てりとりぃ放送局アーカイヴ(2014年8月15日〜8月29日分)

 音楽のレシピ特集・第三弾。先に解答をバラしておきますが、今回はプライマル・スクリーム「LOADED」のレシピです。以前当欄で特集した「MADCHESTER」ムーヴメントの筆頭に挙げられる曲ですが、当方の場合この曲のことを書き始めると長くなるので、こちらに分割しました(笑)。「これは実験としてやってみただけ。別にこの路線に執着したワケでもないし、失敗したところで失うものは何もなかった。結果大成功したけど、それを狙ったワケじゃない」とは2011年にこの曲を回想したボビー・ギレスビーの証言。それではいってみましょう。(2014年8月15日更新分/選・文=大久)

Primal Scream / I'm Losing More Than I'll Ever Have (1989)

 まずは元素材。89年、バンドの2作目『PRIMAL SCREAM』収録曲で、70年代のロックを思わせるようなダルでムーディーなレイドバック・ナンバーでした。ちなみにこの2作目のアルバム、バンドもレーベル(クリエイション)も完成直後に「ロックの最高傑作だ!」と興奮したそうですが、セールス的にはサッパリ、という結果に終わり、皆落胆したとのことです。90年の「LOADED」はこの曲のリメイク、となります。

Peter Fonda on "The Wild Angels" (1966)

 で、リメイク用に新たな材料を用意。ピーター・フォンダが『イージーライダー』の直前に出演したバイカー映画『WILD ANGEL』の最後のほうの一部。『イージー〜』のほうがシリアスなアメリカン・ニューシネマだったのに対し、こちらは完全B級不良バイク映画でして(笑)。でもね、この映画最高なんです。実は、全く同じパートを1988年に米グランジ・バンドのマッドハニーが「IN 'N' OUT OF GRACE」で使用しており、おそらくプライマル・スクリームもそこからアイデアを得たのではないか、と思われます。

Emotions / I Don't Wanna Lose Your Love (1976)

 次の素材はプライマルとは無縁のようにも思える曲が登場。エモーションズの名作『FLOWERS』収録曲ですが、永遠のディスコ・クラシックスとしても有名ですね。ハイトーンでピッチの高いコーラス部分が「LOADED」では引用されています。今の時代ならパソコンでピッチその他の処理が簡単に出来るのですが、90年当時はまだサンプラー機材を使っての処理でした。お互いの曲のタイトルから引用することを思いついたのでしょうが、そのセンスにはホント脱帽です。

Edie Brickell & The New Bohemians / What I Am (White Label Remix / 1989)

 80年代末にリズミックでファンキーなアコースティック・フォーク曲「WHAT I AM」がヒットを記録したエディー・ブリッケル(彼女はその後、ポール・サイモンの奥さんになりましたね)率いるニュー・ボヘミアンズ。動画の曲はそのリミックス曲です。いわゆる白盤リミックス、つまり正規リリースされていない音源です。このリズムパターン、誰が作ったのかいまだに不明ですが、同じ音源が同89年に発表されたソウルIIソウル「KEEP ON MOVIN'」でも使用されていました。つまり、このパターンは屋敷豪太氏あたりが作り出したっていう可能性もあるわけで・・・

Primal Scream / Loaded (Mar. 1990)

 さて、レシピ完成となります。元曲をギッタギタに切り刻み、調理人アンディー・ウェザオールによって元の形もまったく判らないほどにリミックスされ完成したのが本曲。こちらを収録したバンドの3作目『SCREAMADELICA』は彼らの代表作になってしまうという逆転現象を起こしたのみならず、その年最も衝撃的な名作として今も語り継がれていますね。余談になりますが、動画中改造チョッパーを走らせるシーンがありますよね。プライマルのメンバーにこのバイクを売った人が先日とある掲示板にて「あれ作るのに丸2年かかったんだよなあ。16年ソレを乗り回してからその後彼に売ったんだけど、売らなきゃ良かった」なんてことをブチまけていました(笑)。



