2014年10月24日(金)

ヒトコト劇場 #50
[桜井順×古川タク]








特集「Le monde enchanté de Jacques Demy」[7]
ジャック・ドゥミ コレクションあれこれ(一)

 現在、東京国立近代美術館フィルムセンターで開催中の企画展「ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑」は、すでに会期の半分を過ぎ、残すところあと二ヶ月足らずとなった(十二月十四日まで)。実は同展には筆者も複数のコレクションを提供している。
 聞くところによれば、来場者は女性客の比率が高いとのこと。本国では老若男女満遍なく入っていたので、我が国でのドゥミ人気の偏

りを感じずにはいられない。おそらく『ロシュフォールの恋人たち』や『ロバと王女』の愛らしいヴィジュアルの色彩感に惹かれてのことと推察するが、ドゥミ作品は男性が観ても充分愉しめるので、是非とも臆せず展覧会に足を運び、その後映画本編にふれて頂きたい。
 さて、本特集企画では、このあと会期終了まで何週かに渡って、同展の展示に漏れた筆者所有のコレクションを少しずつ紹介してい

く。今回はその前口上。
 ちなみに筆者が企画展に提供したコレクションの選択については、フィルムセンターの主任研究員である岡田秀則氏に全て委ねた。何度か我が家に足を運んで頂き、その場で現物にあたって選んでもらったというわけだ。岡田氏は、単に珍しいからということではなく、企画展の主旨から外れない範囲で、実にフラットな視点で選択され、その結果、会場には代表的な品々と珍品が、良い案配で展示されることになった。マニアの視点とは異なる冷静な審美眼だ。
 そもそも国内外の友人、知人に筋金入りの蒐集家が多いことから、自身のコレクションなんてたかが知れていると思っていたが、長年かけて蒐集してきただけあって、掻き集めると意外や我が家には貴重なアイテ

ムが相当な数揃っていた。数が多過ぎて整理がつかず、岡田氏来訪時に全てを揃えることが出来なかったため、例えば『ローラ』や『ロシュフォールの恋人たち』のオリジナル版ポスターのように、展覧会の開催前に自宅内発掘出来ないものもあったが、それらは先頃見つけ出し、後追いで提供した。現在は開催時に展示していたリバイバル公開時のポスターと初公開時のオリジナル版とを差し替えて展示中だ。   
 コレクションの内訳は、紙ものに限ってもチラシ、パンフに半券、試写状、プレスシートに各国版ポスター、譜面、スチール、各国の映画評やインタビュー掲載記事など。レコードやカセット、ビデオ、DVDはそれぞれ各国版や再発もあるから、それだけでもかなりの数に上る。今やネット

で気軽に蒐集可能だが、筆者が蒐集を始めた頃は、ビデオ一本取り寄せるのにもそれなりの時間と費用、それに労力を要したものだ。そもそもアイテムが、どれだけの種類存在するのか全貌が掴めないのだから。なかでもポスターや関連記事の掲載誌蒐集には苦労した。パリの古書店や蚤の市で堆く積まれた雑誌の山を前に、指を真黒にしながらただひたすらに頁を繰ったのである。ポスターなどいまだに新発見があって、それもその筈、各国においてリバイバルや特集上映が行なわれる度に新たなポスターやチラシが作られるのだから無理もない。そうしてこつこつ集めたコレクションだけに当然いずれも愛着がある。とはいえ、大判ポスターなど、さすがに掲示出来ず、折り畳むか丸めたまま押し入れの奥にしまい込むのが

大半で、購入時に目視しただけでその後一切目にしないものも多い。それだけに、展覧会場で額装の上で展示されたのは、筆者にとっても喜ばしいことだ。いわば宝の持ち腐れだったのだから、有効活用してもらって有り難いと思っている。未見の方は是非ともフィルムセンターにてご覧頂きたい。

 なお今回掲載したのは、『ローラ』公開時に発行された映画雑誌やロビーカード。なかにはシナリオ採録やシネ・ロマン(劇中の場面を使用して絵物語風に仕立てた、のちのフィルム・コミックのようなもの)もある。
(濱田高志=アンソロジスト)



宇野誠一郎ソングブック
音楽の銀河に投げ出され

 ピアニストの江草啓太が中心となり、宇野誠一郎の楽曲の演奏したアルバム『宇野誠一郎ソングブック』が届いた。今まで「江草啓太と彼のグループ」による生演奏に触れ、企画が固まってゆく様子を噂に聞いていた者としては、待ちかねていた事だ。ジャズ(ロック)界隈の音楽家が、映画

