2016年4月8日(金)

 
買い物日記[16]


 高円寺にインドネシアの友人のお店がオープンした。高円寺から歩いてすぐ。高架下を通ってすぐのお店だった。名前は『SUB STORE』という喫茶店兼レコード屋。インドネシアのジャカルタ、バンドゥン、バリに続いて4店舗目のお店。

そこのオーナー、アリアとインタンに初めて会ったのは去年、インドネシアのバンドゥンだった。レコード屋がたくさん入っている古い雑居ビルの中にあるそのお店は、テーブル代わりに古い真空管のテレビを使っていて、いつか真似したいなあと思っていた。

 高円寺のお店はアリアのお兄さん、アンディカが店長をしている。そして高円寺のお店のオープンと同時にアリアとインタンが初めて日本へやってきた。
 高円寺SUB STOREでのオープニングパーティー。今ラーメン食べてるから後ほど、というアリア

からのメールが来てから30分、お店で待っているとアリアとインタンがやってきた。
 アリアが、日本にせっかく来たからどこかでイヴェントがやりたいなあ、と言っていた。それならうちのお店でやりなよ、とぼくが言った。そんなゆるい話から、池袋のお店、スナック馬場でインドネシア音楽のイヴェントをやった。アリアとインタン、二人とも日本で初めて飲むお酒に上機嫌になってレコードをかけていた。
 そんなときインタンが、今回初めて日本に来てもっと日本語の勉強がしたいと思った、と言う。なんで?と訊くと、「日本人は英語が出来ないから、コミュニケーションが取れないんだよ」。
 そう言って見せてくれたメモ帳にはアルファベット

で書かれた日本語がびっしりと並んでいた。
 日本人がよく使う「ステル」ってどういう意味?と、インタン。「ステル」って「捨てる」だよ。と答えると、インタンは、違う違う、と言う。よく日本人が話とかをしてるとステルステルって言うんだけど、あれはどう意味?と訊いてきたので、それは「ステル」じゃなくて「シッテル」だよ、「シッテル」は英語の「I KNOW」の「シッテル」だよ、と答えた。するとインタンは、あー「シッテル」ってそういう意味なのか、じゃあ「アイシッテル」って「I KNOW」から来てるんだね。と言った。その話がなんだか可愛くて、イヴェントが終わってからもずっと頭の中に残っている。
(馬場正道=渉猟家)



自主制作マンガ界の只今調査続行中


 今、鎌倉幕府成立年度は1185年説だが、既に刷り込まれた1192年説の語呂合わせの記憶、アレ、使い道はないだろうか。「いい国(1192)作った源頼朝の4番目の息子の実朝が生まれたぞ」などと考えてはみたが、うわ、語呂が悪い。だいたい源実朝の誕生年は試験にも、居酒屋の話題にもでない。ところで、こうした教科書で訂正される常識はいいが、「カマキリのメスは後尾後

にオスを食べる」とか「風邪は身体を温めて発汗させて直す」といった、定期的にテレビの雑学番組で誤りを指摘される「偽常識」も結構ある。その最下層にあるのが「カタツムリやナメクジ等の陸貝類が瞬間移動する」説。動物の不思議なこぼれ話として、昔よく目にした。「鉄腕アトム」に登場した、地下鉄を襲う神出鬼没のモンスターの説明にもこの説が用いられた。手塚治虫も信じていたのだ

ろう。大学時代にタニシの精子を研究した手塚がだ。
 そのレトロな偽常識を、ふと思い出して調査したマンガが、『ナメクジテレポート』(2014〜/しかま家)。著者のくまみは職業イラストレーターだそうで、自らカエルのキャラクターで案内役となり、平易な解説マンガに仕立ててあるため、誌面の味気は薄い。見た目も役所の刊行物のよう。しかし、この通称「ナメテレ」と呼ぶ胡散臭い題材のみで、読者をぐいぐい引き込むのだ。戦前の関連書をつきとめ、それを元ネタに戦後のSFやオカルトの作家界隈で語り継がれる状況が浮き上がり、文献に度々現れる鈴木哲太郎という生物学者の正体が判明するくだり、抜群だ。完全に机上の調査であり、マンガという手法は必要ないと思われるが、途中からナメク

ジ云々よりも、作者の調べもの奮戦記の色が濃くなり、いまだ継続中のレポートで人を楽しませるにはマンガの形は適している。新情報を知人から得た喜びと裏腹に、追い抜かれた悔しさも覚える心理など、今まで描かれたことがなかったんじゃないか。文献調査についての、入門書としてもある

あるネタとしても、非常に面白い。今後の報告が楽しみだ。
 ただ、ときどき挿入される、作者おすすめグルメの写真が馴染めない。つい、ナメクジが混ざってんじゃないかと不安になるのだ。唐突でしょ、その女子力!
(足立守正=マンガ愛好家



主題歌分析クラブ 『まんがこども文庫』


 童話雑誌『赤い鳥』などに掲載された児童文学を原作としたアニメで、オープニング・テーマ「よんでいる」は、作詞=岸田衿子、作曲・編曲=宇野誠一郎、歌=堀江美都子によるもの。堀江は、『山ねずみロッキーチャック』でミッチーとチャタラーズ名義で担当して以来の宇野作品の主題歌

担当となった。
 3連のピアノのイントロから始まるドラマティックなバラード・ナンバーで、フォルティッシモからリタルダンド、そしてピアニッシモへと感情たっぷりに展開される。リズムは、イントロではスクエアなリズムで弾いているが、歌に入ってからしばらくするとスウ

ィング気味に跳ねていく。これは彼が手がけた『ひょっこりひょうたん島』主題歌「ひょっこりひょうたん島」、『W3』主題歌「ワンダースリー」、『ムーミン』主題歌 「ムーミンのテーマ」、『一休さん』主題歌「とんちんかんちん一休さん」などと同様、宇野が好んで使用するリズム・パターンだ。頭のコード進行はツー・ファイヴからスタート。頭には「13th」という宇野があまり多用しないテンションが付けられているが、これはメロディが「13th」で構成されているので、メロディ・ラインに合わせたもの。その後は、規則性の無い独特のコード進行に。コードからメロディを作るアーティストが多い昨今、完全にメロディ先行で作成されたと思われる構成だ。Aメロ最後の部分ではスクエアな8分音

符のあと、1拍3連に。このあたりの芳醇なリズム感覚は見事としか言いようが無い。
 Bメロからは4ビート風のリズム隊が入る。ピアノはクラシカルでエレガントな、流れるようなオブリガートを付け加える。抑えたような堀江の歌もクールに響く。後半は4ビート風のハネから完全な3連で、メロディは約1オクターブ上昇してクライマックスに。ここでの堀江の力強い歌唱

は素晴らしい。そしてまた4ビート風のハネにもどり静かに歌は終わる。間奏の4ビート・スタイルのバッキングとストリングスの主旋律のアンサンブルは、短いながら白眉の出来だ。聴いていて曲が終わるのが名残惜しく感じられ、アニメ・ソングの中でもトップ・クラスのドラマティックでエレガントなナンバーだ。
 なお、エンディング・テーマは、柴田南雄、野田暉行、小倉朗菊地雅春、飯沼信義、新実徳英、平吉毅州らの、純音楽(クラシック)の作曲家たちが、月ごとに書き下ろしていた。
 上掲したのは江草啓太と彼のグループの演奏によって島田歌穂が歌ったカヴァー・ヴァージョンを収録した「宇野誠一郎ソングブックⅠ」のジャケット。
(ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト)