てりとりぃ放送局アーカイヴ(2014年2月7日〜2月21日分)

 1980年代、当時のメジャー音楽シーンの「正反対」を徹底的に貫き通すことで、イギリスで圧倒的な人気を誇ったバンド、ザ・スミス。もはやイギリスという国と文化を語る際に欠かせないデフォルト概念ともなった絶大な影響力は周知の事実です。で、そのザ・スミスの初期の名曲に「THIS CHARMING MAN」というモータウン・ビートのヘンテコな曲があるのですが、今回はその曲の聴き比べです。難解極まりない歌詞も調べたりするとすごく楽しいのですが、それよりもこういう超攻撃的なポップスが失われて久しいですね。寂しい限りです。(2014年2月7日更新分/選・文=大久)


The Smiths / This Charming Man (NY Mix / 1983)

 まずはオリジナルをご紹介。とはいえこちらは当時米国のみで発売された12インチに収録されたロング・ヴァージョン。リミックスを手がけたのは、現在大人気を誇るハウス系DJ、フランソワ・ケヴォーキアン氏でした。なぜNYなのか、ディスコ・ミックスを作ったのか、考えてみるとザ・スミスとは不似合いな仕業でもありますが、歌詞を顧みればその意味は一目瞭然、ですね。ジャケに映るのは、コクトーの映画に出た際のジャン・マレー。つまり、そういうことです。通常版のPVはこちらになります。

Stars / This Charming Man (2001)

 カナダのインディー・ポップ・バンド、といいますか、やや遅れて出てきたネオアコ系オルタナ・ポップ・バンドのスターズ。ポストロック以降のトレンドでもあるエレクトロ風味を交えたダウナーな雰囲気がグッと来ますね。打ち込みのドラム・サウンドもそうですが、本家ザ・スミス版のギターリフをサンプリングしながらも、ここまで新しい解釈に仕上がったのは才能、でしょうか。

VV Brown / This Charming Man (2009)

 イギリスの“新世代”ニューウェイヴ・シンガー、V.V.ブラウン嬢。彼女のセカンド・シングル「LEAVE!」のカップリング曲としてこの曲がカヴァーされていますが、思い切った8ビット・エレポップ解釈が楽しめます。ちょっと80年代のA-HA「TAKE ON ME」を彷彿とさせるアレンジにも感動。余談ですが、「黒人だ」という理由だけで、日本では「黒人音楽メディア」でしか彼女が紹介されていない、ということに、もの凄く違和感を感じています。


The Pierces / This Charming Man (2011)

 個人的にも大好きな、ジョン・ルイス(英)のTV-CMは以前当欄で何度もご紹介しましたが、2011年に同CMの使用曲を集めたコンピCDが発売になっています。で、そのコンピにも収録されているこちらのカヴァーは、米アラバマ出身の美人姉妹ザ・ピアシズによるもの。いつも素敵なジャケで楽しませてくれる彼女達ですが、こちらのヴァージョンも彼女達らしい、オルタナティヴ感溢れるアレンジで最高です。

Julie Hawk and Matt Harris / This Charming Man (2012)

 アイルランド出身の女性シンガー、ジュリー・ホークさんによるアイリッシュ・フォーク・ムードたっぷりのカヴァー。12年発売のデビュー・シングル「VALUE OG GOLD」のカップリング曲でしたが、マシュー・ハリスというギタリストとのデュエットでこの曲に挑んでいますが、同曲はサウンドクラウドで一般に公開されています。んー、今後はやはり、こういう活動形態が増えるんでしょうね。

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 ソウル・コーラス・グループには様式美と呼ぶべきパフォーマンス・スタイルが60年代初頭には既に確立しています。60年代は「毎週新しい流行のステップを披露する」だけでウケたわけですが、70年代にもなるとそんなステップには誰も見向きもしない、という時代になり、以降その様式美だけでメシが食えるというグループは殆ど存在していません。さて、今週の「放送局」は、様式美は守りたい、でも新しいこともやらなきゃね、と懸命なソウル・コーラス・グループ達の素晴らしすぎるステップを堪能できる動画を集めてみました。(2014年2月14日更新分/選・文=大久)


The Impressions / We're a Winner (1968)

 ソウルマンでありながらシンガー・ソングライターでもあるカーティス・メイフィールドの場合は、自らギターを抱えることで、自分のスタイルをアピールしました。そう、カーティス本人は実は踊らないシンガーなんですよね。ステップに勤しむ他の2人とは対照的なわけですが、3人組になったインプレッションズはその後2年も続かず、その結果カーティスはソロ活動へ、インプレッションズは別メンバーを加えて存続、という形を取っています。
Archie Bell & The Drells / Tighten Up (1969)

 楽曲の主旨は60年代ソウルそのままの「新しいビートを紹介するぜ」というものですが、この曲が永遠のクラシックとなった理由は、間違いなくその新しいリズムとアレンジにあります。ラジオDJのような語り口調の歌も斬新ですが、この曲が「歌」ではなくリズムと演奏を聞いてくれ、という内容であること、またバックコーラスであるハズの「ドレルズ」が一切声を発することなくダンサー要員となっていることも、ある意味それまでのソウル・コーラスの範疇を大きく踏み出した、といえるかも。

