てりとりぃ放送局アーカイヴ(2012年11月2日〜2012年11月16日分)

 もともとは単独の楽器としてではなく、オルガンの調律用に開発された、というハーモニカ。当時これをハープ(マウス・ハープ)と呼んだのはアメリカだけだったそうですが、それを知ったドイツHOHNER社が「ブルース・ハープ」と名付けてアメリカで商品化したら大ヒット、という経緯があるそうです。今回の「放送局」はハーモニカ特集。超有名曲ばかり並べてみました。なかなかメインの楽器にはみなされないハーモニカですが、アクセントとしては最高の楽器のひとつですよね。(2012年11月2日更新分/選・文=大久)


The Midnight Cowboy Theme (1969)

 この映画の邦題に「カーボーイ」とカナをあてがったのは水野晴郎氏なのだそうです。「都会的なカンジを出したかった」とのことですが、さすがにどうかと思います(笑)。ハーモニカ曲の中でおそらく世界でNO.1かその次くらいに有名だと思われる名曲ですが、ハーモニカを演奏しているのはトゥーツ・シールマンス。今ではよく知られるところですが、少なくとも当時のサントラ盤では彼の名前は全くクレジットされていませんでした。

Toots Thielemans & Stevie Wonder / Bluesette (1999)

そのトゥーツ・シールマンスの演奏によるワルツ・ジャズの名曲「BLUESETTE」。99年、スウェーデンのPOLAR MUSIC PRIZEでの演奏で、もう一人のハーモニカの天才、スティーヴィー・ワンダーとこの曲をデュエットしています。トゥーツといえばハーモニカだけでなく、50年代からのジャズ・ギタリスト(ジョン・レノンとのエピソードも有名ですよね。また一説ではハーモニカ・ホルダーを首からさげてギター抱えた最初の人物、ともいわれたりします)でもあり、同時に“口笛”でも有名ですが、そのあたりはまた別の機会に。

Stevie Wonder / Alfie (1973)

 時代が前後しますが、73年、バート・バカラックのTV特番に出演して「ALFIE」を演奏するスティーヴィー・ワンダー。彼は60年代に何枚もインスト・アルバムを発表していますが、元々この曲は68年のインスト作『EIVETS REDNOW』(変名での発売でしたが、正体バレバレですよね)に吹き込んだバカラック・ナンバー。そういえばスティーヴィーには「HEY HARMONICA MAN」という曲もありますが、その曲が収録されたのは64年のインスト・アルバム『AT THE BEACH』でした。

Jevetta Steele / Calling You (1987)

 89年に日本でも公開され、大ヒットを記録した西ドイツ制作映画『バグダッド・カフェ』。ジヴェッタ・スティールが歌うお馴染みのテーマ曲では、間奏で素敵なハーモニカ・ソロが聞けます。プレイしてるのはウイリアム・ギャリソンという人で、彼は「セサミ・ストリートのテーマ」でもハーモニカを吹いた人。余談ですが、BAGDADという文字を見るとギターのチューニングか?と思ってしまう当方はビョーキです(笑)。


Swing Out Sister / Forever Blue (1989)

 最後はスウィング・アウト・シスター。レトロな映画音楽のスタイルを用いたことで有名なセカンド・アルバム『KALEIDOSCOPE WORLD』収録曲ですが、どなたでもお判りの様に、この曲はジョン・バリー『真夜中のカウボーイ』のモチーフ/アレンジをそのまま拝借して制作されています。アレンジは、SSWでもありオーケストラ・アレンジャーでもあるジミー・ウェブが担当。他にも同作収録の「YOU ON MY MIND」は「華麗なる賭け/THE THOMAS CROWN AFFAIR」そのままのPVだったりします。


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 今回は「BLUESETTE」というワルツ・ジャズの聴き比べです。このタイトルに関して、BLUES+MUSETTE(フランスのバル・ミュゼット)を掛け合わせた造語だ、とずーっと勝手に思い込んでいたのですが、実際には「BLUETTE(ベルギー語で小さな青い花、の意)」という単語を改変し「ブルースだからBLUESETTEにした」とのこと。トゥーツ・シールマンスの作曲によるスタンダード曲を、色んな演奏で集めてみました。余談ですが、鈴木蘭々の名曲「キミとボク」(作詞作曲・EPO)を聞くと、当方はいつもこの「BLUESETTE」を思い出します。(2012年11月9日更新分/選・文=大久)


