2014年8月22日(金)

ゴジラ漫画コレクション 1954-58


 杉浦茂のゴジラ。そんなものがあるのか? ある意味、ホドロフスキーのDUNEみたいなものである。ホドロフスキーのDUNEは人の想像世界の中にのみ存在するものだが、杉浦茂が描いた漫画『ゴジラ』は実在する。
 杉浦茂の30ページ超の短編「ゴジラ」は雑誌「少年クラブ」1955年3月号の付録として発表された。本多猪四郎監督の東宝映画「ゴジラ」が公開されたの

は、その前年の11月。ずばりブームの真っ最中に描かれたものだ。この一編と、同じく杉浦が「ゴジラ」のシリーズ2作目「ゴジラの逆襲」を主題とした「大あばれゴジラ」(「別冊おもしろブック」55年6月号付録)が復刻された。もちろん、ギャレス・エドワーズ監督によるハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」の公開の波に乗っての、嬉しい奇跡だ。
 杉浦茂「ゴジラ」が収録

されているのは「ゴジラ漫画コレクション 1954-58」(小学館クリエイティブ)。杉浦の2作だけではなく、阿部和助による「科学冒険絵物語ゴジラ」と、藤田茂による「ゴジラ」、「続・ゴジラ アンギラスの逆襲」が1冊に編まれている。前者は、香山滋の原作を文字通り、絵物語化したもの。初出は「おもしろブック」の1954年10月号本誌と11月号付録に2回続けて掲載されたもの。ずばり映画「ゴジラ」公開前だ。欄外に書かれた「この『ゴジラ』は、こんど東宝で映画になります!! ただ今撮影中!!」という煽り

コピーの熱いこと!
 後者は1958年、あかしや書房の貸本を初出とする。貸本漫画ならではのフリーでイージーな作風がたまらない。
 つまり、この3作家による「ゴジラ」はリアルタイムの産物である。金田益実による解説にある(これらの漫画は)〝映画の先取り情報であり、追体験できるソフトでもあった〟という一文にはっとさせられた。特に映画の先取り情報としての漫画、という言葉には、僕が中学の時に「別冊少年チャンピオン」に掲載されていた〝劇画ロードショー〟シリーズの記憶が蘇る。古賀新一が描く「エクソシスト」を〝先取り〟として読んだがどうか忘れたが、しばらく〝追体験ソフト〟として楽しんでいたものだ。リアルタイムというものは、こんな風に〝余分〟な体験

を伴うものだ。
 さて、杉浦茂の「ゴジラ」。一応、丁寧にストーリーは追っているものの、どこを切っても杉浦茂の世界。東京を壊滅するゴジラのセリフ「おれは世界一つよいんだぞう」に、至近距離で観戦(?)する庶民たちのレスポンスは「もう じゅうぶんにわかったよう」だ。生涯の中でもっとも多作で、ナンセンス漫画で人気を博しまくった時代の杉浦茂の、ポップアートなんて概念を先駆けまくった傑作である。堂々とネタバレすると、杉浦茂はオキシジェン・デストロイヤーでゴジラを消すものの、芹沢はかせを殺さない。
 何年か後の未来に、映画の中のゴジラは、段々とここで杉浦茂が描いたようなマンガみたいなキャラクターになっていくのでした。
(安田謙一=ロック漫筆)



貴重証言でよみがえる幻の過激なテレビ番組たち


 40代以上の元テレビっ子なら、おそらく興味を引かれるにちがいない。去る7月末に発売された『モーレツ!アナーキーテレビ伝説』という本のことである。これは2年前に出版されて好評を得た『アナーキー日本映画史』のいわば姉妹編で、主に1970年代に放送された国産テレビ番組を多数紹介している(発行は洋泉社。1500円+税)。
 こうした昭和のテレビ番組を回顧した本は、これまでに山ほど作られているが、

本書が独創的なのは、放送当時、大ヒットしたのに映像が残っておらず、今では観ることのできない「幻の人気番組」ばかりを取り上げていることだ。
 したがってドラマやアニメは除外。「バラエティー」「夜の情報番組」「ドキュメンタリー」「脱ドラマ」といったジャンルに属する番組だけに焦点を当てている。また「テレビ番外地」と見下されながらも、他に類のない番組をいくつも世に送ったテレビ東京、当時

の東京12チャンネルについても、関係者へのインタビューなどによって、そのユニークな番組作りの舞台裏に迫っている。
 ここで本書で扱っている番組のタイトルの一部を並べてみよう。『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』『カリキュラマシーン』『うわさのチャンネル!』『TVジョッキー』『ウィークエンダー』『ぎんざNOW!』『11PM』『日米対抗ローラーゲーム』『お荷物小荷物』『トゥナイト』・・・。いわゆる「低俗番組」と叩かれた番組も多く、70年代に中高生だった世代には(とくに男子)、当時、親の目をぬすんで夢中になって観ていた番組が、一つや二つはあるのではないだろうか。
 本書の独自性は、ほかにもある。映像が残っていない各番組の魅力を、出演者

や制作にたずさわったスタッフへの徹底した取材によって、浮き彫りにしようと試みたことだ。
 出演者では、超ナンセンスなコントで笑わせてくれた伊東四朗&小松政夫のご両人、「いつも元気で面白い兄貴」だったせんだみつおらが、抱腹絶倒の裏話を披露。また制作スタッフでは田原総一朗、鴨下信一、赤尾健一、山内久司ら伝説のテレビマンたちが、番組作りにまつわる自身の方法論やテレビ観を熱く語る。
 共演者をだますドッキリ企画の元祖『うわさのチャンネル!』(73年・日本テレビ)。この番組に毎回登場して、出演者の秘密を暴いた「スッパ抜き仮面」の正体は?スタジオ内に、なぜいつも巨大な犬が放し飼いになっていたの?こうした番組を観ながら感じたナゾの多くも、本書を読むと

