2015年1月2日(金)

 
買いもの日記[4]


 インドネシアへ行くとおまえの宗教は何だ、と聞かれることが多い。何もないよ。と答えると驚かれる。インドネシア人の身分証には自分の宗教を書く欄があった。インドネシアの病院で入院したときも入院用のカードにぼくの宗教を書く

欄があって、そこには仏教と書かれていた。インドネシアはイスラム教のイメージが強い。けど、バリ島は仏教だし、スマトラ島のバタック族はキリスト教だった。とくに宗教は関係ない、という人は身分証にキリスト教と書かれていることが

多い。今、若い人に多いのは新しいイスラム、お酒も飲むし、豚肉も食べる。犬を飼っている人もいる。
 インドネシアへ行くようになってイスラム音楽に興味を持った。インドネシアではそういう音楽をガンブスというのだが、それはトルコの楽器、ウードがインドネシアへ伝わってその楽器がインドネシアで名前を変えてガンブスと呼ばれるようになったかららしい。日本ではあまりムスリム音楽ってないなあ。と思っていたらダニー飯田とパラダイス・キング「悲しき六十歳」がそれだった。それを月刊てりとりぃ、草野浩二さんのコラムで思い出した。悲しき六十歳、ムスターファは一番有名なムスリム音楽かもしれない。アイ・ジョージ、古谷充とザ・フレッシュメンもカヴァーしている。ぼくはボブ・アザム

のカヴァーでこの曲を知った。坂本九がこの曲を歌っているのを初めて聴いたときは驚いた。インドネシアではテルナ・リアのオスラン・フセインが。中国ではジュディ・ミ・ミ・チンという歌手がこの曲をカヴァーしている。そうなると江利チエミが歌った「串かつソング(シシュ・カバブ)」もイスラム音楽だった。他には坂本スミ子「アラジンのチャチャチャ」、西田佐知子「ガンジス河の月」もイスラム音楽か。そう考えるとなぜかトルコが出てくる音楽が多い。トルコと日本はそれほど親しかったのか。西田佐知子「ガンジス河の月」だけがインドだった。作編曲にラジンダ・クリシャン=早川博二、となっている。このラジンダ・クリシャンとは誰なのか。まったく情報がない。
 ではインドネシアの曲は

歌ってないのか。と思ったら美空ひばり、小林旭が歌う「ブンガワン・ソロ」他、漣健児訳詞でオランダに行ったインドネシア人、サンドラ・ルーニーが歌う「コピススわんちゃん」も。ザ・ピーナッツ「モスラの歌」もインドネシア語だった。モスラとはインドネシア語のムスラから来ていて『親密な』という意味がある。というのを後で聞いた。
(馬場正道=渉猟家)
ーーーーーーーーーーーー
(写真左)ダニー飯田とパラダイス・キング「悲しき六十才」(60年8月)リードボーカルは坂本九。



連載コラム【ヴィンテージ・ミュージック・ボックス】その14
仕方なくはじまったピアノ・トリオ

 ピアノ・トリオといえばピアノ、ベース、ドラムスという編成が常識になっている。しかし40年代にはドラムスを入れないピアノ、ギター、ベースのトリオが流行していた。ギターを加えるのはわかるが、リズムを支えるドラムスを外したのはなぜだろうか。
 不自然にも思えるこの編成は、キング・コール・トリオからはじまっている。まだ若いナット・キング・コール(当時の名はナット・コールズ)が、37年にロス・エンジェルスのホテル、スワニー・インで演奏することになったとき、4人編成で演奏するように依頼された。コールはミュージシャンズ・ユニオンでギター、ベース、ドラムスを見つけてきたが、ドラマーは集合の日に姿を現さなかった。そのドラマーは、やはり小さな編成よりも、当時主流

だったビッグ・バンドで演奏したいと思ったのだそうだ。コールはドラムス不在のまま初日を迎えて、その後も、ドラムスを入れずにピアノ、ギター、ベースのトリオでホテルに出演した。ドラムスなしのトリオ編成は音楽的な理由ではなく、〝仕方なく〟はじまったのだ。
 このトリオはジャンプ・

ブルースとジャズを合わせたような、ピアノとギターが激しく絡む演奏を売りにしていて、初期の頃、コールは歌っていなかった。ある日、彼はホテルの常連客から歌のリクエストを受けて断り切れずに「スウィート・ロレイン」をしぶしぶ歌った。これがきっかけで少しずつ歌うようになったのだそうだ。

 キング・コール・トリオは40年にデッカと契約し、活動の場を広げた。そして43年にキャピトルへ移籍してからヒットを連発し、一躍スターになった。このトリオは、多くのピアニストに刺激を与え、ジョニー・ムーア率いるスリー・ブレイザーズ、アート・テイタム、アンドレ・プレヴィンなど、ドラムスなしのピアノ・トリオが次々に現れた。
 46年、キング・コール・トリオの「フォー・センチメンタル・リーズンズ」「ザ・クリスマス・ソング」のバラードで、コールのヴォーカルが評判を呼んだ。これらを機に、コールは歌手に専念した録音が増えていき、出番が減ったトリオは、51年に正式に解散した。
 トリオとしてのキング・コールの存在感が薄くなっていく中、47年には、バド・パウエル、ドド・マーマ

ローサらがピアノ、ベース、ドラムスのトリオをはじめる。ピアノを存分に味わえるこの編成は、50年代以降ピアノ・トリオの定番となり、ドラムスなしピアノ・トリオは、徐々に姿を消していった。
 キング・コールの最初のホテル公演をすっぽかしたドラマーは、レスター・ヤングの弟リー・ヤングであ

る。彼はその後、コールと仲たがいせず、ときどき活動をともにしている。もし彼が予定通りレギュラー・メンバーだったら、ドラムスなしピアノ・トリオではなく、ドラムス入りピアノ・カルテットが流行していたのかもしれない。
(古田直=中古レコード店「ダックスープ」店主)
●写真上 ナット・キング・コール『イン・ザ・ビギニング』。ドラムスなしピアノ・トリオ最初期40~41年のデッカ録音集。コールの持ち歌となる「スウィート・ロレイン」の初録音を収録。 ●写真下 バド・パウエル『トリオ』。マックス・ローチのドラムスが入った、所謂ピアノ・トリオのはじまり。47年ルースト録音。



居酒屋散歩《神楽坂・葱屋みらくる》


 今回は神楽坂の店。と言っても坂の途中にあるわけではなく、飯田橋の坂下から数分上って「五十番」という肉まんのおいしい店を右に折れ、大久保通りにぶつかる筑土八幡という交差点の角にある店。飯田橋の五差路から大久保通りを行くと、信号2つめの角だ。神楽坂の路地裏的な店といえる。
 この筑土八幡の交差点の近くには鈴木一誌さんのデザイン事務所がある。私の

やっていた復刻本の装丁を多く手掛けてもらったので、よく通った場所。特に、手塚治虫の単行本デビュー作「新宝島」復刻のBOX企画をやった時は鈴木さんも力が入って、金や銀の特色を使った超豪華版の箱を見事に作ってくれた。高額の豪華版にもかかわらずこの本はよく売れて、重版もしたほどだ。鈴木さんも気に入ったらしくて、今でも大事に保存してくれているという。また、彼の事務所の

屋根は天文台のような半球形をした独特なデザインの建物。建てられた当時、建築雑誌に紹介されたほどユニークで、一見の価値がある。もちろん交差点の傍には神社があり、階段を上った高いところに社がある。どうしても売れてほしいと思った時には、デザイン打ち合わせの帰りにお参りをしたものだ。ちなみに階段の途中に石の鳥居があるが、これは新宿区で一番古いものだという。
 筑土八幡の交差点から神楽坂に向かった数件目に焼き鳥屋があり、鈴木さんと何度か行ったが、今回の店は、その手前の「葱屋みらくる」。一緒に暖簾をくぐったのは近くに事務所のある編プロの社長T氏。ここは名前の通りネギがメインの店で、入り口わきの笊に入ったネギを見ながら中に入ると、小さな土間があり、

