2014年9月26日(金)

特集「Le monde enchanté de Jacques Demy」[4]
音楽と映画の幸福な出会い〜ジャック・ドゥミとミシェル・ルグラン

 映画のなかで音楽が演奏されるシーンを観ると〝あ~残念!と思うことが多々ある。
 例えば、オーケストラの指揮やピアノ演奏者を著名な俳優が演ずる時、その俳優が感情を込めて指揮をする度に興が削がれ、折角いい映画なのにもったいないなぁ、と思ってしまう。何もこれは多少音楽を齧った者が、〝本当の音楽家はそんなことしない〟といった重箱のスミを突くようなこ

とではなく、何か感動の本質が欠落してしまったように感じてしまうのである。音楽と映画それぞれの感動が齟齬をきたしていると言った方がいいのだろうか。
 一般的に音楽と映画は親和性が高く、事実多くのコラボレーションが生まれているが、それらは、単に二つの要素を結びつけただけで良い作品ができるものではなく、むしろ両者には分かち難い見えない溝のようなものがあるのではないだ

ろうか? 
 これは両者の結びつきを否定するものではなく、この溝を越えた作品こそが、大きな感動を人々に与え、やがて傑作となってゆくのだろう。このような音楽と映画(=映像)の結びつきの困難さを熟知している(数少ない)映画作家たちはどのように対処しているのだろうか。
 例えば、ストローブ=ユイレ監督の『アンナ・マクダレーナ・バッハの日記』(67年)。これは徹底した原理論者である監督の意思が貫徹しており、演奏者は全て本物(当時まだ若手だった、後に古楽演奏の第一人者になるグスタフ・レオンハルトとニコラウス・アーノンクールを起用)、演奏も全て同時録音で行なわれており、その作品は(通常の意味でのスペクタクルな映像を排した)厳格な映

像とともに、演奏(=音楽)の真実が感じられるのだ。
 さて、ここでやっとドゥミとルグランの登場である。彼らはストローブ=ユイレのような厳格な原理や理論をもって自らの映画を作ったのではなく「音楽」と「映画」への特別な愛情と

情熱をもって、彼らの直感を通して出来上がったのだと思う。そしてその作品は映画と音楽が同時に生き生きと躍動しているように、我々に感動を与えるのだ。
 『ロシュフォールの恋人たち』(66年)を例にとれば、本編が始まってすぐにフランソワーズ・ドルレアックとカトリーヌ・ドヌーヴが二重唱で歌う有名な「双子姉妹の歌」の演奏シーンを思い出して欲しい。
 冒頭で私は、職業俳優が音楽を演奏するマイナス面を書いた。ここでもまさに二大女優が楽器を演奏するシーンがあり、これをそのまま当てはめれば、映像と音楽が齟齬きたすことになるが、実際に作品を観るとどうだろう? そんなこととは関係なく、ただ作品を享受する自分がいるのである。
 なぜか? それはこの映

画がまったくの徹底した虚構(ドゥミとルグランの目指した)の世界だから。リアリズムの映画の中でフィクションの俳優が演奏した場合「これは嘘だ」と興醒めしてしまうが、この作品は最初からリアリズムを無視したフィクション(ミュージカル)の世界なので、何をやってもOKなのだ。そのなかで、ドルレアックやドヌーヴがピアノ、トランペット、バンジョーを演奏していても、一向に構わないのである。我々は、ただただ映像の快楽に身を委ね、音楽に心酔してゆけば良いのだ。かようにドゥミとルグランのつくり上げた作品は音楽と映画のユートピアであり、これからも多くのひとを魅了してゆくに違いない。
(軽部智男=エスパス・ビブリオ スタッフ)



おとなの遠足~トキワ荘とあしたのジョー


 終戦記念日の8月15日、てりとりぃ恒例〝おとなの遠足〟が編集長の濱田高志氏と同人の鈴木啓之氏、足立守正氏、そして私の4人で久しぶりに敢行された。戦後プレ80年の今年、昭和のシンボルとも言える〝トキワ荘〟と「あしたのジョー」。この二つのテーマを再確認すべく、〝トキワ荘〟巡りと練馬区立美術館で

開催されている「あしたのジョー、の時代 展」に赴いた。先ずは、西武池袋線椎名町で待ち合わせ、トキワ荘跡地とラーメン店「松葉」を目指す。しかし、当日は正に真夏日。しかも、真昼間に待ち合わせたせいもあり、うだる様な暑さ。歩くうちにペットボトルがどんどん空になる。
 濱田&鈴木の両氏は、ト

キワ荘が現存している時に訪問して以来とのことだが、道すがら、あまりの街並みの変貌に驚いていた。まずは、腹ごしらえと言う事で、「松葉」を目指す。お盆なので若干、嫌な予感はしていたのだが、案の定、休み。後で聴いたところによると、先代の御主人が亡くなってから、不定休になったとのこと。かなり気落ちしたが、気を取り直し、跡地と記念碑をチェックしてから、資料館を見学。資料館は1Fに各作家の関連書籍の展示、2Fには寺田ヒロオ(テラさん)の部屋が復元されていた。この4畳半に10人以上集まって、明日の漫画論を闘わせながら、チューダー・パーティーを行ったとは信じられない狭さ。しかし、そんな事を気にかけないくらい、彼らは漫画に対する情熱に満ち溢れていたのだろう。そして、1Fで

