2015年12月11日(金)

 
イラストレーション別冊「柳原良平の仕事」が遂に刊行!


 日本が高度経済成長期を迎えた1950年代初頭。トリスウイスキーの広告に登場した「アンクルトリス」は一役人気となった。近年も見事に復活を遂げ、もはや知らぬ人などいない国民的なキャラクターだ。そして、その生みの親こそが本書の主役、柳原良平である。
 京都市立美術大学を卒業後、寿屋(現・サントリー)に入社した柳原は、同社宣伝部で、のちに作家になる開高健や山口瞳、プランナーの酒井睦雄といった優れ

た才能をもつ仲間と仕事を共にした。当時流行ったトリスバーを訪れた世代であれば、彼らがつくったPR誌「洋酒天国」を一度は手にしたことがあるだろう。
 1960年には、久里洋二、真鍋博と共に「アニメーション3人の会」を結成、草月ホールで定期的に上映会を行うなどして、活動の幅を広げている。生涯で装丁を手がけた書籍は300冊以上に及び、挿絵や新聞連載漫画、絵本の制作と出版界でも大いに活躍した。な

かでも絵本『かおかおどんなかお』は、今なお読み継がれるロングセラー。さらには自らを〝船キチ〟と称して、船に関わる絵画や著書を発表しており、それによって、海運各社から名誉船長の称号を贈られ、海洋協会の理事に任命されるなど、海洋事業のPRにも貢献。居住していた横浜市においても、市民運動に寄与していた。
 本書は初夏に柳原の了解を得て、編集作業を開始したもので、当初10月の刊行を予定していたが、そのさなか柳原の突然の訃報を受け、結果的に追悼本になってしまった。企画は本誌編集部で、濱田高志以下、吉田宏子、鈴木啓之が編集・執筆。デザインを福田真一、資料協力で古川タク、足立守正、真鍋新一ら本誌同人が複数関わっている。
 なお、掲載された図版9

00点のうち9割近くが編集部所蔵の品々だ。アンクルトリスを中心とした広告、CM作品のほか、装丁、絵本、多くのグッズ類、そして船の絵に至るまで、柳原良平の仕事の全貌を俯瞰した初めての仕事集となった。よって、イラストレーター、デザイナー、漫画家、アニメーション作家、エッセイストなど、多くの肩書きをもった彼の仕事を、できる限りの資料を網羅してご覧いただけるよう心がけた次第である。その長年にわたる仕事の数々は、昭和の世代には懐かしい想いで、平成の世代には新鮮なグラフィックとして眺めていただけることだろう(定価は2千円+税)。
 なお今週12日から21日まで柳原のホームグラウンドだった「せんたあ画廊」(JR関内駅北口改札より徒歩1分)にて「ありがと

う! キャプテン・アンクル 柳原良平作品展」が開催される。是非足を運んで頂きたい。
(文・編集部)
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●アンクルトリスの生みの親、柳原良平さん。初の作品集。「柳原良平の仕事」12月12日発売/A4判型160ページ/定価・本体2000円+税●装丁、絵本、漫画にアニメーション、さらにはグッズやオリジナル作品まで、半世紀以上にわたって第一線で活躍を続けた柳原良平の仕事をここに集約。貴重な初期作品や広告、幻の連載漫画など、本書でしか見られない作品を多数掲載。広告・CM、装丁、絵本を中心に、さらにライフワークとなっている船の絵もふくめて、柳原良平さんの仕事・作品を広くまとめています。



ABCラジオ「三木鶏郎に挑む!平成の仕事師たち」、全国放送決定


 5月22日号「週刊てりとりぃ」で紹介した、大阪・ABCラジオの特別番組

「三木鶏郎に挑む!平成の仕事師たち」が、本年度の「日本放送文化大賞」準グ

ランプリを受賞した。同賞は、民間放送において、質の高い番組がより多く制作・放送されることを促すため、日本民間放送連盟(民放連)が2005年に制定。毎年秋に開催される民放連の全国大会で「視聴者・聴取者の期待に応えるとともに、放送文化の向上に寄与した」と評価されるラジオとテレビ、それぞれグランプリ1番組、準グランプリ1番組が選ばれる。
 民放連の中央審査において、同番組は以下の評価を得た。「戦後日本の放送史を語るうえで欠かすことのできない存在でありながら、あまり表舞台に出てこない三木鶏郎をフィーチャーした素晴らしい企画。三木鶏郎の魅力が存分に描かれ、聴き終わった後に彼のことをもっと知りたくなる。単に偉人の紹介にとどまらず、生演奏などオリジナリティ

