2014年8月15日(金)

ヒトコト劇場 #46
[桜井順×古川タク]








「かくれん坊」と「おいてけ掘」


 無性にスパゲッティが食べたくなる時がある。そう思った時、頭に浮かぶ店はどこだろうか? 私は、代々木八幡の「ハシヤ」。あそこの〝ウニ・イカ・タラコ〟の和風パスタは絶品で、年に何回か強烈に食べたくなる。最近は、会社の帰り道の途中にある新宿・野村ビル店に出かけ、あの濃厚な味を楽しんでいる。こういった和風スパゲッティの店で思い出すのが、かつて下北沢にあった名店「かく

れん坊」と「おいてけ堀」だ。80年代、大学が厚木にあったため、帰りによく下北沢に途中下車して古着屋やレコード屋に寄ったものだが、確かサークルの帰り道、後輩に教えてもらった記憶がある。「かくれん坊」は〝あさり・しめじ・納豆〟やカレー味の〝野郎〟等、独特のネーミングのメニューもあり、よく通ったものである。「おいてけ堀」は支店が経堂にもあって、今は無き「ホームランレコー

ド」の帰りにも〝イカキムチ〟を食べに寄ったもんだっけ。
 和風パスタの王道、タラコ・スパゲッテイというと、今は「カベノアナ」とカタカナに一部改名してしまったが、昭和38年に渋谷にオープンした「壁の穴」が発祥である。渋谷には昭和51年にオープンした、箸で食べるパスタの草分け「洋麺屋 五右衛門」という老舗もある。どうやら、和風パスタの聖地は渋谷であるらしい。
 さて、このスパゲッティだが、もはやイタリア料理から完全独立し、ラーメンやカレー同様、日本人の食卓の定番メニューになっている。しかし、実はカレー店やスパゲッティ店はラーメン店と比べると、その店舗数は圧倒的に少ない。日本全国の専門店調査によると、ラーメン店35330

軒、カレー店5401軒、スパゲッティ店の数は判らなかったが、イタリアンで約4000件なので、その専門店はもっと下回る数だろう。しかし、実は、日本の喫茶店数は42557軒あるのだ。外資系や低価格コーヒースタンドも多いが、カレーライスやナポリタンを扱っている喫茶店は少なく見積もっても、3分の1の約14000軒はあるのではあるまいか。やはり、スパゲッティもカレーも国民食なのだ。
 先日、1985年に出た「angle別冊No2 東京いい店安い店」を捲っていたら、当然、下北沢の「かくれん坊」と「おいてけ堀」も掲載されていた。もう一度、両店のパスタを食したい。どなたかのれんを引き継いではいないのか。誰か御存じないですか?
(星 健一=会社員)




演奏者推測のススメ4


 2004年にリリースされた国内録音によるイージーリスニングのコンピレーション「ラブサウンズ・シリーズ」の続編が、この度10年ぶりにリリースされました。今回はキングレコードに残された膨大なカタログの中から、5タイトルがリリースされていますので、その演奏者を推測してみます。今回のコンピに収録されたアーティスト表記は、実際に稼働しているコンボやオーケストラも多く含まれています。それらのコン

ボやオーケストラは、メンバー名も公表されているものが多いため、推測せざる得ない歌モノ中心に推測してみましょう。
 「フランシス・レイ作品集」収録の岸洋子「愛のレッスン(映画「個人授業」より)」(72年)は、ピック弾き特有の力強いアタックが聴こえます。ただ、ルート弾き中心で個性的なフレージングは出てこないので推測は難しいのですが、編曲を飯吉馨が担当していることから、彼と頻繁に共

演していた江藤勲の可能性が強いでしょう。同じ曲のザ・ピーナッツの「愛のレッスン(映画「個人授業」より)」(71年)は、よりはっきりとアタック音が聴こえます。こちらはさらに江藤氏に近いトーンです。
 完全に江藤氏のトーンと思われるのが「バート・バカラック作品集」収録の、レオン・ポップス「サン・ホセへの道」(70年)。江藤氏のオレンダー・ベースそのもののトーンです。伊東ゆかり「ディス・ガール」(71年)は、東海林修編曲による仕事。当時の東海林氏のファースト・コール・ベーシストは、江藤氏や荒川康男など。ここではおそらく江藤氏でしょう。
 「ポップス編」に収録の覆面バンドのゴールデン・ビート・ポップスによる「ビー・マイ・ベイビー」(69年)。ここでも江藤氏

のトーンを聴くことができます。カー・ペインターズはキャプテンひろ&スペース・バンドによる覆面バンドです。カーペンターズのオリジナルでプレイしているジョー・オズボーン同様、ヨモ・ヨシロー(現:四方義朗)によるピック弾きのベースが耳を惹きます。ヨモ氏のピック弾きは、江藤氏や、前回までに名前の出た鈴木淳や寺川正興とは明らかに違うトーンです。70年代中盤にさしかかるとヨモ氏のようなトーンが業界の主流となり、演奏者の見極めが困難になってきます。何より、イージーリスニング系の作品は、喫茶店などのBGMとしての需要も多かったため、かなり匿名性の強い演奏になっており、推測するのはなかなか難しいものがあります。
(ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト)