すでに各関係メディアや「月刊てりとりぃ」誌面等で告知されてきたように、佐野邦彦・責任編集のもと、なんと10年振りとなる「VANDA」最新刊(通巻30号)が4月25日に発売になりました。 思えば今から20年ほど前、渋谷の宇田川町が「ソフトロック」というそれまで耳馴染みのない新しいワードで溢れ、高校生のカップルがロジャニコやトロヴァヨーリのアナログ盤に嬉々と
して群がっていたあの時代、まさにブームとして、ソフトロック関連の60年代のポップスは「新しい音楽」として若いリスナーの胸を打ちました。そして、その音楽がどんな音楽なのか、いつ頃どのように制作/発表されたものなのか、というアカデミックな裏付けが必要とされたとき、若い音楽ファンが経典とした雑誌が「VANDA」でした(もしかしたら当時、VANDA誌に関わられた執筆者/
関係者にとってはある意味うれしくない現象だったのかもしれません。ですが当時宇田川町で働いていた筆者が実際に経験し、感じた事象でもあります)。 以来20年以上が経過し、音楽マーケットも世界的に大きく様変わりしました。くだんの「ソフトロック」も、細分化やカタログの整理が進み、乱暴にひとくくりでジャンルとして断定することが難しい時代になったとも言えます。ですが、佐野さんを始め、本誌に執筆している人々の「音楽への探求心」は何もかわらず、いえむしろ年月を経て益々パワフルに強く大きくなっているようにさえ感じます。「各ライターが、書きたい話題を思うがままに書く」というテーマではありますが、佐野さんご自身が「ここは研究発表の場」と名言されている通り、例えばマ
ニアックすぎて一般の音楽誌ではほぼ掲載される機会のなかった情報/話題が目白押しの1冊です。 圧倒的な情報量を誇る巻頭のアンディー・ウィリアムスの特集、それに続くグレン・キャンベル特集も圧巻ですが、加えて今回の「VANDA」ではてりとりぃ関係者が多く寄稿しています。濱田高志氏による「宇野誠一郎特集」、麻生雅人氏による「50年代中盤以降のボサノヴァ」、関根敏也氏による「韓国ソフトロック事情」、鈴木啓之氏による「エキスポ70関連音盤特集」、宮治淳一氏による「バリー・デヴォーゾン・インタビュー」といった、いずれも「ゴッツイ」原稿が掲載されています。ちなみに当方も60〜65年のファズ・ペダルと英米ポップスの関連を追った「ファズの時代」という原稿を寄稿さ
せていただきました。 掲載内容はこちらのリンクで一覧を確認できます。購入は酒富デザインを通じて通販にて可能です。ご同好の方は是非、ご一読を。 それにしても、ここまでQ数の小さい雑誌を読むのもなんだか随分久しぶりな気がします。90年代には、こうした「熱気に溢れた」ギュウギュウの誌面は沢山あったのですが。 (大久達朗=ファズ研究家)
連載コラム【ライヴ盤・イン・ジャパン】その2
初めからアンニュイじゃないのよ ~いしだあゆみ~
いしだあゆみといえばアンニュイ代表みたいな印象があるが、最初からそういう歌手だったわけではない。68年末の「ブルー・ライト・ヨコハマ」でスター歌手となったのは、実にデビュー6年目。その大ヒットの余波で発売された最初のライブ盤が、69年10月27日、サンケイホールでの初リサイタルを収録した『いしだあゆみリサイタル』だ。船の汽笛のSEではじまり「ブルー・ライト・ヨコハマ」につながる出だしからロマンティックな演出効果で、人気絶頂期ならではの勢いを感じさせる。カヴァーでは「黒いオルフェ」や「いそしぎ」「シェルブールの雨傘」などは原詩で歌われ、この数年後にリリースされる洋画の映画主題歌集の布石ともいえる選曲。「スカボロー・フェア」「輝く星座(アクエリアス)
」はジャッキー吉川とブルー・コメッツとの競演で、後者では張り上げる歌唱法だが声量が足りず、井上大輔に助けられているのが可愛い。トワ・エ・モアの「或る日突然」は佐川満男を迎えてのデュエットだが、佐川が歌詞を間違えるハプニングもそのまま収録。そして「アカシアの雨がやむとき」を聴くと、なるほど、
彼女が西田佐知子の後継として考えられていたことがよくわかる。 このステージでは、ムーディーな唱法と、あゆみ節と呼ばれる小唄調の節回し、さらにビート歌謡的な張ったヴォーカルが混在していて、カヴァーポップスからムード歌謡まで何でも歌っていたが個性が出せなかったビクター時代の残滓とい
