2014年11月21日(金)

 
ヒトコト劇場 #52
[桜井順×古川タク]








Red Light, Blue Light/LEDと挑戦者たち


 青色LED。レッド・ツェッペリンのデビュー・アルバム、青いロゴのUK初回盤の話ではない。リニューアルされた、大阪・道頓堀「グリコの看板」にも使われている、青色の発光ダイオードである。この日本の発明が、今年のノーベル物理学賞に決まった。
 今回受賞する3人のうち、師弟にあたる2人の大学教授と、もうひとりの元・技術者(現在はアメリカの大

学教授)の関係は微妙らしい。受賞決定の直後は、互いに栄誉を称えあう大人のコメントを出していたが、基礎研究を行った教授と実用化した元・技術者の間には、長年、確執があったという。サラリーマンとして勤めていた会社相手に高額訴訟を起こしたり、米国籍を取得して法律上はアメリカ人となってからも日本社会の閉鎖性に噛みついたり、動きが派手で向こう受けの

する元・技術者は、青色LEDの代名詞のようにマスコミを賑わせてきた。それが面白くなかった教授の気持ちは理解できるし、伝統的な日本の職人イメージとかけ離れたこの人、正直、好きなタイプではない。
 しかし、忘れてならないのは、そもそも青いLED自体が応用研究であり、それ以前に最初にLEDを発明した人物がいたという事実。オリジナルの赤色LE

Dは、1962年、米ゼネラル・エレクトリック社の研究者、ニック・ホロニアックによって発明された。ホロニアックは、ほかにも半導体レーザーなど数多くの発明を行った。いま私達がCDやDVDを楽しめるのは彼のおかげだ。現在86歳で存命だが、ノーベル賞は受賞していない。
 やっぱり赤色ですよ、エレジーもLEDも。ビートルズも、まず赤盤聴いてから青盤でしょう。わたしの赤色LEDに対する偏愛は、あるガジェットと結びついている。95年、任天堂から発売された卓上型ゲーム機「バーチャルボーイ」(以下VB)だ。224個の赤色LEDが描き出す幻想的な映像、左右の視差を利用したリアルな3D効果、まさに「赤い衝撃」と呼ぶべき画期的なゲーム機だった。眼に悪いという迷信(注意

過剰な取扱説明書もその一因)、ゴーグルを覗き込む異様なプレイスタイルなどが不評で、発売半年で早々と撤退。
 しかし、一切の雑念を振り払いゲーム世界に没入したい者にとって、これ以上のハードはない。
 一部マニアの間での人気は根強く、海外のファン・サイトでは、いまでも活発に情報交換が行われている。そのトップ・ページで「卓越した開発者」として献辞を捧げられているのが、VB生みの親、横井軍平である。それまで、任天堂で傍流のアイデア玩具を作っていた彼は、80年「ゲーム&ウォッチ」のヒットによって、京都の花札屋が世界的なゲーム会社に飛躍する端緒を開いた。82年発売の「ドンキーコング」では、ゲーム史上最強のキャラ、マリオを生み出すとともに、

のちの世界標準、十字キーを初めて採用した。
 横井軍平の開発思想は、有名な「枯れた技術の水平思考」という言葉に集約されている。レガシー技術を再利用し、斬新なアイデアでローコストの新商品を生み出す。
 83年のファミコン発売以降、本流の高スペック化路線とは一線を画し、89年「ゲームボーイ」に続いて手がけたのが、VBだった。当時、まだ高輝度の青色LEDは開発中で、フルカラー表示は無理。実用化されていたとしても、そんな最新技術には目もくれなかっただろう。
 VB発売の1年後、任天堂を退社。自ら玩具・ゲームの企画会社を設立するが、翌97年、交通事故のため56歳で他界した。
(吉住公男=ラジオ番組制作)





古本屋で買った本〜『寺田寅彦随筆集 第3巻』


 頭の良い人を心底うらやましく思います。頭の良い人と話していると、こちらの無能さが感じられて肩身が狭くなることもあるくらいですから、本もなるたけこちらが惨めな思いをしなそうなものを選んで読むわけです。うっかり哲学者や文豪の難しい作品に手を出すこともありますが、「すごく偉そうに見えるけど、実はこんなに人間くさいことも云ってるんだな〜」というポイントを探しながら

読んでいるのでそれほど嫌な気持ちにはなりません。もちろんどんな本であっても著者や編者は頭が良くなければ務まらないはずです。その中で、寺田寅彦という人は、本当に、非の打ち所がなく頭の良い人だと思いました。今回紹介するのは映画好きの友人から薦められて買った『寺田寅彦随筆集 第3集』です。読みどころはエイゼンシュテインなどを採り上げた「映画雑感」「映画芸術」という随

