フランスでサントラ専門レーベル〈ミュージック・ボックス〉を主宰するシリルより相談を受け、同レーベルから発売中のタイトルのなかから5枚をセレクトして日本仕様で発売することになった。発売元はウルトラ・ヴァイヴの〈ソリッド〉レーベル。 筆者は以前、同じくフランスのサントラ専門レーベル〈プレイタイム〉の諸作を日本仕様で発売する際に監修を務め、本国盤につけられた仏文解説の翻訳に加えて、作曲家への取材に基づく日本独自の書き下ろし解説をつけていた。毎回軽く1万字を越える分量で、時に2万字に及ぶこともあったから、担当者はさぞ迷惑だったに違いない。実際、「また1万字超えですよ!」と小言を言われたこともたびたび。とはいえ同シリーズは好評で、都合4年で20
タイトルは手掛けたと思う。まだCDが今よりも売れた時代の話だ。 当時は「今このタイミングで記述しておかないと、情報や資料が散逸する」という逸る気持ちから、採算度外視で取り組んだものだが、今やそんな気力はない。 その理由のひとつが、インターネットの普及で当時に比べて情報が容易く入手出来るようになったこと。次いで、今回セレクトした5枚のうち3枚がすでに故人の作品だからだ。さらにいえば本国盤につけられた解説におおよそのことは盛り込まれているため、それに追記するのは蛇足というものだろう。そんな訳で、今回は選盤と訳文に目を通すにとどめた。 今回発売されるのは以下の5タイトル。ミシェル・ルグラン同様に今年傘寿を迎えたフランシス・レイの
作品が1枚、『ベティ・ブルー』(86年)『愛人/ラマン』(92年)や『イングリッシュ・ペイシェント』(96年)で名を上げたガブリエル・ヤレッドの4作品を集めた企画盤が1枚、そして60年代にジャン・マレーの主演で人気を博した『ファントマ』シリーズや『地下室のメロディー』(63年)『輪舞』(64年)『セシルの歓び』(67年)などで知られるミシェル・マーニュの手掛けた2作品のカップリング盤が1枚、そして早逝の天才フランソワ・ド・ルーベの未発表曲を含む2枚がその内訳である。 5枚それぞれに聴き所が多いが、音の面白さで聴くならば、ここはやはりド・ルーベの2枚がお薦めだ。また、レ・ドゥブル・シス(=ダブル・シックス・オブ・パリ)唯一の再結成録
音が収録されたヤレッドの『エージェント・トラブル』も捨て難い。同様にレ・ドゥブル・シスのソプラノ担当でミシェル・ルグランの実姉クリスチャンヌの絶品スキャットが堪能出来るマーニュの『エマニュエル』もこの一曲のためだけにでも聴く価値がある。いずれも本国でも在庫稀少の限定盤なので、この機会をお見逃しなきよう。 ※ なお余談だが、ガブリエル・ヤレッドの名を、時おり 〝ヤーレ〟と表記するケースがあるが、これは明らかな間違い。片仮名表記で〝ヤレッド〟が原音にもっとも近いと筆者が本人に確認済み。そもそも〝ヤーレ〟だなんて、誰が言いだしたのだろう。この場を借りて正しておきたい。 (濱田高志=アンソロジスト)
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ウチの本棚
[不定期リレー・コラム]第8回:足立守正の本棚
実家を出て、自分の住居を持ったとき、まずは本棚のことを考えました。ちょうどその頃、神戸の安田謙一さん宅にお邪魔する機会があり、お昼ご飯などいただきながら居間にあった壁一面の本棚を見わたして、ああ、いいなあ、それにしてもこれが蕎麦飯か、おいしいなあ、むしゃむしゃむしゃ、と思ったことでした。
すぐに影響を受けて、居間に同じような配置で本棚を組み込んだものです。本棚なんて、いくら空いていてもかまわない、と思ったつもりでしたが、空いてる分だけ購入してしまう本好きの性癖で、たちまち棚の前に平積みの山ができ、ヒドい有様のできあがり。半年に一度、本棚裁判を催し、処分本を選ぶのですが、全
