[桜井順×古川タク]
連載コラム【ライブ盤・イン・ジャパン】その10
男の子はロックンロール!~あいざき進也&荒川務
昨今のアイドル・ブームで70年代の女性アイドルはクロニクル的に語られることも多いが、男性アイドルとなると、トップクラスを除いては昔から歌謡曲でも冷遇ジャンルなのだ。ライヴ盤まで出た人となるとさらに限られるが、その中で突出して面白いのがあいざき進也の『JUMP ON STAGE』。 何しろA面が凄い。冒頭から「クリムゾン・キングの宮殿」とグランドファンク・レイルロードの(というかタイガースのカヴァーがお手本)「ハート・ブレイカー」。続く「ユー・キープ・ミー・ハンギング・オン」はヴァニラ・ファッジ版で。さらにスティーヴィー・ワンダーの「悪夢」、ユーライア・ヒープの「対自核」って何なの!? 選曲はバックをつとめるMMPの意向も強そうだが、ここ
まで来ると確信犯、こんなに極端なロック指向のアイドルも珍しい。こなれてない曲もあるが、彼のひっくり返り声は官能的で、高いキーがハードなナンバーと相性がよく独特のワールドに引き込まれるのだ。 「ゼンマイじかけのカブト虫」「ハトが泣いてる」「白い船」と井上陽水のカヴァーが3曲も。A面はあ
まりにマニアックな選曲のせいか、観客の女の子たちの歓声も引き気味なのが可笑しい。未収録だがステージでは「氷の世界」や「エピタフ」もやっていたとか。B面は自身のヒット曲だがこちらはさすがに上手い。 あいざき進也は渡辺プロのロカビリー~GSの系譜にあり、シングル曲もロックンロール・スタイルが主
流。本盤の「愛の誕生日」「想い出のバイオリン」などのステージ歌唱では彼のGS的資質もよくわかる。切迫感のある声質、運動神経の良さから来る抜群のリズム感と瞬発力、自然体でロックンロールになるヴォーカルなど、もっともっと評価が高くていいと思うのだが。前に紹介した伊丹幸雄の後継でもあり、「恋のリクエスト」などはチェッカーズの前哨戦ともとれる。ただ、A面のロック・カヴァーとB面のオリジナル曲でのロックンロールの乖離は象徴的で、70年代前半、日本で10代の男の子が歌う場合は、ロックと言うとオールディーズになってしまうのは致し方ない。こういう構成もタイガースらGSからの伝統なのだが。 ※ もう1枚は今や劇団四季の幹部・荒川務の『つとむ
・オン・ステージ』。デビューが中学2年生、この公演時でまだ高校1年である。15歳だよ!? 自分が同じ年の頃、堂々と人前でこんなことできただろうか、その1点だけでも感動である。 前半は「ダンス天国」「ダイアナ」などが歌われ、ここでも男子アイドルはロックンロールが定番。「ハウンド・ドッグ」での英語
詞や「ジョニー・B・グッド」のモタつき具合とか凄いものがあるけれど、その必死の頑張りも込みで楽しむべきでしょう。 荒川務は声がフツー過ぎるので、あいざき進也のように先鋭のロックには対応できないが、それはバックがバンドとオーケストラの違いもあるだろう。逆に、平岡精二とブルー・シャン
デリアの「洋子ちゃん」という激シブなカヴァーでは、こういう語りのような歌が意外にハマっていて、後年の舞台役者での成功を思わせる。B面のヒット・メドレーはさすがに力強く、スタジオ録音よりロック度数が高まりノリもいい。男の子アイドルも歌っているうちに上手くなるのだ。 (馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部) ーーーーーーーーーーーー 写真上●あいざき進也『JUMP ON STAGE』。75年6月大阪フェスティバル・ホールでの収録。演奏はMMP。 写真下●荒川務『つとむ・オン・ステージ』。75年8月10日中野サンプラザホールでの収録。演奏は高田達也と東京ユニオンオーケストラウィズストリングス。
「かぐや姫」の物語(前編)
おととし3月、ウルトラ・ヴァイヴから発売された2枚組CD『ABCホームソング大全』。ディスク1の6曲目、河井坊茶「かぐや姫」は、過去何度か行われたリスナーの人気投票でも常にトップを譲らない、ABCホームソング最大の人気曲である。作者の三木鶏郎自身も愛着があるようで、全レパートリーから自選したベスト5に、この曲を挙げている。 三木鶏郎は11曲のABCホームソングを残しているが、「かぐや姫」は、昭和29年12月放送「ダイヤのキングのサンタ・クロース」、前述のCDにも収録された昭和30年4月放送「ごぞんじかい?しってるかい?」(どちらも歌は中村メイコ)に続く、3曲目の作品。前2曲は、サトウハチローの詞だったが、竹取物語を題材に、この曲で初めて作詞
も手がけた。昭和30年9月1日に放送が始まると、たちまち大きな反響を呼び、通常2週間のオンエア期間を延長、結局、9月の1カ月間、放送が続けられた。 翌月、朝日放送の「ABCホームソング」放送開始(昭和27年9月)から通算500回、さらに東京・ニッポン放送のネット開始から1年を迎えるのを記念し
て、番組の登録会員向けに自主制作のSP盤がプレスされた。A面は『大全』収録のオーケストラ・バージョン、B面は、これまでベスト盤に収録されてきた伊藤翁介の伴奏によるギター・バージョンのカップリング。「かぐや姫」は、5人の求婚者の逸話をもとに5番まで歌われるが、収録時間の制約で、A面は4番が、
B面は3・4番がカットされている。「かぐや姫」の人気はさらに加熱し、SP盤に続いて、この曲を下敷きにした音楽劇の制作が急遽決定。三木鶏郎が脚本と音楽を手がけた、芸術祭参加番組「庶民のためのオペラ:かぐや姫」が11月27日に放送された。 「吟遊詩人・語り手」の河井坊茶が歌う「かぐや姫」(ギター・バージョン)に導かれ、かぐや姫の誕生から月への帰還まで45分間にわたるトリロー版・竹取物語、とにかく楽しい。主役の雪村いづみ(当時18歳)がキュートな魅力を振りまけば、伊藤武雄、市村俊幸、柳沢慎一ら芸達者が脇を固める。高英男を亡霊役に起用した先見の明。トニー谷、フランキー堺、旗照夫、ダーク・ダックス、服部リズムシスターズを加え、繰り広げられる和洋折衷ミュー
ジカルは、まさに三木鶏郎の真骨頂だ。「イエロー・サブマリン(音頭)」を思わせる波音のSEと船員のかけ声をバックに、トニー谷(車持皇子)が歌う。「滝、滝、滝は 鳴神上人 ナイアガラ」(!) 既発のベスト盤には、編集されたダイジェスト版が収められているが、これは、
ぜひ全編を通して聴いて欲しい。幸い、完全音源に加え、台本、スコアなど関連資料も現存している。三木鶏郎の生誕百年、没後20年を迎えた2014年、「庶民のためのオペラ・かぐや姫」の再放送、音盤化が望まれる。 (吉住公男=ラジオ番組制作)