Toots Thielemans / Bluesette (1962)

 オリジナル・ヴァージョンです。ジャケにもあるように、彼のギターと口笛が主役のジャズ・アルバム『THE WHISTLER & HIS GUITAR』収録曲。「ステファン・グラッペリと同じ楽屋で、口笛を吹きながらギターのチューニングをしていたら、ふとあのフレーズが出てきてね。ステファンが振り返って『それ、とてもいいじゃないか』と言ってくれた。私はあわててフレーズを紙に書き取って『BLUETTE」というタイトルを付けた。最初は"S"がなかったんだ」とは本人の弁。

Sacha Distel / Bluesette (1964)

仏のイケメン・ジャズ・ギタリスト、サッシャ・ディステル率いるギター4重奏での「BLUESETTE」。ディステルのTV番組でのライヴ演奏です。おそらく殆どの方は、ど真ん中で偉そうにスキャットを聞かせる13歳の少年、ブールー君に目と耳が向くと思いますが、どうしても当方は美し過ぎるプレイを聞かせる天才バーデン・パウエルに目と耳がいきますねえ(笑)。もう一人の(いちばん年配に見える)ギタリストはエレック・バシック。彼はジャンゴ・ラインハルトのいとこでもあります。ブールー君もジャンゴの血を引くファミリーで、同年アラン・ゴラゲールのプロデュースでアルバムも発売しています。

Sarah Vaughan / Bluesette (1964)

 64年2月13〜14日、カリフォルニアでのセッションで録音されたサラ・ヴォーンのヴァージョン。この曲に詞がついたのは彼女のヴァージョンが最初、とのことです。プロデュースしたのはトゥーツの親友で、マーキュリー・レコードの重役でもあるクインシー・ジョーンズでした。彼女は後の69年にも同曲を収録していますが、より若々しく飄々としたこちらの64年版は長らくCD化されていませんでした(後にBOXセットに収録されました)。


George Shearing / Bluesette (1965)

 トゥーツ本人がギタリストとしてジョージ・シアリング楽団に参加していたこともあり、またシアリング本人がステファン・グラッペリとの数々の共演を残していることからも、納得のカヴァー、といえるかも知れません。こちらは65年にソロ名義でキャピトルに吹き込まれたジョージ・シアリングのイージーリスニング・アルバム『HERE AND NOW』収録曲。オーケストラ指揮はシアリングの右腕的コンダクター、ジュリアン・リー。

King Sisters / Bluesette (1966)

 30年代から活動を始め、40年代にはラジオ番組で、60年代には自らの名を冠した「THE KING FAMILY SHOW」というTVバラエティー番組で人気を博したキング・シスターズ。グレン・ミラー楽団のコーラスも担当したという彼女達ですが、こちらは66年にワーナーに吹き込まれた「BLUESETTE」のカヴァー。やはりここでも、涼しげなフルートが出てきます。気持ちいいですよね。

Quincy Jones / Bluesette (1975)

 御大クインシーが自身の名義で残したワルツ・ボサ・ヴァージョン。名盤『MELLOW MADNESS』のラストに収録されたこの曲に口笛で参加してるのはもちろんトゥーツ本人です。レオン・ウェア、ミニー・リパートンといった豪華なミュージシャンが参加した本作ですが、こちらの曲も忘れる事ができない名演スね。「スタジオで作業してて、ふとここは何かが足りないと思うことがある。そんな時ぼくはトゥーツを呼ぶことにしてるんだ」とはクインシー本人の弁。
と、ここでこの「BLUESETTE」に関して、濱田編集長が下記のコメントを寄せてくれました。ので、ご紹介しちゃおうと思います。「以前パリで開催されたクインシー・ジョーンズのコンサートに招かれた際、ミシェル・ルグラン、アンリ・サルヴァドール、そしてトゥーツ・シールマンスが客席のエディ・バークレイに向かって往時を回想しながらこの曲を演奏したのは感動的なシーンでした。『今ではフランス語も忘れてカタコトでしか話せなくなってしまったけど、当時エディ・バークレイがいなければ今の私はない』とクインシーが語っていて、ちょっとグッと来ました。今考えてみればとても貴重な場面に居合わせたんだと痛感します」。そりゃあ貴重すぎます。スゴスギです。


