2013年12月6日(金)

帰ってきた「絵文庫 帰ってきたウルトラマン」

 くやしいことに、『ウルトラQ』や『ウルトラマン』の本放送には間に合わなかった世代である。既に生まれてはいたが、まだ物心つかぬ歳だったから、『ウルトラセブン』までは再放送でしか見ていない。昭和46年にようやく小学校に上がった自分にとって、リアルタイムで見られたウルトラマンは『帰ってきたウルトラマン』が最初だったのだ。いわゆる第二次怪獣ブームが訪れた頃。変身ブームと

相まってテレビでは毎日のように特撮ヒーロー番組が放映されていたが、自分は紛うことなき円谷派だった。
 だから『帰ってきたウルトラマン』は実に熱心な視聴者のひとりであったと思う。高度経済成長時代の真っ只中に作られた『ウルトラマン』に比べ、『帰ってきたウルトラマン』は景気の冷え始めた世情が反映されてか、作品全体になんとも言えない暗さが漂っていた。その閉塞感は子供心に

も薄々感じてはいたのだが、とにかく毎週登場する魅力的な怪獣に夢中になったのはたしか。第1話に登場したアーストロンに始まり、ザザーンにグドンにタッコング。ネーミングもデザインもまだまだシンプルであったからこそ、覚えやすく親しみやすかったのだ。後半になって、公害問題が提起されたゴキネズラの回は極めて印象深く、当時マンションに住んでいたため、マンション怪獣キングストロンも妙に気になった。小学館の学年誌に毎号掲載された特集記事をむさぼる様に眺めた憶えがある。
 決して小学館さんに媚びを売るわけではないのだが、あの頃の僕らは小学館の本や雑誌に非常にお世話になっていた。学年誌は一年生から六年生まで漏れなく読んだし、図鑑も絵本も百科事典も、自分の部屋には小

学館の本が蔓延していた。馴染み深い〝入門百科シリーズ〟も多くを有していたが、中でも「ウルトラ怪獣入門」と「怪獣図解入門」の2冊は僕ら世代の男子のバイブルだったといえるのではなかろうか。第1次怪獣ブーム時の怪獣図鑑は秋田書店がリードしており、版を重ねて当時も売られていた「怪獣ウルトラ図鑑」ももちろん買ってもらったが、やはり子供には最新怪獣が載っていることが大事であった。
 〝小学館の絵文庫〟は低年齢層向けの絵本の類に属するものの、ビジュアルの迫力が満点なコレクターズ・アイテムとして人気が高いシリーズである。「オバケのQ太郎」や「おそ松くん」、東映の劇場用長編動画など、昭和40年前後から出されていた様で、現在最もマニア需要が高いのが、

少し後の時代、『シルバー仮面』や『アイアンキング』などの特撮ものであるらしい。当然、全9冊出された『帰ってきたウルトラマン』も古本で揃えるのは至難の技。それも子供向けの本だけあって、美本で残されているものは極端に少ないだろう。
 今回、円谷プロ50周年の一環としての復刻は、質感も当時のまま、金や銀の箔押しも忠実に再現された見事なものである。今でもたまに見かけるが、あの頃の町の書店には必ずあった絵本塔(グルグルまわるやつ)にこれらが並んでいた光景を急に思い出した。
 「ウルトラ怪獣入門」などの著者でもあるSF作家の大伴昌司が最初の2冊の構成・解説を手懸けているのも本の価値を高めている点のひとつ。小学館編集部の記者が現場に密着して撮

影したという貴重なスチル写真が満載で、大人になった今の視点でも新鮮な怪獣の特写が随所に見られる。5巻以降は、アトラクション用の着ぐるみながら、ウルトラマンが絵文庫を読んだり、本の束を抱えたりしている姿が表紙裏に載っているのがご愛嬌。編集部の遊び心が感じられて楽しい。

最終刊では「みんなそろえて、きみのほんだなをきれいにかざろう」のメッセージが発せられており、当時それが叶わなかった子供たちにとって、実に40年ぶりにそのチャンスが訪れたわけである。この機会を逃してはならない!
(鈴木啓之=アーカイヴァー)

『絵文庫 帰ってきたウルトラマン 限定復刻版BOX』発売:小学館 本体9500円+税 発売中

Espace Biblio + 月刊てりとりぃ共同企画
泉麻人(コラムニスト)×河崎実(映画監督)トークショー
『シュワッチとシェーの時代について語ろう!』


1971年に発行された、鬼才・大伴昌司構成による幻のヴィジュアルブック「小学館の絵文庫・帰ってきたウルトラマン」全9巻を、円谷プロダクション創立50周年を記念し豪華BOXセットにて限定復刻。同書の刊行を記念して、ウルトラマン・シリーズに造詣の深いコラムニストの泉麻人さんと映画監督の河崎実さんをお迎えして「ウルトラマン」にまつわる想い出やその周辺事情を存分に語って頂きます。

[日 時]2013年12月21日(土)15:00→16:30(14:30開場)
[参加費]1,500円(当日精算)
[予約制]メール(biblio@superedition.co.jp)または電話(Tel.03-6821-5703)にて受付。:件名「泉氏×河崎氏トーク希望」にてお名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。おって返信メールで予約完了をお知らせいたします。 ※定員70名
[会 場]ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ) 地図→http://goo.gl/maps/uIPqv
[協 賛]小学館クリエイティブ



