2015年2月6日(金)

 
ヒトコト劇場 #56
[桜井順×古川タク]







 
てりとりぃアーカイヴ(初出: 月刊てりとりぃ#59 2015年1月31日号)
アキラの草紙(13)〜僕が「鶏郎」だった頃。

 昨年の暮、文化放送で「三木鶏郎の世界」が放送された。生誕100年企画。制作関係各位のご努力に感謝。こういう番組は「なんとかしようじゃないか」という人々が何人か集まらないと実現しない。
 番組を聴きながら私は遠い、甘い、わが中学生時代を思い出していた。

 佐倉町。船橋、千葉より奥で、成田の手前。その昔は「西に長崎、東に佐倉」とうたわれた蘭学発祥の地なのだが、今、知る人はまずいない。 
 中学校は町の西北部の高台にあった。旧陸軍の兵舎をいじっての校舎だから、教室の天井は高く冬はたまらなく冷える。床板、壁板

はストーブの燃料と化し、卒業までもつだろうかと生徒は心配していた。自分たちが燃やしたのだが。
 次第に生徒たちの心はすさみ…となるはずのところが、そうはならなかった。毎日が楽しくて充実していた。部活で。当時、私が所属していたのは、まず新聞部。毎月きちんと発行した。そして文芸部。詩も小説も書かないが、放課後はよく部室にたむろした。 
 兵舎利用のメリットは小部屋がやたら多かったことだろう。教室の隣には小部屋が必ず付いていた。将校用だったのか。
中学校になったとたん、これが部室に化けた。 
 なんで文芸部に所属したのか。当時のテクノロジーの最先端、テープレコーダーが使えたからである。こいつを部室の真ん中に置いて、みんなで放送劇ごっこ

をやる。特に人気だったのが三木鶏郎日曜娯楽版だ。既にNHKでの放送は終わっていたが、お化け番組と言われたくらいだから誰で
もが聴いて知っている。
 おまけに私には強力な武器があった。「冗談十年」(駿河台書房)を発売時に買っていたのだ。日曜娯楽版の台本がてんこ盛り。みんなで役を分担し、もっぱら私が三木鶏郎に扮し(本の所有者の発言権は絶大)、歌の部分になると一同大声

を張り上げて歌った。「田舎のバス」「毒消しゃいらんかね」台本に指定してある歌は誰でもが知っていた。中学生でも。 
 声優ごっこが終わると録音した番組の鑑賞だ。「○○ちゃん上手やねー」「おんなの役はおれやりたくない」とかとか。
 こうして佐倉中学校文芸部は、文芸の最先端、鶏郎ワールドを攻略していったのであった。  
(伊藤アキラ=作詞家)



居酒屋散歩9《池袋・あがた》


 今回は池袋の店。JR東口を出て明治通りを左方向に歩き、豊島区役所の交差点を左に曲がってすぐの所。でも、よく行く通りは1本内側の少し猥雑な細い道。飲食店以外にパチンコ屋や風俗の店があり初めてだと入りづらいかもしれない。この道の途中に文芸座という古い名画をかける映画館があって昔からなじんだ道。でも数年前に文芸坐が建て直されて、この道も昔に比べればきれいになった。こ

こを散策しながら「あがた」を目指す。
 この店に行き始めたのは、復刻漫画を始めたころで、もう10年以上前になる。実はこの店の先にデザイン会社があって、仕事の通り道沿いだったのだ。10年前には漫画の復刻を専門にやる編集部はなく、その方法もよく判らなかった。特に古い本の画像処理をどのようにやったら良いのか試行錯誤をしていた。当時、このデザイン会社の社長A氏と

工夫しながら手探りでその方法を確立していったのだ。復刻をやって2年くらいたった頃、なんと漫画は採用しないと聞いていた朝日新聞の書評欄で復刻本が紹介されたのだ。忘れもしない楳図かずお「別世界・幽霊を呼ぶ少女」という2冊箱入りの本だった。評者は学習院大学の中条省平教授。本の内容はもちろんだが、カラーページの色合いの事に触れてくれていた。1ページ全体を使って夕焼け空を描いたもので、鮮やかな茜色の空が主人公の心象と相まって物語を盛り上げていた。原本は50年という経年変化の汚れや当時の印刷技術の稚拙さなどが相まって、とても汚かった。何度も議論をしながらこのページを作ったので、画像処理が評価されたような気がして、その後の復刻をやる上でとても力付けられた。掲

