2013年2月22日(金)

シニア・エージ・セミナー 永六輔、小林亜星、櫻井順の「世直し放談」

 慶応大学のOBを中心に開催されている「シニア・エージ・セミナー」にて、永六輔、小林亜星、櫻井順の3氏が「世直し放談」というトークショーを行なうということで、先日、参加してきた。正に90年代に話題になった「世直しトリオ」のメンバーであるが、今回は療養中の野坂昭如は欠席

し、このトリオのブレーン的役割を果たしていた櫻井順がその代役を務めた。
 「世直しトリオ」と言えば、96年にTBS「筑紫哲也のNEWS23」でオンエアーされた抱腹絶倒のパフォーマンスが強烈に印象に残っている。今回もそのVTR上映からイベントが始まった。当時、世間を賑わ

せた某団体の黒い霧事件をテーマにしたオペラ、リゴレット「女心の唄」のパロディ。まるで、三大テノールの如くタキシードを着た三人がオペラ風の歌唱で、某団体をこき下ろす。批判をエンターテイメントの衣に包んで、大衆に送り出すその諧謔精神は素晴らしい。やはり、メディアの送り手に長年いらっしゃる御三方だから成せるワザであろう。
 今回の彼らの話は相変わらず縦横無尽にテーマが拡がっていった。盟友・故小沢昭一の思い出話から始まり、戦争、疎開、オリンピック、病院、医者、葬式など、問題に切り込む彼らの言葉のメスは年齢を経てもまったく衰えていない。特に、永さんが語った病院での数々の話は正にラジオ・パーソナリティーとして培った話芸の真骨頂であった。
 医学の進んだ現代であっ

ても、安楽な病院はいまだ存在していない。トイレやお風呂に全て看護婦が付いてきて、落ち着いて用が足せない話、ピーコが見舞いに来た時、病室の窓を全部明けて風通しを良くして帰った話、淀川長治氏が入院中の病室のドアに「中に入る人は笑顔で」と書いたら、病院中の看護婦が笑顔になったという話、愛煙家の中村伸郎は、病室で最後まで煙草が吸えずに亡くなったため、その葬儀では煙草を線香に見立て焼香した話などが特に印象に残る。極めつけは、永さんが自動車事故に合った時の救急隊員との丁丁発止の会話は極上のスクリューボール・コメディの様であった。どれをとっても、一歩間違うと辛気臭い話になるところを、全て笑いの要素を加えて我々に印象づけた。
 そもそも、この「世直し

トリオ」の源流は70年代の「中年御三家」ではあるまいか。
 永六輔、野坂昭如、小沢昭一の三氏が繰り広げた問題提起とパフォーマンスの数々。最終的には武道館公演も行なったはずである。当時、彼等は40代中年。正に現在の我々とほぼ同世代である。我々は彼らの様にスマートに怒れる術を身に付けただろうか。彼らの様には出来無いかもしれないけど、彼らの姿勢を受け継いで怒んなくちゃいけませんなあ。
(星 健一=会社員)
*ジャケ写は96年発売の「ダニアースの唄 -Drum'n'Bass Mix-(作詞:水木ひろし、作曲:桜井順、編曲:レンミックス)c/w なんじゃん・ワルツ~昭和わかれぶし~」。A面は野坂の歌唱、B面は世直しトリオ(野坂昭如+永六輔+小林亜星) 名義。



魅惑の “オートバイ少女” その1
マリアンヌ・フェイスフル『GIRL ON A MOTORCYCLE』の場合

 四〇を過ぎて免許を取ったものですから、いまだに子供のようにハシャイでる自分と、それを客観視する自分もいます。しかし当然ながら己の脳内では前者の方にばかりアドレナリンが供給されるわけで、その脳内作用に素直になってもいいじゃない?なんて言い聞かせる今日この頃。
 ということで映画『ガール・オン・ア・モーターサイクル』の話です。68年英仏合作映画、『あの胸にも

ういちど』という邦題を覚えたのはつい先日のことですが、主演マリアンヌ・フェイスフル、お相手はアラン・ドロンという豪華な組み合わせによる、エロエロでサイケデリック、チープ&ハイプなバイク映画。「むせかえるような恋の陶酔に、ひとつになって燃える男と女(中略)華麗なる愛の名作」などという宣伝文句が付けられたことからも、世間では一応「恋愛映画」ということになってい

