2016年1月8日(金)

 
並行宇宙のロックン・ロール
The Bootleg Series Vol.12『Bob Dylan 1965-1966 : The Cutting Edge』

 ボブ・ディランの発掘音源集「ブートレッグ・シリーズ」の最新作は、1965年から66年にかけて録音されたアルバム、シングルの別テイク・未発表曲を収めたCD6枚組。ギターをエレキに持ち替えたディラ

ンは、65年3月『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』、同8月『追憶のハイウェイ61』、66年5月『ブロンド・オン・ブロンド』、わずか1年余りの間に3枚の傑作アルバムを残した。

 詳細なライナーを参考に本作を聴いていくと、3枚のアルバムそれぞれの制作過程が良く分かる。前作から準備期間があり曲数もそろっていた『ブリンギング』の録音は、3日で終了した。あのニューポートのライブから4日後に行われた『追憶』のセッションは、ステージ途中降板の影響などまったく感じさせず、粛々と進行。木・金の録音後、土・日は休み、月曜日から作業を再開している。ロックン・ロールの歴史を変えたと言われる名盤も、週休2日の就業規則に従って生産されていたのだ。準備不足に加え、初の大規模ツアーの合間を縫って行われた『ブロンド』のレコーディングは難航する。いろいろ試しながら録り溜めた音源、絞ればLP1枚に収まったと思うが、大人の事情からかボーナス・ディスクみた

いな2枚組になった。
 完成したアルバムを知っている耳と脳が、タイムラインに沿って、本作をメイキング音源として聴いてしまうのは仕方ない。それだけでも興味は尽きないし、充分楽しめる。しかし、ここで、さらに想像力を働かせてみてはどうだろう。
 スタジオ入りしたディランがギターをつま弾き出したとき、いったい何テイク重ねることになるのか、果たして完成するのかどうか、本人を含めてスタジオ内の誰も知る由もなかった。OKテイクのあとも録音が続けられた「ライク・ア・ローリング・ストーン」、どこか不満があったのか。結局、納得できるテイクが得られず、そのまま没になっていたら。11分を超える演奏時間の「廃墟の街」に、ボブ・ジョンストンがテキサス訛りで「長くねぇか?」

とダメ出ししていたら。東京ロマンチカなギターのダビングを思い直していたら。ツアーのバック・バンド、ホークスの伴奏でアルバムが完成すれば、ナッシュビルまで出向く必要はなかったはず。すでに起こった過去ではない、異なる時間軸で進行する、ロックン・ロールの別バージョン。
 SF映画の宇宙飛行士のように、ワームホールを漂いながら、スタジオを覗き込む。振り向けば、漫画と参考書の並んだ本棚越しに、初めて買ったディランのベスト盤を聴いている、45年前の自分の姿も。2枚組『ギフトパック』の終曲は、この6枚組と同じ「ローランドの悲しい目の乙女」だった。おい、付属のポスターは貼らずにとっておけ!
(吉住公男=ラジオ番組制作)



買い物日記[13]


 ついこの間夏になったと思ったら秋も感じず、あっという間に2015が終わってしまいった。この間産まれたと思った姉の子供、甥っ子も気づけば2歳半になっていた。クリスマスの話をすると、それがよっぽど楽しみだったのか、クリスマスソングを覚え、言うことを聞かないとき、悪い子にしてるとサンタさん来ないよ。と言うとすぐに大人しくなる。その甥っ子のため、去年のクリスマスは

家族揃って実家でクリスマスパーティーをした。
 甥っ子にあげるためのクリスマスプレゼント、彼が欲しいものがあるのはおもちゃ屋だろう。そう思ってデパートを歩き回ったけど、最近のデパートにはおもちゃ屋が入っていない。あったとしても木で出来たおしゃれなおもちゃ、もらった本人ではなく、親が喜びそうなおもちゃしかみつからなかった。おもちゃってどこで探すんだろう。途方に

