連載コラム【ヴィンテージ・ミュージック・ボックス】が単行本に!
『ぼくはもっぱらレコード ジャズ/ヴォーカル深読みノート』発売のお知らせ
『週刊てりとりい』の連載コラム『ヴィンテージ・ミュージック・ボックス』を単行本『ぼくはもっぱらレコード ジャズ/ヴォーカル深読みノート』にまとめました。連載の中から、ジャズの記事を選び、書下ろしを加えた、50篇の音楽エッセイです。日本を代表するイラストレーターの和田誠さんとの音楽対談も、なんと40ページにおよぶヴォリュームで収録しています。 ジャズのオリジナル盤を
「専門」に聴き、販売している中古レコード店の店主である「ぼく」が書いた本なので、このようなタイトルになりました。「深読みノート」としたのはレコードを聴きながら音楽について、ミュージシャンについて思いを巡らしながら、知られざるエピソードを物語のように妄想して綴ったからです。 本書に掲載しているアーチストを少し挙げると、フランク・シナトラ、フレッド・アステア、ビリー・ホ
リデイ、デューク・エリントン、ルイ・アームストロング、エラ・フィッツジェラルド、チャーリー・パーカーなど。主に30~50年代のスウィング・ジャズ/中間派ジャズ/ビーバップやヴォーカルを取り上げています。現代では、ジャズといえばモダン・ジャズに人気が集中していますが、もう少し古い時代にもすてきなジャズがあるのです。 それらの音楽を評論ではなく、愛好家の視点で紹介し、オリジナル盤レコードのジャケット写真(LP、10インチLP、SPなど350点以上あり)をフルカラーで掲載すれば、レコード店で、音楽談義をしているような楽しい本になるのではないかと考えました。 目玉となるのは、巻末に収録した和田誠さんとの音楽対談です。和田さんが、最初に買ったレコードやレ
コードの魅力、フランク・シナトラについて、ジャズ好きになるきっかけになった映画のことなど、とても丁寧にお話されています。また、ミュージカル映画や和田さんのお好きなアルバムもコメント付きで紹介していただき、和田さんの監督作品『真夜中まで』のウラ話も披露してくださっています。この対談だけでも魅力的な本になっています。 そして、和田さんは本書の装丁も引き受けてくださり、なんと「ぼく」を描いてくださいました。贅沢極まりないことです。 この本は、濱田編集長をはじめ、てりとりぃのみなさんの協力を得ながら、自分で執筆、編集、レイアウトして、屋号《ダックスープ》を出版社登録して、自費出版しました。プロから見れば、アマチュアが作っていて、おかしなところも
あるのかもしれませんが、いきすぎたレコード・マニアの音楽に対する《偏愛》がにじみ出てる面白い本になったと思います。 インターネット販売が中心になりますが、ディスクユニオン、トムズボックスなど、実店舗でも扱っていただいておりますので、レコードと音楽に興味がある方は、是非一度、手にとって、パラっと捲ってみてください。 (古田直=中古レコード「ダックスープ」店主)●『ぼくはもっぱらレコード ジャズ/ヴォーカル深読みノート』古田 直 著/装丁、対談 和田 誠/定価2,678円(本体 2,480円 + 税)/出版社 ダックスープ/A5版/176ページ/フルカラー/HP:http://www.ducksoup-jp.com/moppara/
演奏者推測のススメ 7
「カルトGSコレクション」「ソフトロック・ドライヴィン」「60Sキューティ・ポップ・コレクション」など、90年代には国内ポップスの名コンピレーション・シリーズが多くリリースされていましたが、コモエスタ八重樫選曲・監修の「ハイ パノラミック」シリーズも、それらのシリ
ーズと並ぶ名コンピレーション・シリーズです。中心は60年代の音源をコンパイルした「南国の熱風」「南国の果実」「東京ビートニクス」シリーズですが、70年代の音源をコンパイルした「ジャパニーズ70Sボム!」シリーズでは、スタジオ・プレイヤー黎明期時代の楽曲が並んでおり、演奏