や子供番組の劇伴や主題曲を手掛ける(いわゆる)職業音楽家の異能を尊敬し、よって創られる音盤には、物質として独特の感動がある。井上誠が伊福部昭に捧げた『ゴジラ伝説』、大友良英が山下毅雄に捧げた『山下毅雄を斬る』、どちらもそんな名盤で愛聴しているのだけど、その発表の

背景にはそれぞれ、ビデオソフト普及による往年の特撮再評価ブームと、モンド・ラウンジミュージック発掘ブームというきっかけがあった。今回の「ソングブック」には、そうした明確なきっかけがあるわけでなく、永らく氏の音楽に惹き付けられてきた人々の意志の集結によるもので、「熟した機」としか言いようがない。そして、その機に居合わせてラッキーとしか言いようがない。
 日本を代表するストレンジミュージック「ネコジャラ市の11人」から、限りなく美しい「よんでいる」まで、様々な名曲が並ぶ。通して聴き感じたことは、今まで宇野作品を、想い出の再生装置として聴いていたことで、それはそれで間違いのない聴き方だったが、新しく演奏されたものと意識して聴くと、自分ととも

に楽曲も同年代に成長しているのを実感した。一休さん、さるとびエッちゃん、メルモちゃん、と、偶然ではあるが自分を頼るしかない孤独な主人公のテーマ曲が多く、その哀愁の色はかつてより濃く浮き上がってくる。天鵞絨をなぜるような、大人の手触りだ。そして更に大人の彩りを増す、島田歌穂、重住ひろこといった素晴らしいゲストヴォーカルのなかに、「キャンティのうた」の増山江威子と、「ねえ!ムーミン」の藤田淑子という、オリジナル曲の歌い手を口説き落とし、新録音しているのは特筆すべきところ。増山さんの歌声は、あいかわらずキューティーでハニーなテイスト。しかし、「キャンティのうた」は傷心の女性が、時によって癒されてゆく様子をせつなく歌った歌であり、こんな主題が子供向け

アニメ「アンデルセン物語」で使用されていたことに気づかされ驚く。「ねえ!ムーミン」にしても、藤田さんの歌声の艶っぽさにドギマギしてしまう程。もはや、高価な洋酒を揃えた店のカウンターというシチュエーションが目前に広がる。そして、積極的な女性のアプローチに狼狽するムーミンの脳内キャスティングは、是非、役所広司でお楽しみください。
 珍しい曲がふたつ。2012年の暮れにプライベートで催された「宇野誠一郎音楽会」を観覧させていただいた際、女優の横山道乃さん(東宝映画で横山道代の名でお見かけした)がスピーチの途中、「宇野先生がラジオドラマのために書かれた想い出の歌」と、踊りを交えアカペラで披露されるのを聴いた「ヨットの歌」。それを江草氏が採譜

し、収録している。きっと、おおかたの宇野ファンにとって、未知の曲だろう。また、宇野夫人の里見京子さんが、宮沢賢治の「よだかの星」を朗読する会にあてて創られた曲も収録。この組曲でラストを飾るなんて、やっぱり大人の一枚、と、銀河に投げ出される心持ちで、つくづく思うのです。
(足立守正=マンガ愛好家)
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●没後三年。「ひょっこりひょうたん島」や「ムーミン」「一休さん」 「ふしぎなメルモ」などで知られる作曲家・宇野誠一郎が遺した 名曲の数々を俊英ミュージシャンが華麗にカヴァーした企画アルバム第一弾。●『宇野誠一郎ソングブック1』江草啓太と彼のグループ/増山江威子/藤田淑子/島田穂歌/重住ひろこ他●全16曲収録●11月5日発売。




企画展『ジャック・ドゥミ映画/音楽の魅惑』

会場:東京国立近代美術館フィルムセンター展示室(企画展)
会期:2014年8月28日(木)〜12月14日(日)
詳細⇒http://www.momat.go.jp/FC/demy/index.html

【作曲家ミシェル・ルグランとジャック・ドゥミ】
日程:2014年10月25日(土)
時間:3:00pm〜
場所:展示室ロビー(7階)
講師:濱田高志(音楽ライター、アンソロジスト)