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 まだまだ夏が続きますねー。暑いことが脳内を占めるという日常は決して楽しいものではないのですが、それと相反して「夏っぽい曲を考える」のはナカナカ楽しい作業でもあります。で、今回は「ファンカラティーナ」特集。ラテンでファンクなのに英国産、というとても珍しい音楽ジャンルになりますが、当時も今も、いつ聞いてもなんてバカっぽい音楽なのでしょうか。最高です。(2014年8月22日更新分/選・文=大久)

Modern Romance / Everybody Salsa - Ay Ay Ay Ay Moosey (1981)

 コミック・バンド出身、その後79年にクリサリスよりメジャーデビュー、80年にレーベルを移籍すると同時にサルサ色の濃いポップ・ファンク路線に移ったモダン・ロマンス。彼らの大ヒット曲2曲をメドレーにした動画となています。ちなみにグループは85年には空中分解してしまいますが、その晩年にはバルチモア「TARZAN BOY」のカヴァーも発売しています。

Blue Rondo A La Turk / Me And Mr Sanchez (1981)

 80年代初頭のUKファンカラティーナ・ブームの筆頭に挙げられるブルー・ロンド・ア・ラ・ターク。ええ、スタイル・カウンシルがデビューした時に「ブルー・ロンド〜の真似」と音楽誌が揶揄したことを、当方は今でもしっかり覚えていますよ(笑)。このグループはその後分裂し、後にマット・ビアンコへと発展することになりますが、ブルー・ロンド〜時代にはもう一曲「CARIOCA」という名曲もあります。

Linx / Intuition (1981)

 「イカネバの娘」という凄いタイトルの曲を持つ、同じ名前(読み)のアイドルグループが日本にいますが(笑)もちろん関係ありません。UKソウル・シンガーのデヴィッド・グラント(彼は後にソロとしてジャッキー・グラハムとのデュエット曲が大ヒットしたことで有名になります)率いるファンク・バンド、リンクス。マンマとブームに便乗し、この曲は全英で7位という彼らの最大のヒット曲となりました。


Hey! Elastica - Eat Your Heart Out (1982)

 シングルを4枚程リリースしただけで消えて行ったパンク出身(それはもうジャケやこの動画を見ても一目瞭然ですね)のヘイ!エラスティカのデビュー曲。なんとプロデュースはグラム・ロック界隈でおなじみのトニー・ヴィスコンティでした。何やってんだヴィスコンティ(笑)。パンクmeetsファンカラティーナという組み合わせは、その後マルコム・マクラーレンが仕掛けたバウ・ワウ・ワウというグループでお馴染みかと思われます。

Culture Club / White Boy (Early Ver. / 1982)

 カルチャー・クラブのデビュー曲「White Boy」は、82年に3ヴァージョン制作されました。まず最初のものがこの動画で聞く事の出来る超ファンカラティーナ・アレンジのもの。その後デビュー・シングル用にミックスを変えたもの。そしてアルバム収録時にド派手なシンセとゲート処理をぶっ込んだヴァージョン。どれも最高ですが、一番最初のバンド・アレンジのものが一番ウキウキしますね。

Wham! / Club Tropicana (1983)

 ワム!の出世作。というか、正直この曲こそがファンカラティーナ究極の1曲だとおもいます。夏の日差し、日焼けした肌と裸の男2人、そんなもん何が楽しいんだ!と当時の音楽誌には沢山の批判が掲載されました。主にそんな発言をしていたのはジメジメしたロック畑のベテランの方達ばかりでしたが(笑)。83年はABC、スパンダー・バレエ他多くのファンカラティーナ曲がチャート上位に食い込んだ1年でもありました。

Matt Bianco / Dancing In The Street (1986)

