2013年5月10日(金)

ミシェル・ルグラン=ジャック・ドゥミ、変わらぬ友情の軌跡(上)

 先頃、ミシェル・ルグランの招きで二週間彼の家に居候してきた。滞在の主たる目的は、現在シネマテーク・フランセーズで開催中のジャック・ドゥミ回顧展のオープニングへの出席、そしてミシェルのアーカイヴと彼の姉で一昨年の秋に亡くなったクリスチャンヌの遺品整理である。
 帰国して数週間経ったい

ま改めて振り返れば、今回の滞在はいつになく有意義なものだった。これまでもフランスを訪れる度にミシェル宅に足を運んだが、それはせいぜい数日のことで、二週間続けて留まるほどではなかったからだ。連泊することで腰を落ち着けて資料にあたることができ、そのため思わぬ発見に恵まれた。膨大な楽譜とデモ音源、

それに貴重な写真や映像を目の当たりにして、目から鱗の連続である。何しろすでに紛失し、この世に存在しないと思われていた音源や、初めて目にする資料が目の前にごまんとあるのだ。
 例を挙げれば「女と男のいる舗道」の未使用曲を含む全素材、「太陽が知っている」の未使用曲が32曲(ステファン・グラッペリとルグラン姉弟によって即興で演奏された主題曲のヴァリエーションやスキャットを多用した劇中曲の録音)、ナナ・ムスクーリとミシェルによる未発表ミュージカルやピアノ・スケッチによるデモなどなど。十数年前に「ロシュフォールの恋人たち」のデモを発見した時と同様の興奮を覚えたのは言うまでもない。アンソロジストの血が騒ぐとはまさにこのこと。
 そんな訳で今週と来週は、

二週に渡って、滞在時に目にした出来事をいくつか紹介したい。なお彼の地での収穫は、今秋上梓予定の拙著、そして同時期に本国で

発売予定のミシェルの20枚組ボックスに反映される予定だ。
     *
 私がフランスに到着する

その日は、ミシェルとジャック・ドゥミのコラボレーション作品の音源を集めたボックス・セットの完成を祝うパーティーが開かれることになっていた。当日はアニエス・ヴァルダ、その娘ロザリーと息子のマチュー、それに発売元であるユニバーサル・フランスのスタッフら関係者数名をミシェル宅に招くと聞かされていたのだ。しかし、出発前日にミシェルの妻カトリーヌから届いたメールで、急遽、会場をアニエス宅に変更することになったと知らされた。空港に到着するや、重いスーツケースを引き摺りながら一目散にアニエス宅へ。こちらもパリを訪れる度にお邪魔する馴染みの場所だ。ピンク色の大きな扉を開けると、そこには十数人の人々が集い、それぞれがワイングラス片手にカナッペを摘んでいる。午後

6時半、パーティーは始まったばかり。
 やがて奥の部屋からミシェルとカトリーヌが歩み寄り、私を室内に迎え入れてくれた。彼らとは昨年10月の来日時に会って以来なので、半年振りの再会である。ミシェルは今年81歳になったが、思いのほか元気そうだ。ただ、時おり寂しげな表情を見せるのが気になった。
 部屋の中央ではボックスの企画・監修者のステファン・ルルージュが、その場に集った人々に対して饒舌にボックス制作の経緯を説明している。やがて私の姿を認めるや、出来たばかりのボックスを開封して、感想を求めてきた。発売を数日後に控えた商品なので当然その場が初見だが、事前にトラックリストを受け取っていたので、おおよその商品イメージは持っていた

つもりだ。しかし、現物を手にすると11枚組ならではの重量感に言い知れぬ感慨を覚えた。ここにはミシェルがジャックと共に作った作品のほぼ全てが収められているのである。前述の「ロシュフォールの恋人たち」のデモは勿論のこと、これまでアルバムとしては未CD化だった「モン・パリ」や「ベルサイユのばら」「パーキング」、さらに「ローラ」に関しては、マスターを紛失した3曲をミシェル自らが採譜して新たに録音し直しており、ある曲で

はコーラスを亡きクリスチャンヌの教え子たちが務めている。同梱されたブックレットには秘蔵写真が満載で、まさに永久保存盤。しかもこれが日本円にしておよそ五千円で購入出来るのだ。限定版をうたってはいないが、こうした商品は生産数が少ないため、在庫があるうちに購入しておくことをお薦めしたい。
 さて、しばらくするとロザリーがキッチンからトレイに載った三つのケーキを運んできた。数日後に開幕を控えたジャック・ドゥミ回顧展の協賛企業のひとつダロワイヨとのコラボ商品「ケーキ・ダムール」で、これは映画「ロバと王女」のなかでカトリーヌ・ドヌーヴが王子のために作ったケーキを再現したもの。なんとケーキのなかには映画と同様に指輪が埋め込まれている。回顧展オープニン

グで振る舞われるのと同じケーキをこの日のために用意したのだという。ロザリーがテーブルにケーキを置くと同時に、その場にいる全員が満面の笑みを浮かべながら、件の映画でドヌーヴが歌った劇中歌「愛のケーキの作り方」を歌い出した時には感無量で胸がいっぱいになった。
 しばしの歓談ののち、来客はひとり、ふたりと帰路につき、午後8時過ぎには私もミシェルと共に帰宅することになった。帰りのタ