えるのかも…。 これが3年半を経過した73年4月26日の、帝国劇場での芸能生活10周年記念リサイタル収録『あゆみオン・ステージ』となると、ビート歌謡スタイルは跡形もなく消え、帝劇という場所柄もあるのだろうが、落ち着いた大人の女性シンガーに完全に脱却を果たしている。「ブルー・ライト・ヨコハマ」も独自のヴァースが加わり、しっとりした歌唱法に変わっているのだ。 この盤は2枚組でMCも収録されているが、選曲や前説の内容も含め、欧州イメージを強調。1曲目に「シェルブールの雨傘」を配し(この盤では日本語詞訳)、持ち歌の「あなたならどうする」に男声スキャットが導入され、「喧嘩のあとでくちづけを」がソフト・ロック的なアレンジに変わっているのもその一環
だろう。逆にもともとその世界観に近い「渚にて」はアレンジをいじることなく歌われている。中ではペドロ&カプリシャスの「別れの朝」が、オリジナル曲ではあまり聴けない低めのキーだけに新鮮で、間奏のアレンジもマカロニ・ウエスタン風なのが異色。また「船頭小唄」が、ヨーロピアン調のアレンジで、原曲
の土着性がデオドラントされているのも斬新だ。 「涙の乗車券」は意外にもカーペンターズ風ではなく、ソウルフルな演奏で、タテノリの唱法に苦戦気味なのが微笑ましい。パワフルな「ムッシュ・ウインター・ゴー・ホーム」や「マンマ」といったシャンソンは、訳詞担当のなかにし礼の選曲だろう。そしてシルヴィ・
バルタンの「哀しみのシンフォニー」やシャルル・アズナブールの「ひとり片隅で」ではドラマチックな語りが印象深く、のちに憑依型の名女優と呼ばれる彼女の、演技力の原石が垣間見られるのだ。キャリアとともに歌唱法をナチュラルに変化させていったことが、2枚のライブ盤を聴き比べると良くわかる。 (馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部) ーーーーーーーーーーーー ■写真上『いしだあゆみリサイタル』演奏は原信夫とシャープス・アンド・フラッツ。「黒いオルフェ」のピアノが上手すぎ!■写真下『あゆみオン・ステージ』演奏は尾藤&コンソレーション・ウィズ・ストリングスで、バンマスとアレンジは前田憲男。あの「恋は気分」のポピーズもダンサーで参加。
ジャズに親しむ3日間
JAZZ AUDITORIA 2013
4月の28日(日)から30日(火)までの3日間、ジャズ・オーディトリア2013と題された入場無料のジャズ・イベントが、東京・神田淡路町ワテラスにて催される。このイベントはユネスコ親善大使をつとめるピアニストのハービー・ハンコックの提唱により、ジャズを通じて世界のさまざまな文化に対する理解を深め、全世界195のユネスコ加盟国をはじめ、未だ十分に教育を受けられる環
境にない地域に住む少年少女たちに、ジャズを伝えていくことを目的とし、ユネスコが毎年4月30日を〝インターナショナル・ジャズ・デイ〟と制定したことを受けて、その主旨に賛同し
企画・開催(後援は外務省、文部科学省、環境省、東京都ほか)されるもので、なんと入場無料というジャズ・イベントだ。 とはいえ「より身近に、より気軽に。家族や仲間とともにライヴ・ミュージックを楽しみ、ジャズを通じて世界の文化に触れる」ことを第一義に開催される本イベントは、入場無料という敷居の低さもさることながら、注目のステージがズラリとならんだ豪華なジャズ・イベント。28日には若手ジャズ・ギタリストの小沼ようすけ、そしてエリック宮城率いるブルーノート
東京オール☆スター・ジャズ・オーケストラ(ゲスト・ピアニストとして小曽根真も参加)のステージが繰り広げられる。29日(月/祝)にはフライド・プライドや渡辺貞夫クインテットが、そして30日(火)にはグラミー賞獲得等で知られる秋吉敏子ジャズ・オーケストラ(ゲストでルー・タバキンも参加)が限定復活。気軽にジャズに触れてみたいという方にも、または熱心なジャズ・ファンの方にとっても見逃す手はない、というゴージャスなイベントとなることは間違いないだろう。(文・編集部)
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