2014年2月21日(金)

藤子不二雄Ⓐ 怪奇漫画の原点「巨人の復讐」がついに単行本化!
 

 藤子不二雄Ⓐの自伝的作品「まんが道」や、その続編「愛…しりそめし頃に…」を読んでいると、しばしば映画館へ出かけるエピソードが散見される。大抵はひと仕事終えて街へ繰り出すというシチュエーションなので、読んでいるこちらも余計にワクワクさせられる場面なのだ。日本中に今の何十倍も映画館が林立していた頃、映画の黄金期だったよき時代への憧れもより一層高まってしまう、実に楽しい件りである。

 昨年復刻された「ロケットくん」に続き、発表から50数年を経てこの度ついに単行本化に至った「巨人の復讐」は、雑誌「少年クラブ」の別冊付録として昭和32年に発表されたもの。「まんが道」の一遍に、漫画家としてスタートして間もない二人が地元の映画館で『フランケンシュタイン』を観る話があるが、その時の彼らの高揚ぶりを読むにつけ、後にこの作品を描く原動力となったであろうことが想像出来る。

 漫画の神様・手塚治虫の作品のコマ割りに映画のカット割りの応用が見られるのは以前から識者に指摘されていることだが、その手塚漫画に大きな影響を受けたトキワ荘の後輩たちの作品にもそれは顕著である。「巨人の復讐」にも映画的表現が色濃く感じられるダイナミックな構図やクローズアップなどの手法が随所に用いられ、読者を作品世界に惹き込む要因となっている。サスペンス一辺倒ではなく、ところどころにギャグが散りばめられているのも、Ⓐ・F両先生に通ずる藤子漫画の特徴であり、たまらない魅力だ。
 そこで当然思い出されるのが、後年、少年画報や少年キングに連載されてヒットした藤子不二雄Ⓐの代表作のひとつ「怪物くん」である。同じモンスターを採り上げながらもギャグのエ

ッセンスが前面に押し出されてヒットした作品。小説や映画、そしてこの漫画でも悲劇の主人公として描かれているフランケンが、図体はデカいもののとにかく気のいい怪物として登場する。生物の邪念を吸い込むマシンが出てくる回で、他の狼男やドラキュラがそれなりの汚れた心を持っていたのに対し、フランケンからは全く邪気が吸い取れずに怪物くんが驚愕していたシーンを想い出す。屈指の人気モンスターであり、Ⓐ先生にとっても相当思い入れの強いキャラクターなのであろう。
 もう一本、本書には「はやぶさ号西へ行く」という同時期の作品も併載されている。こちらは翌33年の雑誌「小学三年生」の別冊付録用に描かれたもので、当時運行が開始された特急列車「こだま」号を題材とし

た回想型のサスペンスもの。こだまといっても後の新幹線ではなく、所要時間が短縮されても東京-大阪間がまだ6時間50分かかっていた時代の特急列車である。それでも日帰りが可能になったビジネス特急として重宝されたと聞くと隔世の感があるわけだが、鉄道好きの諸氏にも見逃せない作品ではないだろうか。
 特急こだまが走り出したのは33年11月。翌12月には東京タワーが開塔する。まさに映画『ALWAYS三丁目の夕日』第1作の舞台となった年であり、さらには映画館の入場者数がピークに達した年でもあった。こうして時代背景が反映された諸作品が読めるようになるのは興味深く有難い。貴重な昭和遺産を甦らせた意義ある復刻に感謝したい。
(鈴木啓之=アーカイヴァー)
●『巨人の復讐』藤子不二雄Ⓐ 著/発売:小学館/本体1300円+税/発売中



台湾ラーメン慕情
 

 東京で食べる事の出来ないご当地ラーメンは無いと言われている。確かに、札幌、旭川、米沢、喜多方、佐野、京都、広島、徳島、博多、熊本等など、数多くの種類のラーメンを体験できる。だが、何故か名古屋の〝台湾ラーメン〟の専門店だけは無い。また、名古屋名物と言えば、手羽先、味噌カツ、味噌煮込みうどん等が有名だが、東京であれば、「風来坊」「世界のやまちゃん」「矢場とん」「山本屋総本家」の出店により、本場の物が食べられ

るようになった。
 しかし、未だに名古屋めしで気軽に食べれないのが、やはり〝台湾ラーメン〟なのである。
 90年代の殆どを名古屋で暮らした私にとって、今でも無性に食べたくなる時があるが、都内では、なかなか期待通りの物が無い。先日も中野区にある「Kラーメン」にお邪魔した。今まで食した中で、味に関してはかなりの高得点であったが、スープが済んだ醤油色ではなく、濁った白濁色だったのが少々、残念であった。好みは、やはり名古屋では超有名店の「味仙」。ここでの済んだスープの〝台湾ラーメン〟は、絶品である。
 ここで、御存じない方に〝台湾ラーメン〟を説明すると、鳥ガラ+醤油ベースのスープにニラとひき肉、そしてニンニクと唐辛子が

入った辛いラーメンである。但々麺の様ではあるが、決定的な違いはスープ。ラー油と練り胡麻をベースにした但々麺とあくまで醤油ベースの〝台湾ラーメン〟のそれは似て非なるもの。このスープと唐辛子&にんにくの絶妙なバランスが後を引き、その頃は少なくとも週に1回は食べていた。物の本によると、名古屋市内のラーメン店の約半数に〝台湾ラーメン〟があるという。それだけ、名古屋では、認知されているラーメンなのだ。
 しかし、正確に言うと、東京でも実は食べれない事もない。「ギンザゼットン」「やぶや」等の名古屋系飲食店が出店し、そこでのメニューにはしっかりと〝台湾ラーメン〟の文字がある。また、昨年、明星食品からはカップ麺としても全国発売された。