 さて、マット・ビアンコです。一過性のブームとして終わらせることなくこのジャンルの音楽を真面目&お洒落に続けたグループが、マット・ビアンコとキッド・クレオール&ココナッツかと思われます。マット・ビアンコもいつか特集でもやってみっか、と思ってるのですが、来週はもうひとつのファンカラティーナの雄、キッド・クレオール関連を特集してみたいと思います。



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 『なんてバカっぽい音楽なのでしょうか。最高です』というのはもちろん当方の使う最大限の褒め言葉なのですが、一部では「ふざけてる」と思われるフシもあって、ちょっと悲しいですね。で、今回はファンカラティーナ界のブライアン・フェリー(笑)、オーガスト・ダーネル氏率いるキッド・クレオール&ココナッツ特集。彼はアメリカ出身のミュージシャンですが、実はキッド・クレオールが有名になったのは英国で大ヒットを飛ばすようになり、その音楽が広く認められてから、なんですよね。(2014年8月29日更新分/選・文=大久)


Dr. Buzzard's Original Savannah Band / Cherchez La Femme (1977)

 オーガスト・ダーネル(本名トーマス・ブロウダー)はNYブロンクスの生まれで、74年に兄弟等と共にこのムーディーなビッグ・バンド「DRバザーズ・オリジナル・サバンナ・バンド」を結成しています。キャブ・キャロウェイのスタイルをNYのクラブ・シーンに復活させよう、というプランで活動し、79年までアルバムを3作発表していますが、あまり大きな成功には恵まれませんでした。

Machine / Power And Reason (1980)

 ダーネルが77年にほんの一時期だけ結成していたディスコ・バンド、マシーン。バンドとはいいながら基本的にスタジオ・セッション・グループで、79年と80年にアルバムを一枚ずつ発表しユニットは終焉しています。こちらは80年作のアルバム収録曲で、ボーカルでデニース・ウィリアムスが参加しています。すげえ真面目にディスコを作ってるあたりが意外です(笑)。

Kid Creole & The Coconuts / There But For The Grace Of God (1980)

 その後ダーネルは自らがリーダーとなり、キッド・クレオール&ココナッツを結成。曲によってはビキニを纏いヘンテコな踊りを踊りながらリードを取るセクシーな美女3人組「ココナッツ」を従える伊達男というコミカルなステージと、そのラテン・ファンク・サウンドは徐々に世界中に広まって行きました。


Kid Creole & The Coconuts / Annie I'm Not Your Daddy (1982)

 そして82年、彼らが発表したアルバム『TROPICAL GANGSTERS』は英国で大ヒットを記録します。英国で3位、ヨーロッパ中でもTOP10入りしたこのアルバムからはシングル・ヒットが3曲も生まれていますが、こちらは彼ら最大のヒットとなった曲。曲調は全然違いますが、この曲のテーマがマイケル・ジャクソン「BILLIE JEAN」とそっくりだ、ということも良く話題になりますね。

Elbow Bones & The Racketeers / I Wanna Remind You (1983)

 さて、一躍人気者となったオーガスト・ダーネル氏はまたしても(サバンナ・バンド時代のような)オールドタイミーなジャズ・ナイトクラブ・ミュージックを復活させんと、別名儀ユニット「エルボウ・ボーンズ&ラケッティアーズ」を同時進行させます。ジャケにも「ニューヨークの朝焼け」と書かれているように、よほど恋しい風景だったか、と推測されます。

Elbow Bones & The Racketeers / A Night in New York (1983)

 そんなエルボウ・ボーンズ〜の代表曲。タイトルからしてもうダーネル・マインド大爆発(笑)です。十二分にレトロ・ムードを滑り込ませながらちゃんとコンテンポラリーなダンス・サウンドで、そして最高に胸キュンなこの曲は、イギリスで大ヒットを記録。馬鹿騒ぎばかりでない、ダンディーな「ダーネル節」が満喫できます。



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