2015年12月18日(金)


ヒトコト劇場 #73
[桜井順×古川タク]









没後30年、多彩な作品をコンパイルした2枚組『佐々木勉アンソロジー』登場
昭和のフォーク&歌謡ポップスの名作曲家、「あなたのすべてを」豪華19アーティスト競演!

 「星に祈りを」「いつまでもいつまでも」「あなたのすべてを」などの名曲で知られる没後30年を迎えた佐々木勉のアンソロジーCDが12月9日にウルトラ・ヴァイブより発売された。47歳という働き盛りで急逝した勉(BEN)さんは生前シンガーソング・ライターとしても3枚のアルバム

を発表している。追悼記念作品集は没後7年目と15年目にも企画され、2000年発売の前作『佐々木勉フォーエバー』は氏自身のデビュー・アルバムの全曲オリジナル音源を含むオリジナル・アーティストによるフォーク&ポップスの作品集で小生の企画監修によるアルバムだった。

 3度目となる今回の作品集はBENさんの作曲家としての全ジャンルをカヴァーした初の作品集であり、氏の多彩な才能とその幅広い活躍を展望できる画期的なアンソロジーとなった。なお本CDは本誌同人の草野浩二氏が総合監修に当たられ、同じく同人の鈴木啓之氏が選曲・解説を担当されている。初期のフォーク・ポップス作品から昭和歌謡コーラスのスタンダード・ヒットになったカラオケ・デュオの定番曲「別れても好きな人」や「3年目の浮気」、ホリプロの音楽出版プロデューサーとして活躍した時代の榊原郁恵、山口百恵をはじめとするアイドル・ソングの数々や、和田アキ子や美川憲一らへの提供曲、アニメ主題曲からCMソングの数々が1枚目に収められている。
 そしてユニークなのが2

枚目でBENさん本人と徳永芽里の創唱を含む美空ひばりからテレサ・テン、尾崎紀世彦、布施明まで総勢19名の歌手による名曲「あなたのすべてを」のカヴァー競演集なのである。歌唱力が要求されるバラードだけに歌い手の個性、歌い回しの聴き比べがじっくり楽しめる1枚となっている。実際この歌は67年に徳永芽里と本人の競作で発表されたが特にヒットした訳ではない。しかしスナックやカラオケで永年多くの人達に愛唱され支持されてきた。その他ちあきなおみ、八代亜紀、和田アキ子等トータルすると実に約40名の錚々たる歌手達が録音しており、昭和の歌謡ポップス史上最も人気のあるスタンダード・ソングの一つと云っても過言ではない。
 BENさんの曲の魅力は健康的なロマンティシズム、

清廉なエロティシズムにある。口笛の達者な彼のメロディは親しみ易くとても口ずさみ易い。だからカラオケ等の巷で(あなたのすべてを)、キャンパスの仲間内で(星に祈りを)自然と広まっていった。それがスタンダード・ナンバーになってゆく。しかしこういう歌が生まれなくなってから実に久しい。時代が変わったと云われるが、この機会に佐々木勉作品を 再認識してみる価値は大いにあるだろう。
(本城和治=元レコード・プロデューサー)
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●佐々木勉が残した珠玉の作品を集めたアンソロジー2CD。美空ひばり、テレサ・テン、徳永芽里、サベージ、榊原郁恵と名曲に相応しい豪華な顔ぶれ。時を越え歌い継がれるエヴァーグリーンな作品集。



居酒屋散歩21《神楽坂・泥味亭》


 今回も神楽坂の店。地下鉄・神楽坂の出口を出てすぐの所だが、知らないと通り過ぎてしまいそうな佇まい。というのも店は地下にあり、特に特色もない普通の階段のわきに、手書きで書かれた看板がかかっているだけ。飛び込みで入ろうにも居酒屋だか何だかわからない。その階段を下りたところに戸があり、開けると数名が座れるカウンターがすぐ目の前に、その右奥にデーブル席が一つ。落ち着いた雰囲気の店。多分、味に自信があるので入口が

目立たなくてもいいのだろうし、また、飛び込み客がどんどん入ってくると収容が出来ないということで、現状のようなそっけない入口なのだろうと思う。
 私が最初に行ったのは5年ほど前で、デザイナーの鈴木一誌さんと一緒だった。出されたものがすべて味わい深いものばかりで、感心した覚えがある。値段もそこそこだったので、時々だが、神楽坂の上の方に行くと立ち寄ってしまう。狭い店なので、満員で入れないこともあるがつい中を覗き

たくなる。すぐ近くの新潮社を初めとして出版関係の人も多いという。あるとき主人に聞いたら、旺文社の人も来るし、講談社も来ているとのこと。神保町からは小学館、集英社などの人もというが、私の周りでは噂すらなかったので、連れて行ってくれた鈴木さんには良い店を教えてくれたと感謝している。
 今回は日経新聞社の友人と駅前で待ち合わせて忘年会。予約をしていなかったが、時間が早かったせいかすぐ座ることが出来た。まずはビールを頼んで、黒板に書かれたメニューから美味しそうなものを探す。そうして居るうちにビールと共にお通しが来た。このお通しは、いつもあっさりした味付けで、つぎのメインの料理を邪魔しないように作られているのがいい。しばらくビールを飲んでいた

が、牡蠣が来たので白ワインをもらった。ここのワインは甲州では老舗のサドヤの物で、私好みの酒。牡蠣を白ワインと共に口に含むと何とも言えない幸せ感に包まれる。その後の刺身盛り合わせには日本酒を頼んだ。マグロもしめ鯖も美味だったが、カワハギは特に良かった。肝をまぶしてあったのでコクのある味わいが楽しめたのだ。次は白子とシメジの天麩羅。白子のトロっとした感触で、さら

に日本酒が進んでしまった。この後もう一軒除く予定があったので、イチジクのワイン煮をデザートにして、残った酒を飲み干した。
 ちなみに泥の味と書いて「泥味亭」という飲食店には合わない店名は、イタリアの世界遺産になっている山地「ドロミテー」から来ているという。ご主人が山が好きなのでこう付けたらしい。
 いつも1軒目に行くが、新年会には二次会に行ってカウンターで軽いものを摘みに酒を飲んでみようと思っている。
 階段を上り左側に出て神楽坂を下り、途中のバーに入った。ここで来年の仕事の話などしながら1時間程ウイスキーを楽しんでお開き。もちろんこの日も「五十番」で、大きな肉まんを数個購入して帰ってきた。
(川村寛=編集者)