てりとりぃ放送局アーカイヴ(2016年1月22日〜2016年2月5日分)

 事実です。認めなければなりません。2016年1月10日(現地時間)、デヴィッド・ボウイが亡くなりました。69歳の誕生日からわずか2日後でした。肝臓にガンを煩い闘病生活は18ヶ月に及びましたが、最後は静かに息を引き取ったとのこと。当欄でも紹介したように、1月8日は新作『★』の発売日でした。この遺作は全世界で軒並みウィークリー1位を獲得(註:日本では7位)。しばらくボウイ狂想曲は続くでしょう。そして当欄に駄文を書いている人間は、いまだしばらく混乱の日々を送ります。(2016年1月22日更新分/選・文=大久)


BBC Breaking News - David Bowie Confirmed Dead (Monday 11th January 2016)

 映像はイギリスBBCの朝のニュースの中で、速報として伝えられたものです。英米ともに、いわゆるメディアでこのニュースを取材していたところはありませんでした。第一報はネットで、公式HPが発表したものです。世界中で「ボウイのHPがハッキングされた。いい加減なニュースが出ている」と騒がれましたが、ボウイの息子(映画監督ダンカン・ジョーンズ)がこの報が事実であることをツイッターで認め、世界中に流布されました。

David Bowie / Lazarus (2016)

 ボウイ最後のシングルとなった曲がこちら。フィジカル・リリースはなく、シングルとしてはダウンロード販売のみでした。PVから、ボウイの最期を云々するのは容易でしょう。でもやっぱりそれは間違ってますよね。この曲は76年の映画「地球に落ちてきた男」のシナリオを元に制作された同名のオフブロードウェイ・ミュージカルのために作られた楽曲なので。

Suzi Ronson - UK TV Interview on Bowie's death January 2016

 前述した息子ダンカンのツイートを除いてボウイの家族は沈黙を保っていますが、関係者はゾロゾロとTVに出演し、追悼を捧げています。動画は訃報が流れた翌12日、ITV(チャンネル4)の朝のワイドショーに出演し、思い出を語るスージー・ロンソン。73年までボウイのヘア・ドレッサーを担当していた女性で、その後ミック・ロンソンと結婚した、ロンソン未亡人です。正直彼女の物言いにイラっとする箇所もありますが、今はそれを口にする気もおきません。

St Albans Cathedral Tribute to David Bowie

 訃報を受け、ロンドンの北のはずれにある聖オルバンズ大聖堂(St. Albans Cathedral)が、施設であるパイプオリガンを用いてボウイ「LIFE ON MARS」を演奏した動画を公式にアップしています。

David Bowie tribute on the Dom Tower Utrecht

 こちらもトリビュート演奏。訃報が広まった当日、オランダのユトレヒトにあるドム・ファン・ユトレヒト(Dom van Utrecht)の鐘の音を使って演奏された、ボウイ「SPACE ODDITY」です。街のシンボル・タワーでもあり、オランダのゴシック建築の象徴でもある建物。そうでしたか、オランダに行った時に一目みてくれば良かったです。

David Bowie Star Special (1979)

 最後のオマケ。79年5月に英BBCラジオ1で「DAVID BOWIE STAR SPECIAL」と題した2時間特番が放送されました。単純に、ボウイが選曲した「好きな曲」を29曲ダラダラと流す音楽番組でしたが、自分の曲も2曲流してますけど、素晴らしいですね。ちなみにボウイの私物のレコードをオンエアしたそうです。ステイプル・シンガーズ「TELLING LIES」で閉めるあたりも、見事です。選曲表はこちらを参照。



*動画のリンク切れの場合はご容赦ください。




 唐突ですが、ドラムマシンの特集をやってみます。ドラムマシン。リズムボックスと呼んでも、ビートボックスと呼んでも構いません。とりあえず機械がビートを生み出すものを全部指していますが、ここでは音楽用途でビートを生み出す機械に限定しています。クオンタイズがどうとかベロシティーがどうとか、音楽知識のある人に限ってウンチクというものが増えてしまいますが、マシンは人間の代用品ではない、ということを再認識する一助になれば、幸いです。(2016年1月29日更新分/選・文=大久)


Chamberlin Rhythmate Tape Loop Drum Machine

 このメカメカしい&仰々しいルックス。素晴らしいですね。世界最初のリズムボックスは1930年に開発されたリズミコンという巨大な箱で、スタンリー・キューブリックの映画「DR.STRANGELOVE」(64年)のサントラで使用されたことで知られますが、とても実用的とはほど遠いものでした。で、こちらは1957年に開発されたリズメイトというリズムマシン。なんとあのメロトロン同様にテープに吹き込んだ音声をヘッドで読み取り発声するという仕組みです。PCM音源のドラムマシンと同様の考え方が、既に1957年にあったという証拠ですね。
Wurlitzer SideMan - 1950s Tube Drum Machine

 1959年、ピアノやオルガンで有名なウーリッツァー社がサイドマンという名のドラムマシンを発表しました。まるでタイヤのホイールを全自動洗車マシンが回転して掃除してるかのようなパターン(ワルツ、ボレロ、タンゴ、マーチ、チャチャe tc)の生成機構に、胸がキュンキュンしてしまいます。もちろん音源増幅には真空管を使用。いや、ホントにこういうの素晴らしいですよね。

