2013年7月12日(金)

劇団スタジオライフ 新作公演
『音楽劇 アルセーヌ・ルパン―カリオストロ伯爵夫人』


 東京・新宿御苑のシアター・サンモール。劇団スタジオライフの新作公演『音楽劇 アルセーヌ・ルパン―カリオストロ伯爵夫人』の初日を拝見してまいりました。この舞台は美術を担当した宇野亞喜良氏と、音楽を担当した村井邦彦氏のコラボレーションが45年ぶりに実現した記念すべき公演でもあるのです。

 お話は、19世紀後半のフランスが舞台。20才の青年ラウール・ダンドレジーが、カリオストロ伯爵夫人ことジョセフィーヌ・バルサモと運命的に出会うところから始まります。互いの正体を知らないラウールと伯爵夫人。ラウールの感情は恋人クラリスと夫人の間で揺れ動き、さらに夫人はある秘宝をめぐりボーマニャン

と対立し……。原作はモーリス=ルブラン後期の代表作で、主人公のラウールが男爵の地位を捨てて怪盗アルセーヌ・ルパンになるまでのお話。
 同公演を主宰する「スタジオライフ」は40名以上いる劇団員のすべてが男優で占められているユニークな劇団で、女性の役も男優が演じるのです。男性版宝塚のようですが、男役と女役が固定されているわけではなく、衣装や見た目、仕草は女性的であっても、声は男性のまま演じるという趣向。公演はトリプルキャストで(しかもこれが「T=トワ、E=エ、M=モア」という粋なネーミング)、僕が観た初日のトワは、カリオストロ伯爵夫人を関戸博一さんが演じていました。この劇団のそういった特性を知らないまま観賞していたので、最初はどう観ても

体つきが男性だし、「あれ、声も男?」でしたが、お話が進むにつれ女性に見えてくる不思議。ラウール役の松本慎也さんとのロマンティックなシーンでは、何の違和感もなく女性として認識しつつ物語を追っている自分がいました。ある意味倒錯的なデカダンスも感じさせますが、舞台演劇だからこそ成せるマジックでもあります。それを成立させるのは主演2人の演技力によるところが大きく、しかもラウールの膨大な量のセリフにも圧倒。何しろ全員男優ということもあり、パワフルな役者のエネルギーがダイレクトに観客に伝わってきます。もちろん皆さんイケメンなのは、カーテンコールでの挨拶を見てわかりましたが、演じている間は彼らをフランス人として違和感なく観ているわけですから、役者の力とは凄

いものです。
 そのマジックを有効に演出しているのがまず宇野亞喜良氏の美術。19世紀フランスの「ベルエポック」と呼ばれた繁栄の時代をゴシック調の最小限のセットとイメージボードでドンピシャリに表現し、役者が登場するとあっという間にその時代に観客を引き込んでしまう素晴らしいものでした。
 そして、「音楽劇」と題されている通り、もう1つの主役である音楽。村井邦彦氏の書きおろした数々の楽曲のうち、カリオストロ侯爵夫人のテーマはスリリングで緊張感漂う印象的なメロディ。優雅でサスペンスフルな音階をもつこの曲が全編通して物語の通底音となり、ドラマのミステリ性を高める効果が生まれています。おまけにカラオケではなくピアノ、バイオリン、パーカッションの生演

奏によるもので、生の演奏は生身の役者が演じる躍動感と完璧にシンクロして、300席弱の会場にとてつもなく贅沢な空間を作り上げているのです。
 水先案内人的役柄のヴォーカリスト、tekkanさんが要所で歌うナンバーも素晴らしく、ちなみにtekkanさんは意外な役周りだったことが最後に……それは観てのお楽しみ。終盤、ラウールがルパンになることを決意するシーンでの、役者総出で歌い踊る

パフォーマンスは圧巻で、それまでの雰囲気から一転、明るく弾けたミュージカル本来の楽しさに溢れ、役者陣の身体の動きの美しさにも感動させられました。日本人のミュージカル、ことに海外翻訳モノでは、歯が浮くような場合もあるのですが、この舞台でまったくそれを感じさせなかったのは、ひとえに役者と演出家と、美術と音楽の完璧な一体感にあるためでしょう。
(馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)