筆なのですが、そこにたどり着く前にたじろいでしまいました。
 冒頭に収録された「火山の名について」という随筆があります。日本に阿蘇山や有珠山があるように、カムチャツカ半島にはウソン、マリアナ諸島にはアソンソンという名前の火山があるそうですが、ただ「なんとなく名前が似ている」というだけで日本と南洋の火山の名前を総当りし、たかだか14ページの間に発音のパターンを割り出し、その一致度を数値化する公式まで作ってしまうのです。最初は一所懸命数字を当てはめたりしたのですが、途中でわけがわからなくなり読み飛ばしてしまいました。こうなると疑ってしまうのは、パロディとかパスティーシュの類です。あっ、この人は頭の良すぎる人の〝お戯れ〟を皮肉っているのだ

(タモリさんの中洲産業大学のネタなどがそうですね)、と。そう考えると確かにこの随筆の「日本から南洋へかけての火山の活動の時間分布を調べているうちに」という書き出しは「普通の人はそんなことしねーよ!」とツッコミの余地があります。しかしそれさえ許さぬ寺田氏。ただの文化人だと思っていたら、物理学者という立派な肩書があったのでした。続く「日常身辺の物理的諸問題」は、寺田氏が朝起きて洗面所の前に立ったときに気がついた身の回りの物理現象について延々解説を加えるという随筆で僕はいよいよ我慢ならなくなってしまいました。寝たいときに眠れず、起きたいときに起きれず、洗濯物を干すと雨が降り、傘をさせば壊れ、ペペロンチーノを作るとバジルと唐辛子を入れ忘れたことを9割方食

べ終わったところで気づく自分の生活の破綻ぶりも、きっとこの方であれば科学的に分析・実証できるでしょう。
 投げ出した僕が言うのもなんですが、とても読みやすいです。抽象的な議論でお茶をにごすこともないし、理系の人特有の回りくどさもありません。ちなみにこれらの文章が書かれたのが今から約80年前。大真面目に〝お戯れ〟を書き綴る知識人としての振る舞いが時を超えて癪に障っただけで、難しいことをできるだけ平易に表現する寺田氏の文体は僕にとってまったく理想的なのです。
(真鍋新一=編集者見習い)
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今回紹介した寺田氏の随筆は、青空文庫にて無料で読むことができます。ご興味のある方は各種電子書籍リーダ等でお楽しみください。



ESPACE BIBLIO×月刊てりとりぃ 共同企画
コメディアン「小松政夫」トークショー
クレージー映画&昭和の喜劇人を語る!


映画や舞台で活躍を続けてきた小松政夫が、クレージ・キャッツ、
そして昭和の喜劇人たちについて熱く語ります。
芸歴50年、日本喜劇人協会の会長を務める大ベテランだからこそ知る秘話満載。
アノ人の物まねも!?

12月6日(土)14:00~16:00(13:30開場)
[参加費]1, 500円(当日精算)
[予約制]メール(info@espacebiblio.superstudio.co.jp)または電話(Tel.03-6821-5703)にて受付。
●メール受付:件名「12/6 小松氏トーク希望」にてお名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。追って返信メールで予約完了をお知らせいたします。
●電話受付:03-6821-5703(月→金11:30→21:00/土11:30→20:00)
[会場]ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ)地図はこちら


企画展『ジャック・ドゥミ映画/音楽の魅惑』

会場:東京国立近代美術館フィルムセンター展示室(企画展)
会期:2014年8月28日(木)〜12月14日(日)
詳細⇒http://www.momat.go.jp/FC/demy/index.html


てりとりぃ×宇野亜喜良
コラボレーショングッズ 第4弾


「てりとりぃ」オリジナルキューブ BOX入りマグカップ+ブックカバーに続き、2014年ふたつ目のオリジナルグッズを作成しました。若干数ではありますが、ご希望の方にお分けします。数に限りがありますのでご注文はお早めに!

「てりとりぃ」オリジナルノート[Red]&[Black](セット販売のみ) ■自然にやさしい再生紙を使用したペンホルダーつきノートに宇野亞喜良書き下ろしイラストレーションをプリント ■サイズ:130×180×14(mm) ■セット販売価格 1,800円(送料別)※ペンは付属しません。

ご購入を希望される方は、「てりとりぃ」編集部 territory.tvage@gmail.com まで「オリジナルグッズ購入希望」と件名に表記の上メールにてお知らせ下さい。到着後3日以内に折り返し返信メールを送ります。なお限定品につき品切の場合はご購入出来ない場合があります。*別途送料は発送方法によって異なります。詳しくはお問い合わせ下さい。