2015年8月7日(金)

 
SEKAI NO HAJIMARI(後)
ジェイムス・テイラーの新作アルバム『ビフォー・ジス・ワールド』

 オープニングは、高らかに活動再開を告げるカントリー調のナンバー「トゥデイ・トゥデイ・トゥデイ」。和やかな雰囲気は、いかにもホーム・レコーディングらしい。続いて、67歳になった今だからこそ歌える、

ピュアなラブ・ソング「ユー・アンド・ミー・アゲイン」。ブックレットには、愛妻キムとの仲睦まじいスナップが収められている。常連ゲスト、ヨーヨー・マのチェロが二人を優しく包みこむ。かわって「エンジ

ェルス・オブ・フェンウェイ」は、地元ボストンの名門球団、レッドソックス讃歌。アルバム発売に合わせたツアーのハイライトとして、8月6日、本拠地フェンウェイ・パークでライブも行われた。ここまで3曲、身の回りの事どもを綴ったあと、風来坊は旅に出る。
 4曲目「ストレッチ・オブ・ザ・ハイウェイ」は、JTなじみの「放浪」がテーマ。映画『断絶』のDVDも再発されたばかり。他界した共演者3人のゴーストを連れて、ドライバーは一路西へ。ホーンも加わり「このテンポなら好きなリズメンブルース」を聴かせてくれる。シカゴを経てたどり着いたのがカナダ国境の州「モンタナ」という流れで、前半終了。
 6曲目のゴスペル・ナンバー「ウォッチン・オーバー・ミー」で道中の無事を

祈願したあと、いよいよ国境を越え雪国へ。「オンリー・ア・ドリーム・イン・トロント」といった趣きの「スノウタイム」。再びヨーヨー・マ、さらにスティングも参加して、アルバムのタイトル曲と2部構成「ジョリー・スプリングタイム」が8曲目。メドレー形式、5月の歌と来れば、リンダ・ロンシュタットとのデュエット「ワン・モーニング・イン・メイ」(またしても『ワン・マン・ドッグ』)を思い出さずにはいられない。
 ラス前「ファー・アフガニスタン」は、9・11への言及もあるメッセージ・ソング。インドの民族楽器、シェーナイの響きが耳に残る。そして、アルバムの最後を締めくくるのが「ワイルド・マウンテン・タイム」。「ウィル・イー・ゴー、ラシー・ゴー?」のタイト

ルでも知られるこの曲は、スコットランド民謡を改作したと伝えられる、50年代のフォーク・ソング。JTの父方は、スコットランドの家系という。現住地マサチューセッツから始まった歌の旅は、カナダを経由、アフガニスタンに飛んだあと、故郷スコットランドで大団円を迎えた。
 久々の新作アルバムということで、宣伝にも力が入っている。本人自ら、70年代初期を思わせるダンガリー・シャツにロン毛のヅラ姿(!)で、NBCの人気番組「ザ・トゥナイト・ショー」に出演。同じ扮装の司会者ジミー・ファロンと

シーソーを漕ぎながら、デュエット「シーソーとジェイムス・テイラー2人」を披露した。身を切るプロモーションの甲斐あって、7月4日付、ビルボードのアルバム・チャートで、本作はキャリア初の全米1位を記録した。同2位は、去年からロング・セラーを続ける、テイラー・スウィフト『1989』。世代を超えたテイラー2人のワン・ツー・フィニッシュ、JTの大ファンで、愛娘をテイラーと命名した彼女のご両親も、さぞお喜びのことでしょう。なお、70年の再デビュー盤『スイート・ベイビー・ジェイムス』から数えて45年目での首位獲得は、ブラック・サバスの43年を上回り、トニー・ベネットの54年に次ぐ歴代2位とか。すごい記録と面子です。
(吉住公男=ラジオ番組制作)



買い物日記[8]


 午前8時、中央線の電車に乗り込むと嫌な痛みが背中に走った。息を深く吸うだけで痛い。背筋を伸ばすこともできなかった。出勤後そのまま仕事を続けていたが、痛みをかばうせいか肩、腰まで攣りそうになる。少し調べてみると、それはぎっくり腰ではなく、ぎっくり背中というそうだ。ふと、KIKI RECORDの隣でいつも混んでいる接骨院『青柳鍼灸接骨院』があることを思い出した。仕事の合間に行ってみると、

最近重いものは持ちましたか?疲労かもしれませんね。と言われ、電気治療とマッサージを30分ほど。ここの筋肉の深いところを痛めているので、一週間すればきれいに治りますよ。それまで安静にしていてください。と言われた。帰りにおそるおそる背筋を伸ばしてみると、さっきより痛くない。湿布をもらって1120円。ここまで通う人がいるのもわかる気がした。
 レコードが好きな人ならわかると思うが、重いもの

はだいたいいつも持っている。レコードを買いに行けば帰るときには持っているし、最近はSP盤も買いはじめたからますます重い。しかし意外とSP盤が売っているところは少ない。東京でも街の骨董屋、神保町のレコード屋、下北沢の『ノアルイズ・レコード』『ハミングバード』、三鷹『パレード』、西荻窪『ファンレコード』。レコード屋でも店の隅にこっそりと売っているお店が多い。ブギウギ、マンボ、ルンバが曲名に付いているとつい買ってしまう。越路吹雪の「ブギウギ巴里」に「花のマンボ」、鈴木三重子「ソーランマンボ」、小畑実の「江戸っ子マンボ」、久慈あさみ「チャッカリ・ルンバ」。とくに気に入っているのが暁テル子の「サクラマンボ」と「桃太郎ブギ」だ。どちらも井田誠一作詞、