載紙を肴にA氏と祝杯を上げたのも「あがた」だった。
 評論家のH氏と二人で階段を上り店に入った。いつものようにビールで刺身をつまんでいるところに、仕事を終えたA氏も来て3人で乾杯。ここの〆鯖は酢の加減が絶品で必ず頼むメニューだ。H氏は日本酒に切り替え、私とA氏はビールの追加。日本酒は料金も手ごろで、升に入ったコップになみなみと注いでくれるので、呑み助にはとても満足感がある。
 魚は毎日、築地に出かけてゆくというので良いものがいただける。でもこの店の板長はフランス料理の修業をしたそうで、和洋なんでもレベルが高い。しかも値段は庶民的で、言うことない。長くお付き合いのしたくなる店だ。ハンバーグやアジフライなど定食メニューもあるが、つまみでも

出してくれる。これがまたいい味で、ビールのピッチがつい上がってしまう。
 H氏は日本酒をお代わりしてアン肝をオーダー。ほかにステーキを頼んで、私はワインをボトルで、A氏はいつもながらビール党。そのあとは、厨房の前のカウンターに並んだ家庭料理の中から野菜の煮物をいただき、各自の酒を楽しんだ。
 H氏の座った上に色紙が何枚か飾ってあるが、藤子不二雄Aのサインの隣にヒ

ョウタンツギのイラストがある。これは手塚プロのチーフアシスタントだった伴俊男さんと来た時に彼が描いたものだ。
 大分酔いがまわってきたので、そろそろ〆に。冬だし鍋も捨てがたいのだが、今回は何とカレーを。インド風でも欧風でもなく、日本的な家庭の味のするカレーで、酒の後にはもってこい。このカレーを味わって、満腹・満足感一杯で店を出た。階段が少し急なので、

高齢のH氏を支えながら降りて外に出た。すぐ左隣がコンビニで、お酒に効くというウコンドリンクをオヤジ3人で並んで飲んだ。その後に今度は右隣の店、古本屋に入り、冷やかしながら酔いを醒ましてから帰宅。繁華街には珍しい古本屋なので、ここを目印にお店に行くといいかもしれない。ただ、この古本屋がいつまであるのか不安だが。
(川村寛=編集者)




私家版「宇野誠一郎の世界」濱田高志・編

「月刊てりとりぃ」購入申し込み受付のお知らせ

A5変型/上製・函入/448頁 12月20日発行/定価:5,400円(本体価格:5,000+税)送料:500円(梱包手数料含)
発行者:里見京子/発行所:月刊てりとりぃ編集部

[執筆者]井上ひさし、黒柳徹子、横山道乃、中山千夏、堀絢子、恒松龍兵、井上ユリ、井上麻矢、武井博、橋本一郎、栗山民也、篁ゆき、井上都、高林真一、泉麻人、伊藤悟、田中雄二、加藤義彦、安田謙一、足立守正、高岡洋詞、千秋直人、江草啓太、田ノ岡三郎、向島ゆり子、橋本歩、熊谷太輔、鈴木啓之、濱田高志、里見京子

[新規取材&対談再録]田代敦巳、木村光一、宮本貞子、熊倉一雄、おおすみ正秋、柏原満、鈴木徹、山田昌子、金原俊子

[ご予約方法]ご購入を希望される方は、「てりとりぃ」編集部 territory.tvage@gmail.com まで、件名に「宇野誠一郎の世界購入希望」と表記の上メールにてお知らせ下さい。到着後3日以内にお支払い方法を記載したメールを送ります。*私家版につき、本書の書店販売は行ないません。

てりとりぃ×宇野亜喜良
コラボレーショングッズ 第4弾


「てりとりぃ」オリジナルキューブ BOX入りマグカップ+ブックカバーに続き、2014年ふたつ目のオリジナルグッズを作成しました。若干数ではありますが、ご希望の方にお分けします。数に限りがありますのでご注文はお早めに!

「てりとりぃ」オリジナルノート[Red]&[Black](セット販売のみ) ■自然にやさしい再生紙を使用したペンホルダーつきノートに宇野亞喜良書き下ろしイラストレーションをプリント ■サイズ:130×180×14(mm) ■セット販売価格 1,800円(送料別)※ペンは付属しません。

ご購入を希望される方は、「てりとりぃ」編集部 territory.tvage@gmail.com まで「オリジナルグッズ購入希望」と件名に表記の上メールにてお知らせ下さい。到着後3日以内に折り返し返信メールを送ります。なお限定品につき品切の場合はご購入出来ない場合があります。*別途送料は発送方法によって異なります。詳しくはお問い合わせ下さい。