てりとりぃ放送局アーカイヴ(2014年7月25日〜8月8日分)

 暑いスね。夏生まれのクセに夏の暑さが大嫌いという当方は、あらゆる手段を使って涼を得ようと努力します。そんなささやかな「生きる術」のひとつがネオアコ。ええ、ベタですが、なかなか効きます。万人にその効能を保証するものではありませんが、暑苦しい日々に暑苦しい音楽を堪能するのはやっぱり大きく体力を消耗します。それにしてもこのネオアコ特有の圧倒的なモラトリウム感覚。涼しいを通り越して薄ら寒くさえなりますね(笑)。(2014年7月25日更新分/選・文=大久)

Fantastic Something / If She Doesn't Smile (I'll Rain) (1983)

 チェリーレッドから発売された唯一のシングル曲。この曲が「80年代のS&G」と評判を呼び、一躍ネオアコの期待の星となったファンタスティック・サムシングはギリシャ生まれ、アメリカ育ち、イギリスで音楽活動を行なった双子の兄弟デュオ。2年後にメジャーのBLANCO Y NEGROからアルバム1枚を発表し、そちらも「名盤」として有名ですね。いやーそれにしても「青々しい」。
Fantastic Something / The Night We Flew Out Of The Window (1985)

 で、その名盤(とはいえ、そう思われているのは日本だけですが)からのシングル曲。そんなネオアコ・ファンの人気が後押しする形で今は本盤もめでたくCD化。さらにはなんと2001年に彼らは復活再結成を果たし、スペインのシエスタ・レーベルからミニ・アルバムを発表。中身が20年前とまったく変わらない、という相変わらずのモラトリアムっぷりを見せてくれました。
The Colourfield / Thinking Of You (1985)

 テリー・ホールという人のポップ・センスは、彼の最も有名なキャリアでもあるスペシャルズ作品ではなく、カラーフィールドのほうで存分に発揮されています(個人的にはその後のテリー・ブレアー&アヌーシュカというユニットの方もプッシュしたいところではありますが)。
The Wallflowers / Thank You (1987)

 同名でボブ・ディランの息子さんが在籍するバンドが米にありますが、こちらは英国のバンドのほう。83年結成、アルバム1枚を制作するも未発表のまま(後に2012年に発売)87年にバンドは解散、というウォールフラワーズは、ザ・スミスの前座を務めたバンドとしても知られますが、こちらの曲は2枚目のシングルで、プロデュースはXTCのアンディー・パートリッジ。ん、やっぱりそうか、っていう音になってますよね(笑)。

The Impossibles / How Do You Do It? (1990)

 ネオアコ界では有名な曲ですが、グループに関してはロクなことが判っていません。女の子2人組のインポッシブルズは90年にシングル3曲のみを発表していますが、こちらは彼女達の作品としては珍しいキャンディー・ポップなネオアコ曲。本盤収録の他の曲はマイブラのケヴィン・シールズ先生のプロデュースで、ダイナソーJRのカヴァーが入ったりしてます。

The Trash Can Sinatras / Obscurity Knocks (1990)

 個人的な想いを書いてしまえば、「ネオアコ」ってやつは1990年に打ち止めになった気がしています。というのも、ネオアコ究極のアルバムが発売されてしまったからです。異論の余地は重々承知しておりますが、是非本作よりも「ネオアコしてる」作品があればご教示いただきたいな、と。さて、実は今回あえてアコースティックな音のものばかりを選んでみましたが、次回はネアオコとは切っても切りはなせないジャンルでもある「ギターポップ」を特集しちゃいます。まだまだ暑いですもんね。



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  前回の「ネオアコ」に引き続き、今回は「ギターポップ」を特集してみます。とはいえ、その2つの間に音楽性の違いはありませんし、リスナーも線引きをせずに楽しんでいるハズです。だいたい「ネオアコ」も「ギターポップ」も日本でしか通用しないジャンル名なので、まあ細かいことは考えなくていいと思われます。今回はアコースティック楽器の音色が目立たないけど、ネオアコ〜ギターポップのスタンダードとなった楽曲ばかりを集めてあります。(2014年8月1日更新分/選・文=大久)


Anthony Adverse / Maria Celesta (1988)

 チェリーレッド/エルのお洒落女番長、アンソニー・アドヴァース。デビュー・アルバム『RED SHOES』(もちろん有名なアンデルセン童話「赤い靴」をモチーフにしたコンセプト作品)収録の1曲。アンソニー・アドヴァースは芸名で、本名ジュリア・ギルバートという女優さん。レコード・デビューにあたり、エルのマイク・オールウェイが「場末のバーで歌う無国籍シンガー」という設定を考えたため、この芸名となったそうです。

The Wild Swans / Bible Dreams (1988)

 元ティアドロップ・エクスプローズのポール・シンプソンが新たに結成したバンド、ワイルド・スワンズ。リバプール出身で、そのメンバーはエコバニともカブりあり。さらにはイアン・ブロウディー(後にライトニング・シーズを結成)も参加していました。彼らはメジャーで2枚のアルバムを発表したのみで解散しますが、なんと2011年に5日だけ再結成しライヴを行なっています。当時とかわらず彫りの深い美青年っぷりにビックリ、ですね。

Heavenly / Our Love Is Heavenly (1990)

