てりとりぃ放送局アーカイヴ(2015年10月9日〜2015年10月23日分)

 たまに飛び出すギター特集。今回は文字通り「技術発展・最新版」をご紹介したいと思います。えっと、もはやこれはギター用機材なのかどうなのか、その判断さえ付きにくい世界のお話ですが、いずれの製品も全てギタリスト向けに開発・販売されているのも事実です。新しいもの全てが素晴らしいとは思いませんが、新しいものを知らずして古いものを語ることはできません。(2015年10月9日更新分/選・文=大久)


TC Electronic / Ditto Looper

 ルーパー(LOOPER)。一度弾いたフレーズを一端録音し延々と繰り返し再生するものです。古くからテープエコーとかの技術があったわけですが、今はこんな手のひらに隠れるほどのサイズになっています。しかもオーバーダビングは無制限で、(デジタルなので)音質劣化ナシ。これが数千円で買えてしまうのが現代というヤツです。これのチョットだけ豪華版(サイズが2倍くらい)ていうやつは、リヴァース(逆再生)が可能で、やり直し機能なんかもついてますね。

Digitech / TRIO

 業界激震の人工頭脳。今も売り切れ続出で入手困難な製品です。なんとコードをジャカジャカと演奏するだけで、勝手にベースラインとドラムパターンを生成してしまうという「1人っきりのコンサートIN MY ROOM」機材。シコシコとMTRをあやつる時代はもう終わりました。今はこういうことがリアルタイムでできてしまいます。つまりこのペダルを持ってれば「なんの準備もいらなずにバンド演奏できちゃう」という恐ろしい機材です。

Electro-Harmonix / C9

 ギタリストにとって「鍵盤のような音を出したい!」という欲求は常にありました。それを受けて1970年代にギターシンセという技術が開発されましたが、正直現在も使いものにはなりません。ですが、「オルガンの音色に特化」することで、完璧なオルガン・サウンドを生み出すエフェクターが登場しました。これ、某ギタリストが今年出した新作で実際に録音で使ってるのを間近で見ましましたけど、凄かったです。

Misa Kitara

 上で「ギターシンセは使い物にならない」と書きましたが、弦をはじくというギターの基本をシカトしてしまえば、実は簡単に使い物になる機材が完成します。こちらは2011年に発表されたMISA GUITARという機材で、ご覧のように弦もフレットもありません。まあiPadの音楽演奏特化版と思えば簡単ですね。そりゃあダブステップやEDMを演奏するなら、ギターよりもこっちのほうがいいに決まってます。


KEMPER Profiling Amp

 こちらも業界激震の最新機材です。プロファイリング・アンプといって、あらゆるアンプのサウンドを「コピー」してしまうという機材なんです。ご承知のようにギターアンプは今だに真空管を使ったり気温や環境で音がすぐ変わったりと気難しい機材ですが、これさえあれば世界中どこにいってもいつも完璧なアンプの音を出せてしまうという。デモ演奏してるのは元ジュディマリTAKUYA氏です。
Tony Levin demonstrates the Kemper Profiling Amplifier

 オマケ動画。同じく上のKEMPERを、キング・クロムゾンのトニー・レヴィンが実際にデモンストレーションするという動画です。動画中、工事中みたいな音とかシュワシュワシュワーっていうノイズが発生してますが、これがKEMPERがアンプ・サウンドを「コピー」する時に発生する特殊音源。それにしてもトニー・レヴィン先生、楽しそうだなあ(笑)。佐久間正英氏も生前このKEMPERをベタボメしてたことを思い出しますが、プロの耳をしても本物と区別できない、というレベルのデジタル・シミュレート製品が登場したのは、機材史上初めてのことです。


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 現在のようにA=440Hzではなかった時代(註:世界基準として国際標準化機構“ISO”によりA=440Hzが設定されたのは1953年)の音楽は、そりゃあ今とは何もかも違います。で今回は戦前のデルタ・ブルース曲「I'M SO GLAD」というブルース・ナンバーの聴き比べをやります。一体何が嬉しいのか歌詞を読んでもその意味はさっぱり分かりませんが(笑)、とにもかくにもこの曲は現在にまで歌い継がれる「ブルース・クラシック」なわけです。(2015年10月16日更新分/選・文=大久)


Skip James / I'm So Glad (original version / 1931)

 オリジナルです。デルタ・ブルースの祖スキップ・ジェイムスは1902年生まれ。あのロバート・ジョンソンに「影響を与えた」というひとつ上の世代になります。同年彼はブルース・ミュージシャンを引退、以降教会の仕事に従事しますが、1960年代に“再発見”され、周囲に引っ張り出される形で音楽業界に復帰していますが、69年に他界。

Cream / I'm So Glad (BBC Sessions / 1966)

 「I'M SO GLAD」を世界的に有名にしたのがクリームというバンドであったことは異論がないと思います。仲の悪い物同士が無理矢理バンドを組んでみた、という恐ろしい経緯も興味深いワケですが、クリームは66年のデビュー盤『FRESH CREAM』で同曲をカヴァー。こちらは同年のBBCライヴ音源。

The Maze / I'm So Glad (1967)

 後にディープ・パープルのメンバーとして知られることになるイアン・ペイス(Dr)とロッド・エヴァンス(Vo)が組んでいたバンドTHE MAZEも、この曲をカヴァーしています。まあ明らかにクリームの影響下にあるカヴァー・アレンジで、このバンドのシングル「HURLEM SHUFFLE」収録曲。

Deep Purple / I'm So Glad (1968)