自主制作マンガ界の無色透明

 「曲屁」という、おならの音で演奏したり、威力で蝋燭の火を消したりする演芸があったらしい。有名なのはル・ペトマヌというフランスの芸人で、「空飛ぶモンティパイソン」の演出家イアン・マクノートンが監督した評伝映画もあるとか。和田誠にも、この芸に着想を得たらしき「サウンド・オブ・ミュージック」(『にっぽんほらばなし』収録)というしゃれた掌編小説があった。
 この「曲屁」が登場する

『おなら少女』(2013年/おなら書房)という自主制作マンガを読んだ。おどろおどろしいデザインのタイトル。ポカンとした表情で、路地に佇む少女の絵が表紙に描かれた、二〇頁ほどの薄い本だ。おならで自由に音階を奏でる芸人・草葉一郎の一人娘の「ひかげ」は、おならに宿る魂を見る能力があり、街に放たれ蓄積して化物のような姿になったおならを捉え、その悪戯をいさめる。こうした、言ってしまえば何も無

い、ナンセンスなだけの、本当におならのようなマンガなのだけれども、繊細な点描を駆使して描かれ、透明感のあるえも言われぬ味わいを醸す。水木しげるからの影響が濃厚で、一見パロディのようにさえ見えるが、まったく違う種類のシュールなユーモア。水木しげるのテクニックとは、怪奇趣味を盛りたてる道具かと思っていたが、実はペーソスに関係のあるものだと再確認させられた。

 しかし、この不思議なマンガに関してもっと知ろうと、「おなら少女」でネット検索しても、猛烈に偏った趣味のアダルトサイトに誘われるばかりなので要注意だが、情報の少ない作者・吉澤こうじのタッチ、どこかで観た記憶がある。そうだ、妖怪専門誌「怪」(角川書店)が催していた第2回「怪大賞」(2005年)で、水木しげる賞を受賞した人だった。「吉澤浩二」名義で発表された当時の受賞作を見返したら、タイトルは「おなら」だった。おならを精霊のように描く感性、全然ブレてません。しかし、エンタメ度は随分と上がっている。量産のきかない作風と思うが、そのうちふわりと次回作が発表された時には、「ほんにあなたは」と言いつつ歓迎したい。
(足立守正=マンガ愛好家



「アンソロジー カレーライス!!」(PARCO出版)

 川越のJという店にカレーを最低でも月1回は食べに行く。毎回FBに上げるので、「なんでわざわざ川越なんですか」とか、「遠いのによく行きますね」と、しょっちゅう人に尋ねられる。その度に答えるのが、「カレーが美味いんですよ」だ。神保町を中心として、都内の有名店のカレーは結構食べていると思うが、これほど回数を通ったカレー店は他に無い。恐らくグルメの方であれば判ると思うが、場所の遠近は関係ない。だって、そこに美味しいカ

レーがあるのだから。
 そんなカレー好きならの思わず手に取ってしまう本「アンソロジー カレーライス!!」が、今年PARCO出版から発売された。池波正太郎、泉麻人、伊丹十三、小津安二郎、久住昌之、東海林さだお、町田康、山口瞳等のカレーに関するエッセイが33編収められている。各作家の文章にも増して素晴らしいのが、その装丁だ。紙の色はターメリックを模した〝カレー〟色。そして、エッセイの合間に収められたカレーライスの

写真。このページだけは白地の紙に印刷されている。これは、おそらく白いライスのイメージだ。この素晴らしい装丁のデザイナーは坂本陽一(MOTS)。読んでいるうちにいやが上にもカレーが食べたくなってくる寸法だ。
 さて、この本を読んでいて、気になったのが「ライスカレー」と「カレーライス」の違い。このエッセイの中でも、7名の作家がそれについて言及しているが、どうも、明確な定義ははっきりしないようだ。実際、文献を紐解くと当初は「ライスカレー」と呼ばれていたようだが、一般家庭に浸透するに連れて「カレーライス」と転じたらしい。しかし、吉行淳之介が書かれている内容が個人的には最もしっくりきた。レストランと銘打って、香辛料を使った本場風の物が「カレー

ライス」で、食堂で福神漬の似合う物が「ライスカレー」であると。
 個人的にはどちらのカレーも好きだが、「ライスカレー」という言葉が聞かれなくなって随分久しい。70年代、家族でデパートのお好み食堂へ行くと、グリーンピースが上に乗っているカレーをよく食べていた。そして、必ずスプーンがコップの中に入っていた。これが「ライスカレー」の一般的なイメージではないか。デパートからお好み食堂が無くなってから、急速に「ライスカレー」の文字も同時に消えていったような気がする。そのせいか、「ライスカレー」と聞くと妙に郷愁を覚える。
 この本に収められているエッセイは既に読んでいるものも少なくなかった。しかしこうやってまとめて読んでみると、池波正太郎の

作品を筆頭に、繰り返し読みたくなる一品が多い事に気付く。あたかも翌日のカレーのように、読み返す度により熟成された文章を楽しむ事が出来るのだ。ううむ、なんだか無性にカレーが食べたくなってきた。さて、近所の食堂で「ライスカレー」でも食べに行くか。
(星 健一=会社員)
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執筆○阿川佐和子、阿川弘之、安西水丸、池波正太郎、伊集院静、泉麻人、伊丹十三、五木寛之、井上ひさし、井上靖、色川武大、内田百間、内館牧子、小津安二郎、尾辻克彦、神吉拓郎、北杜夫、久住昌之、獅子文六、東海林さだお、滝田ゆう、寺山修司、中島らも、林真理子、藤原新也、古山高麗雄、町田康、向田邦子、村松友視、山口瞳、吉本隆明、よしもとばなな、吉行淳之介(50音順)