クシー車中でのミシェルは多くを語らず、やはりどこか寂しげで、明らかに表情は暗かった。
 その夜カトリーヌに聞いた話では、会場がアニエス宅に変更になった時、ミシェルはそれを拒んだのだという。なぜならそこにはミシェルがジャックと共に創作に使ったピアノが残されており、彼にとってそれを目にするのはとても辛いことだった。実際、ジャックの死後、ミシェルは、アニエス宅を訪れるのを極力避けてきたらしい。パーティーの最中、彼はピアノを前にどんな気持ちでいたのだろう。それは翌週に開かれたジャック・ドゥミ回顧展オープニングの目玉となったジャックへのトリビュート・コンサートで明らかになる。(つづく)
(濱田高志=アンソロジスト)
写真は上から●ルグランとドゥミのコンビによる楽曲をまとめた11枚組編集盤『Intégrale Michel Legrand / Jacques Demy』 ●筆者がルグラン宅から持ち帰ったマスターテープの一部。これらの音源は今秋発売予定のボックス・セットにて陽の目を見る予定 ●『ロシュフォールの恋人たち』のジャズ版スコア ●パーティーでふるまわれた「ケーキ・ダムール」



映像発見!幻のドラマ『同棲時代』が再放送

 あのテレビ番組がもう一度観たいのに、なぜ再放送してくれないのだろう。そんな疑問を抱いたことはないだろうか。実はテレビ各

局が映像の保存に本腰を入れ始めたのは、一九七○年代の終わり。それ以前の番組については、映像が残っていないものが多いのだ。

 今から四十年前に、ある単発ドラマがTBSで放送されて話題になった。タイトルは『同棲時代』。この人気作品(73年2月放映)もビデオテープが残っておらず、「幻の名作」と呼ばれてきた。ところが奇跡は起きた。番組を録画したテープが四年前に都内の出版社で見つかり、来る5月25日(土)に、CSのTBSチャンネル2で放送されることになったのだ。
 『同棲時代』は同名の人気劇画を映像化したもので、その後、映画版(73年4月公開)がつくられたり、大信田礼子が歌った同名ソングが爆発的に売れるなど、「同棲」ブームが巻き起こった。原作者の故・上村一夫は、去る三月にも原画展が開かれるなど、近年、若い人たちからも注目されている昭和の絵師だ。
 ドラマの主人公は、喫茶

店で出会い、そして恋に落ちる駆け出しのイラストレーターと、旅行会社で働くOL。このカップルを演じたのが、人気絶頂だった沢田研二と、梶芽衣子である。
 当時の沢田はザ・タイガース解散後、ソロ歌手として活動を始めたばかり。近年は年に一度、舞台で音楽劇を演じるなど、役者としても実績を積んでいるが、その沢田にとって『同棲時代』はドラマ初主演だった。また映画育ちの梶芽衣子は、主演作『さそり』で演じた、復讐に命をかけるクールなヒロインが大評判をとり、とくに世の青年たちから絶大なる支持を集めていた。
 『同棲時代』は、今や死語だが、トレンディドラマの典型である。互いに愛し合っているのに、入籍しないまま同居をつづける「同棲」という、当時としては新しかった男女の愛のカタ

チ。BGMとして流れる、吉田拓郎が歌うヒット曲の数々。そして、長髪にすそが広がったジーンズ。いずれも一九七三年という、放送当時の流行風俗を反映したものだ。さらに番組のおしまいに流れるソフトロック調のバラードは、「翼をください」の大ヒットで有名な、赤い鳥が歌っている。
 かように時代の気分がぎゅっと詰まっているぶん、年若い人には通じない描写も多いだろう。だが、今回の放送を見逃すのはもった

いない。沢田、梶という当時二十五歳だった二人の役者が実に初々しく、感性のおもむくままに、とても新鮮な演技を見せているのだ。しかも沢田は好青年で、梶も息を飲むほど美しい。その「若さ」だけが持っている、まばゆいほどの輝きは、今見ても、私たちを画面に引きこむ力があるだろう。
 今回の再放送に合わせて、「幻の『同棲時代』発見秘話」も放送される。これは同ドラマの魅力と、録画テープ発見にまつわる裏話を掘りさげた、三十分のドキュメンタリー番組で、主演・梶芽衣子の撮り下ろしインタビューほか、見どころがてんこ盛りである(青山優子演出)。今回の録画テープ発見に関わった一人として、より多くのみなさんに、再放送を観てほしいと願っている。
(加藤義彦=文筆家)
●ドラマ『同棲時代』 ーー「沢田研二出演ドラマ特集」の1本として、TBSチャンネル2にて放送予定。放送スケジュールは、1話完結の『同棲時代』(73年)、『源氏物語』(80年)、全13話の『いつか黄昏の街で』(81年)が5/25(土)と26(日)、ドキュメンタリー『幻の「同棲時代」発見秘話』が5/16(木)、17(金)、25(土)。さらに詳しいことは、TBSチャンネル http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/osusume/sawadakenji/ にアクセスを。



Message from やまがたすみこ







BSフジプレミアム『HIT SONG MAKERS』
~栄光のJ-POP伝説~ 作曲家・いずみたく
 

放送日時:2013年5月11日(土)21:00~21:55
[監修:濱田高志/ナレーション:野宮真貴]

職業作曲家に焦点を当てた音楽ドキュメンタリー、今回は、作曲家のいずみたく。 累計売り上げ270万枚というピンキーとキラーズ「恋の季節」をはじめ、由紀さおり「夜明けのスキャット」、佐良直美「世界は二人のために」、坂本九「見上げてごらん夜の星を」、中村雅俊「ふれあい」などのヒット曲から、「手のひらを太陽に」「いい湯だな」、さらには「伊東に行くならハトヤ」「マーブルチョコレート」のCMなどで、生涯で1万5000曲という楽曲を残した天才作曲家の生涯を探る。 番組紹介HP ⇒ http://www.bsfuji.tv/top/pub/hit_song.html