てりとりぃ放送局アーカイヴ(2012年11月23日〜2012年12月7日分)

 ロジャー・ニコルスが書いた曲で「WE'VE ONLY JUST BEGUN」に並ぶスタンダード曲、と思われる「RAINY DAYS AND MONDAYS」。もちろんカーペンターズの代表曲でもあるので、すぐにあの美しいハーモニーとアレンジを思い浮かべますが、今回はこの曲のカヴァー曲を聴き比べ。ちょっと黒めの曲が並んでるのは、単に選者の趣味でもあります。ご理解いただけると助かります。(2012年11月23日更新分/選・文=大久)


Dick Hyman / Rainy Days & Mondays (1971)

 ディック・ハイマンと言えば日本ではなんといってもモンドでサイケなラウンジ・ミュージックの名盤『MOOG』で知られる人ですが、こちらはメロウなオルガン・ジャズでの「RAINY DAYS」カヴァー。後にケニー・ドープ他にサンプリングされたファンキー・トラックを収録してることで人気の『FANTOMFINGERS』(71年)収録曲。

Ruth Brown / Rainy Days And Mondays (1971)

 40〜50年代にはアトランティック・レコードの看板シンガーでもあり、「R&Bとは彼女のイニシャルのことだ」とまで呼ばれる、ザ・R&Bシンガー、ルース・ブラウン。このカヴァーは彼女が活動休止する直前の72年に残された音源で、アルバム『THE REAL RUTH BROWN』収録曲。ベースにロン・カーター、ドラムはバーナード・パーディー、ギターはデヴィッド・スピノザ、オルガンがリチャード・ティー。すげえメンバーですが、それよりも歌がスゲエです。

Freda Payne / Rainy Days And Mondays (1973)

 インヴィクタス・ソウル名盤中の名盤、フリーダ・ペインの『REACHING OUT』収録のカヴァー。プロデュースは勿論ホーランド&ドジャーのコンビですが、お聞きの様にその音はソリッドでシンプル&アコースティックなノーザン・ソウル・アレンジです。パタパタと乾いたスネアの音も最高ですが、アコギ&ストリングス、というちょっと珍しい組み合わせのアレンジも素敵なヴァージョン。

Intruders / Rainy Days and Mondays (1974)

 こちらはフィラデルフィア・ソウルの王道アレンジで聞かせる、イントゥルーダーズの75年録音版。アルバム『ENERGY OF LOVE』収録曲ですが、同盤はウィリアム・ディヴォーンのカヴァーが入ってたりするのに、中々注目を浴びる機会の少ないアルバムなのが惜しいですね。「RAINY〜」のカヴァーは、もちろんヴィンス・モンタナJRのプロデュース、演奏はM.F.S.B.、当然ですが録音はシグマ・サウンド・スタジオ。


Benét / Rainy Days And Mondays (1992)

 お姉さんであるリサ・ベネイと、後にソロのR&Bシンガーとして大スターになったエリック・ベネイ。まだ姉弟デュオとして活動していた頃、92年の録音です。いわゆるブラコン・サウンドなので、フェイス・エヴァンスをフィーチャーしヒットを記録した「GEORGY PORGY」以降の彼のソロのイメージとは異なりますが、プロデューサーは(ケニーGを見いだした)ジェフ・ローバーなので、納得のアレンジ、ですね。


Pat Metheny / Rainy Days & Mondays (2011)

 最後はパット・メセニーです。昨年発表された完全ギター・ソロ・アルバム『WHAT'S IT ALL ABOUT』収録曲。動画は宣伝用に公式アップロードされたものなので曲中に喋りが入っていますが、パット・メセニー自身が本作について語っていますね。メセニーはカーペンターズの大ファンらしく、カレンの声のようにギターを弾きたい、と常々思っている、とのこと。ちょっと意外ですねえ。80年代にはギター・シンセまで駆使していたメセニーさんなのに(笑)。


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 丁度昨年の今ごろ、当コーナーでイギリスの大手デパート、ジョン・ルイスのクリスマスCMというのをご紹介したのですが(未見の方はこちらをどうぞ)、ジョン・ルイスのCMはいつもチャーミングで胸キュンな映像ばかりで感心させられます。そして、その選曲や曲のアレンジにも感心しちゃいます。そんなワケで今年も新作CMが登場しました。今回の「放送局」は、過去のホリデイ・シーズンCMを含めジョン・ルイスTVCMをまとめてドカっとご紹介。(2012年11月30日更新分/選・文=大久)


John Lewis Christmas advert "Shadows" (2007)

プロコフィエフ「ロミオとジュリエット」を使用したジョン・ルイスの2007年のクリスマス・シーズン用TVCM。ハッキリ言って何やってるかサッパリわからん、というのが逆にこのCMに皆の目を注目させる戦略、なのでしょうが、マンマと引き込まれますねえ(笑)。既に「世界のCM集」のようなところで数多く紹介された映像なので、ご存知の方も多いかもしれません。最後に粉風吹を投げつけるシーンがイカしてます。
John Lewis Christmas advert (2008)

2008年のCMは、王道中の王道、ビートルズ・ナンバーでした。しかも「FROM ME TO YOU」というギフト・シーズンにうってつけの選曲というワケですね。このCMは当然大きな話題となったのですが、興味深いことに実はこのビートルズ・ナンバーをカヴァーしてるのはジョン・ルイスのスタッフなのだそうです。つまり、素人カヴァー、ということですね。
John Lewis Christmas advert (2009)

