てりとりぃ放送局アーカイヴ(2016年3月25日〜2016年4月8日分)

 イケメン・シャンソン・シンガー、パトリック・ジュヴェの特集です。日本でも一部フレンチ・イージーリスニング〜シャンソン・ファンにとって当然のようにアイドル視される人気っぷりですが、当方個人にとってはシャンソンを歌う彼はどうでもよくて(笑)、やはりキャリア後半のギラギラに振り切れた彼の音楽のほうが楽しかったりします。そんなパトリック・ジュヴェのキャリアを簡単におさらい。(2016年3月25日更新分/選・文=大久)


Patrick Juvet / La Musica (1972)

 まずは初期音源。エディー・バークレイに見いだされ歌手デビューすることとなったスイス出身のパトリック・ジュヴェ。2枚目のシングル「LA MUSICA」がミリオンセラーとなり、以降スター街道まっしぐらなわけですが、日本では「いとしのソニア」と題された「SONIA」の方が有名かもしれません。

Patrick Juvet / Magic (1975)

 そんなシャンソン・ヒットを大量にぶっ放した初期パトリック氏ですが、ある時彼の中に革命が起きちゃいました。「ジギー・スターダスト」にモロに影響を受けてしまった彼は(まあ当時はそういう人は沢山いたわけですが)グラム・ロック路線に方向転換。当時彼の音楽のアレンジを担当していたジャン・ミシェル・ジャールと意気投合、そして放ったのがこちら。ご存知パイロット「MAGIC」のカヴァーでした。

Patrick Juvet / Ou' Sont Les Femmes (1977)

 ロック路線で英米の屈強な才能に敵う事は難しかったのかもしれません。しかし、時代が動き77年。アメリカへの進出を狙って大胆にディスコ路線に舵を切りました。この路線にまたしても意気投合したのはジャン・ミシェル・ジャールでした。ただし、このディスコ路線が契機となり2人は別れることになるんですが。
Patrick Juvet / Got A Feeling (1978)

 実際に居をアメリカに移したパトリック・ジュヴェはNYの有名ディスコ「STUDIO 54」にてジャック・モラーリと知り合います。モラーリはフランス人ですが75年にアメリカでヴィレッジ・ピープルやリッチー・ファミリーを大成功に導いたディスコ・プロデューサー。そりゃあそちらになびくってモンですよね。この頃から楽曲も英語詞がメインになり、いよいよ世界進出ということに。
Patrick Juvet / I Love America (1978)

 そして遂に世界的大ヒットが登場。モラーリ&ジュヴェのコンビはベタなテーマとベタなディスコ・アレンジで世界を席巻することになります。動画中サンセット大通りが出てくるように、ジューヴェはLAに住んでたのですが、音が東海岸ディスコだというのも面白いですね。
Patrick Juvet / Lady Night (1978)

 そしてジューヴェのディスコ路線最大最高傑作。もちろんクール&ザ・ギャングとは無関係の曲です。この後ジュヴェは映画『BILITIS』で知られるデヴィッド・ハミルトン監督の『LAURA(愛と追憶のセレナーデ)』で音楽を担当したりしますが、その後は50's R&R路線の駄作(笑)を発表したり、なぜかトランス・テクノ路線の楽曲を発表したりとアチコチさまよいながらも現役で活動を続けています。



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 以前「I'M SO GLAD」という戦前ブルース曲のカヴァー聴き比べをやりましたが、今回は「ON THE ROAD AGAIN」というエレクトリック・ブルースを題材にしてみます。オリジナルは1953年の発表曲ですから、エレクトリックといってもそんなジャカジャカとバンド・サウンドやってるわけじゃないんですが、現代にいたるまで長く歌い継がれるこの曲の変遷をお楽しみ下さい。(2016年4月1日更新分/選・文=大久)


Floyd Jones / On The Road Again (1953)

 オリジナルのフロイド・ジョーンズ版。1917年生まれの彼は、いわゆるエレクトリック・ブルースの開祖的な存在でもあります。ハウリン・ウルフからギターを貰ったのを機に必死にギター演奏を練習した、というエピソードも素敵ですが、戦後すぐエレキでブルースを演奏する方にシフトチェンジ、そして歴史に名を残したというわけです。

Canned Heat / On The Road Again (1968)

 とはいえ、この「ON THE ROAD AGAIN」が一躍有名になったのは、もちろん60年代末にキャンド・ヒートがカヴァー・ヒットさせた時。サイケデリック・ブルースの筆頭ナンバーとなったこちら、メイン・ヴォーカリスト(ヒゲ面の熊男のほう)ではなく、ギタリストの方がファルセットでナヨナヨと歌ってみたら大ヒット、という面白い結果となりました。

Rockets / On the Road Again (1978)

 さらに10年を経て、またもや大胆な模様替えを施して大ヒットしてしまったこの曲。おフランス出身の奇妙奇天烈スペース・テクノ・バンド、ロケッツのテクノ・カヴァーです。いやー最高ですね。音も最高なのですが、やはりこのルックスは何物にも代え難い美しさ。衣装とメイクの点では米国のKISSも似たようなものですが、ヘアスタイルはKISSにも勝ってますね! このロケッツの盤は、アメリカではサルソウル・レーベルから発売されています。
Telex / On the Road Again (2006)

