ヒトコト劇場 #64
[桜井順×古川タク]
第6回 岩谷時子賞 授賞式に参列して
2010年から始まった岩谷時子賞も今回で第6回。昨年からはパレスホテルで行われている授賞式に今年も列席させていただいた。 例年通りに作曲家の川口真氏、都倉俊一氏、てりとりぃ同人でもある音楽プロデューサー・草野浩二氏の審査委員御三方の下で、新たに賞を授与される面々が
次々に紹介されてゆく。前途ある若き才能を支援する「ファウンデーション・フォー・ユース」は、ピアニストの鐵百合奈さんへ。初々しい挨拶から一変しての堂々とした演奏披露は大物登場を実感させられる見事なパフォーマンスであった。特別賞には、作・編曲家の前田憲男氏がアナウンスさ
れる。岩谷氏と名コンビだった宮川泰氏の作品にも、氏のアレンジや演奏は欠かせない。長きに亘るキャリアを感じさせる、ユーモア混じりのスピーチもさすがの風格。続いて今年の奨励賞は、俳優の城田優氏、チェリストの上野通明氏の2名に授与された。上野氏は第2回のファウンデーション枠を受けており、著しい成長ぶりが評価されたのであろう。昨年のブラームス国際コンクール・チェロ部門での第1位など、輝かしい経歴にまたひとつ大きな栄誉が加わったことになる。この日も自由感に満ちた見事な演奏を披露して喝采を浴びていた。城田氏もミュージカルナンバーを歌って会場に訪れた人々を魅了していたが、不覚にもこんなに歌の上手い俳優さんとは知らなかった。颯爽としたルックスに優れた歌唱力、
天は時に二物を与えることもあるのだ。 そして、今回の栄えある岩谷時子賞は歌手の竹内まりやさんが受賞。司会者に紹介されて登壇した姿は神々しいまでの美しさとオーラに包まれており、会場の空気が一瞬にして変わる。岩谷作品に最も親しんだのは昔から好きだった加山雄三の作品と語る彼女の眼の輝きは女学生の頃に戻っていた筈である。授賞式の後の懇親パーティーでは、加山作品の「君のために」が披露されたが、これがこの上なく素晴らしいものだった。服部克久氏が用意したというオケに乗せての渾身の歌唱。間奏の台詞も完璧で、芯の通った加山ファンであることがまじまじと伝わる歌唱に心底感動させられた。私的な感想になってしまい恐縮だが、賞の歴史に残る名場面に立ち会えた
幸福を噛みしめる。かなり以前、先日亡くなられた加瀬邦彦さんがオーナーのライヴハウス「ケネディハウス」での加山のライヴに訪れていた山下達郎・竹内まりや夫妻が客席から飛び入りでステージに上がり、歌と演奏を披露する場面に遭遇したことがある。その時の驚きと感動にも勝るとも劣らない程に、今回の歌唱披露は胸に迫るものがあった。岩谷先生がご存命であったなら、さぞかし喜ばれたことと思う。そういえば、加山氏がデビュー20周年を迎えた際に作られた記念本『KAYAMA YUZO』に、加山&加瀬&竹内の三者による音楽談義が載っていたことが思い出される。その時はまだ慶応大学に在学中だったまりやさん。つまりは慶応OBと現役による鼎談だったわけで、加山氏は「まりや君の音楽は海
に合うね」などと賛辞している。今から35年前のその記事を想うと、加瀬氏が亡くなって間もないこのタイミングでの授賞は誠に感慨深い。 パーティーでは、前田憲男氏も岩谷作品メドレーをピアノで演奏したほか、前回、八千草薫さんからその任を引き継いだ竹下景子さんもプレゼンターの役目をしっかりと果たして会場の雰囲気を和らげていた。今回もエンターテイメントの重要性を改めて認識する機会を与えてくれる清々しくも意義深い会となった。奨励賞の城田氏がスピーチした「何世代にもわたって人に楽しんでもらえて、元気や勇気の活力になるような作品を創りたい」という言葉が、これからの賞の行方を象徴している気がする。 (鈴木啓之=アーカイヴァー)
追悼:矢島賢
ギタリストの矢島賢が2015年4月29日に急逝した。矢島の名前を知らずとも、矢島のギターを聴いたことの無い日本人はほとんどいないだろう。彼が参加している楽曲を並べてみると、沢田研二「勝手にしやがれ」「憎みきれないろくでなし」、よしだたくろう(現・吉田拓郎)「伽草子」、アリス「遠くで汽笛を聞きながら」、野口五郎「グ
ッドラック」「19:00の街」、郷ひろみ「男の子女の子」「よろしく哀愁」、西城秀樹「傷だらけのローラ」「若き獅子たち」、南沙織「傷つく世代」、研ナオコ「かもめはかもめ」、岩崎宏美「センチメンタル」、山口百恵「プレイバックPART2」「ロックンロール・ウィドウ」、太田裕美「木綿のハンカチーフ」、長渕剛「とんぼ」「乾杯」、
松田聖子「青い珊瑚礁」「白いパラソル」、河合奈保子「大きな森の小さなお家」「唇のプライバシー」、岩崎良美「タッチ」、チャゲ&飛鳥「万里の河」、佐野元春「アンジェリーナ」、葛城ユキ「ボヘミアン」、近藤真彦「ハイティーン・ ブギ」「ギンギラギンにさりげなく」、中森明菜「少女A」「飾りじゃないのよ涙は」、堀ちえみ「さよならの物語」、TOM★CAT「ふられ気分でROCKNROLL」など、まさに国内歌謡史そのままだ。ほかにも、児童番組「ひらけ!ポンキッキ」の挿入歌の多くのギターや、別のギタリストによるものというのが定説となっている映画『風の谷のナウシカ』(84年)の「王蟲の暴走」のギターも実は矢島によるもの。 スタジオ・ワークがほとんどのため、リーダー作は
少ないが、矢島賢&ヴィジョンズの『リアライズ』は、デヴィッド・ギルモア風のギターを聴くことが出来るプログレッシヴ・フュージョン・アルバム。フェアライトを国内で最初期に購入、夫人の矢島マキ(矢嶋マキ)らとともにライト・ハウス・プロジェクト名義で多くの作品にもかかわっている。 5月17日には都内でお別れ会が開かれ、吉田拓郎、野口五郎、大野真澄(元GARO)、常富喜雄(猫)、太田裕美、渡辺真知子、船山基紀、萩田光雄、柳田ヒロ、エルトン永田、佐久間順平、岡沢章、岡沢茂、富倉安生、田中清司など、矢島がギターを担当した多くのアーティストや共演したミュージシャンたちが来場、矢島との別れを惜しんだ。矢嶋マキによる素晴らしい挨拶や、渡辺や佐久間の歌などもアドリブで飛び出し
た、矢島の人柄が伝わってくるような素敵な会だった。 矢島が残した多くの作品は現在でもテレビやラジオなどで耳にすることができ
る。彼が残したサウンドの数々は永遠に人々の心に刻まれることだろう。 (ガモウユウイチ=音楽 ライター/ベーシスト)
|