 そう、今こそ〝台湾ラーメン〟東京進出の下地は揃っているのだ。同じく名古屋めしである、ベトコン・ラーメンの「新京」も遂に昨年、東京進出を果たし、「コメダ珈琲店」が既に26店舗も出店した今、後は〝台湾ラーメン〟だけである。「味仙」いやラーメン・チェーン「藤一番」でも良い。とにかく、早く東京進出を切に願うばかりである。
(星 健一=会社員)



連載コラム【ヴィンテージ・ミュージック・ボックス】その8
《チチ・ガール》のモノマネ発見

 60年代懐かしの洋楽ベストなんてカセットを作るとしたら、フォー・シーズンズの「シェリー」はきっと多くの人が選曲するだろう。
 彼らのデビュー・アルバム『シェリー&イレヴン・アザーズ』は「シェリー」の他に「恋はヤセがまん」のヒット曲や「日曜はダメよ」など名曲カヴァーが収録されていて、ホワイト・ドゥー・ワップのマナーを守りながら、より軽やかなポップスに半歩進みだした明るいサウンドで貫かれている。リード・シンガーのフランキー・ヴァリの美しく、そして時々ドラ猫みたいにやんちゃなファルセット・ヴォイス、洗練されたコーラス・ワーク、ボブ・クリュー制作のくっきりしたサウンド。原色のまま色褪せない音楽で《エバーグリーン》という和製英語がよく似合うアルバムだ。

 ぼくは近年、50年代以前の音楽ばかりを聴いていてこのアルバムは少々ご無沙汰していた。ジャズやスタンダード・ナンバーに触れた後、久し振りに聴いてみるとB面に収録されている「アイ・キャント・ギヴ・ユー・エニイシング・バット・ラヴ」に小さな発見をした。この曲は28年に作られてから多くの歌手に歌わ

れているスタンダードで、ゆったりと歌われることが多いのだが、ここでは早歩きくらいのテンポにアレンジされている。コーラスが「チチ、チチ」と陽気に繰り返す中、フランキーが悪ふざけしているように歌う様子がユーモラス。昔は単に楽しい曲だと思って聴いていたが、これは彼がローズ・マーフィのモノマネを

しながらカヴァーしていることに気づいたのだ。
 ローズ・マーフィーは40年代に人気があった黒人女性ジャズ・シンガー/ピアニストで、小鳥のようにチチ、チチとスキャットの合いの手を入れながら歌うので《チチ・ガール》とあだ名された。歌声も小鳥のようにかわいらしく、大きな体から出てる歌声だとは到底思えない。
 わかりやすくいうと矢野顕子のようであり、ブロッサム・ディアリーのような声である。ククっと笑う声は林家パー子のよう。47年に発表した「アイ・キャント・ギヴ・ユー・エニイシング・バット・ラヴ」が大ヒット。彼女はピアノの腕前もしっかりしているのだが、演奏そっちのけで手拍子したり、得意の巻き舌で電話の呼出音を口マネしたり、早口言葉のように捲し

立てて歌ったり、とにかく笑いを振りまくことを最優先している。とてつもなく愉快な人だから、歌手というよりも芸人みたいなウケ方だったのかもしれない。
 エラ・フィッツジェラルドもローズ・マーフィーのモノマネをしていて、56年の『ジャズ・アット・ハリウッド・ボウル』では会場を大いに沸かせている様子

が聴ける。当時のアメリカでは《チチ・ガール》はお茶の間にも浸透するほどの人気があったのだろう。
 これらモノマネを発見して、アメリカのエンタメって朗らかなんだよなあ、とローズ・マーフィーにも、フォー・シーズンズにも更なる愛着が湧いた。
(古田直=中古レコード店「ダックスープ」店主
●写真上 フォー・シーズンズ『シェリー&イレヴン・アザーズ』収録の「ビッグ・ガール・ドント・クライ」のタイトルは映画『対決の一瞬』での女優ロンダ・フレミングの台詞からとったそうだ。●写真下 ローズ・マーフィー『ノット・チャ・チャ・バット・チ・チ』キュートな声に聴き惚れる57年のアルバム。ウィリー・スミス、バーニー・ケッセルらの伴奏も洒脱だ。



Espace Biblio + 月刊てりとりぃ共同企画
泉麻人(コラムニスト)×河崎実(映画監督)トークショー
『昭和のテレビ番組について語ろう!』


元テレビ誌記者のコラムニスト・泉麻人と、テレビ番組の制作も手がけてきた映画監督・河崎実。
テレビで育ち、テレビを知りつくした二人が独自の視点からテレビの黄金時代を語り尽くす至福の時間。
バラエティ、ドラマ、アニメ、歌、クイズ、ドキュメンタリーにスポーツ中継...etc. あの日あの時の爆笑、感動、興奮が甦ります。
ブラウン管の前でチャンネルを回した日々を思い出してください。
集まれ、昭和のテレビっ子!
[日時]2014年3月1日(土)15:00→16:30(14:30開場)
[参加費]1,500円(当日精算)
[予約制]メール(info@espacebiblio.superstudio.co.jp)または電話(Tel.03-6821-5703)にて受付。
●メール受付:件名「3/1 泉氏×河崎氏トーク希望」にてお名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。おって返信メールで予約完了をお知らせいたします。 ※定員70名様
[会 場]ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ)地図→ http://goo.gl/maps/uIPqv