あふれるコンテンツが散りばめられており、ラジオ番組として純粋に楽しく聴くことができる」。
 5月の放送時は関西ローカルだったが、受賞により、全国47都道府県47局の民放連加盟ラジオ局で、順次、全国放送される。まず、東京・TBSラジオで12月13日(日)夜7時から放送。AM局のFM補完放送(ワイドFM)が7日(月)にスタートした首都圏では、同番組を初のFM放送でも聴くことができる。現時点では、続いてIBC(岩手)、RSK(岡山)、RCC(広島)、KNB(富山)、RKB(福岡)の各局が年内に放送予定。その他、詳しい放送スケジュールは、民放連の公式サイトを参照願いたい。
 ちなみに、ラジオ部門でグランプリを獲得したのは、福岡・CROSS FMの

「ハッピー・ハウス~ザ・ファミリーズ・スターティング・ポイント~」。9月に行われた「アルファミュージックライブ」でも、感動的なスピーチと演奏を聴かせてくれた鮎川誠へのインタビュー番組とのこと。じつは、1993年の開局当時、筆者は同局で仕事をしていたことがあり、担当した開局特番のゲストに登場していただいたのが、鮎川さん夫妻だった。持参した私物のシングル、インメイツ「ダーティー・ウォーター」を見た誠さんから、「こんなレコード持っとるて、あんた、プロやね」と褒められたのを思い出す。もちろん、こちらも全国放送されるので、ぜひ聴かせていただきます。
(吉住公男=ラジオ番組制作/写真はスタジオ生演奏に耳を傾ける番組ゲスト、伊藤アキラさん)



買い物日記[12]


 立て続けにインドネシアの友人が日本へ来ている。今年からインドネシアから日本への入国にビザを買う必要がなくなったのだけど、10月にサムソン、11月はゲイリー、そして今月はリドワンがジャカルタから日本へ来ている。どこへ案内すればいいのだろう、と思っていても、平日だけ来てさらっと帰ってしまう友人たちには夜、少しだけ会って食事をすることくらいしか出来ない。一緒に食事をし

て、お話をして。日本の食べ物では何が好き?と聞くと、インドネシアの友人たちは決まって鰻が好きと言う。あの甘いタレがインドネシア人の舌に合うらしい。お土産は鰻のタレがいいと言っていた。お酒で人気なのは梅酒やカシス、アマレットなど、やはり好きなものは甘いものばかりだった。
 8年前、ぼくが初めてジャカルタへ行ったときは物価の安さに驚いた。しかし今、ジャカルタの友人たち

と話をしていると、タクシーとホテル代以外はジャカルタのほうが日本よりも物価が高いと言う。たしかにそうかもしれない。こうして飲んで朝まで。となっても日本はジャカルタよりもずっと安い。イスラム教人口が多いインドネシアでは酒税が高いというのもある。そもそもジャカルタは朝までやっている店がとても少ない。チェーンの居酒屋もあまりないし、お酒を飲んで酔っ払っても車を運転して帰ることのできるインドネシアでは電車を始発まで待つという感覚もない。インドネシアの物価は少しずつ高くなっていき、いつのまにか日本とあまり変わらなくなってしまったようだ。
 ゲイリーとは新宿の焼鳥屋に行った。今年ジャカルタへ行ったとき、ぽつぽつと古着屋が出来はじめていることに驚いた。それまで

古着屋はどこにも見当たらなかった。若者が古いものに関心を持ち始めたのか、インドネシアの若い友人の中にも昔の本、オーディオ、レコードを集めはじめた人がいる。ゲイリーもその中の一人だ。日本には古いモノがたくさんあって保存状態もいい。あんなに安いのにみんな買わないの?なぜ?と彼に聞かれたときも、ぼくにはちょっとわからないよ。と答えた。家が近かったらあのスピーカーやレコードプレイヤーも持って帰れたのになあ。と言いながら、その日買った収穫の

レコードをテーブルの上に並べはじめた。嬉しそうな顔をしながら話す彼がまだ20代前半だとは思えない。こういう若者が今、ジャカルタにはたくさん増えてきているのだろうか。彼はカシスウーロンを一杯。たった一杯で酔っ払ってしまったようだ。一杯しか飲んでないのに顔が真っ赤だよ。と言うと、ニコニコして、ババも一杯だけなのに顔が真っ赤だよ。と言う。ぼくはコーラしか飲んでいないのに。その嬉しそうな顔を見たら何も言えなかった。
(馬場正道=渉猟家)