2016年3月25日(金)

 
ヒトコト劇場 #78
[桜井順×古川タク]









作編曲家井上ヨシマサの原点となるソロ・アルバム『JAZZ』が復刻!


 作編曲家の井上ヨシマサといえば、ほとんどの方がAKB48の作曲家としてのイメージが強いのではないだろうか。「Beginner」「Everyday、カチューシャ」「真夏のSounds Good!」「ハロウィン・ナイト」など、プロデューサーの秋元康とタッグを組んで、数多

くのヒットソングを生み出してきた。しかし、彼はAKB48以外にも、これまで数多くの楽曲提供を行っている。小泉今日子「スマイル・アゲイン」、水谷麻里「バカンスの嵐」、荻野目洋子「スターダスト・ドリーム」、など、枚挙に暇がない。そして、そのタイトルを見ただけで、その印象

的なメロディーが即座に浮かんでくるだろう。
 昨年、彼は作曲家生活30周年を迎え、ソロアルバム『それぞれの夢』を発売した。今でも、レオパレス21のCMソングとして使用されている「それぞれの夢」やAKB48「泣きながら微笑んで」のセルフ・カヴァーなど全13曲を収録し、作曲家とはまた違うアーティストとしての一面を見せている。このアルバムに接して改めて感じたのは、メロディアスな楽曲が多いことだ。例えばAKB48に提供した「真夏のSounds Good!」のセルフ・カヴァーは、テンポを落としてバラードにし、そのメロディーが際立っている。
 そんな彼は、87年にもソロ・アルバムを発表していた。中学生テクノ・ユニットであるコスミック・インベンションのメンバーとし

てデビューしたのが81年。YMOの武道館コンサートのオープニング・アクトを務めながらも、84年に解散。その後、彼は85年、小泉今日子のアルバム『FLAPPER』収録の「Someday」で作曲家としてデビュー、その後様々なアーティストに楽曲提供をしながら、初のソロ・アルバムを創り上げる。それが今回復刻された『JAZZ』だ。ジャズと言ってもそのものズバリのジャズではなく、その形式を借りたフェイクな歌謡ジャズといえる。バックを務めるのは、御大の原信夫とシャープス&フラッツ。そして、先頃急逝した松原正樹をはじめ、今剛、松木恒秀、岡沢章、岡沢茂、村上ポンタ秀一、島健、土岐英史、本田雅人などのキラ星の如きスタジオ・ミュージシャン。
 そして、このアルバムに

は、他アーティストにカヴァーされた楽曲が2曲含まれていた。そのひとつは、田原俊彦の「KID」(作詞・阿久悠)。この曲は元々「赤と金のツイスト」(作詞・川村真澄)として収録されたが、田原のシングルもアレンジは清水信之なので、本人ヴァージョンと同じテイストで制作されている。そして、もう1曲は小泉今日子の「Slow Dancer」。この曲は86年にリリースされたアルバム『今日子の清く正しく美しく』に収録。作詞の美夏夜は小泉今日子本人、アレンジは元スペクトラムの兼崎順一が手がけた。今作では「Slow DancerⅡ」として、より、メロウなサウンドで再構築されている。
 しかし、何と言ってもこのアルバムの聴き所は、井上ヨシマサのルーツである、

ジャズ、ブラコン、AOR、ボサノヴァなどの要素を、弱冠21才で完全に消化している点だろう。印象に残る「オルゴールの枯葉」は、イントロのキーボードから、デヴィッド・フォスターが在籍したエアプレイの影響も感じられ、実に心地よい。ボサ・タッチの「シルヴィーの涙」、アーバン・ブラックな「波に乗ったペーパームーン」、そしてフェイク・ジャズな「ブルーボーイに赤いバラ」、「Saturday Night」などなど、聴き所が満載だ。
 今年は井上ヨシマサ、デビュー35周年。1月にはミュージカル『DNA写楽』の音楽も担当し、さらに精力的な音楽活動を行うようだ。彼の原点とも言えるアルバム『JAZZ』でメロディアスな楽曲の数々を楽しんで欲しい。
(戸里輝夫=編集者)
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主題歌分析クラブ 『赤毛のアン』


 日本アニメーション制作の『世界名作劇場』シリーズの第5作目で、演出に高畑勲、場面設定・画面構成に宮崎駿が参加している。主題歌の作曲と編曲は武満徹と並ぶ世界的に有名な数少ない日本人作曲家の三善晃が、歌は大和田りつこが担当。三善はポピュラー音楽をほとんど手がけていな

い、純音楽(クラシック)の作曲家であるがゆえに、アニメと主題歌は思えないフランス近代音楽を思わせるようなロマンティックな和声を持った楽曲に仕上げている。
 オープニング・テーマ「きこえるかしら」のAメロのクリシェ(構成音の一つを半音、または全音ずつ

変化させていくこと)は、イントロでも提示されたコード進行のヴァリエーション。サックスとトロンボーンのバッキングも、余りアニメ・ソングでは用いられなかったアレンジだ。4小節だけ歌メロがあり、そのあと4小節はインストゥルメンタルという構成も斬新。ここでもクリシェを導入している。その後の、ツー・ファイヴ・ワンという進行はポピュラー音楽らしい進行だ。
 Bメロでの、2拍3連直前から2拍3連へのコードの流れは白眉の美しさだ。「白い花の道」では花が舞い散るかのような、「風のふるさと」では風が舞い上がるようなピアノのオブリガートが挿入されている。
 Cメロ部分はサビ扱いになるのだが、Bメロでの高揚感たっぷりのから少しクールな雰囲気に。歌メロの

コール・アンド・レスポンスにストリングスのオブリガートが続く。最後はサブドミナント・ケーデンスだが、ベースをオン・コードにして4度で進行させて、進行を強調している。
 エンディング・テーマ「さめない夢」では、イントロで16分音符でのモチーフのピアノが登場。歌メロに突入してもこのピアノは続き、まるで花びらが風に乗って舞い上がっているか

のようだ。Aメロ後は、インストゥルメンタルに。オーケストラがサウンドを支配して、ベースがクロマティックなラインを含み下降。完璧としか形容のしようがない対位法とオーケストレーションが展開される。ストリングスとトロンボーンがせめぎ合うように旋律を奏でるが、ヴォーカルが再び入るとともに(Bメロ)、ストリングスとトロンボーンが融合する。このコード進行は、インストゥルメンタル・パートのヴァリエーションとなっている。サビ最後は4小節単位のメロディが2度登場するが、2度目の2小節目は4度上の同形のメロディながら、終止部分のみ同じ「D音」で終止させてヴァリエーションと統一感を同時に生み出している。
(ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト)