2013年11月29日(金)

ヒトコト劇場 #32
[桜井順×古川タク]








歌とBGMで味わう国民的アニメ/CD『サザエさん音楽大全』発売!

 放送が始まって来年で45周年を迎える国民的アニメ『サザエさん』。その主題歌、劇音楽を集めた本邦初のCD『サザエさん音楽大全』が、テレビ番組やCMの貴重音源を発掘、商品化するTV AGEシリーズの最新作として、12月4日にリリースされる。
 まだテレビが一家に一台

しかなかった昭和の時代は、「家族みんなで楽しめる」との理由から、テレビ局は三世代同居のホームドラマを量産し、多くのヒット作が生まれた。その筆頭がこの『サザエさん』であり、磯野家の平凡ながらもほほえましい日々と、そこからあふれ出す心温まる笑いが毎回、くり返し描かれてき

た。
 今回リリースされたCDには、初めて商品化される劇音楽も多数収められたが、それらのBGMは、『サザエさん』の魅力である「ほのぼのとしたユーモア」を見事に音で表現している(作曲は越部信義)。さらに、磯野家の飼い猫タマの鳴き声や、幼いタラちゃんの足音も収録。これら可愛い効果音も、実はサザエさんワールドを支える大事な要素であることを、今回のCDを聴いて初めて気づかされた。
 またCDには、「お魚くわえたドラ猫、追っかけて」で始まるおなじみのテーマソングほか、計十種類の主題歌、挿入歌も収録。作曲家の顔ぶれも、昭和歌謡をけん引したヒットメーカーの筒美京平、アニメや特撮ドラマの分野で活躍した渡辺宙明、宇野誠一郎など有

名どころが並び、それぞれの持ち味で勝負したサウンドで楽しませてくれる。
 加えて登場人物のキャラクターを生かした、吹きかえを担当する声優たちが歌う二曲が愉快この上ない。「レッツ・ゴー・サザエさん」では、加藤みどりが「お空が大きく見えるのは私がそこにいるからよ」と快唱し、サザエさんは、家族にとって太陽のように明るい存在だとアピール。さらに、その弟カツオを演じた高橋和枝は「カツオくん(星を見上げて)」の中で、「どうしてぼくだけ 頭がいいのかしら」とうぬぼれたカン違い発言をするのが、いかにもカツオらしくておかしい。
 『サザエさん』の主役である磯野ファミリーは、決して年をとらないし、劇中にケータイもパソコンも登場しない。つまりあの一家

は時が止まった世界、しかも平成よりも前の時代に生きているのだ。あの長寿アニメが描きつづける、変わることのない「永遠」の世界。その象徴が、初回から現在も番組のおしまいに必ず流れる、筒美京平作曲の「サザエさん一家」だろう。その軽快で、はずむようなイントロは、一瞬で万人の耳をうばう「つかみ」として最高の出来ばえであり、時代を越えていつまでも愛される名曲と言っていい。
 CDの企画監修ほかは濱田高志と鈴木啓之。詳細な解説と音響効果担当の証言も『サザエさん』の豊かな音楽世界を味わう上で役立つだろう。収録時間74分。どこか懐かしいのに新鮮に響くサウンドが詰まった一枚である。スキャット好きは、四つある「テーマアレンジ」も必聴ですよ!
(加藤義彦=ライター)



連載コラム【気まぐれ園芸の愉しみ】
枯葉の悲喜こもごも

 十一月を過ぎ、そこらじゅうの木が、慌てて冬支度をするかのように葉を落とし始めた。そこここに積み重なっていく枯葉を見ていると、なぜか侘びしい気持ちになるものだ。
 落ち葉にしろ、セミの抜け殻にしろ、脱ぎ捨てられたものはみな虚ろだ。かつ

てそこにあった命の痕跡だけを残して、中はがらんどう。この寂寥感、何かに似ていると思っていたが、最近思い当った。
 引っ越し作業が終わり、家財道具がなくなって、住み慣れた部屋が様変わりしたのを眺める気持ちに通じるのだ。

 引っ越しと同様、枯葉散る晩秋の風景には、「別れ」とか「過ぎ去った時」といったイメージが付きまとう。そういえば名曲「枯葉」だって、恋の終わりを歌っている。触れるとカサカサと哀しげな音を立てる枯葉に、そんなイメージを重ねるのはごく自然なことだと思う。

 しかし。園芸家の場合、枯葉に別のイメージを重ねてしまうことをご存じだろうか。それは「栄養」。つまり、腐葉土である。想像力のたくましい園芸家には、道端にたまった枯葉は「わが植物のごはん」にしか見えないはずだ。「おいしそう」とすら思うかもしれない。
 もちろんカラカラに乾いた枯葉が即、栄養になるわけではない。四十五リットルのゴミ袋何十杯分の枯葉を集めて一ヶ所に囲い、米ぬかなどを混ぜて、上から重石を乗せる。発酵が進むまでしばらく待ってようやく、じっとりと水気を含んだ腐葉土が完成する。
 作業をする側は肉体的にも時間的にも消耗が激しいが、できあがった大量の腐葉土は、まるで自家製味噌のよう。植物たちも、店で売っている腐葉土よりも歓

迎してくれている気がして、「きっとおふくろの味と思っているに違いない」と自己満足度指数も一気にアップするのである。
 だから、木の葉が一気に散る晩秋になると、質のいい枯葉がたくさん落ちている場所を探して、山を彷徨

する人の姿がちらほら見られる。松やイチョウは不向きなので、松林やイチョウ並木には目もくれない。栄養たっぷりなのは、桜などの広葉樹。そんな木々が生い茂る林や山では、宝の山争奪合戦が地味に繰り広げられているのだ。

 そういえば、伝教大師最澄が眠る延暦寺の浄土院では、師に尽くすため、十二年もの間、庭に一枚の落ち葉もないように四六時中庭掃除をする行があるという。葉が落ちる音が耳に響いてくるほど神経をとがらす厳しい行のため、「掃除地獄」と呼ばれているらしい。
 しかし、園芸家にとっては、落ち葉はそもそもゴミではない。多少腰の痛みがあろうとも、ホカホカにできあがった腐葉土を想像すれば、「掃除天国」ともいえる楽しさなのである。
 実りの秋は、果物など、木の上だけに訪れるのではない。地面に目を落とせばそこにも豊饒な実りがある。枯葉に哀愁を感じるのは、作業着を脱いで、町の並木道を歩くときだけにとどめたい。
(髙瀬文子=編集者)