は、充実の小冊子「トキワ荘通り」VOL1&2(なんと各200円!)を購入し、チューダー飴をなめながら、一路、次の訪問地、練馬区立美術館を目指す。
 練馬区立美術館での展示は『あしたのジョー』の原画や関連商品は勿論の事、カウンターカルチャーとしての同作品を多面的に捉えた展示が多数あった。寺山修司が企画構成した力石徹の葬儀イベントも強烈に印象に残っているが、それに

加え岡林信康や三上寛らのアングラフォークから始まり、土方巽の暗黒舞踏や赤瀬川源平やゼロ次元等の前衛アートまで、正にこの時代の混沌とした背景を知るには絶好の機会であった。
 最後に、椎名町で偶然見つけた2階建てのかなり大きいリサイクルショップ。レコードと短冊CDが結構ありました。「松葉」リベンジと合わせて近々に再訪しましょう、編集長!
(星 健一=会社員)



居酒屋散歩《根津・はん亭》


 今回もいわゆる「谷根千」界隈のお店。言問い通りと不忍通りのぶつかった交差点から2~3分の所にある。この付近は散歩のメッカで、いきなりお店に行くのはもったいない。言問い通りを鶯谷方面へ坂を上がってゆくと谷中の墓地がある。この墓地は広く、墓がなんと7000もあるという。著名人の墓を探して木立の中を歩くと心地良い散歩になる。いくつか挙げてみると色川武大、鏑木清方、獅子

文六、稲垣浩、長谷川一夫、森繁久彌などいろんなジャンルの方の墓がある。また、最後の 将軍・慶喜の墓も大きいのですぐ見つかると思う。
 谷中墓地の反対側、東大方面に行くと弥生美術館があり、大正・昭和のモダン・レトロな画家たちの展示を見ることが出来る。もちろん時間のない時は、根津駅界隈の裏路地を歩いて、惣菜屋などのある商店街を覗いたり、下町情緒のあふ

れる家並みを楽しんだりしても良いだろう。
 さていよいよ今回のお店「はん亭」だが、店に入る前に建物を見てほしい。木造3階建てで、この町になじんだ古い建造物。明治時代からあるそうで、文化庁の有形文化財に指定されている。関東大震災に持ちこたえ、戦時中の空襲にものがれ、歴史の流れの中で生き延びてきたすごい建物だと思う。最初は下駄の爪皮屋だったが、後に串揚げ専門の現在の店になったという。もちろん途中で補修やリフォームはされている。
 先日行ったのはDNPのY氏、イラストレイターのT氏と私で3名。建物の中には蔵を利用した部屋もあるが、今回は2階の和室に通され、胡坐をかいて酒と料理を待つ。6品セットになったコースがあり、懐とおなかの具合によっていく

らでもオーダーが出来る仕組みになっている。串揚げのネタはその季節の物を中心に肉、魚、貝、野菜などいろいろなものが出てくる。どんなものが出てくるのか楽しみなので、ついつい食べ過ぎてしまう。常時36種のネタがあるそうだ。
 でも、いきなり串揚げが出てくるわけではない。初めはお通しのほかに、キャベツと野菜スティック。これらは串揚げの口休めなのだが、素材がいいのだろう、これがなかなか行ける。たれは味噌、塩、ソースの3種。ビールを飲みながらニンジンやきゅうりのスティックをかじっているとエビやソラマメ、谷中生姜などの揚げ物が出てきた。それらをビールを飲みながら平らげたところでT氏がワインはないのかというので、ワインに切り替えて次のセットを待つ。稚鮎、ホタテ、

アスパラ、牛肉などが来て、ワインのピッチががぜん上がる。稚鮎の持つ独特の風味は特にワインに合うと思

った。
 いつの間にかワインも2本目になり、串揚げも沢蟹、ナスの肉詰め、アナゴなど

と進んでいった。串揚げは上品な小ぶりなので、酒のつまみとして食べやすくなってはいるが、3名とも若くはないので、3セット目でストップにした。それでも一人18本の串揚げを平らげたことになる。〆のご飯を頂いて店の外に出てきたが、しばしのタイムスリップの気分を味わえた。
 赤提灯の店よりは少し高いので、初めての方はお昼のランチで試してから、夜にチャレンジした方がいいかもしれない。夜は予約をした方が安全。
 その晩は、十分食べたつもりだが、T氏が飲み足りないというので、彼の行きつけのスナックへ梯子。ウイスキーの水割りにカラオケを交えて夜は更けていった。
(川村寛=小学館クリエイティブ)




企画展『ジャック・ドゥミ映画/音楽の魅惑』

会場:東京国立近代美術館フィルムセンター展示室(企画展)
会期:2014年8月28日(木)〜12月14日(日)
詳細⇒http://www.momat.go.jp/FC/demy/index.html

特集上映『ジャック・ドゥミ、映画の夢』
会場:アンスティチュ・フランセ東京
会期:2014年9月13日(土)〜9月26日(金)
詳細⇒http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema1409130926/