ます。嘘ではない、とは思いますが、やはりこの映画のジャンキーな味わいは、高級料理店では味わえない、最高のB級グルメ、と判断しています。
 主人公レベッカがまたがるのは、アーリーショベルのFLH1200エレクトラグライド。黒光りする大型のマシンと無垢な表情の美女(とはいえ浮気しに行くわけですから、十分悪女ですが)、という対比はやはり圧巻。実際のマリアンヌ・フェイスフルがどんな女か、という煩悩をリセットし、ピュアな主人公の心の動きが楽しめる、つまりそういう意味では「名演技」と言えるでしょう。
 この映画の別題に「ネイキッド・アンダー・レザー(レザーの下は裸)」があります。当方には想像すら出来ませんが、レザーのジャンプ・スーツをジップア

ップした時の彼女の恍惚の表情、このシーンこそ同映画のハイライトであり(有名な話ですが「ルパン3世」の峰不二子のキャラはこの映画にインスパイアされたもの)、この映画の全てです。アラン・ドロン氏には申し訳ないのですが。
 衝撃的なラストシーンは、実は同作の翌年発表されたニューシネマの名作『イージー・ライダー』への直接的な影響を伺わせます。とはいえ、全力で対向車にトペ・スイシーダをブチかま

し、「犬神家」の逆立ち死体よろしくブラブラしちゃう主人公の最後のお姿は、笑劇的、と言わずに居られないモノですけど。
 そういえば当方が教習所で見た「安全講習ビデオ」は、バブルな時代感丸出しの、トレンディードラマ仕立てでした。噴飯ものでしたが、そちらとは比べ物にならない程の「反面教師」として、この映画は当方の脳裏に強烈なインパクトを焼き付けています。
(大久達朗=デザイナー)



てりとりぃアーカイヴ(初出:月刊てりとりぃ#34 平成24年12月22日号)
大阪から池袋絵意知です!〜クラシックバンク

 ここ数ヶ月連続で『クラシック・バンク』に行っています。「クラシック音楽家の活躍の場を創り、クラシック音楽を身近なものに!」を合言葉に、「NPO法人音楽振興会・りそな銀行」が毎月1回のペースで開催しているコンサートで、先着500名がありがたい

ことに無料なのです。感性を磨くには、いい顔になるには、「人間が生で演じるものに触れるのが一番!」という信条から、音楽も、スポーツも、お笑いも、演劇も、講演も、努めてライブで見るように心がけているのですが、このコンサートは演者の豊かな表情を見

るのも楽しみのひとつです。特に声楽は正面の顔をじっくり見ることができるので、早めに行って前の中央の席を確保しています。会場は毎回、「りそな銀行」大阪本社ビル地下にある立派な音楽ホール。過去6回、毎回座る場所を変えることで、場所(距離・角度)によって聞こえ方、見え方、感じ方が違うこともわかりました。
 りそな銀行と言えば、日本3大メガバンク(三菱東京UFJ、みずほ、三井住友)に次ぐ大手で、歴史を遡れば大阪本店も多かった都市銀行の中で、現在唯一大阪に本店を置く銀行です。〝がめつい〟印象のある大阪商人ですが、この規模のコンサートを毎月無料で開催していることに「経済活動を通して文化の発展に貢献しよう」という心意気を感じます。

 この『クラシック・バンク』を共催しているのが、「NPO法人ABC音楽振興会」。「大阪のクラシック音楽文化の振興、発展に寄与すること」を目的として設立された「ABC朝日放送」の関連組織です。日本全国の(と言っても東京藝術大学か音大の多い東京の学生が7割、残りが関西)若手音楽家の発掘と育成の場として「ABC新人コンサート・オーディション」を1991年から21回開催しています。
 「朝日放送」は民放テレビでは準キー局という位置づけですが、テレビ放送の第1号は日本テレビ、次いでラジオ東京(現・TBSテレビ)、そして大阪テレビ放送(現・朝日放送)で、実はキー局である「テレビ朝日」よりも歴史が古いのです。東京に一極集中化する日本社会ではありますが、

『クラシック・バンク』から、経済都市、文化都市としての大阪のプライドを全身で感じています。
(池袋絵意知=観相家・顔研究家・顔面評論家)
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●NPO法人音楽振興会・りそな銀行が運営するリーナル(REENAL)が企画・開催する「クラシック・バンク」。過去のイベントや最新情報も掲載される公式HPはこちら



『杉浦茂傑作漫画選集 0人間』
著者:杉浦茂
発行:小学館クリエイティブ 発売:小学館
定価:本体7,000円+税 好評発売中


●1957〜58年に集英社から刊行された「杉浦茂傑作漫画全集」全8巻から4冊を選んで完全復刻したBOX版選集。
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