「あまちゃん」に見る劇団系俳優の魅力

 今、老若男女を問わず、話題のTVドラマといえば、それはNHK朝ドラ「あまちゃん」でしょう。このドラマは様々な要素が絡み合って人気を博しているようだ。能年玲奈、橋本愛のフレッシュな女優陣の演技、そして、各回にフィーチャーされる80年代のヒット曲の数々、もちろん、宮藤官

九郎の小ネタの効いた脚本の絶妙の面白さは言うまでもない。
 いや、私が書きたかったのは、こういう事ではない。劇団出身者が随所に配置されているキャスティングの妙が、このドラマをより面白くしているということだ。80年代後半~90年代にかけて、下北沢の本多劇場、ス

ズナリや新宿のシアタートップスなどによく通ったが、その当時見ていた個性的な俳優が数多く出演し、異彩を放っているのだ。
 劇団別に紹介していくと、宮藤の所属している『大人計画』の荒川良々、伊勢志摩、皆川猿時、村杉蝉ノ介。彼等は同劇団の阿部サダヲに次いで、今、正によりメジャーになる位置についたと思われる。元『WAHAHA本舗』の吹越満や『劇団新感線』の古田新太は、もはや劇団の看板を持たなくても、お茶の間ではおなじみだろう。吹越は初期の『大人計画』での客演、古田は宮藤の出世作「木更津キャッツアイ」でのオジー役等で、元々関係は深い。渋いところでは、水谷龍二の『星屑の会』に出演していた菅原大吉とでんでんが、揃って脇を固めている。
 比較的新しいところでは、

『親族代表』の野間口徹、元『ポツドール』の安藤玉恵。野間口もドラマ・CMで既にお馴染み、『親族代表』の新作が待ち遠しい所だ。安藤はこのドラマでコメディエンヌ的な要素が開花しているようだ。
 最も気になったのは渡辺えり、木野花、片桐はいりの女優三人の揃い踏みだろう。しかも揃って海女の役! 80年代で言えば、『劇団三○○』『劇団青い鳥』『ブリキの自発団』の看板女優ですよ。片桐は「マシーン日記」をはじめ、『大人計画』に数多く客演しており、木野花も宮藤脚本のドラマに出演している。渡辺は過去の出演関連は確認できなかったが、舞台で客演している可能性は高い。つまり、よく考えて見ると、このドラマは宮藤官九郎作・演出の演劇シリーズ「ウーマンリブ」みたいなもの

ですな。『大人計画』の俳優に多くの客演陣を追加したプロデュース公演がこのドラマと言ってもいいのかもしれない。
(星 健一=会社員)
「あまちゃん」番組公式HPは上記写真をクリック。



「ポップソングを演奏する時、ベースがいるかどうかなんてのは大した問題ではない」——Mick Ronson, Dec. 1976

 ところで皆さんは、買い物ってお好きですか? 戦利品を手にし高揚したこちらの気分も理解せず、「あんたバカじゃないの。何よそんなモン買ってきて。一体何に使うの。同じモン何個も持ってるじゃない」とか、そんな恐ろしいセリフを平然と吐く人は、えてして目上の人(例えば奥様だ

ったり親御さんだったり上司だったり世帯主だったり)と相場が決まっているものですが、以下「お買い物」に関して2題ほど書きたいと思います。
 デヴィッド・ボウイとミック・ロンソン。共に「ジギー・スターダスト」関連の作品群を形づくった重要なパートナー同士ではあり

ますが、ボウイは天才肌で、頭がキレキレに切れて、繊細で、理論的。かたやロンソンはマッチョで、暴力的、イケイケの体育会系で、感覚的。異論もあるかとは思いますが、この2人はステージ上でも、そんな対照的なキャラをそのまま演じていました。
 で、ミック・ロンソンの場合。基本的にモノに執着するタイプではなかった人なんですが、76年のある時期に幾度となく「あー新しいギター欲しい!」と繰り

