極私的アート数珠繋ぎ-描線の誘惑— 番外編
〈イラストレーション別冊〉あれこれ
雑誌「イラストレーション」誌でお馴染みの玄光社から、趣向を凝らしたムックが次々と刊行されている。 〈イラストレーション別冊〉という以外、特にシリーズ名を冠している訳ではないが、同サイズの判型と、毎号ひとりの作家の創作活動を俯瞰した構成はいずれも同じ。無論、その個性に合わせてそれぞれの見せ方が工夫されている。 この一連のムック、筆者が最初に気に留めたのは、
これまでありそうでなかったバンド・デシネを特集した「はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド」(昨年七月刊行)で、同書では文字通り入門書として様々な作家が紹介されていた。その後、ジャンルごとに続刊が出ると思っていたら、今年六月になって本誌同人の吉田宏子が編集に関わった、これまた本誌同人の宇野亞喜良の作品集「宇野亞喜良 AQUIRAX WORKS」が刊行され、
次いで同月に天野喜孝、安西水丸(七月)、「松本大洋+ニコラ・ド・クレシー」「スカイエマ」「工藤ノリコBOOK」(八月)、「谷川俊太郎 詩と絵本の世界」(九月)、「生賴範義 緑色の宇宙」(十一月)と、作家に特化したものが矢継ぎ早に刊行された。 「イラストレーション」誌の別冊だけに、同誌バックナンバーに掲載された記事の再録もあり、ビジュアル面だけでなく、記事そのものも充実している。 一例を挙げれば、前述の「宇野亞喜良 AQUIRAX WORKS」には、九三年に行なわれた宇野亞喜良×横尾忠則対談と、今年行なわれた二人の対談が併載されたほか、八○年に「イラストレーション」誌に掲載された、創作過程を追った連載記事「HOW TO DRAW」が再録さ
れているといった具合。図版も豊富に掲載され、四色頁が多い割に、良心的な価格設定も魅力だ。この情報量で二千円でお釣りがくるのだから、お買い得と言えるだろう。 なお、刊行されたばかりの「生賴範義 緑色の宇宙」は、今年、みやざきアートセンターで開催された個展の図録を底本に、多数の図版と記事を追加したもので、
生賴にとっては、八八年に徳間書店から刊行された「神話―THE BEAUTIES IN MYTHS」以来の作品集。個展図録は売り切れですでに市場で高値がついているから、本誌は是非ともお買い逃しなく。 ともあれ、久々に続刊が楽しみなシリーズである。 (濱田高志=アンソロジスト)
時の輪を巡る壮大なSFロマン『銀河鉄道999』の愛蔵版が登場!
もうすぐ50歳になる自分が中学生の頃、週刊少年マンガ誌は、月曜日にジャンプ、水曜日にサンデーとマガジン、金曜日にキングとチャンピオンが発売されていた。毎日の通学の折、貧乏な学生にとっては少しでも効率よくするために、それぞれ係が決まっていて回し読みしたものだった。ジャンプとチャンピオンは必ず、サンデーとマガジンもだいたいどちらかは通学の電車内に常にあったが、唯一、少年キングだけはロー
テーションに入っていなかったのを思い出す。実際、他誌に比べて部数が劣っていたことも事実だが、自分はどこかしら孤高の雰囲気を持ったキングが好きで、個人的にはサンデーと共に毎週買っていた。一番の目当ては藤子不二雄の「まんが道」。ほかにも望月三起也「ワイルド7」や柳沢きみお「すくらんぶるエッグ」といった人気作、密かに大好きだった荘司としお「サイクル野郎」などなど。そしてこの頃の少年キングを
支えていた一番の人気作品が、松本零士「銀河鉄道999」だったのである。 アニメブームが到来していた当時は、「宇宙戦艦ヤマト」がその中心的存在にあったことから、漫画界も松本零士ブームといった様相を呈していた。その渦中にアニメ化が決定した「999」こそ、SF好きの氏が満を持して世に送りだした作品であったことだろう。セミドキュメンタリー・タッチの真面目な作風か、ギャグに徹した作品が多かったキング誌上で、ファンタジー色の濃いSFロマンが浮いていなかったといえば語弊が生じるが、そうした周りの作品とのギャップが、この漫画の魅力を増幅させたといえるかもしれない。たまたま松本マニアの友人が身近にいたことから、それより以前の作品にも遡って接していた身としては、
