2015年8月28日(金)

 
大村憲司『25周年ライヴ~ベスト・ライヴ・トラックスⅤ』が発売!


 98年の逝去以来、再評価高まる大村憲司。彼が残したライヴ音源を選りすぐった未発表トラック集の第5弾がリリースされた。第5弾となる本作では、97年にキャリアの節目として六本木ピットインで3日間に渡って開催された「25周年ライヴ」からピックアップされた17トラックが収録されている。

 彼の印象と言えば、それぞれ人によって大きく違うだろう。カウンツ・ジャズ・ロック・バンド時代ではラリー・コリエルのようなジャズ・ロック・ギタリストとして、赤い鳥や五輪真弓とエントランスなどではデヴィッド・T・ウォーカーのようなスタジオ・ギタリストとして、バンブーやカミーノではエリック・ク

ラプトンのようなブルース・ギタリストとして、そして70年代末には松岡直也&WESINGに席を置き、80年にはYMOのサポート・ギタリストとしても活躍したことから、ラテン・フュージョンやテクノ・ポップ系のギタリストという印象を持っている人もいるだろう。さまざまなジャンルで活躍をしていたが、根本となる部分は彼のブルース・フィーリングあふれるセンスに溢れたフレージングと、彼にしか出せない素晴らしいトーンにつきる。書き譜であるスタジオ・ワークの際ですら、ブルース・フィーリングがそこはかとなく漂っていた。
 アップ・テンポのファンク・ナンバーだった「レフト・ハンディッド・ウーマン」では、青木智仁の生み出すリフをベースにしたミディアム・グルーヴに。サ

スティンの効いたゆったりとしたフレーズから、16ビートのファンキーなソロへといった緩急がお見事。Tボーン・ウォーカーやオールマンで知られる「ストーミーマンデー」は、もともと12/8拍子のナンバーを8ビートにリズム・チェンジ。コード進行も5~6小節目でⅤーⅣと移行、9小

節目からはⅥから下降してくるという、それまでのブルース進行の常識を外れた斬新な進行にリハモされている。バンブー時代は一般的なコード進行でプレイしていたが、いつからこのアレンジで演奏するようになったのか興味深い。鈴木茂の「スノーエキスプレス」では、鈴木をゲストに迎え

て憲司のロック・サイドが全開したファンキーな名演。渡辺香津美をゲストに迎え憲司がエレアコをプレイした「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ」では、ジャジーなプレイを展開。「スノーエキスプレス」と同じギタリストとは思えない間口の広い演奏だ。スタジオ・プレイヤーとしての才を再認識できる「都会」では、大貫妙子を迎え、これぞ歌伴といったプレイを聴かせる。CD2枚に渡る楽曲群は、まさに彼の軌跡を駆け足で振り返るような選曲。ヴァーサタイルなスタイルでプレイする彼の最高のパフォーマンスを収録しており、憲司のファンのみならず、多くの音楽ファンに聴いてもらいたいアルバムだ。
(ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト)



ミシェル・ルグランの自伝(日本版)が遂に刊行!!

 二○一三年一○月にフランスで刊行されたミシェル・ルグラン自叙伝の日本版が絶賛発売中だ。
 私がミシェルと共著者のステファン・ルルージュから本書の企画を聞かされたのは、二○○三年のこと。ステファンが企画・監修を務めるユニバーサルフランスの〈エクテル・シネマ〉シリーズが、スタート三年目にしてようやく軌道に乗った時期である。同シリーズは、ミシェルを筆頭に、アントワーヌ・デュアメル

やエリック・ドマルサン、ジョルジュ・ドルリュー、フランソワ・ドルーベ、クロード・ボリン、フィリップ・サルド、ミシェル・マーニュ、フランシス・レイら、往年のフランス映画を彩った作曲家に焦点をあてたCD選集で、作曲家はもちろんのこと、監督や周辺スタッフに入念な取材を行ない、マスターテープの発掘から資料蒐集、そしてライナーノーツの執筆まで、そのすべてをステファンが一人でこなすという画期的

な企画だ。これまでに二○○タイトルを数え、シリーズは現在なお継続中である。
 本書は、ステファンが同シリーズの制作過程でたびたび行なってきたミシェルへの取材を基に、それらをより深く掘り下げ、さらにはそこで語られなかった事柄についても、新たに取材・調査を行なって編纂したものである。
 本書ではじめて語られる事柄が多く、その逸話のすべてが新鮮にして新発見の連続。両親との特異な関係や少年時代の音楽環境に、アンドレ・ポップ、ボリス・ヴィアンら仲間の存在、さらには、ハリウッドでの挫折やジャック・ドゥミとの出会いと別れについても、実に赤裸々に綴られている。また、マイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスとの交流や、フランソワ・トリュフォー監督作品『大人は

判ってくれない』において、作曲家ジャン・コンスタンタンへの友情に免じて陰でオーケストレーションを手掛けていたことなどは、ここではじめて明かされる、とっておきの秘話といえるだろう。本書がただの回想録に終わっていないのは、驚くべき確かな記憶を紐解いて述懐するミシェルの言葉もさることながら、その証言をみごと一冊にまとめあげたステファンの手腕によるところが大きい。ミシェルが全幅の信頼を寄せる彼ならではの仕事といっていいだろう。