 ヘタクソ。インディー臭プンプン。サラ・レーベルの音はいつもそんなケツの青いカンジですが(笑)、それでもここまでキラッキラに光る楽曲が多いのは何故なのでしょうか。いわゆる「C86」(音楽誌NMEがコンパイルした、ギターポップの名盤コンピ)以降を象徴するバンドでもあうヘヴンリー。メンバーの一部は90年代末にウッドビーグッズ(チェリーレッドのガール・ポップ・バンド)に参加しています。


Blueboy / Clearer (1991)

 こちらもサラ・レーベルの人気曲。89年結成、自宅録音したこちらの「クリアラー」でサラよりあっさりとデビュー(笑)したブルーボーイ。90年代末までバンドは活動を続けましたが、ボーカルのキース・ガードラー氏は04年にガン告知を受け、07年に若くして亡くなっています。そういえば90年代当時、サラのアルバムは日本ではクワトロ・レーベルから発売されていましたね。

Sixpence None The Richer / There She Goes (1999)

 すでに90年代ネオアコ〜ギタポの世界では避ける事の出来ない名曲にラーズ「THERE SHE GOES」がありますが、同曲は99年にアメリカのシックスペンス・ノン・ザ・リッチャーによってカヴァー・シングルが発表されています。シックスペンス〜はこのシングルの直前に発表した「KISS ME」というナンバーでブレイクし世界中に愛されたグループですが、04年に解散しています。米クリスチャン音楽畑出身であるにもかかわらず、クランベリーズや(ラフトレの)サンデイズに影響を受けたんだそうです。

Roddy Frame / Oblivious (BBC Review Show 2013)

 さて最後はネオアコ〜ギタポの永遠の1曲、アズカメ「OBLIVIOUS」の最新動画。もちろん1983年の名盤『HIGH LAND HARD RAIN』収録のネオアコ教典曲ですが、昨年アルバム発売30年(!)を記念してロディー・フレイムは同作を全曲披露するツアーを行なっています。動画はその宣伝を兼ねた英BBCのTV番組に出演した時のもの。いやー、半音下げになってることと頭頂部を除けば、ホントにモラトリアム青年。何も変わってないことに驚きです。ネオアコの鏡、ですね。

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 ええ、絶対どうかしてたんです(笑)。1990年・イギリスの夏。明らかにオカシイ事が起こっていました。もちろんそれ以前もそれ以降も、いろいろと複合的に物事は進みますから「ああハイハイあれね、要因はアレで、その後コレコレこういう事なんですよお」と訳知り顔で端的に説明できるものではありません。しかし24年を経た今振り返れば、ん、なんかオカシイよねコレ、と誰にでも判る(笑)1990年夏の一大ブーム「MADCHESTER」を特集します。(2014年8月8日更新分/選・文=大久)


Candy Flip / Strawberry Fields Forever (Mar. 1990)

 90年3月に、いきなり全英3位を記録したキャンディーフリップのデビュー曲。もちろんビートルズのカヴァーですが、この曲の登場はそのまま「セカンド・サマー・オブ・ラヴ」の到来を告げるものとなりました。ちなみにCANDY FLIPとはドラッグ嗜好者の使うスラングで、LSDとMDMAを同時服用した時に起こる現象を指します。つまり、明らかにソレもんの曲なワケです。
Candy Flip / This Can Be Real (Jun. 1990)

 おまけ的になりますが、彼らの次のシングルもご紹介。同年末に発売されたフリッパーズ・ギター「SLIDE」のネタ曲として知られますが、実際にはそれほどは似ていません。ただし、このムードをFGのお二方が模倣したことは事実でしょう。キャンディー・フリップは翌年解散。その後バラバラで音楽プロデューサーとして成功を収めています。

Soup Dragons / I'm Free (1990)

 86年デビューのグラスゴー出身バンド、スープ・ドラゴンズ。別に彼らだけに限らないんですが、この年の夏、あらゆる英国のバンドがこんなクラブ・オリエンテッドな音を出そうとヤッキになっていました。曲はもちろんストーンズのカヴァーで、全英5位の大ヒットになりました。
DNA Feat. Suzanne Vega / Tom's Diner (Jul. 1990)

 ご承知のように、オリジナルは84年1月発表の、スザンヌ・ヴェガのフォーク・ソング。そちらは日本ではコーヒーのTVCMソングとして馴染みがありますが、世界的にはそんなに有名ではありませんでした。が、90年にニック・バット&ニール・スレイトフォードという2人組DJコンビ(=DNA)がリミックスを制作。ブートの時点でラジオ界隈で大きな話題となり、公式リリースされるやいなや全英2位の大ヒットとなっています。
The Dream Academy / Love (Dec. 1990)

 最後もビートルズ関連のカヴァーで。90年の「マッドチェスター」は60年代末のフラワー・ムーヴメントになぞらえて形容されがちですが、実際はもっと音楽的なブームでした。それはむしろ褒められるべきですが、もっと非難されるべきは悪質なハードドラッグが若者の間に蔓延したことでしょう。80年代のネオ・サイケ界隈で人気のドリーム・アカデミーはこのジョン・レノンのグラウンドビート・カヴァーを最後に解散。メンバーはその後アジアやアフリカへ放浪の旅に出ています。


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