「男おいどん」や「元祖大四畳半大物語」の冴えない主人公と、全然似つかわしくない謎の美女との組み合わせが、そのまま「999」の主人公である鉄郎とメーテルに置き換えられ、抵抗なく自然に作品世界に入っていけた気もする。当時、雑誌を買って最初に「まんが道」を読んだ後「999」はすぐには読まず、あえて最後までとっておき余韻を楽しむようにしていた。 今回、全10巻からなる「銀河鉄道999」は、その「まんが道」も出された「GAMANGA BOOKS」シリーズの第4弾にあたり、2015年3月まで刊行が続く。松本零士画業60周年記念出版。前作の第3弾が手塚治虫「火の鳥」だったことから見ても、大御所作家のライフワークとも呼ぶべき作品がラインナップされているとおぼしく、
漫画史における重みを感じさせられる。小学館クリエイティブ編集による緻密な復刻は、雑誌掲載時のカラーページを忠実に再現した完全版で、巻末にはスペシャル企画として各界の著名人が作品を語るページがある。全巻の予約特典は、著者の直筆サイン入り色紙を抽選で。また、全巻購入者には応募者全員に10冊を収める特製収納ケースがもらえるというから、要チェックだ。少年画報社のヒットコミックス全18巻を揃えている御仁とても、今回の愛蔵版を買わずにはいられないだろう。人は言う。「999は少年の心の中を走っている漫画だ」と。今ふたたび、少年の日を。 (鈴木啓之=アーカイヴァー) ●「銀河鉄道999」松本零士/小学館より発売中/各1500円+税
御茶ノ水と下北沢のトーク・ショー
先日、御茶ノ水のエスパス・ビブリオにて、同店と「月刊てりとりぃ」の共同企画として、〈小松政夫トーク・ショー〉が行われた。同イベントは、てりとりぃ同人の鈴木啓之がコーディネートしたもので、現在、講談社から発売されている「東宝 昭和の爆笑喜劇 DVDマガジン」の刊行を
記念し、クレージーキャッツを代表とする東宝喜劇映画の魅力を語るという内容だった。冒頭は期待通り、淀川長治の物マネから始まり、先日、亡くなられた高倉健や田中邦衛の〝口マネ〟なども挟み、抱腹絶倒の2時間。植木等の付き人時代のエピソードや、初めて出演したクレージー映画
『大冒険』でのスタント秘話では、まさにスタンダップ・コメディアンさながらの話芸を堪能した。そして、最後に披露された一発ギャグの〝民謡〟4連発。冒頭で「コメディアンにならなかったら、家業である民謡歌手になっていた」という前振りの後、〝歯医者の民謡〟など、爆笑ネタを連投し、幕を閉じた。最後の最後までネタを惜しまない、サービス精神旺盛なコメディアンの姿をそこに見た。 その後、下北沢ブックカフェB&Bに移動し、これまた「てりとりぃ」同人の御三方が出演するもうひとつのトーク・イベント「泉麻人×河崎実×森遊机 ぼくたちの好きな〝昭和マンガ〟を語ろう!」に向かう。これは、泉麻人「昭和マンガ少年」(復刊ドットコム刊)刊行記念イベントで、博覧強記の三者によるコア
な漫画ワールドが繰り広げられた。60年代の話が中心だったが、三者の的確なフォローで、未読の漫画でもグイグイとトークに引き込まれていた。特に印象に残ったのが、関谷ひさしの「ストップ!にいちゃん」。映画『若大将』シリーズの少年版であるとか、「ストップ!ひばりくん」はここからインスパイアされたという事実で、俄然この漫画に関心を持った。また、みなもと太郎の「ホモホモ7」の女性キャラクターが元祖〝萌え〟的要素を持ってい
たなどの指摘には、目からウロコが落ちた。そして、サポート役の河崎監督の歯に衣を着せぬ毒舌トークも全開で、さらなる爆笑を誘った。 実は、この二つのトーク・ショーを梯子したのは、我々だけではない。何人かのお客さんもいたようだったが、最も凄い“梯子者”は両イベントにかたや客として参加し、その後、出演者として参加した泉麻人、河崎実の両氏であろう。本当にお疲れさまでした。 (星 健一=会社員)
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