 ミシェルは本書において、時に冷徹に、時に優しい眼差しで過去と向き合っている。それによって、我々読者は、誰もが羨む才能の陰に、天才ならではの孤独と苦悩、そして葛藤が隠されていた事実を知るに至った。

また、本書がミシェルの回想録であると同時に、映画やジャズ、シャンソン、クラシックといった様々なジャンルを包括した貴重な記録となっている点も見逃せない。しかも、その全てにミシェルが偉大な足跡を残しているという事実に、改めて驚嘆せざるを得ないのである。
 さて、同書の刊行を記念して七月から三ヶ月連続で開催してきたイベント、その掉尾を飾るのが九月五日(土)に御茶ノ水エスパス・ビブリオで開催する『ミシェル・ルグランその作品と人物像』である。自伝をサブテキストに、文中で紹介される楽曲を聴きながら、同書で漏れた情報などを補完解説する趣向。奮ってご参加下さい。
(濱田高志=アンソロジスト)
●『ミシェル・ルグラン自伝 ビトゥィーン・イエスタデイ・アンド・トゥモロウ』[著]ミシェル・ルグラン[共著]ステファン・ルルージュ[訳]高橋明子[監修]濱田高志/アルテスパブリッシングより好評発売中!/A5判・並製・304頁(カラー口絵24頁)定価:本体2800円(税別)



居酒屋散歩17《神保町・クラフトビア マーケット》

 今年の夏は暑い! いつもよりビールを飲む機会が増えるのはしょうがない。
 ビールと言えば古くから通っている両国の「ポパイ麦酒倶楽部」がある。両国はちゃんこ料理の店が多い町だが、その中に日本一と噂の高いビール専門店がある。ビールのメニューにはなんと70種も掲載されているのだ。日本だけでなく世界中のビールがある。よく出張で各地に出かけ、夜は昼間の激務をいやすため酒場に繰り出すが、ビールの

造詣の深い店に行くと「ポパイ」の事は皆知っている。それも行ったことがない人が多かった。それだけ名前が業界で知れ渡っているという事だろう。先日も野沢温泉に行った時に、イギリス人のやっているビアバーに入ったら、やはり「ポパイ」の店の事は名前だけ知っていた。この「ポパイ」の紹介はまたの機会に譲り、今回は新しくできた人気のビールの店。
 集英社の友人・樺島氏が定年になったのでその慰労

会で行った店だ。彼は定年後、神保町にある関連会社に勤めていて、店は近くでお願いしたいと言ってきた。神保町は私も通っていた場所で、すぐ思いついたのがビール専門の店。靖国通りと並行したさくら通りにある「クラフトビア マーケット」。2年前にできたばかりで、きれいでそれらしい雰囲気の店。
 樺島氏とは、10年前に復刻を始めた最初の本「正チャンの冒険」をやった時に知り合った。彼は樺島勝一の版権継承者だったのだ。会社も近くにあり、何となく気が合ってそれ以後飲み友達。彼の入社時の配属は「少年ジャンプ」で、退社時は集英社新書の責任者だった。私の好きな、フランス文学者にしてマンガ評論もやる中条省平氏と高校の同級だった、というのは後に知ったこと。

 当日は席だけだが、予約を入れておいた。と言うのもここはいつも混んでいる。カウンターの隅にどうしてもという人のために立ち飲みの部分があるくらい。もっとも空いた場合には、その後席に案内をしてくれるが。この時も約束の時間少し前に店に入ったが、すでに満員だった。外のテラス席もその時は空いていたが、しばらくしたらそこも埋まっていた。私は避けたいが、これだけ暑いと外で飲む冷たいビールも美味しいかも。
 樺島氏はすぐやってきたので、まずはのど越しの良い軽めの物をオーダー。ここは約30種のビールがあり、日本の物が多い。サラダやピクルス、パテをベーコンで巻いたもの、そしてローストチキンなどをいただきながら、ビールもコクのあるものに変えて、どんどん飲んだ。ビールを飲むとど

うしてもトイレに行きたくなるが、ここのトイレには全国の地ビールマップがあったり、呉の海軍ビールの案内があったりと、他の店とは少し違う。また、近くには外人の多く泊まるサクラホテルがあるためだろうか、外国人もよく見かけるのも特色だろう。料理はビールに合わせて作っていると思えるほど、どれも美味しくいただける。最後に飲んだのはサンディエゴのビールだったが、ホップの風味がよく効いたコクのあるものだった。これをポテトフライで2杯飲んで終わりにした。実はカレーもあるのだが、樺島氏はもう満足、ということなので試すのは次回になった。
 大正13年にでた「お伽 正チャンの冒険」という本が7冊あり、これが最初の「正チャン」の単行本だ。当時「正チャン」は子供玩

具のキャラクターとして色々なものに使われた。また映画になったり、宝塚で舞台になったりして広く人気を博して、歴史に大きな足跡を残した作品。この7冊をいつか復刻したいと思っている。「協力するよ」と樺島氏もビールを飲みながら力強く言ってくれたので、その晩は気持ちよい酔い心地で帰途に就いた。
 「クラフトビア マーケット」は神保町にはもう一軒あり、都内に合計七軒の店があるという。まだ暑い日は続きそうなので、覗いてみては。
(川村寛=編集者)