[桜井順×古川タク]
ペトゥラ・クラーク15年振りの新作は瑞々しいフレンチ・ポップ作品!
タンバリン・スタジオを中心とした90年代のスウェディッシュ・ポップや、フランスのタヒチ80、そしてそのタヒチ80のプロデューサーとしても有名になったアンディー・チェイス率いるNY出身のIVY。彼らのような90年代以降の新世代メランコリック・ポップ・クリエイターの生み出す音の肌触りは、やはり甘酸っぱく青々しい「ポップスの根っこ」の部分を再確認させてくれる。 そうした「青々しい」ポップスの魅力が、今年80歳
になったベテラン歌手をもフレッシュに蘇らせることになったのだろうか。オリジナル作品としては15年振りになるという、ペトゥラ・クラークの新作がこの度発売される。フランス・ヴォーグの原盤で制作された本作はフランス語アルバムであり(ペトゥラ・ファンであれば、彼女が50年代からフランスで大スターであり、仏語アルバムを多数発表していたことをご承知だろう)、フランスの若手クリエイター/アーティストとのコラボを積み重ねて完
成されたアルバムだ。 ジョイス・ジョナサン(右写真の左の女性)やマニ・ホフマン(同じく右の男性)、ベン・ロンクル・ソウルといった若き(彼女の孫といってもおかしくない世代の)シンガーとのデュエットを含む本作のプロデュースはレミー・ガリシェ。パリを拠点に活躍するダイヴィング・ウィズ・アンディのメンバーであり、タヒチ80とも共同作業する若きポップ・クリエイター。そんな制作陣とともにペトゥラが披露するのは、シャ
ルル・アズナヴール(左写真のサングラスの人物。ちなみに中央の大柄の男性は、彼女の長年の伴侶でもあるマネージャーのクロード・ウォルフ)、ミシェル・ルグラン、ジョン・ウィリアムスといった彼女と同世代/旧友たちの作品群。「大好きなパリにまた戻ってきて」「大好きなお寿司をたらふく頬張って」「心躍る魅力的なお仕事」を満喫したという高揚感がそのまま彼女の声にあらわれているのは、本作を一聴した方ならだれでも想像できること
だろう。 もともとペトゥラを世界的なスターに押し上げたノーザン・ポップ「恋のダウンタウン」(65年/トニー・ハッチ制作)を歌った時、既に32歳だった彼女。魔術のようなアレンジに載せられた圧倒的な表現力で世界を虜にしたペトゥラは、60年代のポップ・シーンにおいて「綺麗なお姉さん」的存在だったとも言える。 そのペトゥラが2012年に発表した新作であることは疑う余地もない事実であり、もちろんそれだけでもポップス・ファンにとっては必聴盤である。が、実は本作はそんな予備知識を一切持たない音楽ファンにこそ手に取ってほしい、と切に願うアルバムだ。「このシンガーが今年80になる英国人女性だ」と気付く人は、おそらくひとりもいないのではないか。
| そんな「驚き」も本作の魅力のひとつではあるが、純粋な、あくまでピュアなフレンチ・アコースティック・ポップスの名作として、本作がこの先長らく音楽ファンの話題に挙げられるだ ろうことも間違いない。甘酸っぱく青々しい「ポップスの根っこ」の部分が、これほど強く焼き付けられたことにこそ、驚きを覚えずにはいられない。 ︵大久達朗=デザイナー︶ |
スカイツリーと東京タワー
東京スカイツリーが遂に開業した。最初は違和感を抱いていた名称にもいつしか慣れてしまった。新タワーの名前募集の際には、違う名に一票を投じたのだが、残念ながら叶わなかった。とはいえ候補に並んでいたのはどれもあまりピンと来るものではなかったのを憶えている。 その恨みというわけでも
ないけれども、自分は東京タワー派である。スカイツリーの少々頭でっかちなフォルムは今ひとつ格好良さが感じられない。その点、東京タワーの安定感のある佇まいは実に美しい。富士山にも通ずる気高さは芸術的ですらあるのだ。 叔母に連れられて初めて東京タワーに登ったのは、たしか小学一年生のときだ
ったと思う。高いところから下界を眺めた印象はあまりなく、展望台から降りてきた後に寄った、蝋人形館のあまり似ていない人形たちのことが記憶に残っている。その後、展望台に登ったのはたった一回だけ。いつでも行けるという油断のせいだろうか。ただし、麓の売店街はその雰囲気が好きで、たまに訪ねてはタワーの模型や観光土産の置物を買ったりしていた。 現地まで足を運ばなくても集められたのが、レコード類である。歌そのものの題材となっている盤はもちろん、東京タワーがジャケットに写りこんでいるものは見る度に買い求め、気が付けばシングル、アルバム合わせてかなりの数のレコードが集まった。大抵は中古店で入手したもので、かつてタワーの売店でも売られていたであろう、聳え立
つタワーの写真がプリントされた東京案内のピクチャー盤(写真右上)などは特に気に入っている。 苦労したのはやはり昭和33年の開塔当時に出された盤。フランク永井が歌う「たそがれのテレビ塔」などは比較的早く手に入ったが、山下敬二郎と朝丘雪路の「テレビ塔音頭」(写真左)は見つけるのに随分と難儀した。東芝レコードが発足してまだ間もない頃の一枚である。面白いのは覆面歌手ミラクル・ヴォイスによる「東京333米」(写真右下)。低音の魅力で迫る謎のマスクマンの正
体は、キングレコードの青山ヨシオなのであった。……と言ったところで本人を知っている方は少ないだろう。商標の関係だろうか、どれもはっきり〝東京タワー〟とは歌っていないのが奥ゆかしくてまた良いのだ。ちなみにそのものズバリ「東京タワー」という曲は美空ひばりが歌っている。さすがは女王。 そうなると、元来のトピック好きとしては、スカイツリーのCDも集めたくなるのが人情というもので、ツリーそのものよりも今のところはそちらへの興味の方が強い。まだ手に入れた
| のは、さくらまやの「スカイツリーは雲の上」と、西郷輝彦「夜空のスカイツリー」ぐらいなのだが、他にもご存知の方がいらっしゃったらご教授願いたい。音頭ものなどは既に地元の商 店会が作って自主盤を出していそうだ。今後、誰か「東京634米」なんていうイカしたムード歌謡を歌ってくれないものだろうか。 (鈴木啓之=アーカイヴァー) |
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