2014年5月2日(金)

ヒトコト劇場 #41
[桜井順×古川タク]








てりとりぃアーカイヴ(初出:月刊てりとりぃ#49/平成26年3月29日号)
DUST & GROOVES – Adventures In Record Collecting



 アナログ・ファンにとってとてつもなく嬉しい、励みになる本が出る。これは結構なニュースだと思う。
 昨年の今頃エイロン・パスなるフォトグラファーからメールをもらった。シーラ・バーゲルの紹介だという。シーラは10年来の友人。ニューヨークの出身で高校卒業後渡英、そこで60Sガール・グループ・サウンドにはまり、ついには奥村チヨなどのジャパニーズ・ガールにまでたどりついた若き女性レコード・コレクターだ。日本盤を買いに何度も来日している筋金入りマニアからの紹介とあっては会わないわけにはいかない。
 パス氏はニューヨークに住む写真家兼レコード・コレクター。世界のレコード・マニアのコレクションの写真を撮りその模様を自身のHP『DUST&GROOVES』で展開している。

覗いてみるとそこには世界の尋常ではない、個性的なレコードの塊とその持ち主が各々独自な美しさを放っている姿が掲載されている。なんでもパス氏は「一週間以内に東京に行く。アメリカ、欧州以外のレコード・コレクションを撮影したい。ついては私の家に来て取材をしたい」と言う。あまりに突然。でもこういうことはだいたいいきなりやってくる。
 彼が成田に着いたその日の晩上野で会い居酒屋で打ち合わせ。翌日午前中に一人で東海道線に乗って茅ヶ崎にやってきた。私のレコード・ライブラリー「ブランディン」に着くなりテキパキと写真を撮り出し私を撮影中にインタビュー。最初に買ったレコードはどれか。コレクションの中心は何か。自慢のレコードを持ってくれ。なるべく欧米の

コレクターが知らないレコードがいい。注文は多い。『ナイアガラ・トライアングル』、キャロルのファースト・アルバムを取り出す。約1時間の撮影時間はあっという間に過ぎランチに寿司を食べ、電車で次の目的地高円寺のレコード店に案内した。夜は渋谷のアナログ・バーでビールを飲んだ。おそらく彼は日本にいる3日間5〜6人を取材したはずだ。京都にも行ったといっていた。
 昨年9月NYに行ったとき彼に会おうとしたが生憎彼はクルマで米国南部を取材ツアー中でかなわなかった。そして今月いきなりパス氏からメールが来た。本ができるよ。君も載ってるよ。それはありがとう。うちのレコードが喜ぶよ。早く見たい!
(宮治淳一=音楽資料館『ブランディン』管理人)
DUST & GROOVES HP(http://www.dustandgrooves.com/sheila-burgel-brooklyn-ny/)では、本書の制作過程を収めた動画も閲覧できる。



演奏者推測のススメ


 音にはまり込んでいくと、アレンジャー名や演奏者名でレコードやCDを購入するようになってきます。そんな経験ある方も多いのではないでしょうか。筆者もその一人ですが、昭和40年代の歌謡曲やニューミュージックのレコードでは、アレンジャー名は表記されていても演奏者名はまず表記されていません。素晴らしい演奏を聴いても演奏者クレジットが無い場合は、ちょっとがっかりしてしまうのですが、幸いにも当時のスタジオ・プレイヤーたちは、一人ひとりの演奏が個性的です。そのため、クレジットが無くとも推測できることが多いのです。筆者はベースをプレイするので、ベーシストの聴き分けの方法をお伝えしましょう。
 一番推測しやすいのは、昭和40年代の作品です。何よりスタジオ・プレイヤー

自体も少なく、トップ・クラスのベーシストは10名ほどですので、それぞれの特徴が解かり、また編曲家によってだいたい起用するミュージシャンは固定されているので、編曲家との関係もわかればおのずと容易に推測できます。なお、60年代から70年代末までに活躍したスタジオ・ミュージシャン180余名を「ギターマガジン」2013年11月号(リットーミュージック)にリスト化して掲載しましたので、ご参考下さい。
 当時の代表的ベーシストのひとり、江藤勲のピッキングはかなり固めの音です。ピックをピック・アップに叩きつけるようなパワフル

なピッキングのため、パーカッシヴなサウンドも包括しており、固めでありながら弾むようなトーンです。似たトーンに寺川正興がいます。そもそも、江藤氏は寺川氏にピック弾を指南したので、ピック弾きの際にトーンが似るのは至極当然でしょう。ただ、パーカッシヴなトーンが若干ですが少なく感じます。また、フレージングの特徴として、高フレットへのグリスを多用します。寺川氏のこの奏法はエレベーター奏法といわれ一番の特徴となっています。
 では実際に推測してみましょう。テキストにコンピ『ソフトロック・ドライヴィン〜恋人中心世界』(東芝EMI/現ユニバーサル・ミュージック)を取り上げます。収録曲の中で、江藤勲がプレイしていると思われのが、井口典子&ヤン

グ101「恋人中心世界」、同「朝が来た」、ザ・ワイルド・ワンズ「若い世界」。ワイルド・ワンズは島英二がベーシストですが、おそらく「若い世界」の演奏はスタジオ・プレイヤーによるものと推測されます。岡崎友紀「風に乗って」は、寺川正興です。イントロでエレベーター奏法が炸裂しています。
 文字数の関係で特徴を細かく説明できませんでしたが、ザ・カルア「しあわせの訪れ」と、トワ・エ・モワ「しあわせが通りすぎないうちに」は鈴木淳、つなき&みどり「いつか何処か

で」は武部秀明でしょう。悩んだのはオフコース「おさらば」。当時は、小林和行がベーシストとして参加していましたが、このベースはあきらかにスタジオ・プレイヤーによるものです。歪み具合やオクターブのフレーズからロック畑のベーシストっぽいのですが、時たま入れる3連のフレーズからはジャズの芳香が漂います。少ない手がかりから推測する、まるでミステリ小説の犯人当てのようです。これからも、推測の日々は続きそうです。
(ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト)