遠い海の向こうから届くスターの訃報には普段あまり実感が湧かないのだが、ピーター・フォーク死去の報はズシリと胸に響いた。それは自分が『刑事コロンボ』というテレビ映画のかなりの愛好者であることにほかならない。つい先頃出版された自伝を読んで、身近に感じていたこともある。その晩はひとり静かに別れのワインの杯を傾けた。 ニール・サイモンの脚本
による映画『名探偵登場』などにおける氏もとても魅力的だった。しかし、ピーター・フォークといえばなんといってもコロンボなのだ。よれよれのレインコート、ボサボサの髪に寄り目という、およそ刑事らしからぬ風貌の氏が、鋭い推理を重ねて犯人を追いつめてゆく。愛すべき探偵・金田一耕助の姿をどこか彷彿させる愛嬌の持ち主であった。 和製ニール・サイモンの
三谷幸喜が、後に『古畑任三郎』で採り入れた倒叙物の手法を最初に見せられた時は驚いた。ミステリーで最初に犯人を明かしてどうするのだと。ところがそれが杞憂であり、たちまち作品の虜となった。まだホームビデオなど無かった時代、二見書房から出ていたノヴェライズを集めたり、様々なヴァージョンの主題曲のレコードを探したりと、出来る限りのマニア活動に勤しんだものである。ヘンリー・マンシーニによる流麗なテーマ曲(写真右下は七四年発売の日本盤シングル)が実は米NBCのミステリー・ムーヴィー枠全体のテーマであるという事実は、小学生の私が時折自慢げに披露する、とっておきのトリビアだった。 大人になってからは当然ビデオやDVDも買い続けてきたわけだが、今回のブ
ルーレイBOXには感動することしきり。HDニューマスターによる完全収録に加え、特典映像では、第1作『殺人処方箋』で長らく消息不明だったラスト十四分の音声の収録をはじめ、復元吹替や音声トラックなど、おそるべき充実度なのである。今年の年末年始は極力外出を控えて、家でこのブルーレイを見ることに決めた。ああ、なんて幸福な時間。ひとつ残念なのは、ウチにはいつまでたってもカミさんが来てくれないことなんですがね……。 ︵鈴木啓之=アーカイヴァー︶
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大人の遠足
お昼の十二時、川越駅集合。十一月二〇日、日曜日。この日は濱田高志さん、鈴木啓之さん、星健一さんとぼくの4人で、川越、古本屋巡りをした。おなじみのメンバー。前は一緒にレコードを探しに行った。ぼくはこの行事を勝手に、大人の遠足、と呼んでいる。 古本屋の情報は、鈴木さんが持っていた5年前の古本屋ガイド。まずは、一軒目「コミックランドたかは
し書房」へ。ガイドに書かれている小さな地図を頼りに向かってみると、あるはずの場所、入り口は工事用のフェンスに覆われていた。 気を取り直して二軒目「ブックブッククレアモール店」。これもない。潰れている。三軒目「雄文堂」。ない。四軒目「ほんだらけ」。ない。五軒目「希林堂書店」。これもない。結局、この5年前のガイドのまま、まだ残っている古本屋は大
手チェーン店「ブックオフ」だけだった。なんだよ、と思いながらもブックオフで古本を触り、菓子屋横丁を散策。さつまいもソフトクリームと、お好み焼きを男4人で頬張り、この後、カレー屋「ジャワ」へ向かった。チキンカレー。ゴロゴロと大きなチキンの入ったここのカレーは安くて最高に旨い。が、今のぼくらには、少し、量が多すぎた。店を出て、お腹をさすりながら駅へ向かう。 次は川越から電車で二駅、上福岡へ。最初に向かったのは「神無書房」。住所を頼りに迷いながらも、やっと着いた。しかし、そこには、もう営業していない「神無書房」があった。看板はそのまま。閉まったシャッターの前で、どんな本があったのか、いろんな想像をする4人。次に賭ける。近く、「若葉文庫」へ向か
うと、そこはもう、店も、看板も、何もない。住所と標識を何度も見合わせたが、この場所しか考えられなかった。 結局この日は古本らしい古本に触れず、レコードにも触れなかった。たった5年で古本屋が7軒も潰れたなんて、信じたくもなかった。 この後、濱田さんの家へ行き、少し休憩。大久達朗さんが合流。情報交換会。音楽の話。レコードの話ばかりで、シアワセな時間。 場所を変え、濱田さんオススメの店へ向かったが、この日はとことんツイてない。臨時休業。他の店で軽く食事を済ませ、午後の9時。 何かが足りない。そうだ。まだ触っていない古本と、中古レコードを触りに「高田書房」へと向かっていた。 ︵馬場正道=渉猟家︶
てりとりぃアーカイヴ(初出:月刊てりとりぃ#10 平成22年12月25日号)
サンタクロースがノックをしたら〜バブル時代のクリスマス
ハッピー・ホリデイ! 今年もクリスマス・シーズンが到来。一年で一番ロマンティックな気分に浸るこの時期、ドラマのような恋を演じた想い出は誰しもお持ちのことでしょう。 今から二〇年程前のバブル期には、クリスマスが重要なポイントとなるドラマがたくさんありました。﹃君が嘘をついた﹄に﹃すてきな片想い﹄、﹃クリスマスイヴ﹄などなど。その中の一本に、一九八七年十二月に日本テレビで放映された﹃ハートカクテル・ドラマスペシャル〜ノックをしなかったサンタクロース﹄があります。 三上博史と鈴木保奈美が主演したこの作品、フジテレビ「月9」の立役者であるプロデューサー大多亮氏が大いに衝撃を受け、﹃君の瞳をタイホする!﹄にはじまる一連の恋愛コメディ
の制作に影響を及ぼした由。それ以前にも﹃男女7人夏物語﹄などのそれらしきドラマはありましたが、この﹃ノック〜﹄こそ、バブル時代の象徴ともいえるトレンディドラマの幕開けだったのです。その直前の十一月に、映画﹃私をスキーに連れてって﹄が公開されているのも見逃せません。これも三上博史。一九八八年一月にスタートした﹃君の瞳をタイホする!﹄は当初、陣内孝則と片岡鶴太郎コンビの予定だったそうで、鶴太郎が三上にシフトしてい
なければ、トレンディドラマの歴史は少し違っていたかも。 映画では一九八九年のクリスマス期に公開された﹃君は僕をスキになる﹄の主題歌が山下達郎の「クリスマス・イブ」でした。キャスティングによっては後世に残る作品になっていたと思うとちょっと惜しい。今後、日本における決定版クリスマス・ムービーの登場を待ちたいところです。主題歌はぜひ広瀬香美で! ︵戸里輝夫=ライター︶