2012年10月12日(金)

Message from MICHEL LEGRAND
ミシェル・ルグランからのメッセージ







『ミシェル・ルグラン・トリオ at BLUE NOTE TOKYO』リポート
2012年10月6/7日  於:ブルーノート東京

 先頃、ミシェル・ルグラン生誕80年を記念した来日公演が好評のうちに幕を閉じた。昨年の東京国際フォーラム(「東京JAZZ」)、東京、名古屋のブルーノート公演に続き、2年連続で来日が実現したのはファンとしては喜ばしい限り。しかも今回はトリオ演奏に加えて新日本フィルハーモニー交響楽団との共演が実現したのだから申し分ない。早くも再来日へと期待が高まるというものだ。
 今回の公演の内訳は10月2日のすみだトリフォニーホールでのトリオ+オケ編成を皮切りに、名古屋ブルーノート(4日)、ブルーノート東京(6日、7日)の3カ所、合計7公演。すみだトリフォニーホール公演については先週号をご参照頂きたい。
 筆者は名古屋公演を除く5公演を鑑賞したが、声の

衰えは隠せぬものの、いつもながらの安定した演奏を前に、終始頬が緩みっぱなし。ベースのピエール・ブサゲとドラムのフランソワ・レゾーの二人も、ここ数年ミシェルと共に世界中を飛び回っているだけに、ミ

シェルの気儘な即興に対しても何ら臆することなく、目配せひとつで見事に応える、実に素晴らしいコンビネーションだった。
 演目は日によって若干異なるが、アンコールを入れて概ね10曲程度。1ステー

ジおよそ70分で収まるよう厳選された楽曲が並ぶ。
 当然、主役はミシェルのピアノだが、脇を固める二人の見せ場も用意され、そのいずれもが長尺曲だ。公演の中盤で会場を沸かせるのは映画『ディンゴ』のために書かれた「ディンゴ・ロック」。ここではフランソワ・レゾーのダイナミックで驚異的なドラミングが堪能出来る。そして、ベースをフィーチャーした「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」(映画『ロシュフォールの恋人たち』より「マクサンスのテーマ」)では、重低音を効かせたベースとピアノとの絶妙な掛け合いが観客を魅了。まさに〝音の対話〟と呼ぶに相応しい予測不能な展開が感動を誘った。
 ステージのラストを飾るのはアート・テイタムやジョージ・シアリングら著名

なピアニストの特徴を捉えた奏法で演奏する「ウォッチ・ホワット・ハプンズ」。実はこれ80年代から続くミシェルの十八番でいわゆるネタのひとつ(別名「レ・ピアニスト・ド・ジャズ」)。このあとアンコールで「風のささやき」の弾き語りもしくは「シェルブールの雨傘」の主題曲をモダン・ジャズやニューオリンズ・ジャズ風、ボサ・ノヴァ、タンゴ、さらにはロシアのコサック・ダンス風に演奏して締めるのがここ最近の定番だ。ミシェルのエンターテイナーぶりが遺憾なく発揮される瞬間である。
 昨年は最終日のセカンド・セットでそれまでとは全く異なる曲目で観客を沸かせたが、果たして今回も最後のセットで、ほかとは異なる曲を披露して本公演を締め括った。
 ステージに上がる直前、

筆者が楽屋で「ねぇミシェル、〝双子(姉妹の歌)〟か〝ディグ・ディン・ディン〟を弾いてみてよ」とふったところ、「気が向いたらね」と素っ気ない反応だったのだが、意外や「双子姉妹の歌」はスルーして「ディグ・ディン・ディン」のフレーズを弾いたのには笑ってしまった。ほかにも「ハウ・ドゥ・ユー・キー

プ・ザ・ミュージック・プレイング?」や「ドン・キホーテ」(同名の日本未公開映画主題曲)「アイ・ウィル・セイ・グッバイ」などの大サービス。
 別項に掲げた動画の通り、彼にとってブルーノートは居心地が良いらしく、楽屋でも終始穏やかで、時おり鼻歌を歌いながら現在進行中の企画について話してく

れた。驚くべきは妻のカトリーヌの手帳に書き込まれた来年の予定で、すでに12月までほぼ真っ黒に埋まっている。聞けば再来年の予定もポツポツと入り始めているようで、そこには久々のミュージカル映画の作曲も含まれていた。期待に胸が膨らむばかりだ。
 さて、最後にお知らせをひとつ。そんなミシェルのこれまでの活動を俯瞰したラジオ番組を12月に筆者のナビゲートでお届けすることが決定した。代表曲はもとより未CD化曲や『アメリカの裏窓』『女は女である』の未音盤化曲、『ロシュフォールの恋人たち』の未使用曲などお蔵出し音源を交えて構成する予定。局や放送日時などは追って本誌でお知らせするので、そちらも期待して頂きたい。
(濱田高志=アンソロジスト)
Photo:Yuka Yamaji 協力:ブルーノート東京



