作)

●写真上:藤田まこと「十三の夜」(70年、テイチク 45-140 非売品) ●写真下:同盤レーベル



菅原文太さんの追悼に集まったデコトラを観に行ってきましたの巻


 年が明けたばかりだというのに、去年の12月がずいぶんと昔のことに思えます。ただでさえ忙しい年末に、寝る時間を惜しんでDVDばかり観て過ごしていました。2015年を前に相次いで入った高倉健さんと菅原文太さんの訃報のことです。去年はちょうど「仁義なき戦い」5部作、「トラック野郎」シリーズがブルーレイで再発売されたおかげで、あまり昔の映画を観る習慣がない友人たちとも

ようやく盛り上がれるようになったところでした。そんな折、「トラック野郎」の撮影に協力してきたデコトラ集団・全国哥麿会のカウントダウンイベントで、星桃次郎こと文太さんが映画で乗っていた「一番星号」の実車が展示されるというニュースが入りました。会場は群馬県太田市、新上武大橋近くの河川敷です。「ウッ、ちょっと遠い……しかも大晦日の夜」というのが正直なところでしたが、

去年8月、『トラック野郎 度胸一番星』の野外上映とともに実車が展示されたカナザワ映画祭の前夜祭に行けなかった悔しさもあり、「ええい、紅白歌合戦ならカーラジオでも聴けるわい!」と意を決して行ってまいりました。車を走らせること2時間あまり。道中のコンビニやファミレスの駐車場で同じく会場へ向かうデコトラが休憩しているのがちらほら見え始め、否が応でも気分は高まります。会場周辺の大渋滞を裏道、抜け道を駆使して回避し、結局着いたのが夜11時過ぎ。駐車場からメイン会場までがまた遠かったのですが、堤防の上に登ったときに初めて見えた景色は、まるで『未知との遭遇』でした。数百台のデコトラがひしめく会場の方角からうっすらと、文太さんの歌う「一番星ブルース」が聞こえてき

ます。
 音と光に吸い寄せられるように進んでいく先にあるのは特設ステージと、このイベントの目玉「一番星号」と「ジョナサン号」です。LEDをふんだんに使った現代のデコトラの中にあって、この2台の輝きはやはり特別でした。それと同時に「8月のイベントの写真ではもっとキレイだったんだけどなぁ……」というぼんやりとした違和感もあったのですが、帰ってから真相を知り愕然としました。これまでのイベントで展示されていたのは『熱風5000キロ』の「一番星号」を再現したレプリカで、あの時、目の前にあったのは最終作『故郷特急便』の撮影で使用された、正真正銘本物の「一番星号」だったのです。今思えば剥げた側面の塗装は、最後まで走りきった男の貫禄に満ち溢れ

ていたような気がしてきます。あぁ、こんなことならもっとしっかり目に焼き付けておくべきでした……。隣の「菅原文太 星桃次郎」と力強い字が書かれた屋根のテントでは文太さんの写真と共に、5月に亡くなった鈴木則文監督の写真も飾られていました。「菅原文太追悼式」があると聞いて行ったもので、こちらの心の準備がまったくできていなかった僕は、『温泉スッポン芸者』の主題歌を脳内再生してどうにか正気を保ったのでした。
(真鍋新一=編集者見習い)
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※『故郷特急便』に出演した原田大二郎さんによる新年カウントダウンの様子がYOUTUBEにアップされていました。戸惑いながらみんなで万歳。当日の雰囲気をさらに知りたい方はご覧ください。



ベトコン・ラーメンとヴェトナム麺


 以前、この『週刊てりとりぃ』に名古屋名物、べトコン・ラーメンの老舗「新京」がついに東京進出したという記事を書いた。割と近所だったので、何度か足繁く通ったのだが、残念ながら、惜しくも昨年閉店してしまった。
 このベトコン・ラーメンだが、以外にもベトナムでは無く、ベスト・コンディションの略称で、疲れて食欲が無くなった「新京」の創業者がまかないで作った

ラーメンがそのルーツ。その名の如く、スープの中にはニンニクの塊がゴロゴロ入り、それに加えて、もやし、ニラ、豚肉といった具材がたっぷり。唐辛子もふんだんに入っているので、正にスタミナモリモリ。スープは醤油ベースのため、台湾ラーメンと味は若干似ているが、ミンチ肉が特徴である「台仔(タンツー)麺」を辛口にアレンジしたそれとは異なる。肉みそが無い分辛さがダイレクトに

伝わるのだ。
 最近、無性にベトコン・ラーメンが食べたくなり、ネットで検索してみた。それで、でてきたのが、「キッチン・ラーメン・ヤマモト」のヴェトナム麺(ラーメン)だ。今から30年以上前に銀座二丁目にあったというこの店のヴェトナム麺は、ニンニクの酢醤油漬けがゴロゴロとのっかっていたらしい。先日買った食エッセイ本『おいしい文藝 ずるずるラーメン』(河出書房新社)の中で、この店の事を荒木経惟が書いていた。メジャーになる前、彼の写真展もこの店で行ったようで、公私共々、随分お世話になったようだ。残念ながら、この店はすでに閉店し、その後、名前を「八眞茂登」に変え、銀座中央通りで営業し、そのメニューも継続していたらしい。この店も2008年に閉店

したのだが、その姉妹店「東東居」でもメニューは受け継がれ、さらに加えて、冷やし中華版「冷やしヴェトナム」もできた。しかし、この「東東居」も2010年に店を閉め、ついにヴェトナム麺の系譜は断たれたことになる。
 この食べた事が無いヴェトナム麺が、今、非常に気になっている。「東東居」閉店の後、「八眞茂登」は創業の地、八丁堀で居酒屋として再オープンしている。残念ながら、メニューにヴェトナム麺は見当たらなかったが、ランチでは、かつて定評のあったシューマイがお目見えし、かつてのファンを唸らせているらしい。いずれ、ヴェトナム麺もとほのかな期待を寄せている昨今なのである。
(星 健一=会社員)




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[執筆者]井上ひさし、黒柳徹子、横山道乃、中山千夏、堀絢子、恒松龍兵、井上ユリ、井上麻矢、武井博、橋本一郎、栗山民也、篁ゆき、井上都、高林真一、泉麻人、伊藤悟、田中雄二、加藤義彦、安田謙一、足立守正、高岡洋詞、千秋直人、江草啓太、田ノ岡三郎、向島ゆり子、橋本歩、熊谷太輔、鈴木啓之、濱田高志、里見京子

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てりとりぃ×宇野亜喜良
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