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 ローリング・ストーン誌が選んだ「永遠の名曲500曲」にも選ばれた名曲「WE'VE ONLY JUST BEGUN(愛のプレリュード)」。ポール・ウィリアムス作詞、ロジャー・ニコルス作曲、そしてカーペンターズが歌ったヴァージョン(70年)が世界的にヒットしたことで知られていると思います。アメリカでは今も「結婚式の定番ソング」として長らく愛されているようですが、今回は同曲の「ジャズ・アレンジ」ものです。色んな楽器の音色で、この超有名なメロディーを聴き比べしてみようと思います。時代的に、ファンキーなモノが多いというのも面白いですよね。(2012年11月16日更新分/選・文=大久)


Ramsey Lewis / We've Only Just Begun (1971)

 ピアノ版。アルバム「BACK TO THE ROOTS」はレア・グルーヴ/クラブ・ジャズ系のリスナーにも非常に人気の高いカデットの名盤ですが、その中に収録されたヴァージョン。クリーヴランド・イートン(B)、モーリス・ジェニングス(DR)という、屈強のファンク・マスターをリズム隊に据えながら、同曲ではしっとりとしたピアノ・ジャズのアレンジで披露。控えめながらも完璧なグルーヴィー・パーカッションを担当しているのは、カーティス・メイフィールド作品でお馴染みのマスター・ヘンリー・ギブソン(!)。

Grant Green / We've Only Just Begun (1971)

 ギター版。ブルーノートから出た「VISIONS」はモーツァルトの「シンフォニー40番」を収録していることで有名な71年作の名盤ですが、同盤には「WE'VE ONLY〜」のカヴァーも収録。ややアップテンポで軽快なノリながらも、シンコペーションしまくるギターの音色の存在感がハンパないですね。ビリー・ウッテン(VIBE)、チャック・レイニー(B)、アイドリス・ムハンマド(DR)が参加。同盤にはジャクソン5「NEVER CAN SAY GOODBYE」の素晴らしいカヴァーも収録。

The Wooden Glass feat. Billy Wooten / We've Only Just Begun (1972)

 ヴィブラフォン版。レア・グルーヴの名盤として有名な、ウッデン・グラスの72年のライヴ盤。「DAY DREAMING」のカヴァーも収録した同作は、ニュー・ソウルの空気感がパッツパツに詰まった一枚ですが、グラント・グリーン版でもヴァイブを披露しているビリー・ウッテンがリーダーとして再度この曲を演奏しています。歪んだオルガンもたまりませんねえ。


Sonny Stitt / We've Only Just Begun (1974)

 サックス版。ソニー・スティットが74年にジャズ・マスター・レーベルから発表した本作はジャズ・ファンクの名盤としても名高い一枚で、エディー・ラスがエレピで参加しています。ファンキーですね。リズム・アレンジも最高ですが、どこか神々しささえ感じるコーラスがとても素晴らしくて、エディー・ラスのエレピのソロになかなか耳が向かない、ていうのは当方だけかもしれませんが。


El Chicano / We've Only Just Begun (1973)

 最後はまたギターものです。ジャズとは言えない人達かもしれませんが、演奏を聞けばなんら違和感はないと思います。エル・チカーノ73年の同名アルバムから。ゴージャスなストリングス・アレンジが素敵ですが、それにあわせてゆったりとしたアレンジになっています。エル・チカーノのメンバーは入れ替わりが激しく、同年エル・チカーノの主要メンバーがティエラという新グループを結成し、サルソウルからアフロ・キューバン・プログレ・アルバム(!)を発表したりもしています。

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