2013年7月19日(金)

イカロスと月に行ったレコード

 「月に行ったレコードがある」。今日はそんなちょっと夢のあるお話を。
 ポール・ウィンターというサックス奏者をご存知だろうか。1939年生まれ、シカゴのノースウェスタン大学在学中に、自らのセクステットを結成してインタ

ーカレッジ・ジャズ・フェスティバルで優勝、62年米合衆国国務省派遣の文化大使に任命され世界各地で演奏、ホワイトハウスにも招かれ、ホワイトハウスで正式に演奏した最初のジャズ・グループとなった。演奏旅行中に訪れた南米で大き

な影響を受け、独自のワールド・ミュージック路線を確立、70年代後半から80年代にかけて、自ら設立したレーベル「リヴィング・ミュージック」を中心に、ヒーリング&ニューエイジ・ミュージックの旗手として活躍した。鯨の鳴き声にあわせてサックスを吹いた「ホエールズ・アライヴ」(87年)、グランド・キャニオンの渓谷で、自然エコー効果の限界に挑戦した「キャニオン」(85年)など、当時は音楽ファンよりも、ニューサイエンス好きの人たちに好まれていたような印象が強い。そんなポール・ウィンターが、自らのコンセプトを最初に実現させたグループが「ウィンター・コンソート」だ。69年A&Mレコードから「ザ・ロード」をリリース、このアルバムはフィル・ラモーンのプロデュースで、全

米各地で行われたライヴを収録、ジャズ、ロック、クラシック、エスニック、現代音楽など、あらゆるジャンルをミックスさせた次世代の音楽の金字塔として高い評価を得た。そして、このアルバムのもう一つの金字塔が、「月に行った最初のレコード」となった事。「ザ・ロード」は、71年7月に打ち上げられたアポロ15号の宇宙飛行士によって月に運ばれ、アルバム収録曲の「イカロス」と「ゴーストビーズ」が、ミッションで新たに発見された2つのクレーターに命名された。特に「イカロス」は、当時メンバーだったギタリスト、ラルフ・タウナーの代表作で、彼の弾く12弦ギターの響きとデヴィッド・ダーリングのチェロのメロディーがとても美しく、ドリーミーで幻想的なムードを醸し出している。ちなみにアポ

ロ15号は、NASAの9番目の有人飛行ミッション、4番目の月着陸ミッションとして計画、これまでのアポロ計画と違い、科学調査を重視、3回の船外活動で、合計18時間以上にわたり月面を調査、「月の海」以外の場所に着陸した初めてのミッションだった。月面で実際にレコードを聴けたとは思えないので、実際にはカセットか何かに録音された音源を持っていたのではないかと思われるが、宇宙飛行士たちが月面の風景を眺めながら「イカロス」のメロディを口ずさんだかと思うと、なんだかうれしい気持ちになってくる。ただこの「ザ・ロード」は現在国内外共に廃盤。CD化も90年に一度されただけで、現在は入手困難な作品となっている。なんとも残念だ。
(土屋光弘=ラジオ番組制作者)



思いがけず出会ってしまった昔ながらのかき氷

 中古レコードを扱うぼくの店の常連客にガレージ・ロック・マニアがいる。彼はリンク・レイ、ウェイラーズなどフランティックなインストのギター・ミュージックを好み、60年代前半の希少な7インチ・シングルを収集している。
 激しい音楽嗜好とは裏腹に、彼の性格は温厚で物腰が実にやわらかい。話を聞いてみると、彼は今どき珍しくインターネットを全くやらない。レコード以外では欲張らず、持っているも

のを大事に使い続けるシンプルな生活を送っているという。もっとも意外だったのは、休日に奥さんが切り盛りするかき氷屋を手伝っていることだ。かき氷の専門店? うまくイメージできなかったので百聞は一見にしかずと出かけてみた。
 JR中央線の国立駅を北口に降り、駅前通りの2つ目の交差点を恋ヶ窪方面へ右折。国分寺崖線の左曲がりの急な坂を登りきると左手に「氷」の旗が見えてくる。ここは自宅農家の採れ

たて野菜の販売と喫茶のお店「モロゴロ」なのだが、かき氷屋はその店先を土日だけ借りて営業している。
 出迎えてくれた彼と挨拶を交わし、店先を覗くと古くゴッツいかき氷機に目を奪われた。店内に入ると奥さんがメニューを見せてくれた。一般的にかき氷はメロンやイチゴ、練乳のシロップが多いが、この店ではシロップを「みつ」と呼び、白いんげん、りんご、ココナッツ、キウイ、甘酒というめずしいラインナップ。それらは全て手作りだという。ぼくは生姜にチャレンジした。
 彼が氷を削っている間、かき氷機について訊ねてみるとフクロクというメーカーの昭和40年代頃の電動氷削機だという。彼はこれを古道具屋で見つけて一目ぼれしてしまい、かき氷作りに目覚めたのだそうだ。