 でメイズ「I'M SO GLAD」はその後ディープ・パープルによって受け継がれ、DPの初期レパートリーになりました。パープル期になってからは、歌が始まる前に「PRELUDE : HAPPINESS」というオルガンのインプロ部が導入されていますが、正直そこはどうでもいいですね(笑)。ちなみにディープパープルは68年10月のクリーム解散ツアーで前座をやっています。

The Golden Cups / I'm So Glad (1968)

 そして、出ました日本がほこるゴールデン・カップスのカヴァー・ヴァージョンです。カップスに関してはあのビートたけしをして「おっかなくって近寄れなかった」というコメントを収録した最高なドキュメンタリー映画も数年前に出来ましたが、そんなマジでワルな本牧のバンドです。それにしてもこの映像、何もかもが衝撃的ですよね。

Yuya Uchida & The Flowers / I'm So Glad (1969)

 邦楽カヴァーでもう1曲ご紹介したいと思います。内田裕也&フラワーズによる69年録音版。こちらは(ジャケットはともかく)まだGSとアートロックの境界線をさまよっていたアレンジですが、本曲収録のアルバム『CHALLENGE!』は内田氏がロンドン旅行で体験したサイケ・ロックをそのまま日本に持ち込んだ結果の産物だと思われます。

Beck / I'm So Glad (2003)

 新しめのカヴァーを最後にご紹介。03年に公開された「SOUL OF MAN」というブルースに関するドキュメンタリー映画の中で披露された、ベックによる同曲カヴァー。これ凄いですよね。今どきのアンチャンが、まるで戦前かよ(まあオリジナルは本当にそうなのですが)と思わせるほどの迫力です。日本人に絶対真似できないカヴァーです。ちなみに動画の後半にはスキップ・ジェイムスの映像が流れますがこちらは60年代に復帰後の彼の演奏映像。


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 ツェッペリンの特集です。ドッカンドッカンと大爆音でHRを演奏するバンドであるレッド・ツェッペリンですが、彼らのアコースティック・セットはそれだけ独立して1ジャンルを形成するほどに人気があります。で、今回はそんなZEPの曲をアコースティック・アレンジで、というものを集めました。ZEPカヴァーはそれこそ山のように存在しますし、アコースティック・カヴァーものという安易な企画ものも多くありますが、今回はちょいとヘンテコなものばかり。(2015年10月23日更新分/選・文=大久)


Jake Holmes / Dazed and Confused (1967)

 実はこちらはカヴァーではなく、オリジナル曲。後にヤードバーズ〜ZEPがカヴァーしたことで有名になった「幻惑されて」の元曲ということになります。この曲を演奏するときロバート・プラントは大絶叫し、ペイジ先生に至っては例のバイオリンの弓を持ち出してヘンテコな演奏をおっ始めたため、もうZEPのイメージなしでは語れない曲になりましたが、元はこんなアシッドフォーク曲でした。

Sandie Shaw / Your Time Is Gonna Come (1969)

 サンディー・ショウ姉さんによるカヴァー。心が洗われますね。本曲を収録した『REVIEWING THE SITUATION』はディラン、ドノヴァン、ラヴィン・スプーンフル、ZEP、ビートルズ、ストーンズの曲などを歌ったカヴァー・アルバムですが、ルーファス・トーマス「WALKING THE DOG」なんていうド・ファンク曲にも挑んだりしてます。ここでドラム叩いてるのは後にクリムゾンに参加するイアン・ウォレス。

Lovemongers / Battle of Evermore (1992)

 ラヴモンガーズ。ハートのアン・ウィルソン&ナンシー・ウィルソンによる別名義ユニットですが、正直言ってもうこれはハートです。実際にその後ハートのステージでラヴモンガーズの曲平気でやってますし(笑)。で、アン&ナンシー姉妹は売れ線HR路線に見切りをつけたこの時期に、ZEPのこんなド渋曲のカヴァーを残しています。ちなみに2人がこのプロジェクトをやってた時、ハートのメンバー、デニー・カーマッシは「カヴァーデイル=ペイジ」に参加してたりしました。

Sheryl Crow / D'yer maker (1993)

 93年に発表されたZEPトリビュート・オムニバス盤でシェリル・クロウ姉さんが披露した「デジャ・メイク・ハー」のカヴァー。この曲のタイトル、なんでこうカタカナ読みするのか長年不思議に思ってたんですが(「D'yer maker」は「Did you make Her?」="お前、彼女とヤったか?"の略表記)、イギリス人の発音でこれを発すると「ジャマイカ」に聴こえるんだそうです。で、そこから「じゃあレゲエ曲っぽくしよう」というアイデアが生まれたとのこと。

Duran Duran / Thank You (1995)

 95年のデュラン・デュランのカヴァー・アルバム『THANK YOU』から。元曲も最高ですけど、これ最高ですねえ。実はこの曲、ギターメーカーのギブソン社が行なった「感謝を伝えるベストソング」アンケートで1位を獲得した曲でもあります(ちょっと安易な選択の気もしますが)。また、デュランのカヴァーと同じ95年にペイジ&プラント名義でセルフ・カヴァー版も録音・発表されました。
Boys From County Nashville / The rain Song (2007)

 パーマネントなグループではなく、カヴァー作品を作る為にデッチ上げられたユニットです。が、ケルト風アコースティックでZEPカヴァーを作る、というある意味王道なカヴァー・コンセプトはさすがですね。ちょっと音がギンギンに新しいのがつらく聴こえてしまいますが、まあそれも味といえば味です。


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