速報:ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ
新作のジャケット&曲目を初公開





 何十年経っても、自分たちが書いた曲のSCOFヴァージョンを聴く興奮は変わらない。それは時代を超越した、私の楽しみのひとつだ。
 (ポール・ウィリアムス)

 希望と悲嘆。愛と熱望。
 ロジャー・ニコルスを現在の音楽シーンで最も特別な作曲家のひとりとして知らしめる、クラシック・スタイルで作られた新曲をリラックスして楽しんでほしい。
 哀愁漂うムードから気持ちを高揚させるアンセムまで、ロジャー・ニコルスとSCOFは、レゲエ、ジャズ、ポップス、スウィングを通じて、音楽のローラーコースター体験に誘ってくれる。
 もちろん、彼を有名にしたビッグ・バラード以外にもたくさんの聴きどころがある。
 これは現代における素晴らしい楽曲の「小さな輪」だ。
      (ビル・レーン)
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大人の遠足・山形編

 ジリジリと肌を焼くような暑さがあった。もしかしたらあの日は東京よりも暑かったかもしれない。
 9月8日の午後2時。山形県、かみのやま温泉駅に着いた。大人の遠足はいつものメンバー、濱田高志さん、鈴木啓之さん、星健一さん、木南恵子さん。目的は「母と子に贈る日本の未来館」で行われた和田誠さ

んのポスター展とジャズ&トークコンサート。ポスター展のことは9月14日の「週刊てりとりぃ」で鈴木啓之さんが、ジャズ&トークコンサートのことは「月刊てりとりぃ」31号で星健一さんが書いている。ぼくはそれ以外の、大人の遠足らしいことを書こうと思う。
 9日、和田誠さんを見送ったあと、古本屋を求めて

山形県を散策した。
 もともと小学校だったという「山形まなび館」では、たまたま『一箱古本市』という古本のフリーマーケットがやっていた。どれも格安で販売されている古本を横目に、ここでは『山形尾花沢スイカゼリー』という飲み物を買った。店員さんが「独特な味がしますが大丈夫ですか?」と言っていたが、飲んで納得、なるほど、これは好みの分かれる味。張り替えたばかりの畳をかじっているようだった。
 つづいて向かったのは「香澄堂書店」。店主の好きな本ばかり集めたような古本屋は値段も安く、つい長居したくなってしまうような店だった。ここでは、宇井無愁『一本だけの雨』日本テレビ刊『笑点』を購入。店を出て少し歩くと、濱田さんが「馬場くん、あの本見た? 安かったよね

え」という。全然見ていなかった。引き返して、本のある場所を案内してもらい購入。和田誠『PEOPLE』そして『PEOPLE2』だった。ここではみんな、何かしら買っていた。
 三軒目に向かったのは、駅から少し遠い。タクシーで向かい、着いたのは普通の民家だった。中から店主が出てきて、家の中へ案内

をする。一部屋、古本がびっちりと詰まっている。本棚の中、平置きで積まれたもの、ダンボールに入ったままのもの、身動きが取れないほどだった。値段はついていない。おそらく店主の言い値だろう。ただ、もう先の店で満足してしまっていた。何も買わず帰ろうとしたところ、木南さんが「レコードはありますか?」

と訊く。「ちょうど処分しようとしていたレコードがあるんですよ」と店主。後をついていくと、違う部屋にはレコードが、棚にはジャズとクラシックのレコードが入っていた。とりあえず7インチだけ見せてもらうことにした。1枚ずつめくり、みんなで一緒に見る。「これ持ってる?」「これは珍しいですねえ」「これ買ったほうがいいですよ」なんて言いながら200枚ほどあったレコードから5枚ほど抜いた。すぐ傍にいた店主に「これはいくらですか?」と訊くと「売りたくないんですね」と店主。レコードの知識はあまりないと言う。良いものだけ持っていかれてしまう気がしたのだろう。結局何も買わずにその店を出た。レコード好きの男4人、ポーカーフェイスは作れなかった。
(馬場正道=渉猟家



通算20枚目となる記念すべきニューアルバム
長谷川きよし『人生という名の旅』

デビュー43年。今年63歳。前回のアルバムから4年ぶり。そしてEMIからのリリースは、1985年の『THIS TIME』以来、27年ぶりという奇縁。ヨーロッパ・ツアーでのライヴ音源を含む本作は、ピアフ「愛の讃歌」、ミシェル・ルグラン「風のささやき」、「Over The Rainbow」等のカヴァー曲のほか、「別れのサンバ」などライヴでの人気曲を多数収録した全12曲。
EMIミュージックジャパン TOCT-29004 2012年10月14日発売
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