 でき上がったかき氷はとても細かくフワフワとやわらかい食感で、普通のガリガリしたかき氷とは全く異なる。この上品な舌触りはきっと昔ながらのものなのだろう。その氷に生姜と黒蜜を煮詰めたみつと細切り

の生姜がドサっと乗っている。ぼくは大の甘党だから練乳も加えてもらった。生姜の辛さがテンション・ノートになった絶妙のハーモニー。はじめての味だった。
 みつ作り担当の奥さんがもっともこわだっている素

材が「花見糖」という国産さとうきびの原料糖を100%使用した砂糖だという。みつの素朴な味はこの砂糖によるものだろう。
 かき氷屋は店先を借りているので屋号の看板がないが「100%かき氷」という店名がある。もしかしたら「花見糖」へのこわだりからこんな店名をつけたのだろうか? 
 かき氷を食べた後、モロゴロのメニューからコーヒーと天然酵母のパンを注文した。天然木のインテリアの落ち着いた雰囲気の店内で、ゆったりした時間を過ごすことができた。
 ガレージ・ロックのドロドロした雰囲気とは無縁の爽やかなお店で食べた、今までのイメージが変わるのんびりしたかき氷。次は白いんげんにトライしよう。
(古田直=ダックスープ店主)



「ミュージックジャケットギャラリー2013」を楽しむためのアイドルレコードジャケット考

 1980年夏、都内辺境の町内は1枚のアイドルのレコードの評判で持ちきりであった。「5丁目のFくんが松田聖子のLPレコード『スコール』を買ったらしい」「2年A組のFくんの家に『スコール』があるらしい」「AくんがFくんから『スコール』を借りたらしい」等々。たった1枚

アイドルのLPレコードを買っただけで、Fくんは渦中の人物となってしまった。当時の中学生のお小遣いは3000円程度、その中から2500円のLPレコードを購入することはかなりの出費で、相当の覚悟のうえに購入を決意したことに違いなく、そこに80年代前半当時のLPレコードの希

少性をうかがいしることができるが、この話の肝はそのレコードが松田聖子の『スコール』であった点にある。たとえば、その頃人気の松山千春やアバやサザンオールスターズのLPレコードを買っていたクラスメイトもいたが、彼らはとくに話題には上らなかった。しかし、この年の松田聖子の登場は市井の人間が皮膚感覚で新しい時代の到来を予感し、無意識にその活躍に期待していた。だからこそ、たった1枚のレコードがここまでの話題を提供したといえる。しかもそのレコードのジャケットはピンク地を背景にした当時18歳の松田聖子の濡れた髪の毛と物憂げな表情がとても印象的で、中学生にとっては不純な妄想をかき立てるに十分のデザインであった。ビジュアル的なインパクトも申し分ないLPレコード

を普段は大人しいFくんが購入したという意外性もニュースを加速させ、その評判は校内から町内へと飛び火していった。そして、自分も無性に「スコール」が欲しくなり、1年後にレコードを手にすることに。今でも『スコール』を見るとふと当時の一大事件が思い出されるし、改めて80年代の松田聖子のレコードジャケットには一種独特な色気があることに気付かされる。
 同じようなことを人気ドラマ「あまちゃん」を見ていても思う。ところどころにフィーチャーされた80年代アイドルへのオマージュが連日のドラマを盛り上げているなか、とくに印象的なのは、主人公アキの母親春子の実家部屋に所狭しと置かれたアイドルのポスターやレコードである。細かいこだわりを感じさせる多くの小道具が40代視聴者の

目を刺激する。もちろん、松田聖子のポスターやレコードジャケットは、いちばん目立つところに貼ってある。当時、自分の周りにも透明下敷きにアイドルのシングルレコードのジャケットを入れ、自宅部屋には天井にまでアイドルのポスターやレコードジャケットを貼っていた友人が多く存在したが、あのセンスはいったい何だったのだろう。そう考えてもやはり、アイドルとレコードジャケットは、他ジャンルの音楽にはない密接な結びつきがあり、とくに80年代に青春時代を過ごした者にとってのそれはアイデンティティーを構成するうえでたいへん重要なアイテムであった。
 そんなことを再確認する展示イベント『ミュージックジャケットギャラリー2013』が7月18日から東京・新宿髙島屋とタワーレ

