2013年9月13日(金)

ヒトコト劇場 #28
[桜井順×古川タク]








紙箱の中に広がるジオラマ
浮世絵、名画からキャラクター、レコジャケまで


 ミュージアムショップやデザインショップで見たことありませんか? 紙のボックスの中に北斎や広重の浮世絵が立体的に浮かび上がってくるようなペーパークラフトを。その名を「立版古/TATEBANKO」と言います。
 これは江戸時代に錦絵のなかの「おもちゃ絵」のひ

とつとして楽しまれた「立版古」(江戸では組上げ絵とか切り組燈籠と呼ばれていた)が元になっています。「立てる版古(錦絵)」という名の通り、絵柄が印刷された紙からパーツを切り抜いて組み立てると、平面だった絵がとたんに立体的に。江戸から明治時代には、歌舞伎の名場面や名所、風物

などがモチーフの中心で千種類以上もつくられていたとのことですが、大正時代あたりを最後にほぼ消えてしまったそうです。
 それを現代によみがえらせたのがイッツアビューティフルデイの竹村日出昭さん。「元々『ペーパークラフト』の愛好家でヨーロッパの物なども蒐集していて、

元祖立版古の『単純さに反しての視覚効果』や『誇張されたパース』の不思議さ、面白さに魅了されました。しかし立版古の現物は入手困難(高価&レア)。そこで自己流で遊びがてら作ってみると、これが意外なほど
面白く、暇に任せていろいろな作品を加工しては一人で楽しんでいました」。その一人遊びをアメリカのバイヤーに見せたところ、大変興味を示したことから商品化を試み、まず欧米での販売を始めたそう。
 竹村さんが商品化している「立版古/TATEBANKO」には従来の浮世絵だけでなく、「見慣れた絵がジオラマ状になったら面白い」という気持ちで始めた、ゴッホやダリ、ムンクの名画や手塚治虫、水木しげるなどの作品もあります。本来「原作品を加工するのはNG」というケースが多

い名画も、版権元にダミーを送ってプレゼンすると興味を示し、ワールドワイドでの許諾をしてくれるところもあったとか。
 さて9月下旬に発売される新作はビートルズの「アビイ・ロード」。こうして見るとなんと立版古向きなのでしょうか。「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の立版古化も計画中だそうで、ますます展開が楽しみです。レッド・ツェッペリンの「聖なる館」とか、立版古向きだと思いますが、どうでしょうか?
(吉田宏子=ハモニカブックス発行人)
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●ビートルズ「アビイ・ロード」(1050円/税込)はディスクユニオンなどで販売予定。●発売(有)イッツアビューティフルデイ●公式HPはこちら



Motor City Has Burned Out
米国音楽のダイナモ、デトロイト失速(後)

 クリント・イーストウッドは、間もなく、最新作『JERSEY BOYS』の撮影に入る。フォー・シーズンズを題材にしたヒット・ミュージカルの映画化、ファンとしては大いに楽しみだが、この時期に飛び込んできたデトロイト破綻のニュース。監督も気が気でないだろう。しかし、モーター・シティの行く末を案じているのは、彼だけではない。

 デトロイトの破産宣告に複雑な思いを抱いた音楽ファンは少なくないはずだ。個人的には、まずスージー・クアトロやグランド・ファンク・レイルロード(近郊のフリント出身)が、分かり易いロックで洋楽への扉を開いてくれた。テッド・ニュージェントとプロレスラーのブルーザー・ブロディが、ともにデトロイト生まれと聞いて、妙に納得させられた。ミッチ・ライ

ダー&デトロイト・ホイールズ、MC5は、いまでも良く聴いている。ちなみに、今年、バンド結成40周年を迎えたキッスは、デトロイトから人気に火が付き(火を吹き?)、同市アンセムも歌っているが、元々はニューヨーク出身。10月に来日が予定されている。
 しかし、何と言ってもデトロイトは、戦前から50年代にかけてのブルース、そしてモータウンやインヴィクタス/ホットワックス、その他マイナー・レーベルが隆盛を誇った60年代のソウル、さらに70年代のP・ファンク、80年代のテクノと、常に刺激的な音楽を生み出してきた、アメリカ黒人音楽の聖地である。まだブルースを聴き始めたばかりのころ、ブルース・クラシックスの12番で知ったワン・ストリング・サム。日本の一弦琴を思わせる手作

り楽器を鳴らしながら「百ドル要る」と訴える。彼のような無名ブルースマンから人気者ジョン・リー・フッカーまで、ヘイスティングス・ストリートに軒を連ねるバーやジューク・ジョイントが賑わっていた50年代には180万人に達してしたデトロイトの人口は、

いまでは半分以下の70万人に激減したという。
 デトロイトの破綻は、決して対岸の火事では済まされない。産業構造の空洞化と人口減少は、企業城下町と呼ばれる日本の都市、さらには日本全体にとっても、一刻の猶予も許されない喫緊の課題だからだ。州知事自ら「60年にわたる衰退」と認めたように、何ら有効な対策を講じることなく、凋落を招いた政治の責任は重い。すでに25年前、88年に英10レコードから出たテクノ編集盤の解説には、中心人物デリック・メイのこんな言葉が記されている。「工場が閉鎖され、人々はさまよっている」「昔ながらの工業都市デトロイトは跡形もなく、社会構造は崩壊してしまった。いまでは、アメリカの殺人首都だ」。
(吉住公男=ラジオ番組制作)