てりとりぃ放送局アーカイヴ(2016年2月12日〜2016年2月26日分)

 あまり理由はありませんが、ボウイ特集やります。今回はボウイの「未発表曲集」です。とはいえ、天下のデヴィッド・ボウイさんですから、彼の未発表曲という謳い文句の曲も公式CD化されているものが結構な数を数えます。しかししかし、昨今のこのご時世「えっウソこんなのあったの」というブツがたまに登場します。音楽業界人という人々の倫理観を疑ってしまうものもありますが、一度晒されてしまった事実、それをない事にはできませんよね。(2016年2月12日更新分/選・文=大久)


David Bowie / Tired Of My Life (1970)

 71年の『世界を売った男』セッションで残されたボツ曲。元々はボウイが16歳の時(1963年)に書かれた曲でした。16で「人生に疲れた」って歌うのもどうかとは思うのですが、この曲は時を経て1980年、ボウイ33歳の時にアルバム『SCARY MONSTERS』収録曲「IT'S NO GAME」として生まれ変わったことは言うまでもありませんね。

David Bowie / The Shadow Man (1971)

 72年発表の『ZIGGY STARDUST』収録予定曲だったにも関わらず(アセテート盤にはこの曲が収録されたこともありました)、アルバム制作作業途中で急遽ボツになった曲。そりゃあこんなフォーク曲が『ZIGGY〜』に入る余地は、もはやどこにも見当たりませんよね。今だから判ることではありますが。この曲は2001年に再レコーディング版が残されており、それを含む『TOY』というアルバムが企画されていましたが、そちらはアルバムの企画を含めすべてボツになってます。

David Bowie / A Lad In Vain (1972)

 73年発売のアルバム『ALADDIN SANE』は、元々そのタイトル『A LAD IN VAIN』が二転三転して付けられたタイトルでした。で、こちらの曲はその大元となる曲。まだ歌詞もなにも決まってないものです。この曲は結局楽曲としては完全にボツになりましたが、一部のアレンジが翌74年発売のアルバム『ダイアモンドの犬』収録曲「SWEET THING」にて転用されています。

Ava Cherry / I Am A Laser (1974)

 こちらは95年に(ちょっとインチキ臭いCDで)発掘されたアヴァ・チェリーのアルバム『PEOPLE FROM BAD HOME』収録曲ですが、74年当時は完全未発表でした。作詞作曲編曲プロデュース全部をボウイが担当し、彼女に提供された曲ですが、ええ、この曲も『SCARY MONSTERS』に入ってるボウイの「SCREAM LIKE A BABY」と同じ曲ですよね(歌詞はもちろん違いますが)。

Queen & David Bowie / Cool Cat (1981)

 同年このコンビで「UNDER PRESSURE」という名曲が生まれていますが、そのセッションでもうひとつこの曲が録音されています。元々両者は同じスタジオを使う仲でしたが、クイーンがこの曲のアレンジに四苦八苦してるところをおせっかいなボウイが「どれどれ」と口出ししたことがきっかけで共演することに。「UNDER〜」はまあいいとして、結果アレンジをめぐって両者は口論となってしまい(笑)、こちらの「Cool Cat」はボウイの歌&アレンジは全部破棄されてクイーンのアルバム『HOT SPACE』に別バージョンで収録されています。

David Bowie / Absolute Beginners (1985)

 オフザケで残されたアウトテイクです。なんとボウイが自身の曲を他人の物まねで録音するというとんでもないオフザケです。順にブルース・スプリングスティーン。ボブ・ディラン、トム・ウェイツ、ルー・リード、アンソニー・ニューリー、イギー・ポップ、ニール・ヤングの声色をボウイが出してます。んー、この曲好きだったんですけどねえ。何してくれてんだボウイ。



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 もうちょっとだけボウイ特集を続けます。そろそろウザいと思いますが、今しばしご容赦願いたく。先日ボウイの遺作『★』が彼にとって初の全米No.1アルバムになりましたが、曲で言えば既に1975年にボウイは全米No.1ソングを出しています。今回はその曲「FAME」の聴き比べです。実はこのオリジナルはとっつきにくいヘヴィー・ファンクでして、それなのに有名曲になってしまうというのがまた不思議。(2016年2月19日更新分/選・文=大久)

Dennis Coffey / Fame (1975)

 ファンク・ブラザーズの一員としてもお馴染み、モータウン関連で名前をよく見るギタリストのデニス・コフィーによる、ファンク・インスト・カヴァーです。とってもお上品なジャケも最高ですね。ちなみに彼はデトロイト出身の白人です。ボウイのバックでは黒人(カルロス・アロマー)が弾いてて、ファンク・ブラザーズでは白人が弾いてるというのも面白いですね

Duran Duran / Fame (1981)

 ダセエ。カッコつけるのが商売のデュラン・デュランなのに、このダサさはなんでしょう。デビュー・アルバム制作時に録音されたもので、当時はまだプロデューサーがコリン・サーストン(アラン・パーソンズ・プロジェクト)でした。でも仕方ありません。デュランの面々はピュアなボウイのファンですから。好きだってだけで走るとこういうことになるんでしょうね。

Eurythmics / Fame (1983)

 以前もチラリと書きましたが、アニー・レノックスにとってもボウイって人は神様みたいな存在でした。ユーリズミックスは83年にこの「FAME」をカヴァーしていますが、当時は未発表。全英No.1アルバム『TOUCH』が再発売された際にボーナス曲としてお披露目されました。

