[桜井順×古川タク]
話の横道【特別編】〜寺山修司没後30年によせて〜
絵・文=宇野亜喜良
連載コラム【ライヴ盤・イン・ジャパン】その1
天才少女シンガーの源流を聴く ~岩崎宏美〜
歌謡曲のライヴ・アルバムは、その歌手のディスコグラフィーの番外編的扱いで、ファン以外には振り返られることは少ないが、実は聴くとどれも面白い。その歌手のルーツに当る曲や、その後の展開を予感させる曲が入っていたり、何より全盛期のヴォーカルを生で体験していない世代にとって、そのステージングがパッケージされた貴重な資料なのだ。というわけで今号より毎月オススメの歌謡曲ライヴ盤を紹介します。 ライヴ盤が多い人は上手い歌手と言えるが、岩崎宏美も実に13枚のライヴ盤がある。最初の『ロマンティック・コンサート』は75年12月10日発売で、何とデビュー半年でのリリース。公演は75年10月18日の東京・芝郵便貯金ホール(現メルパルク東京)で、このステージの選曲をみると、彼女
は最初から相当な期待を背負って登場してきたことがわかる。岸洋子の「希望」や越路吹雪の「愛の讃歌」など大人の曲も16才とは思えぬ表現力で歌いこなし、ことに後者は出色の出来。「サトウハチローを歌う」メドレーの「お母さん」も声の圧力の凄さと力強さに溢れている。まだ実況の収録技術が低く、名曲「セン
チメンタル」でノイズが入るのが残念だが…。ルーツという点では、「スター誕生!」決戦大会で歌った小坂明子「あなた」の温かみとスケール感は、ヒロリンの原点の1つだろう。 カセットのみに収録された曲もMEGーCD盤で復活。中でもアンコールで親友の桜田淳子と伊藤咲子が駆けつけ大泣きの宏美を励
ましつつ歌う「ロマンス」はハイライトだが、個人的にはその後ライブの定番曲となる「私たち」の瑞々しさこそが白眉。 もう1枚推薦するなら78年12月20日発売の『ふたりのための愛の詩集~ラブ・コンサート・パート2~』。同年10月15日の郵便貯金ホールでの収録で、岩崎宏美というと高域の伸びが特徴だが、このステージでは逆に、厚みのある艶っぽい低域が印象的で、時代的にもディスコ・ブームの最中で「シンデレラ・ハネムーン」などノリのいい曲とスローナンバーの緩急が絶妙。13枚のライヴ盤中最もポップス寄りでカヴァー曲に注目作が多い。間奏でドラマ仕立てのトークが入る「コパカバーナ」で幕を開け、サビの二重唱が珍しい「飛んでイスタンブール」はさすがに筒美京平チルドレンだ
けあり安定している。上田知華とKARYOBINをバックに従えた「サルビアの花」は、81年の『すみれ色の涙から…』や草花シリーズに繋がる選曲。「Mrサマータイム」の馴染み具合も印象深く、ここで新曲として発表された「さよならの挽歌」と並び、のちのポール・モーリア風イージーリスニング歌謡路線の源
流がこのステージにあったようだ。4年半後「Mrサマータイム」をモチーフにした「真珠のピリオド」を発表するのも単なる偶然ではないだろう。75年盤が温かみに溢れた天才少女の原石なら、78年盤はアクティヴなポップ・シンガーとしての実力発揮作といえる。 (馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)
自主制作マンガ界の抱腹の王子様
笑いを創造する人を尊敬します。もちろん、その笑いをこちらが受け止めてのことで、過去に誰がどうやって笑わせてくれたかは、有名無名を問わずよく憶えています。 受ける側の笑いの記録として、森卓也『アニメーションのギャグ世界』や高橋洋二&ナンシー関『ヴィンテージ・ギャグの世界』という名著があるものの、結構難しい作業のようで、結局「笑いは儚いもの」という逃げで済ましてしまいま
す。 多くの人が、笑いたがるくせに、その笑いに飽きたがってもいるという現状は何なのでしょう。 ジージャンの両袖を引きちぎったいでたちで国民的人気を得た芸人が、のぼり調子の最中において既に飽きられることをアピールさせてしまう昨今の風潮はおかしなことです。フタを捨ててしまったペットボトルのコーラが「早い段階で甘いだけの水になるぜ」、という彼のうそぶきが、奇し
くも笑いに対する世間の比喩になってしまった訳ですが、でもね、発泡しない甘いだけの水を味わうことこそ、笑いの記録だと思うんですよ。で、ギャグマンガは生まれついての笑いの記録であり、気に入った笑いはいつまでも愛おしいのです。 ライブ中心の芸人は星の数ほど居るのに、自主制作のギャグマンガは少なく、質の良い笑いを追求している作家に出会えると本当に嬉しい。ナマエミョウジという作家を知ったのは最近で、西村ツチカと合作した大傑作『ふーこーめいび』(2012年)が発表されたとき。ネット上で、またコピーをホッチキスで綴じて、こつこつ発表していた人で、今年ついにそれをまとめた『名作集2010〜2012』という分厚い本を上梓。氏の作風はプリミ
ティブでとても可愛い。自分のギャグをサンプリングして別のギャグにリメイクしたり、自作を愛する様子がまた可愛い。ねむちゃん、ミンちゃん、ナル子ちゃんの3人娘が、行手を阻む様々な既成概念と対決する「むにゃすぴ〜」シリーズもたまらなく可愛い。 最近は若い作家が手を出さない、タイポグラフィを用いたギャグ(例を挙げれば「ドラえもん」のコエカタマリンのようなギャグ)の復興とも言える作品が多く秀逸。そのセンスを生かした写真ブログ「空あります」も見て欲しい。最近はナンセンスな絵日記を連作しており、いずれは立派な日記帳に仕立ててくれることでしょう。 憶えておいてもいいでしょう、名字はナマエ、名前はミョウジ。 (足立守正=マンガ愛好家)
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