[桜井順×古川タク]
【LOVE SOUNDS STYLE】温か味たっぷりのイージーリスニング・サウンド
2004年にリリースされた国内録音によるイージーリスニングのコンピレーション「ラブサウンズ・スタイル」シリーズから10年ぶりに続編がリリースされた。今回はキングレコードに残された膨大なカタログの中から、「イージーリスニング篇」「ポップス篇」「シネマ篇」「バート・バカラック作品集」「フラン
シス・レイ作品集」の5タイトルが編まれている。 「イージーリスニング篇」は、ポピュラー・スタンダードや映画音楽などの楽曲をピックアップ。「ビギン・ザ・ビギン」はハープ・ギタリストのポス宮崎率いるコニー・アイランダースの演奏。ハープ・ギターは、宮崎が考案したスチール・ギターの一種。「キス」や
「セ・シ・ボン」のアンサンブル・リオンソーは、秋満義孝のピアノ・コンボ。秋満は、テイチクにも秋満義孝とクインテット名義で多くのイージーリスニング作を残している。ヴィブラフォンとシロフォンの音色が心地良い「朝の調べ」は、平岡精二作曲によるフジテレビ「小川宏ショー」の主題歌。平岡精二クインテットとして同番組に出演もしていた。また、平岡精二とインヴェンティヴ・サウンド名義でもキングレコードにイージーリスニング系の音源を残している。レオン・ポップスはキングレコードのレーベル・オーケストラで、コンボ編成の時はオールスターズ・レオン名義を名乗る。レオンとはラテン語のライオンの意味で、キングレコードのライオンマークに由来したネーミング。レオン・ポップスはギ
ターをうまく取り入れる石川皓也が、レオン・グランド・オーケストラでは流麗なストリングス・サウンドを生み出す南安雄が編曲を務めており、サウンドを棲み分けている。 「ポップス篇」は英米やフレンチ・ポップスの楽曲をカヴァーした楽曲をピックアップ。「恋はリズムにのせて」の大沢保郎とプレイメイツは、東芝音工(現:ユニバーサルミュージック)の「今宵踊らん」と並ぶ社交ダンス・シリーズの「ダンス専科」を多く担当。同シリーズは、鈴木邦彦とビートポップス、小川寛興とプレイメイツなども担当していた。「夢見るシャンソン人形」の猪俣猛とウエスト・ライナーズは、モダン・ジャズ作品をキングレコードに残しており、猪俣猛のドラムをフィーチャーしたイージーリスニング作
品は、はらだたけしと彼のグループ名義で録音された。猪俣は、同系統の作品を日本クラウンでは、ありた・しんたろうとニュー・ビート名義で録音している。ブラスがモダンな雰囲気をかもし出している「黒いオルフェ」は、リッキー中山率いるアイビー5による演奏。中山は、のちにリッキー&960ポンドを結成した。
当時開発された電子オルガンを使用したイージーリスニング・アルバムも多く制作されている。日本初の電子オルガンとなった日本ビクターによるビクトロン、現在でも人気の日本楽器(現:ヤマハ)によるエレクトーン、ライバル河合楽器によるドリマトーンなど、さまざまなメーカーの楽器をフィーチャーしたアルバ
ムが制作された。芥川也寸志夫人の江川真澄は初期のエレクトーンの代表的プレイヤーの一人。「すてきな王子様」は、スリー・グレイセスのコーラスをフィーチャーして、ほかの電子オルガン・アルバムには無いサウンドを生み出している。田中正史のエレクトロニック・オールスターズ・アンド・ブラスによる「ぼくの伯父さん」でも電子オルガンをフィーチャー。同時期に日本コロムビアから、明治大学マンドリン倶楽部による同曲のイージーリスニング・カヴァーも制作されており、こちらのトラックも人気が高い。 「シネマ篇」は、独自にカヴァーされた映画音楽をピックアップ。長らくオリジナルのサウンド・トラックと思われていた「女と男のいる舗道」は、ロジェ・フランス楽団による名義で、
尾田悟による覆面オーケストラ仕事の一つ。キングレコードにはほかにも、スクリーン・ランド・オーケストラ(あかのたちお)、ゴールデン・ポップス(鈴木敏夫)、ルネ・クレール・オーケストラ、ケニー・ウィルソン・オーケストラ、リチャード・ハミルトン・オーケストラ、ヘンリー・キング・オーケストラなど
の覆面オーケストラが残されており、尾田悟は、本作に収録された「続・殺しのライセンス」などの尾田悟と彼のグループ名義や、バートラム・チャペル・オーケストラ名義でもキングレコードに作品を残している。 「バート・バカラック作品集」と「フレンシス・レイ作品集」は、作曲者をフィーチャーしてコンパイル
した作品。「恋よ、さようなら」や「パシフィック・コースト・ハイウェイ」の斉藤英美ブラス・リズム・セクションによる演奏は、ギターに神谷正行、ベースに金子博、ドラムスに浜崎博三が参加しており、オルガン・カルテットとして聴くことも可能だ。「去しり時を知って」や「マドレー」の猪俣猛とサウンド・リミテッドは、近年の和ジャズ・ブームで再評価著しいコンボだが、ここではMORな雰囲気たっぷりのサウンドを生み出している。「恋するメキシカン」での、ニューロック感たっぷりのディストーション・ギターは、水谷公生。グルーヴィーな「狼は天使の匂い」の上田力とキャラバンは、編曲家の上田力によるコンボ。彼は「ゴーゴー大パーティー」シリーズにも録音を残しており、70年代末からは、上
田力とパワーステーション名義に改名、キングレコードほかでクロスオーヴァー系のイージーリスニング作品を複数残した。 どの作品も、オリジナルの楽曲をリスペクトしながらも、一般のリスナーにも聴きやすく、心使い感じられるアレンジは、日本人編曲家ならではのもの。広いスタジオでの同時録音が可能だったからこそ生まれたサウンドは、現在生み出そうとしてもなかなか同じような質感にはならない。あの時代だからうまれた、温か味たっぷりのイージーリスニング・サウンドにたっぷりと浸ってほしい。 (ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト) ●ラヴ・サウンズ・スタイル イージー・リスニング編/ポップス編/バート・バカラック作品集/他全5種 発売中
ユダヤと味噌かつ
先日、所用で東京駅に行った際、名古屋・味噌かつの名店である「矢場とん」を偶然見つけた。丁度夕食時だった事もあり、久しぶりに本場の味を堪能した。銀座にある東京一号店は、一時よく通ったのだが、アクセスがちょっと不便な事もあり、最近は御無沙汰していた。昨年9月にオープンしたこのグランルーフ店は、完全駅近で、アクセスも申し分ない。これで、味噌煮込みうどんの「玉丁本
店」に加え、気軽に立ち寄れる名古屋食の店がもう一つ増えた。 さて、この味噌かつにかかっている甘辛い赤味噌ベースのたれだが、結構好き嫌いが分かれる様だ。和食のコースの最後に出てくる赤だしは好きという声は聞くが、味噌かつにかかっているあの味噌たれが大好きという声は東京では中々聞かない。しかし、よく考えると、味噌おでんや田楽にかかっている赤味噌と変わ
らないのだから、殆どの人がその美味さは体験済みのはずである。また、かつと味噌のコラボレーションがヘビーと言う人も多いが、その味噌だれは、単に赤味噌だけではなく、酒、味醂、だし汁、砂糖(黒糖)等を程良くブレンドし、かつを食べ易いように工夫された味付けになっている。 最近「名古屋いい店うみゃ~店」(文藝春秋)という名古屋食のガイドブックを入手したが、そこに驚くべき事実を発見した。赤味噌の一種である八丁味噌は、米国のユダヤ人協会から、その栄養価が高く評価され、正式にユダヤ教食に取り入れられているというのだ。その老舗「まるや八丁味噌」によると、八丁味噌は植物性不飽和脂肪酸が多く含まれ、大豆蛋白質も良くアミノ酸に分化されていて、消化吸収の良い栄養食品との
こと。添加物も含まれない生きた自然食品ということで、近年、米国のみならず欧州でも評価が高まっているらしい。 こんな事を書いていたら、名古屋ではポピュラーな卓上味噌、ナカモの「つけてみそかけてみそ」が欲しくなり、近隣を探し求めたが残念ながら、見つからなかった。こんな栄養価の高い味噌という事実を知ったなら、東京の食卓に常備される日も近いのではなかろうか。ああ、それより、無性に味噌かつが喰いたくなってきた。明日は江戸川橋に行くから、三好弥だな。 (星 健一=会社員)
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