解決できるだろう。
 取材執筆の鈴木啓之、足立守正、そして筆者、編集担当の馬飼野元宏、真鍋新一と、本誌『てりとりぃ』のメンバーも参加。テレビには無限の可能性があると信じながら、破天荒で斬新な表現を追い求めた昭和の「アナーキー」なテレビ番組たちが、なぜきわめて個性的で、当時の子どもや若者たちを魅了したのか。本書を最後まで読んでもらえると、その答えが、きっと見つかるにちがいない。
(加藤義彦=売文家)
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映画秘宝EX「モーレツ!アナーキーテレビ伝説」/表現の限界に挑み、視聴者を熱狂させた昭和の番組の数々……バラエティー、ドキュメント、脱ドラマ……ジャンルレスに徹底検証!貴重証言多数、読み応え抜群の研究書!/発売中



その後の「美しい人」:畑中葉子〜『後から前から BOX』が発売!


 畑中葉子が八丈島の出身であることはあまり知られていない。家業の建築会社の支店を出すために中目黒に引っ越してきた。13才の時だった。それから2年後の中学3年生の時、既に私立高校に受かっていた畑中は、都立の受験日に友人と原宿に遊びに行った。そこで複数の芸能事務所からスカウトを受け、電話をもら

う。子供の頃から歌手になりたかった畑中が、初めて自分の強い意志を両親に伝えた瞬間だった。
 だが、それですぐに芸能界に入ったわけではない。畑中の気持ちを聞いた父が近所に住んでいた平尾昌晃に相談、高校入学と同時期に平尾昌晃歌謡教室に入ることになる。近所と言ってもすれ違うときに挨拶する

程度だった。その時の父の行動がなければ、歌手・畑中葉子は存在しなかった…
 それから3年間のレッスンを積んだ畑中は、高校卒業後の1978年に平尾とのデュエット曲、『カナダからの手紙』でついに歌手デビューを果たす。
 あれから33年の月日が流れ、現在は大学生の娘と高校生の息子の2人の母となった畑中葉子。子育てが落ち着いた今、本格的に芸能活動を再開する。その第一歩となるのが、今冬全国で劇場公開される金子修介監督作品『青いソラ白い雲』だ。この『徳川の女帝 大奥』から23年ぶりとなる映画出演で、畑中はヒロインの母親役を務める。
 ようやく自分の時間がもてるようになった今、故郷である八丈島の島おこしにも熱心だ。度々、島に帰っては、祭りやイベントで伝

統芸能の八丈太鼓とコラボで歌い、自らも八丈太鼓を披露するなど、八丈島のPR活動を行っている。
 根っからの音楽好きであることがわかるエピソードで、やっぱり畑中葉子の本業は歌手なんだなと思う。
 33年前に『カナダからの手紙』を一緒に歌った、師匠でもある平尾昌晃は、現在『NHK紅白歌合戦』の

合唱の指揮者を務めている。あの時は白組から出場した畑中が今度は紅組から出場し、平尾の指揮のもと、紅白のエンディングで「蛍の光」を歌う… 夢物語でもなんでもなく、そんな素敵な未来が作れたらいいなと私は思う。
 「人には、誰にでも歴史があって、とても興味深い」。畑中葉子がふと呟いた。

 …という記事を書いてから2年と9ヶ月、ついに8月20日、CDボックス『後から前からBOX〜ソロデビュー35th Anniversary Special 』が発売された。長い間、歌うためにもがき続けてきた畑中だけど、3月からここまではあっという間だった。
 今年3月18日、僭越ながら『畑中葉子さんを囲む会』を開催した。場所は御茶ノ水のブックカフェ『エスパス・ビブリオ』。挨拶で〝歌〟に対する思いを強く、熱く語った畑中葉子。「歌に対するパッションが違う」、『情熱が人を動かす』んだと改めて気づかされた。4月には、なんとか突破口を見いだそうと、自ら企画・製作した「後から前から」Tシャツを発売。これがネットで大反響を呼ぶ。
 4月末に太田プロダクションを離れることになった

畑中だが、6月からビクターミュージックアーツに所属。そして今回のCDボックスが、ビクターから発売。トントン拍子に進んで来たが、すべては畑中が自ら行動することで掴んだ運だった。きっかけは、「後から前から」Tシャツをデビュー時の制作担当・衛藤祐一郎氏に送り、歌手活動のマネジメントをしてくれるプロダクションを探していることを相談。すると、なんと衛藤氏は現在ビクターミュージックアーツ(株)の代表取締役だったのだ!
 無事円満移籍となり、歌手活動の比重が多くなった畑中葉子。太田プロ時代に出演したバラエティ番組のおかげで「後から前から」が注目されることになったことを考えると、人生に無駄はないとつくづく思う。
(池袋絵意知=観相家・顔研究家・顔面評論家)
初出:月刊てりとりぃ#21/2011年12月号掲載「美しい人(4)歌手 畑中葉子」


畑中葉子『後から前から BOX[ソロデビュー35th Anniversary Special]』


☆最新デジタル・リマスタリング&高音質「SHM-CD」でビビッドに再現!
☆アルバム未収録だったシングルやカセット企画などボーナス・トラック多数!
☆畑中葉子や制作関係者によるロング・インタビュー収録!
☆発売当時のビジュアルを可能な限り再現し、プラケースにて復刻!
☆後からも前からも取り出して楽しいBOX仕様!
☆良心的なロック価格、6,900円!(税抜)