KEIO DONCA-MATIC DE 20 - Analogue Rhythm Machine from 1966

 世界からやや遅れる形になりましたが、60年代になって、当然日本の電子機器メーカーもリズムマシンの製造に打って出ます。日本初のリズムマシンは京王技研(現在のKORG社)のドンカマチック。そうです、一般に「ドンカマ」という単語を日本の音楽シーンで有名にしたその大元のマシンです。最初のモデルは1963年発表、そちらはセミオートでしたが、66年に全自動のモデルとなりました。プリセット・パターンは20種。
Maestro Rhythm King MRK-2

 60年代後半、アメリカのマエストロ社(ギターで有名なGIBSON社傘下の、電子機器部門の子会社)がこのリズムキングという名のリズムマシンを発表しています。既にこの頃になると、より小型に、そしてより多くのプリセットパターンを持ったリズムボックスが世界各社から発売されていましたが、このリズムキングは初期のリズムマシンとして最も有名な類いのモデルです。というのも、スライ・ストーンが69〜70年代にかけてこのリズムマシンを使って多くの楽曲を作ったからです(註:スライは他のモデルも使用しましたが、アルバム『暴動』でこれを使用したことで有名です)。
EKO ComputeRhythm drum-machine from 1972

 上で「より多くのプリセットパターン」と書きましたが、勿論音楽制作に使用するパターンは100や200では足りる訳もありません。そこでパターンを自作できる(=自分でシーケンス・パターンを作れる)マシンが生まれます。これでやっと「ドンカマ」の時代が終了するわけですね。こちらはイタリアのEKO社が1972年に発売したドラムマシン。パターンが光る! それだけでなく、穴をあけたカードでパターンを保存/読み込みすることまで可能! 素晴らしい。もうこの動画見てるだけで当方は絶叫してしまいそうなほどに、心臓がドギマギします! 音はショボイですが、これを越えるルックスを持ったリズムマシンを他に知りません。是非このマシンを完全復刻して欲しいです。

*動画のリンク切れの場合はご容赦ください。





 というわけで80年代リズムマシン特集です。音楽の流行とかってその時代の音楽機材のイノベーションにそのまま引きつられるのは言うまでもありませんが、それが60年代はエレキギターだったりして、そして80年代はリズムマシンとシンセサイザーでした(実はもうひとつ、MIDIという革命もありましたがそれはもう少し後になります)。ムード〜イージーリスニング音楽用の機材だったリズムボックスが、ポップ・ミュージックの最前線に躍り出た時代、でもあります。(2016年2月5日更新分/選・文=大久)


Roland TR-808 - Famous Drum Beats

 はい、泣く子も黙る最強マシンTR-808、通称ヤオヤの登場です。1980年に発表、実質3年間しか製造・販売されていませんが、15万円という価格(当時)で瞬く間にシーンに広まりました。何と言ってもプリセットパターンをユーザーが自分で(しかも簡単に)作ることができる、という画期的な性能もユーザーフレンドリーでしたが、各音をチューニングできる点も見逃せません。この機材が生んだヒット曲は「SEXUAL HEALING」「BETWEEN THE SHEETS」他膨大な数になりますが、バンド名に引用するという例(808ステイト)もありましたね。

Linn Drum / LM-1

 こちらも80年に発表された名器、リン・ドラム。開発者のロジャー・リンはこの数年後日本の楽器メーカーAKAIにて「MPC」シリーズというこれまた大ヒット機材を生み出すことになりますが、このリン・ドラムはなんといってもプリンスとマイケル・ジャクソンという2台巨頭が使用したことで知られます。この動画の中でも「あっプリンスだ」と誰でも気付くであろうサウンドが聴こえますよね。

Ten classic Oberheim DMX patterns

 シンセサイザーで有名なオーバーハイム社が1981年に発表したドラムマシン。テンキーなんてのまで付いて、よりコンピュータっぽくなりましたね。WIKIPEDIAにこの機材を使ったヒット曲一覧リストがありますが、もう目眩がするほどゴージャスなラインナップです。「BLUE MONDAY」「ROCK IT」「HOLIDAY」を始め、チャート1位を記録するドラムを量産した恐ろしい機材です。
Building Techno and House rhythms on the Roland TR-909

 海外勢が幅を効かせようとして、黙っているような日本国ではありませんでした(笑)。リズムマシンのレガシーとして2016年現在もホットな注目を集めるマシンTR-909が遂に登場です。もちろんマドンナ「VOGUE」でのモロ使いでも知られますが、このマシンは実は83年に発表、翌84年には製造が打ち切られるという、短命なマシンでした。なのにマドンナをきっかけに90年代に大ブレイク、という。ローランド社は以降、いくつか後継機種(TR-606, TR-707、TR-727等)を世に出してますが、909程の人気を持つマシンは他に生まれていません。
Roland TR-8 (a short tutorial)

 簡単にその後のリズムマシン史をおさらいすれば、シーケンサー(高精度でパターンを構築できるマシン)とサンプラー(自分で音を録音し、活用できるマシン)の登場のために、単体のリズムマシンは90年代後半には絶滅に近い状態まで消え去ります。しかし時が経れば温故知新の動きがあるのも必須。こちらはなんと2015年にローランド社が発売した「最新の」リズムマシン。操作性や内部回路は最新になりましたが、いにしえのTR-808/TR-909のサウンドをそのまま現代に再現してみた、という意欲作です。これ欲しいなあ。んー、どうしよう。



*動画のリンク切れの場合はご容赦ください。