2012年7月20日(金)

TV AGE シリーズ最新作
宇野誠一郎が「劇団飛行船」のために制作した舞台音楽が2枚組CDで発売!

 ぬいぐるみ劇を「マスクプレイ」と呼び、60年代から子供向けのミュージカルを作り続けている劇団飛行船について思い出すのは、劇中歌を公演のたびに商品として販売していたこと。そのレコードを見つけては、知人に「コレがいいんですよ飛行船」などと自慢しても反応の悪かったこと。あ、でも今から10年以上前に西

新宿の居酒屋で、打てば響くように、「ああ、アレいいですよね飛行船!」とニッコリ笑った男がひとり居たなあ。そして、何とその男が『劇団飛行船の音楽』という2枚組CDの企画を実らせ、今、僕がこうして執筆依頼を受けているのです。
 劇団名を掲げながら、宇野誠一郎作品集でもある本

作、1000を優に越える音源から厳選された。とくれば、飛んだり跳ねたりの躍動や、トロリと夢幻の世界に誘う甘い旋律が堪能できるのは、約束されたも同然だが、ちょっと面白さに独特のものがある。劇団飛行船の舞台は、録音された音楽劇に演者が動きを重ね合わせるスタイル。よって、音は演技の、演技は音の、互いを解説しつつポピュラーなおとぎ話を進行する。そこから演技を取り外し、音楽100%になったときの不思議な味わいが、通常の劇伴以上に際立っているのだ。例えば「オズの国は魔法の国」の楽曲「わらわら」は、藁でできた自分の身を悲観するカカシの叫びと、それに対するドロシーのフォローを歌にしたもので、意図せずとも奇抜な作品にならざるをえない。「アラジンと魔法のランプ」

からの2曲も、同じような結果で、独自の異国情緒を持ったポップでおどろおどろしい作品になっている。巻上公一の歌声で聴いてみたい。
 もうひとつ面白いのは、声優がアテレコタレントと呼ばれた時代からその多くを輩出していたテアトルエコーの参加で、往年のヒーローたちの歌声が聴けるということ。平井道子と藤田淑子と高橋和枝らの歌声は、夢野サリーと一休さんと磯野カツオらの歌声に他ならない。不動明、いや安原義人の歌う「スナフキンのテーマ」なんて複雑な楽曲も。

そういえば、僕が劇団飛行船の音楽に魅かれたきっかけは、「不思議の森の白雪姫」のカセットテープで、道化師役の山田康雄の、多分にルパン三世的な歌声にシビレたからだった。本盤では山田康雄の歌声の記録としては最も古い、「黒猫のスキャット」(ジャックと豆の木)と題された曲が聴けるのが嬉しい。70年代末に盛り上がったアニメブームで、声優の名をたたき込まれた世代には、たまらない一面を持った盤でもあるのです。
(足立守正=隙間音楽ファン)
「劇団飛行船の音楽」音楽・宇野誠一郎 

宇野誠一郎が心血を注いだ〈劇団飛行船〉のマスクプレイ・ミュージカルの音楽が遂に商品化。全て初音盤化曲で構成した待望の作品集!
宇野誠一郎が手掛けた舞台音楽は数あれども、長期に渡って関わったのは、井上ひさし率いる〈こまつ座〉、そして〈劇団飛行船〉の二劇団のみ。本シリーズ既発盤「こまつ座の音楽 宇野誠一郎×井上ひさし」と対を成す〈劇団飛行船〉の音楽集が遂に発売! 熊倉一雄、山田康雄、増山江威子ら宇野作品でお馴染みの声優陣が大挙して参加したファン待望の作品集。全曲初音盤化曲で構成した二枚組全60曲収録! ブックレットには、宇野が手掛けた〈劇団飛行船〉作品の上演リストを掲載。
●監修:濱田髙志 ●発売:ウルトラヴァイヴ CDSOL-1467~68 ¥3000(税込) ●7月25日発売




TV AGE シリーズ最新作
「劇団飛行船の音楽」についての覚え書き

 宇野誠一郎さんと初めて言葉を交わしたのは96年初夏のこと。雑誌「レコード・コレクターズ」のTVサントラ特集で作曲家名鑑を担当することになり、是非ともお目にかかって話を伺いたいと思ったのがきっかけだ。当時の私はライターを始めたばかりで、経験も浅く、いわば素人も同然だった。ましてや取材など一度もやったことがない。この時は時間もなく、最悪の場合は断られることを覚悟して、いざとなれば電話で話を聞ければ良いと思い、おっかなびっくり受話器をとった。結果、取材依頼の電話のはずが、そのまま6時間近く話し込み、翌週にはその続きを宇野さんのお宅でうかがうことになった。以来、昨春までそれが断続的に続いたのである。気付けば15年の歳月が流れていた。

 最初の電話で思わず口走った。「宇野さんの作品集を作りたいんです。いや、必ず作ります!」無論、その時点では発売元のあてもなく、ましてや何かしら後ろ盾がある訳でもない。何の根拠もないまま、勢いで「必ず形にします」と宣言した。実際に作品集が発売されたのは、それから8年後のことである。

 現在までに宇野さん関連のCDを6枚作ったが、そのいずれもが最初の電話で「形にする」と伝えたものだ。「悟空の大冒険とアンデルセン物語は単独盤で、あと、こまつ座の音楽と劇団飛行船の音楽も何としてもまとめたいですね!」なんてことを無邪気に話したのを昨日のことのように覚えている。しかし、宇野さ