佐野鋤作曲だった。「サクラマンボ」はお祭りマンボや買い物ブギを思わせる。「桃太郎ブギ」は軍艦マーチのようなメロディではじまり、どこかで聴いたことのある曲に似ていると思っていたら同じ井田誠一作詞、佐野鋤作曲の「東京シューシャインボーイ」だった。東京シューシャインボーイが昭和26年5月、桃太郎ブギが昭和27年7月発売ということを考えると、桃太郎ブギはその前年にヒットした東京シューシャインボーイを下敷きに作曲したのかもしれない。ブギウギ、ルンバ、マンボ以外では、ディック・ミネ本人が三根徳一名義で作詞作曲した「ワパッシュ・ブルース」が素晴らしかった。ディキシーランドジャズとシャンソンの中間のような曲。童謡ではやはり平井英子があればつい買ってしまう。有名な

「黒ニャゴ」「村祭」は楽曲もだが、大藤信郎のアニメーションも素晴らしい。
 次々と増えていくSP盤もどう保管したらいいのかわからなくなってきてしまった。丁寧に扱わないとすぐに割れてしまう。縦置きしていると不安でしょうがない。急遽ホームセンターで木材を買い、ボンドでレコード棚の中にSP盤を横

置きできる棚を作った。およそ10枚単位で横置きすれば割れることはないだろう。
 SP盤のことばかり考えて原稿を書いているとどこかへ買い物に出かけたくなってしまう。あと一週間。まだ背中に抜けるような痛みがあるうちはSP盤は買わず、レコード、7インチにしようと思う。
(馬場正道=渉猟家)



居酒屋散歩16《池袋・あもん》


 ここは焼き肉屋だがお酒もおいしく飲めるし、店も広く夜遅くまでやっている。席は掘りこたつ形式なので中高年には居心地が良い。ただ、駅から歩くと10分はかかる。初めて探しながら行くとさらにかかるだろう。その分隠れ家的な雰囲気の店。でも何といっても、お酒もさることながらメインの肉が絶品なのだ。
 最初に行ったのはもう10年ほど前。横山光輝作品の復刻を始めてからの事。横山先生はすでにお亡くなり

になっていて、打ち合わせ窓口はご子息・輝利氏。お付き合いを始めて親しくなった頃、「食事でも」ということになり、お店を探すことになった。事務所は要町なので、近くの池袋で探すことにした。輝利氏は、酒席は好きだが、酒量はそれほど多くなく、食べる方にも主眼を置いているとのことだったので、迷った挙句、酒も食事もOKの「あもん」にした。その後、輝利氏とは何度かこの店で打ち合わせをしたし、彼も自

分で事務所のスタッフと行ったり、他の仕事でも使ったりして、すっかりお気に入りの店になっている。
 現在、横山先生の「史記」と「伊賀の影丸」のコンビニ本を刊行しているが、長く横山作品の復刻をやっていた縁で私も仲間に入れてもらっている。輝利氏と今回のスタッフの懇親会を「あもん」でやることになった。編集担当者たちは初めてなので、地図を見ながら来たが、私と輝利氏は何度も来ているので直接お店に集合。焼肉屋とは思えない黒板のドアを開けて入ったらなんと、みなそろっていた。小学館スタッフ4人は初めてなので時間に余裕を持って出てきていたので、5分前に着いた私が最後になってしまった。
 暑かったので、すぐビールで乾杯。料理はコース料理を予約。最初はロースト

ビーフのサラダ。その次はザブトンの握り、ミスジの雲丹巻、もも肉ポン酢かけなど生肉。ザブトンの握りは後5貫ほどいけそうな感じの旨さ。ビールをしばらく飲んだ後、ワインに切り替えて、出てくる上品な焼肉をひたすらいただく。たれだけでなく、岩塩やワサビで味を変えたりしながら。
 神戸牛のサーロインや鹿児島産黒豚の焼きしゃぶ、特上タン、中落ちカルビ、黒豚トントロ、各種熟成度のちがうフィレ肉、一緒に色々な野菜がついてきて、さらにホルモンまで。いつ

の間にかワインも3本目が終りかけていた。
 若いスタッフもいたので、裏メニューの特性ハンバーグまで焼いて、デザートに行くころは生マッコリのグラスを持っていた。
 すっかり満足して店を出て最初の交差点で横山さんと別れたが、大分良い気分になっていたのでどこかに行こうということになった。ごくたまに行くスナックを覗いたら開いていたので、席に着いた。ウイスキーの水割りを飲みながら、かわるがわるマイクを持っているうちに記憶が亡くなっていた。何とか気づいたらすでにタクシーの中にいた。しかも家のすぐ前だった。その夜は倒れるように布団に入ったのは言うまでもない。年のせいか時々記憶が亡くなる。飲みすぎに注意しよう。
(川村寛=編集者)




ファッション・イラストレーター森本美由紀展
—カジュアルからモードまでースタイル画を描いた30年の軌跡

会期:2015年7月3日(金)〜9月27日(日)月休(7月20日開、21日休/9月21日開)
時間:10:00〜17:00(入場は〜16:30)
会場:弥生美術館(東京都弥生2-4-3 ☎03-3812-0012)
会期中にイベントあり。詳細は美術館Webサイト参照。
http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/




夏のタマちゃん祭り
—タマちゃんって、こんなコなの—

東京・代々木上原の小さなスペースに、タマちゃんが現れる。原画やパネルの展示のほか、新たに制作されたグッズを販売。
会期:2015年7月30日(木)~8月9日(日)月・火・水休
時間:13:00〜19:00(木・金)/11:00〜19:00(土・日)
場所:パールブックショップ&ギャラリー(東京都渋谷区西原2-26-5-102 ☎090-2670-5277)
http://pearlmansion.com/

(画像は「ピチカートファイブ JPN」のための原画。1997年)