 あれ、ブルース・クラシックの聴き比べなのに変だな、と思われた方。勘がいいですね。実は今回はこの曲のテクノ版をいろいろ紹介したいと思って並べてあります。スイマセン。で、こちらはベルギー出身なのにノイエドイチェベレに分類されるニューウェイブ・ユニットのテレックス。06年にいきなり大復活を果たし、発表した『HOW DO YOU DANCE?』のリード・シングル。ロービットのシンセ音にも奇妙なマッチングを見せる曲ですよね。
Hisko Detria / On the Road Again (2012)

 こちらは無名の方ですがBandcamp周辺で楽曲披露しているHISKO DETRIAというアーティストによるカヴァー。12年に『STATIC RAW POWER KRAUT』というド渋なエレクトリック・サイケのミニ・アルバムを発表していて、そちらの収録曲です。ブルースがサイケになり、サイケがテクノになり、テクノがクラウトロックになる、というもの凄く分かりやすい音楽の循環、ですよね。21世紀にこういうジャケを新作で見ることが出来る、というのももう驚かなくなってしまいました。いい時代です。
Jack Broadbent / On The Road Again (2015)

 「循環」と書きましたが、最後はやはりルーツ中のルーツ、ブルースに戻ります。なんとイギリス出身のスライド・ギタリスト、ジャック・ブロードベントによるカヴァーです。今もアコギ片手にイギリス中をツアーしてる人ですが、このカヴァーに寄せて、キャンド・ヒート本人からも「ブルースし続けるんだ、ジャック」というコメントが寄せられています。



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 その昔、80年代の終わり頃にイギリスでドクター&ザ・メディクスというケバケバなバンドが持て囃されたことがありました。ネオ・サイケ〜グラム〜ニューウェイヴの流れを組むロンドン出身のバンドでしたが、イギリスでは「一発屋」としてその名が今も知られています。実は現在まで解散することなく活動を続ける人達なのですが、一貫して彼らの魅力は「ケバい」ことにあります(笑)。今回はそんなドクター&ザ・メディクス特集。(2016年4月8日更新分/選・文=大久)


Doctor And The Medics / Blockbuster (1985)

 結成は81年。85年にホークウィンドのカヴァー(「SILVER MACHINE」)を発表しインディーチャート2位を記録して一気に火がついたドクター&ザ・メディクス。こちらはその頃の同バンドのライヴ映像。曲はスウィートの73年グラムロック期の代表曲「BLOCKBUSTER」のカヴァーです。80年代らしい乱痴気っぷりが素晴らしい。丁度この頃メンバーの補強があり、すぐ後に世界的なブレイクをすることになります。

Canned Heat / On The Road Again (1968)

 メンバーも増員し、新体制となった86年に発表したノーマン・グリーンバウムのヒット曲カヴァー「SPIRIT IN THE SKY」がなんと全英1位の大ヒットに。ご覧のように70年代グラム・ロックのエレメンツをあちこちに鏤めながらも、80'Sギターポップの世界にちゃんと通用するポップ・ロックとなっています。当時「モリッシーに続く新たなヒーロー登場」みたいな宣伝文句も使われてましたね。

Doctor And The Medics / Waterloo (1986)

 初期にはXTCのアンディー・パートリッジがプロデュースを担ったり、バンドのメンバーとしてダムドのローマン・ジャグが在籍したりと、当初からビッグ・プロジェクトの香りがしていました。で、こちらは86年に発表した6枚目のシングル。もちろんABBA「WATERLOO」のカヴァーですが、なんと御大ロイ・ウッドをゲストに迎えて制作されています。というかこれ、ロイ・ウッドそのまんまのテイストですよね。

Doctor And The Medics / Hi Ho Silver Lining (1990)

 とはいえ美しくも儚い1発屋の世界。90年代には早々にシーンから忘れられた存在となってしまいました。90年代にはマンチェスター・テイストを取り込んでこんなカヴァー(オリジナルは67年のジ・アタック。直後にジェフ・ベックがカヴァーしたことで有名な曲)をリリースしていますが、まあ案の定惨敗でした。この曲、サッカーの応援歌として当時有名になった曲なので、そこに便乗しようとしたのかも知れませんね。
Doctor And The Medics / You Spin Me Round (Like a Record) (2015)

 ですが前述した通り、実はバンドは現在にいたるまで存続しております。昨年春に発表された新曲は、なんとデッド・オア・アライブの80年代を代表するダンス・ナンバー「YOU SPIN ME ROUND」のハードロック・カヴァーでした。ったく、こいつら何も変わってないですよね(笑)。素晴らしい。ちなみにオリジナルメンバーで今も残っているのはヴォーカルのドクターのみですが、オリジナル・ベーシストだったリチャード・シアールは91年にコーデュロイを結成しアシッド・ジャズからデビューした人でもあります。


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