んの反応は「ほう。でも、そんなのきっと売れませんよ。気持ちだけ受け取っておきます」という詮無いもので、暖簾に腕押しというか、こちらが熱くなるほど冷めた返事が届くばかり。
 宇野さんと最後に会ったのは昨年の2月。ようやく完成した「悟空の大冒険」のCDを持ってご自宅を訪ねた時だ。それまでサンプル盤を届けてもいつもと変わらぬトーンだった宇野さんが、珍しく破顔一笑、「遂にやりましたねぇ!」と興奮しながら頬を紅潮させた。「あなたに最初の電話で悟空のCDを出したいと言われたのを覚えていますよ」といつになくストレートに喜びを口にされたのだ。間髪入れず「次は劇団飛行船の音楽をまとめますからね」と伝えたところ、「お任せします」という素直な返事に少々戸惑った。

別れ際、4月の再会を約束したが、震災後の慌ただしさにかまけて繰り延べになってしまった。
 そんな折り、5月になってまさかの訃報を耳にすることになる。その日は宇野さんがアニメ版の音楽を手掛けられた「W3」の原作漫画の復刻企画を携えて手塚プロを訪れる日で、月内にはそろそろ宇野邸再訪を考えねばと思っていたところだった。
 数日後、お線香を上げに宇野邸を訪れた際、奥さまの里見京子さんから紹介されたのが、劇団飛行船代表の鈴木徹さんだった。偶然とはいえこれも何かの縁。その場で改めて音源提供を依頼し、すぐさま選曲作業に入った。そして一年を経て完成したのが本作「劇団飛行船の音楽」である。宇野さんが同劇団のために書いた膨大な数の楽曲のなか

から厳選した60曲で構成し、ブックレットには作品リストを掲載した。ジャケットの絵は宇野さんの作品集と同様、宇野亜喜良さんに依頼。実はこちらの宇野さんは過去に劇団飛行船の人形デザインを手掛けたことがあり、そうした縁もあっての選択である。同姓ということで、互いに親近感を持つ間柄ながらも、お二人が直接会うことはなかった。
 なお、現在発売中の「レコード・コレクターズ」誌には前述の鈴木さんへの取材記事が掲載されているので、併せてご覧頂きたい。記事は前後編で、後編は来月発売号に掲載される。
 生前の宇野さんにはあと2枚分の企画を約束していた。三回忌までに形にすべく、ただいま資料を整理中である。
(濱田高志=アンソロジスト)



大人の遠足〜「あそびココロ」を訪ねて

 古川タクさんの個展「あそびココロ」を見に行ったのは七夕の日だった。
 北習志野、という駅で新京成線に乗り換え、三咲という駅で降りる。もちろん初めて降りる駅だった。
 午後1時、全員が揃ったところでバスに乗り、アンデルセン公園で降りたが、目の前には何もない。あるのは銀行とラーメン屋だけ。ああ、これが大人の遠足か、と思ったところ、すぐに麻生雅人さんがラーメン屋に訊きに行ってくれた。無事に解決。少し解りづらかっ

たが、そこにアンデルセン公園はあった。バス停からは大きな白いテントのような屋根が見えていた。入り口から入ると、大きな、岡本太郎のオブジェが出迎えてくれる。いや、思っていたよりもずっと大きな公園だった。そこから地図を見て、個展のある子ども美術館へ向かうのだが、誘惑が多すぎた。途中、ハンバーガーを食べて、チェリーという名前のポニーを触っていたら、古川さんよりも少し早めに美術館に着く予定のはずが、行く途中の道で

バッタリ会ってしまった。なんだか恥ずかしい。
 子ども美術館は、山をくり抜いて作ったような、少し変わった作りの美術館だった。アンデルセン公園という名前の通り、デンマークの童話作家、アンデルセンに関係のある展示や催し物もたくさんある。
 階段を上っていくと、2階には、子供が工作をするちょっとした広場と緑の多いバルコニーが、そして3階が古川タクさんの個展になっていた。その個展に入って、まず驚いたのは、絵が裸のままなことだった。額に入ったガラス越しの絵

ではなく、直接その絵を見ることが出来るのだ。あの独特なペンの揺れ、さらには、力の入れ具合によるペンのかすれ、印刷物では確認できないような部分まで見ることが出来る。上から下まで、地面ギリギリのところまで絵が展示されていて、つい夢中になって地面にひざをついてしまったり。奥へ進むとガラスケースには、葉書サイズの作品が並べられていた。それはどれもなぞかけのようで、わかるまで少し考えて、なるほど、と思うと、それが快感になったりする。すべて1986年の作品。さらにそ

の奥には、紙だけ作られた大きなオブジェ。古川さんの絵しか知らなかったぼくは、この作品を見てまた驚いた。紙の折り目と、黒いマーカー、白と黒の世界。そこに座っている人まで紙で作ってある。人間が漫画本の中に入ってしまうアニメを小さい頃によく見たが、まさにそんな錯覚を見たような気がした。
 別の部屋には、大きなスクリーンに映されたアニメーションがあって、そのアニメの世界に入れような仕掛けがあった。その仕掛けは行ってからのお楽しみ。
 ビートルズに似た架空の

バンド、ティッシュに描かれたミッキー、ヒッチコックなサザエさん。2往復目は、作品の名前を確認しながら見る楽しみがある。その作品の名前が書いてある紙は展示室の入口に置いてあった。答え合わせ、とまではいかないが、またここで、なるほど、がある。「ずっと絵を描いていて飽きませんか?」という濱田高志さんの質問に「好きなことをやってるから飽きたことはありませんよ」という古川さんの答えがとても暖かかった。
(文・馬場正道=渉猟家/写真・キナミケイコ)