The Chi-Lites / Have You Seen Her? (1971)

 インプレッションズと入れ替わるように、と言ったら事実と異なるかもしれませんが、美しいハーモニーを生かして70年代シカゴ・ソウルの雄となったシャイ・ライツ。ニューソウル風メッセージも交えつつ、基本は60年代からのスタンダードな型を踏襲するグループです。が、さすがにこのとんでもない衣装からは「70年代の新たなるスタイル」を模索せんとしたことが垣間みれますよね。顔よりもデカい襟のシャツと、ド派手な振り付け、そしてイントロのファズ・ギターにも、胸がキュンキュンしちゃいます。
Double Exposure / My Love Is Free (1975)

 サルソウル初期のスター・グループであったため、世間からはディスコ・グループと認識されてるダブル・エクスポージャー。もちろんそれも確実に事実ではありますけど、アルバムを聞くか、もしくはこの動画を見れば、彼らがフィリー系の伝統的なコーラス・グループであることは一目瞭然。サウンドはフィリー・ディスコなのに、律儀に60'sスタイルの振り付けを踏襲しているところが泣かせます。
Tavares / More Than A Woman (1978)

 まるで往年のジミー・ペイジを思わせるような素敵なスーツをまとった、タヴァレスのステージ。コーラス隊のダンス・フォーメーションも複雑を極めますが、さすが兄弟、という抜群のコンビネーションを見せてくれます。それにしてもサビの部分「WOMAN」の箇所で全員が女性のボディーラインを描く、というこの振り付けは、どうなんでしょうねえ(笑)。


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 ボウイ特集です。ボウイの73年のアルバム『アラディン・セイン』は、今から10年前にも『30周年記念盤』と銘打たれたデラックス・エディションが発売になりましたが、なんと今年『40周年記念盤』と題されたデラックス・エディションがまたまた発売になりました。しかも10年前はボーナス曲を10曲追加した2CDで、今回は「最新リマスタリング」ですが一切ボーナス曲ナシ。んー、なんかどっちも腑に落ちないブツなんですよね。とはいえ、当方の人生を通じて最も聴きまくった1枚でもあるこの作品を、決して悪く言うことができないのも事実(笑)。さて今回はそんな『アラディン・セイン』に収録された「薄笑いソウルの淑女」というマヌケな邦題を持った曲の聴き比べです。(2014年2月21日更新分/選・文=大久)


David Bowie / Lady Grinning Soul (1973)

 まずはオリジナルです。73年のアルバム『アラディン・セイン』のクロージング・ナンバーですが、同作に参加したジャズ・ピアニスト、マイク・ガーソン(彼はスタンリー・クラークやスタン・ゲッツとの共演盤もあり)のプレイが冴えに冴えまくる1曲。ボウイがクラウディア・リニア(ストーンズ“ブラウン・シュガー”のネタとされるソウル・シンガー)にインスパイアされて作られた曲でした。

Lucia Micarelli / Lady Grinning Soul (2004)

 83年生まれのクラシック・バイオリニスト、ルチア・ミカレリィ嬢のソロ・デビュー・アルバム『MUSIC FROM A FATHER ROOM』収録曲。コンセプトは面白いんですが、リズムトラックがショボくってちょっと残念ですね。同作は他にもクイーン「BOHEMIAN RHAPSODY」やデヴィッド・フォスターのカヴァーなんかも収録された売れ線作品ですが、まあ綺麗だからOKとしましょう。

Johnny Skoulas / Lady Grinning Soul (2011)

 ギリシャで歌手活動を行なっている、ジョニー・スコウラスさんという方。ほとんど存じ上げませんし、検索しても殆どわかりませんでした。が、こちらは彼が地元TV出演した際に、なんだか陽気なラテン・ムードでスイング・ジャズ調に「薄笑いソウルの淑女」をカヴァーしている模様。いいですねえ、最高です。多分ボウイがもし83〜84年頃に同曲を演じていたら、こんなカンジになったんじゃないか、と妄想してしまいます。


Los Fantasticos / Lady Grinning Soul (2011)

 2011年に発表されたボウイ楽曲カヴァー集『ZIGGY PLAYED SURF GUITAR』収録曲。すでにタイトルからもそのコンセプトも丸わかりですが、サーフ・ギターのインストでやらかしちゃってます。曲もそうですが、オチャメなジャケ(もちろんオリジナルの『ZIGGY STARDUST』のパクリです)も素敵です。


Tally Brown / Lady Grinning Soul

 さて、最後はなかなか強烈です。34年生まれ、60年代のNYアングラ界で人気を博したボヘミアン女優、トーリー・ブラウンが自身の舞台でピアノだけをバックに「薄笑いソウルの淑女」をカヴァーした音源(おそらく70年代末の録音と思われます)。ジュリアードで声楽を学び、40年代にはバーンスタインのもとでジャズも学習したという彼女は、60年代にアンディー・ウォーホルが撮影した映画2作にも出演していますが、89年逝去。映像は音と全く関係ありませんが(サイレント映画の素材を2つくっつけたもの、だそうです)やけに音と絵がマッチしてて興味深いですね。

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