返す時期がありました。理由を乱暴に書いてしまえば「ギターが弾きたくてたまらない」という欲求が爆発寸前モードだったからなんですが、そういうのって他人からは客観的に理解できない類い、ですよね。でも本人はその買い物を通じて「自分の未来を買う」とでも言えそうな、費用対効果では語る事のできない、計り知れない高揚感の中にいることが推察されます。
 若いころ酷く貧乏なバンドマン生活を送り、絶望の

ドン底にありながらも小銭が手に入るとつい(憧れの)レスポールを買ってしまい、結果借金を増やしてしまう。そんな若い頃の彼の買い物感覚もそうですが、有名人となった後もちょっと気分がロマンティック浮かれモードになってしまうと「ギター屋に行きたい!」とうわ言のように繰り返してしまう、そんな茶目っ気たっぷりの人なんですよね。ロンソンは。
 さて、76年頃にミック・ロンソンから直に「ギター欲しい!」と繰り返し同じ台詞を聞かされた人がいます。彼はスティーヴ・ローゼンという音楽ライターで、当時米「ギター・プレイヤー」誌の取材でロンソンにインタビューをした人ですが、そのスティーヴ・ローゼンさんが取材した76年のミック・ロンソン・インタビュー記事を、実は先日当

方は「購入」(もちろんライセンスという意味)してしまいました。
 そんなモン買ってどうするの?バカじゃないの、と既に厳しいご意見をいくつか周囲から頂戴していますが、話はシンプルです。全文を公開するだけです。今回ローゼン氏本人にお願いして当時の録音テープを37年振りに再度聞き直し、雑誌では掲載されなかった部分も含めて、丸ごと全部を新たにQ&A方式で書き起こしてもらいました。
 既に鬼籍に入り20年が経過したミック・ロンソンですが、彼は生前こう思ってた、こう語った、という事実を、同好の士のみならず、まだ見ぬ未来の音楽ファンと共に共有するだけです。費用対効果では計り知れない高揚感をも共有できれば、嬉しい限りです。
(大久達朗=デザイナー)
ファズ・ブログ「BUZZ THE FUZZ」http://thetonebender.blogspot.com ミック・ロンソン・インタビューはこちら



村井邦彦
音楽劇『アルセーヌ・ルパン カリオストロ伯爵夫人』
オリジナルサウンドトラック
 

劇団スタジオライフによる音楽劇『アルセーヌ・ルパン カリオストロ伯爵夫人』のために村井邦彦が書き下ろした楽曲を収録したオリジナル・サウンドトラック。●VMCD-0005 ¥2500 ●7月4日より、会場のみ限定発売

スタジオライフ『音楽劇 アルセーヌ・ルパン カリオストロ伯爵夫人』
2013年7月4日(木)~21日(日)@シアターサンモール ・料金=全席指定 前売5,500円/当日5,800円、学生3,000円(当日のみ、要学生証)
【スタッフ】原作=モーリス・ルブラン 脚本・演出=倉田淳 作曲=村井邦彦 美術=宇野亞喜良
【キャスト】松本慎也、岩崎大/関戸博一、青木隆敏/tekkan ほか
*Toi(トワ)チーム、Et(エ)チーム、Moi(モワ)チームの一部トリプルキャスト



『いつか聴いた歌 和田誠 トーク&ライヴ』のお知らせ
 

2013年7月13日(土)@池袋コミュニティ・カレッジ

演奏=島健(ピアノ)、納浩一(ベース)、島田歌穂(ヴォーカル)
企画・プロデュース=濱田高志
構成&トーク=和田誠

お申込み方法:コミカレ会員の方5/20(月)から、一般の方は5/25(土)より受付。
+ご来店の場合:お申込み日の10:00より(月~土は10:00~19:00、日曜日~17:00)
+お電話(セゾンカードお持ちの方、または銀行振り込み):お申込日の13:00より
+Web(各種クレジットカード):お申込日の10:00より

詳細はリンクをご参照下さい。http://cul.7cn.co.jp/programs/program_635172.html