者を推測するのにピッタリのコンピレーションです。中でも『ドッキング・ダンス 東芝EMI編』 は、江藤勲のベースと推測される演奏が連続して並ぶという、ミラクルな1枚です。 M8の青山啓「セックス氏の休日」(70年)からM13のモラル・マイナス1「ハレンチ学園(ズビズビ・ロック)」(70年)までが江藤氏のプレイと推測できます。「ハレンチ学園(ズビズビ・ロック)」は江藤氏では無く鈴木淳の可能性もありますが、バックで聴こえるファズ・ギターは、フレージングから成毛滋の可能性があります。江藤氏と成毛氏はかなりの数のスタジオ・ワークで共演していたとのことと、ノベルティな楽曲に多数参加していたことを考慮して江藤氏と推測しました。最も江藤氏らしいトーンは、サト
ー・ノト「ドッキング・ダンス」(68年)。パタパタした粘り気のあるトーンが印象的です。牧麗子「マドモアゼル・フィフィ」(69年)では、エンディングで恐ろしくグル—ヴィな演奏が繰り広げられます。 ほかにも、井口典子 ヤング101「恋人中心世界」(71年)や、志麻ゆき「恋は謎々」(70年)なども江藤氏と推測でき、収録曲の半分以上の楽曲で江藤氏がプレイしていることになります。木村芳子「人魚に恋した少年」(68年)やナウ「ヘイ!」も江藤氏の可能性がありますが、「人魚に恋した少年」はアレンジャーの三保敬太郎のファースト・コール・ミュージシャンである荒川康男の可能性もあります。荒川氏は、ジャズ・ベーシストとしてウッド・ベースをプレイしていましたが、60年代末から
はピックでエレキ・ベースもプレイしています。「ヘイ!」は、後半のフレージングから寺川正興と推測しました。 いずれにせよ、さながら「江藤勲 東芝スタジオ・ワーク集」となっている本コンピ。選者の八重樫氏が意図したかは定かではありませんが、スタジオ・プレイヤー・分析マニアには興味深いコンピです。 (ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト) ーーーーーーーーーーーー 左●「ジャパニーズ70Sボム!東芝EMI編〜ドッキング・ダンス 」(94年)
てりとりぃアーカイヴ(初出: 月刊てりとりぃ#56 2014年10月25日号)
長崎学のススメ(十六) 『長崎ミステリーへの招待』
私の知る限り最も古い長崎ミステリーは、一九二四年に出版された『黄婦人の手』。作者は長崎生まれで俳優大泉滉の父でもある大泉黒石です。本作をきっかけに長崎を舞台にしたミステリー小説のコレクションをはじめ、現在四十七冊を収集。これらをリスト化して年代別に並べてみたら、面白い傾向が見えてきました。 『黄婦人の手』が出版された二〇年代から七〇年代までの約五十年間が七冊な
のに対し、八○年代以降の三十年間あまりですでに四十冊。しかもその多くが西村京太郎に代表されるような「トラベル・ミステリー」と呼ばれるジャンルでした。なぜ、八〇年代以降“旅”をテーマにしたミステリーが書かれるようになったのでしょう。 それまで、日本人の旅行というと、社員旅行のような団体旅行が主流でした。ところが万博が終了した七〇年の九月からはじまった国鉄(現JR)のキャンペ
ーン、「ディスカバー・ジャパン〜美しい日本と私」と、同時期に創刊された女性誌「an an」「nonーno」によって若い女性を中心とした少数単位での個人旅行ブームが起こります。七〇年後半以降も国鉄の「いい日旅立ち」「フルームーン」「青春18きっぷ」キャンペーンで旅行ブームは続き、旅行客の年齢層も広がりました。こうして旅が身近なものとして浸透した八〇年代に登場してきたのが「観光地で殺人事件が起こる」というトラベル・ミステリーです。そしてこれらの小説を原作とした二時間ドラマ(土曜ワイド劇場、火曜サスペンス劇場)が各放送局で作られるようになったのもほぼこの時期からです。 長崎を舞台にしたトラベル・ミステリーの特徴は、大浦天主堂やグラバー邸、
オランダ坂や眼鏡橋、中華街といった観光名所にチャンポンや皿うどん、卓袱料理といった食を組み合わせ〝エキゾチック感〟を演出していることです。尚、作品のモチーフとして一番多かったのは〝隠れキリシタン〟で、生月島や五島、平戸、雲仙、島原も舞台になりました。どの作品も「さぁ、長崎をどうミステリーに調理してやろうか」という作家の創作意欲が伝わってきて大いに楽しめますよ。 (高浪高彰=長崎雑貨たてまつる店主) ーーーーーーーーーーーー 左●矢島誠『長崎の暗号殺人事件』(90年)Kindle価格は450円
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