暮れた駅の真ん中で、携帯電話を使って『立川 おもちゃ』と、調べてみた。その検索で出てきたのはビックカメラだった。子供のおもちゃを買うのは何年ぶりだろう。今、そのおもちゃの買い方がわからなくなっているのに衝撃を受けた。あまり頻繁に行かないような、普段あまり気にとめないお店でも、あると思っていた場所にそれがなくなっているのは意外と悲しい。
 久しぶりにあそこへ行きたいな。何かのきっかけで思い出したとき、そこへ行くとすでにもうなくなっていたりする。なくなっていることに気づいたときは悲しくなるけど、思い出さなければ悲しくもならなかったかもしれない。そのたびに自分は勝手だなあ、と思ってしまう。普段気にとめないお店でもこんなに悲しいのに、自分が好きなお店

ならもっと悲しいのだろう。ぼくが好きなお店といえばレコード屋だけど。それから頭に浮かんだレコード屋には必ず良いレコードがある。そう思い込んで、少しでも頭に浮かんだレコード屋には行くようにしている。
 立川のディスクユニオン

に少し寄って、ビックカメラに到着。6階、フロアの半分がおもちゃ売り場になっていた。甥っ子が電車に夢中なのは知っていた。どれにしようか迷って中央線高尾行きの電車のおもちゃを買った。
(馬場正道=渉猟家)



2015年、耳で選んだマンガベストテン


 あけましておめでとうございます。本紙でマンガ家の声が録音されたレコードの紹介を連載しています。マンガと音楽が切り離せない症状で振り返る、昨年のマンガベストテンを、今年も発表させていただきます。
(1位)『昭和元禄落語心中』の雲田はるこを中心に、BL愛好者の為の音楽イベント「くもはるフェス」開催。頒布されたCDも面白かったが、BL目線での歌謡曲解釈コーナーでの、三上寛プロデュース『ピラニア軍団』高評価に目からウロコ。
(2位)阿佐ケ谷で催され

た凡天太郎展で、未発表曲『渡世人』ピクチャシートレコード限定販売。誰得?俺得!
(3位)ゆでたまごによる剛力彩芽、逆柱いみりによるダンボールバットなど、印象的なマンガジャケットは多かったが、荒木飛呂彦が石川さゆり以来久々に手掛けたのが千住明のベストアルバムだったことに、スキ突いてくるねー、と思いつつ、いちばんスキを突かれたのは、さべあのまによる、うどん兄弟『立入禁止』か。
(4位)デザイナー森敬太主催のマンガと音楽のイベ

ント「ジオラマミュージックフェア」が2年振りの開催。今回も大盛況。しかし、嫁入りランドって女の子グループのライブ、衝撃だったなあ。
(5位)そこで、トーベヤンソン・ニューヨークのアルバム『サムワン・ライク・ユー』をフラゲ。相変わらずの金子朝一のほっとけない歌声。西村ツチカ作詞作曲の「クラシックすぎて」がなかなか。
(6位)グループ魂のアルバム『20名』のジャケットに楳図かずおが登場。「楳図かずお」という楽曲も収録。

(7位)マンガ業界映画『バクマン!』のエンディングテーマのサカナクションの楽曲タイトルが「新宝島」。いいタイトル。
(8位)水木しげる、熊倉一雄の逝去で「ゲゲゲの鬼太郎」の主題歌をよく耳にしたが、きたろう歌唱バージョンを2回ラジオで聴くとは。
(9位)ケンドーコバヤシのバラエティ「漫道コバヤシ」で、宮下あきらのプライベートバンドの演奏が放送されたとか。
(10位)三戸なつめ「前髪切りすぎた」のPVが話題と困惑を呼んだ、異能のDIYアニメ作家・伊勢田勝行が、自作のアニメ主題歌集『少女アニメソング大全集』を出していたことを知る。知るのが遅すぎた。でも買った。
(足立守正=マンガ愛好家