なんとこの年の曲はガンズ&ローゼズ「SWEET CHILD O' MINE」でした。ガンズがイギリスのTVCMに使用許可を与えたのはこのCMが初めて、なんだそうです。カヴァーしてるのはスウェーデン出身のアイリッシュ・フォーク系シンガーのヴィクトリア・バーグスマン。彼女のソロ・プロジェクト、テイクン・バイ・トゥリーズという名義でカヴァー/発表された曲です。このCM、タイムマシン系の脚本なんですね。
John Lewis Christmas advert (2010)

2010年のCM使用曲はエルトン・ジョンの代表曲「YOUR SONG」でした。カヴァーしてるのはエリー・ゴウルディングという英女性SSWで、彼女はインディー系エレクトロニカ/シンセ・ポップの作風でもお馴染みの女性ですが、アコースティックな作風の曲も沢山残しています。やっぱり、プレゼントてのはみんなどこかに隠しておくモノなんですね(笑)。工場のオッチャンの「シッシッ」ていう動作が最高です。
John Lewis Never Knowingly Undersold TV Advert (2012)

「NEVER KNOWINGLY UNDERSOLD」ていう言葉が「最安値保証」という意味だとつい先ほど知りました(笑)。こちらはホリデイ・シーズン用のCMではなく、ジョン・ルイス秋の「大売り出しセール」用TVCMです。今年の9月から放映されたもので、曲はINXS「NEVER TEAR US APART」(88年)のカヴァー。歌ってるのは09年にデビューした英国の女優兼シンガー、パロマ・フェイス。ていうか、曲よりも既にこの考え込まれた映像が世界中で大きな話題となっているようですね。
John Lewis Christmas advert (2012)

そんなワケでこちらが本年度、2012年のクリスマス向け最新CM。なんと曲は84年、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの大ヒット・バラード「POWER OF LOVE」のカヴァーです。歌うのは現在若干20歳、来年アルバム・デビューするというガブリエル・エイプリン嬢。今年のCMは「THE JOURNEY」と名付けられた超大作。というか今回の映像、マジヤバイっす。胸が潰されそうになります。んー。
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 今回の「放送局」はスウィング・アウト・シスター特集。いつものノリでいけば、大ヒットした80年代の懐メロをご紹介、というところですが、今回は違います。2010年に彼らは『PRIVATE VIEW』という作品を発表しましたが、そのアルバムは自身のベスト・セレクションの新録アルバムでした。その『PRIVATE VIEW』をご紹介したいと思います。昨年はビルボード東京にて来日も果たし、2012年にはビッグ・バンドを従えたライヴも行なっているSOS。益々楽しみです。(2012年12月7日更新分/選・文=大久)


Swing Out Sister / Now You're Not Here (2010)

「あなたにいてほしい」の邦題でもお馴染み、TBSドラマ『真昼の月』(96年)のために書き下ろされた曲です。実は96年当時から、SOS本人達は「あの曲、あんまり好きじゃないのよね」などと酷いことを言ってましたが(笑/じつは本人がそう口にしたのを実際に聞いています)、日本ではブッチギリで人気の一曲。そんな曲を2010年のSOSは、カル・ジェイダー風味のヴァイブを取り入れたクールなインスト曲に仕上げています。
Swing Out Sister / La La Means I Love You (2010)

94年発表、レイ・ヘイデン・プロデュースの4作目『THE LIVING RETURN』に収録された、デルフォニクス「ララは愛の言葉」のカヴァー。94年版も70年代ニュー・ソウル色を強くしたアレンジでしたが、この2010年版はもうモロにマーヴィン・ゲイ「WHAT'S GOING ON」のアレンジを取り入れた、完全な70年代初期ニュー・ソウル・アレンジになってますね。「FREE SOUL 90'S」ってカンジでしょうか。
Swing Out Sister / Breakout (2010)

SOS最大のヒット曲でもあるデビュー曲「BREAKOUT」の新録版です。87年の発表当時はオサレ系とかカフェバーがどうとかシンセベースがどうとか、いろいろと言われたワケですが、23年後にこうしてラウンジー&レトロなアレンジのメロウ・ヴァージョンとして生まれ変わると、とても新鮮に思えます。それにしても今や「カフェバー」って知らない人のほうが多いんじゃないか、てくらい完全に死語ですよね(笑)。
Swing Out Sister / Am I The Same Girl (2010)

92年発表の3作目『GET IN TOUCH WITH YOURSELF』に収録された、バーバラ・アクリン「AM I THE SAME GIRL」のカヴァー。92年版はそれはもう最強とも言えそうな90S UK SOUL最高峰だったワケですが、2010年版ではアコースティックで飄々とした爽やかアレンジになっています。よりジャジカルでライヴ指向のアレンジも聴きもの。
Swing Out Sister / Billboard Intro Mix (2011)

最後に重要なことをひとつ。実は現在SOSのアルバム『PRIVATE VEW』は、SOS自身によってSOUNDCLODにて全曲がフルで公開されており、誰でも無料で聴くことができます。勿論CDのパッケージが欲しいという方は、日本盤もヤマハより発売されているのでそちらをお求めいただければと思いますが、SOUNDCLOUDでは33分にもおよぶSOSのインスト・トラック「BILLBOARD INTRO MIX」(CD未収録)も公開されています。これがまた素晴らしいんですよね。

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