コード渋谷店で行われる。70年代前半の南沙織、岡崎友紀、山口百恵から80年代の松田聖子や小泉今日子、90年代の安室奈美恵やモーニング娘。、そして現在のAKB48、ももいろクローバーZまで連綿と続く日本の女性アイドル」の歴史を、500枚以上のレコードジャケットで振り返るという大掛かりな催し。過去に女性アイドルだけのレコードジャケットを大量に展示したイベントは例がなく、その絵を想像しただけで壮

観である。時代時代のヴィジュアルセンスや女性アイドルのルックスやヘアスタイル、ファッションセンスの変化、あるいはレコード会社によって異なるデザインなど、様々な切り口で楽しめるに違いない。ほかにも、お宝アイテムの展示やアイドル本人が生出演しての特別トークイベントも行なわれるという。きっと、会場を一回りしたあとには前述の「スコール」話のように、各人それぞれのジャケットにまつわる貴重なエ

ピソードが思い起こすのではないだろうか。そんな話を肴に旧友と酒を酌み交わすのも一興。そして、昔を思い出して、自分の部屋にアイドルのレコードジャケットを飾りたくなることだろう。自分も実家に帰り、開かずのレコードラックから埃だらけの「スコール」を探し出すに違いない。
(竹部吉晃=ライター/編集者)
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●ミュージックジャケットギャラリー2013<日本の女性アイドル> 40年余りの日本の女性アイドル変遷を振り返るべく、シングル盤ジャケット500枚以上を現物展示。
※スペシャルトークイベント ●7月21日(日)午後4時〜新宿会場/ゲスト=中川翔子 ●7月28日(日)午後4時〜渋谷会場/ゲスト=ニャンギラス
MUSIC JACKET GALLERY 2013 ●東京/新宿会場=新宿髙島屋1階JR口特設会場/7月18日(木)~23日(火) 10:00~20:00 ※最終日は19:00終了 ●東京/渋谷会場=タワーレコード渋谷店8階SpaceHACHIKAI/7月25日(木)~28日(日) 11:00~21:00 ●MUSIC JACKET GALLERY公式HPは http://www.epa-mjg.com



小林準治氏サイン会 

松本まるごと博物館連携企画展『北杜夫と松本』
記念講演会「どくとるマンボウ家の素顔~ユーモアを大切にイキイキ生きる~」
講師:斎藤由香氏(北杜夫長女・エッセイスト)
日時:7月21日(日)13:30~
会場:あがたの森文化会館2-8教室(国重文・旧松本高校本館内)
定員:80名(申し込み先着順)
受講料:300円
申込み:午前9時から電話で 旧制高等学校記念館へ(TEL.0263-35-6226)

サイン会は、斎藤由香さんの講演会の後に行われます。
この講演会に参加するためには、電話予約と300円の受講料が必要です。

なお、本書についての詳細は次週の「週刊てりとりぃ」で紹介予定。


村井邦彦
音楽劇『アルセーヌ・ルパン カリオストロ伯爵夫人』
オリジナルサウンドトラック
 

劇団スタジオライフによる音楽劇『アルセーヌ・ルパン カリオストロ伯爵夫人』のために村井邦彦が書き下ろした楽曲を収録したオリジナル・サウンドトラック。
VMCD-0005 ¥2500/7月4日より、会場のみ限定発売

スタジオライフ『音楽劇 アルセーヌ・ルパン カリオストロ伯爵夫人』

2013年7月4日(木)~21日(日)@シアターサンモール ・料金=全席指定 前売5,500円/当日5,800円、学生3,000円(当日のみ、要学生証)
【スタッフ】原作=モーリス・ルブラン 脚本・演出=倉田淳 作曲=村井邦彦 美術=宇野亞喜良
【キャスト】松本慎也、岩崎大/関戸博一、青木隆敏/tekkan ほか
*Toi(トワ)チーム、Et(エ)チーム、Moi(モワ)チームの一部トリプルキャスト


2012年度「集めたくなる栞」人気ナンバー1
宇野亜喜良 12カ月分額装セット 限定生産販売 

ブックユニオンにて新刊本をお買上げいただかないと手に入れられなかった宇野亜喜良さんの栞を、1年12カ月分額装いたしました。フレーム・台紙の色も宇野さんに選んでいただき、直筆でサインもいただきます。

こちらは店頭・お電話・Webで、ご注文いただいた分のみ生産する限定販売となります。ご注文は下記リンクより。

定価:12,600円(税込) 締切:2013年7月末
http://diskunion.net/book/ct/detail/MBK-20130621001