員無罪になりがちなのは、レコスケくん(本秀康)の「レコ裁判」同様です。 マンガ愛好家なんて名のるからには、さぞや本棚はマンガだらけとお思いでしょうが、全ての著作を棚に挿しているのは、高野文子と森雅之と花輪和一と谷岡ヤスジのみ。リフレッシュに即効性のある短篇マンガの四天王です。基本的にマンガは平積みが気分なのです。ただし、古書店を巡ってコツコツ集めていた文藝春秋の雑誌「漫画讀本」(1955〜1970)だけは特別枠を設けています。執筆陣が豪華で、その時代の年鑑としても利用していますが、外国の一齣マンガの紹介が貴重でした。トポール、アダムス、プラウエン、アルチバージェフなど、大好きな作家を得ました。超絶的にカワイイ作風のロイ・ディヴィスなんて、い
まだ未知で興味深い。 ところで、昨年の大地震で我が家の本棚が一竿、倒れました。それを見て、陰惨な気持ちになり、不穏な情勢のなか、本なんて人生に関係ないものだと思い知らされ、そんな残酷なシーンを、何となくデジカメで撮りました。土砂のように部屋から流れ出た、くだらない本のタイトルたちが、この深刻な事態に感じられる唯一のユーモアなんじゃ
ないかと思ったからです。あのとき、倒れた本棚の記念写真を撮った人は結構いたはずで、それを集めて写真集をつくる構想は、人脈と気力と財力がなく実現しませんでしたが、結局今だに本が好きです。大好き大好き。その倒れた本棚をお見せしようとも思いましたが、まあ、やめておきます。やっぱり本棚は立ってたほうがいいもんね。 (足立守正=マンガ愛好家)
低山歩きの薦め(長野県・湯ノ丸山)
いや―、今年の夏は暑い!。こんなに暑いと低山に行っても涼しくないので、少し高い山や、緯度の高いところに行くしかない。標高の高い山でも登山口の標高が高ければ、低山歩きと同じ労力で山歩きが出来る。湿気も少なくからっとして、気温も日陰は低いので良い場所を選べば快適だ。 ということで長野県の浅間山の少し先、湯ノ丸山へ行ってきた。8月4~5日に出かけた。お盆の前だからなのか思ったほど込んではいなかったが、さすが登山口の駐車場は満杯だった。電車で行く場合は、小諸駅から登山口の地蔵峠までバスが出ている。 登山口といっても、冬はスキー場になっている広い草原状の坂を登ってゆく。ここには牛が放牧されていて、草を食んでいる牛の間を通ることもある。少しき
ついが、上りきるとなだらかな道が続いていて、気持ちの良い散策が出来る(写真1)。特に夏は高山植物が花盛りで、歩いていても気持ちが和む。たとえばハクサンフウロ、マツムシソウ、ウツボグサなど多くの花が見られる。 しばらく歩くと再び急坂になる。ここを40分ほど汗をかきかき上ってゆく。でも、この間も高山植物の花は咲いているし、ヒバリなどの囀りも聞くことが出来、気がまぎれる。額から汗がたれ落ちて、息が切れた頃後ろを振り返ると、篭の塔山の向こうに噴煙をなびかせた浅間山のでんとした勇姿を望むことが出来る。 湯ノ丸の山頂は平たく、大小の石が敷き詰められた状態になっている(写真2)。晴れていれば四阿山や白根山、反対側には八ヶ岳などが望める。また、稜線を
歩いていける隣の角間山は、猿飛佐助の修行をした場所という逸話のあるところ。山頂でお昼を取る人も多いが、余裕があれば奥の烏帽子岳(写真3)までいっても良い。ちなみに烏帽子とは、武士がかぶる帽子のようなもの。下山は、湯ノ丸山の麓を回り込んで登山口に戻る。ゆっくり行っても4~5時間ほどのコースだ。 山頂の標高は2103mだが、登山口の標高も高いので気軽に登れる。爽やかな涼風に吹かれてのんびり歩いた楽しい山歩きだった。小諸に戻って、その近くの立ち寄り温泉「あぐりの湯」で汗を流し、地ビールをぐいとノドに入れるとさらに天国に上れる(写真4)。でも、あの涼やかな山風ははるか遠く、現在は再び暑さの中で仕事だ。 (川村寛=小学館クリエイティブ・編集者)
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