Infectious Grooves / Fame (1993)

 ファンク・メタル・バンド、インフェクシャス・グルーヴスは覆面ユニット(とはいえ別に正体を隠していたわけではありませんが)で、スーサイダル・テンデンシーズやジェーンズ・アディクション、メタリカのメンバーを中心に組まれたスーパー・オルタナ・ファンク・バンド。んー懐かしいですね。それまでヘビメタ面してた人々が揃って「俺たちファンク大好き」面をしだした90年代初頭が。

Dr. Dre / Fame (1996)

 「Fame」は元々ヒップホップのサンプリング・ソースとして大昔から多くの引用があります。古くはパーレット(P-FUNKの女性ユニット)、EPMDからヴァニラ・アイス、アイス・キューブ、パブリック・エネミー、それからジェイZ、オル・ダーティー・バスタード、レディー・ガガも。で、こちらはサンプリングではなく正面からカヴァーしたドクター・ドレの96年曲。

宮沢りえ / Game (1990)

 最後に、やはりこれを出さなければなりません。選者としてはとても辛い作業ではありますが。90年に彼女が主演したドラマ「いつか誰かと朝帰りッ」主題歌。丁度彼女が「3M」の1人と呼ばれていた時代。同年末の紅白歌合戦に出場しこの曲を歌ったときは、紅白初の「中継出演」でした。ええ、もちろんりえ様です。これも仕方ありませんよね。

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 とりあえず、短期集中ボウイ連載は今回を最後にします。ボウイさんは結構曲を人にあげたり貰ったりをした過去があるのですが、例えば「すべての若き野郎ども」のように大ヒットしたものもあるし、まったく世間に知られずに埋もれた例もあります。で、今回は後者のほうを集めてみました。マニアな人には知られてるでしょうが、少しでも敷居を低くする役になれば、と思います。(2016年2月26日更新分/選・文=大久)


George Underwood / Song for Bob Dylan (1970)

 ライヴ音源で、しかもこのライヴはボウイのバンド「HYPE」名義で行なわれたものですが、この曲のみボーカルはジョージ・アンダーウッドという人が歌ってます。このアンダーウッド氏、ボウイの幼なじみで、共に15歳の時に女の子を巡って殴り合いの喧嘩をし、その時ヒットさせたパンチの為にボウイはその後左目の瞳孔が開いたままになりました。その後彼は美術の道に進み、ボウイ作品のみならず多くのロック名盤のジャケを手がけています。

Peter Noone / Oh You Pretty Thing (1971)

 ハーマンズ・ハーミッツのリード・シンガー、ピーター・ヌーンがミッキー・モストのRAKレーベルにてソロ・シンガーに転じた際、3曲目のシングルとしてボウイの「OH YOU PRETTY THINGS」を吹き込んでいます。71年頭に録音、中旬に発売され、英12位を記録しました。つまりボウイ本人版より先に録音・ヒットさせたことになります。このバージョンでボウイはピアノを演奏したとクレジットされていますが、正直眉唾もの(笑)。というのも同曲のアレンジャー、ジョニー・アーシーはピアニストでもあるからです。

Dana Gillespie / Andy Warhol (1974)

 ダナ・ギレスピーは「ジーザス・クライスト・スーパースター」にも出演した女優さんですが、71年当時、ボウイとパッケージで売り出さされようとしたことがありました。その時にボウイが彼女の為に書いたのがこの曲。録音は71年ですが、発売されたのは73年。この曲をボウイは71年にウォーホル本人の前で生で歌った事があります。ウォーホルは曲が終わるやいなや「ところで君の靴イカスね」とコメントを残しています。

Luther Vandross / Funky Music (Is a Part Of Me) (1976)

 ルーサー・ヴァンドロスのソロ・デビュー・アルバムは76年発売ですが、その冒頭曲は74年録音のボウイ「FASCINATION」とまったく同じ曲(ただし歌詞が違う)。元々ルーサーの持ち歌でしたが、ボウイが74年にそれを貰い、歌詞を自作して『YOUNG AMERICANS』に収録しましたが、ルーサーも結局自分のソロ音源でも残した、ということになります。ちなみに76年にはファット・ラリーズ・バンドがボウイ版「FASCINATION」をカヴァーしていますが、そちらはサルソウルの御大ヴィンス・モンタナJRプロデュースでした。

James Brown / Hot (I Need To Be Loved) (1976)

 ボウイが全米NO.1ソング「FAME」を作った時、リフは当時のボウイの右腕ギタリスト、カルロス・アロマーが作りました。彼は60年代末にJBのバンドに在籍していたこともある人ですが、大ヒットを記録した「FAME」を聴いてJB本人は「まるで俺の曲じゃないか」と憤慨し、リフをパクッてこの曲を作ったそうです。それを受けてボウイ本人は「JBが俺をパクったって?光栄じゃないか!」とコメントを残しています。

Elsa Mars (Jessica Lange) / Heroes (2015)

 最後です。以前も「アメリカン・ホラー・ストーリー」というTVシリーズで女優ジェシカ・ラングが「LIFE ON MARS」をカヴァーしたと紹介したことがありますが、同番組で彼女は再びボウイ・カヴァーを披露しています。「HEROES」完コピです。涙ものです。ボウイを「知る」ということはこういうことなのです。もちろんレディー・ガガもこのTV番組を見ただろうとは思うのですが、グラミーのアレを見る限り、彼女は少し勉強が足りなかったかもしれません。

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