ここで靴を脱いで上がる。古民家風の落ち着いた雰囲気の中に長いカウンターがあり、その前の座敷席ではすでに何組かの客が鍋を囲んでいた。
 カウンターには誰もいなかったので我々はそこに座り、まずはビール。付きだしの煮凝りでビールを飲んだ後は、日本酒に変えて刺身を楽しんだ。その後にタマネギの黒焼きなどで酒の御代わり。ここはネギ料理が特色で、ネギだけで11種もメニューがあるほどだ。さらにネギのテンプラをいただいた後は、季節がら体の温まる鍋を。今回は若いT氏に合わせて肉のネギ鍋にした。まだ冬は長いので、鮪や鯛、牡蠣,鮟鱇などの鍋は次回のために取っておいた。
 薬味の刻みネギをたっぷり載せて野菜と共に肉をワシワシ食べ、しばらくして

からトロロの擂ったものを入れて、さらに違う味を楽しむころには、満ち足りた気持ちになってきた。肉が少し残っていたのだが、〆のウドンを鍋に入れた。
 T氏とは久しぶりの会食で、もう少し飲もうということになり、店を出て神楽坂の方に向かった。食べるのはもう一杯なので、バーを目当てに。腹ごなしに少し歩いてから毘沙門天の裏の方の小さな店に入った。

バーボンを小一時間ほど飲んだ後は、T氏の強い望みで、なんと久しぶりにカラオケをした。古い歌を何曲か交互にかけた後に、全く知らない曲を彼が歌って、良い歌だったので「しみじみ来るね」と言ったら、「これボクの作った曲です。たまにですが著作権使用料も入ります」。T氏は、二十代の頃に音楽をやっていたことを急に思い出した。
(川村寛=編集者)




私家版「宇野誠一郎の世界」濱田高志・編

「月刊てりとりぃ」先行予約のお知らせ
(第一次予約受付期間:2014年11月29日~12月26日)

A5変型/上製・函入/448頁 12月20日発行予定/定価:5,400円(本体価格:5,000+税)送料:500円(梱包手数料含)
発行者:里見京子/発行所:月刊てりとりぃ編集部

[執筆者]井上ひさし、黒柳徹子、横山道乃、中山千夏、堀絢子、恒松龍兵、井上ユリ、井上麻矢、武井博、橋本一郎、栗山民也、篁ゆき、井上都、高林真一、泉麻人、伊藤悟、田中雄二、加藤義彦、安田謙一、足立守正、高岡洋詞、千秋直人、江草啓太、田ノ岡三郎、向島ゆり子、橋本歩、熊谷太輔、鈴木啓之、濱田高志、里見京子

[新規取材&対談再録]田代敦巳、木村光一、宮本貞子、熊倉一雄、おおすみ正秋、柏原満、鈴木徹、山田昌子、金原俊子

[ご予約方法]ご購入を希望される方は、「てりとりぃ」編集部 territory.tvage@gmail.com まで、件名に「宇野誠一郎の世界購入希望」と表記の上メールにてお知らせ下さい。到着後3日以内にお支払い方法を記載したメールを送ります。*私家版につき、本書の書店販売は行ないません。

てりとりぃ×宇野亜喜良
コラボレーショングッズ 第4弾


「てりとりぃ」オリジナルキューブ BOX入りマグカップ+ブックカバーに続き、2014年ふたつ目のオリジナルグッズを作成しました。若干数ではありますが、ご希望の方にお分けします。数に限りがありますのでご注文はお早めに!

「てりとりぃ」オリジナルノート[Red]&[Black](セット販売のみ) ■自然にやさしい再生紙を使用したペンホルダーつきノートに宇野亞喜良書き下ろしイラストレーションをプリント ■サイズ:130×180×14(mm) ■セット販売価格 1,800円(送料別)※ペンは付属しません。

ご購入を希望される方は、「てりとりぃ」編集部 territory.tvage@gmail.com まで「オリジナルグッズ購入希望」と件名に表記の上メールにてお知らせ下さい。到着後3日以内に折り返し返信メールを送ります。なお限定品につき品切の場合はご購入出来ない場合があります。*別途送料は発送方法によって異なります。詳しくはお問い合わせ下さい。