てりとりぃ放送局アーカイヴ(2012年1月6日〜2012年1月20日分)

 自分では自分のことを「無宗教」というタイプにカテゴライズしているのですが、同時に平然と「あ、この人が僕の神様です」と臆面もなく言います。そんなわけで今回はデヴィッド・ボウイの話です。えーと、「神様」なので、本来はアレコレと研究したり解析したりすることもおこがましいという存在ですが、日々彼の研究に余念がない、という人々は世界中に沢山いることも判っています。そんな神様の「幻」のお話を一席。(2012年1月6日更新分/選・文=大久)


The Jean Genie - BBC News explains the discovery

 昨年(2011年)の年末にある事件がおこりました。そのニュースは、12月21日夕方6時からのBBCニュースの中で報道されました。どんなニュースかと言いますと、「1973年にデヴィッド・ボウイがBBCで演奏した映像が、38年振りに発掘された」というニュースでした。動画はそのニュース映像で、発掘した元カメラマンのインタビューも放送されました。このニュースは夜10時からのBBCニュースでも繰り返し報道されました。そして「24日のTOP OF THE POPSで遂に解禁されます」という宣伝もバッチリ行われたわけですが。このニュースはBBC TVだけでなく、BBCのRADIO 1/2でも流れました。


David Bowie's lost 1973 TOTP Performance

 12月24日のクリスマス特番の終盤で、その発掘映像がついに放送されました。イブの日に、神様が(38年振りに)降臨したわけですね。世界中のボウイ研究家が初めてこの映像を目にしたことと思います。元々は1973年1月4日にBBC TOP OF THE POPSで放送されたソースでしたが、その後一切人目に触れることなく、眠っていた映像でした。あまりにも奇麗な映像なので、その点にもビックリですが、動いているミック・ロンソンを見るチャンスはそうそうないので、そういう意味でも驚愕の映像です。このマスターテープを発見した元カメラマンは「21日だけで4本のインタビュー取材を受けた」と語っています。

 TOP OF THE POPSは基本的に音が前録りで放送素材はアテフリなのですが、ここで見る事の出来る演奏は生演奏のようです。後半でベースが2小節分尺を間違えた部分がそのまま演奏されていることが確認できますし、「完全なライヴ」とナレーションでも言ってますし。当方のようなオタクは、ミック・ロンソンのアンプのツマミの位置がどうなってるか、とか、どのタイミングでファズを踏んでるか、とか、ボウイ様のジャケットの素材は一体なんなのか、なんてことまで知りたくて、この映像をそれこそ何十回も凝視するわけですが、そんなオタク心とは一切関係なく、やっぱりカッコイイというのはこういうことだな、とか一目で確信を深めたりもしました。


Jeff Beck with David Bowie- The Jean Genie

 上のTOTP出演から半年後、1973年7月3日にこの「神様」は突然の引退宣言をするわけですが、その日のライヴはドキュメント映画として公開される予定になっており、ビデオ・シューティングが行われました。またこの日のライヴはスペシャル・ゲストとしてジェフ・ベックが参加し、2曲を共演しています。しかし何らかの事情により映画は公開されず(アメリカで1時間の特番として一部がTV放映されましたが)、10年以上を経た1984年に突然映画として公開されました。しかしその1984年公開版ではジェフ・ベックの姿をどこにも見る事ができません。権利関係なのかクオリティの問題なのか、その辺は知る由もありませんが、そのボウイ+ベックの共演部分は公式にお蔵入りが決定しています。とはいえ、その素材は現在YOUTUBEでみることができますが(笑)。

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 とりたてて「ヘンリー・マンシーニを偏愛してます」というタイプの人間ではないのですが、それでも好きなモノは好きです。「ムーン・リヴァー」大好きです。星の数ほど存在するバリエーションを総ざらいするのはもはや不可能ですが、最近でも持田香織嬢のいなたいカヴァーとか、手嶌葵さんのセクシュアルなカヴァーとか印象的なモノもいくつかありましたよね。というわけで今回はお気に入りの「ムーン・リヴァー」を4つほど。(2012年1月13日更新分/選・文=大久)


Audrey Hepburn sings Moon River

 まずは「世界一奇麗な女優さん」が歌った、世界一有名な61年の映画バージョンです。ヘップバーンの歌はさすがに「絶品」と呼ぶほどのモノではない、ということは認めざるを得ない(映画「マイ・フェア・レディー」での彼女の歌が他人の歌唱に差し替えられたり、なんてこともありますし)のですが、作詞家ジョニー・マーサーも「ヘップバーンの歌が一番」と仰ってるように、やはり愛さずにはいられない「歌」です。


Mina / medrey: Moon River - Senza Fine - Vedova Allegra

 そして個人的に愛して止まないミーナ。68年のTVステージにて「ワルツ・メドレー」の冒頭でこの歌を歌っています。いやー奇麗っスねえ。ちなみに「SENZA FINE」は「いつまでも」の邦題でしられるカンツォーネ、「VEDOVA ALLEGRA」は「THE MERRY WIDOW」という英題で知られるオペレッタのテーマです。2008年、イタリア国営放送RAIに出演した映像等をまとめた10枚組DVDがミーナの芸能活動50周年記念として発売されているのですが、頑張って探しているものの、いまだに当方はそれを入手できずにいます。んー、悔しい。なんとかしたいところです。
Petra Haden + Bill Frisell/ Moon River (2005)

 こちらはビル・フリーゼルによるカヴァー。ECM〜ノンサッチといったレーベルでの仕事が有名な彼は、NYアンダーグラウンド・ジャズの流れを汲む奇才ですが、このスタンダード曲をしっとりと演奏しています。2005年発表のこの曲はペトラ・ヘイデンという人とのデュオ名義。ペトラ嬢はオーネット・コールマンやパット・メセニーとの共演で知られるベーシスト、チャーリー・ヘイデンの娘さんで、自身はバイオリニストでもあります。この曲ではビルのギターにペトラのバイオリン+歌、という構成になっています。




Morrissey / Moon River (1995)

 そして有名なようでいて、実はあんまり知られていない傑作バージョン。95年にモリッシーがシングルのB面曲としてカヴァーしたヴァージョンです。10分弱あります。最高です。本旨と離れますが、この曲の後半でうっすらと女性の鳴き声がコラージュされているのですが、一時この声はヘップバーンの声だ、という噂が流れたことがあります。実際にはヘップバーンではなくペギー・エヴァンスというイギリスの大昔の女優さんでして、1950年のイギリス映画「The BLUE LAMP」の音声をサンプリングしたものです。

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 プログレ。お若い方にはほとんど馴染みのない言葉かもしれません。いくら「名盤中の名盤」と言われても屈指のブキミさを誇るジャケでも有名な『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年)というアルバムを実際に購入する、というのは、初心者にはそれなりに勇気のいる行為でもあります(笑)。しかしながら未だにそのアルバムに夢中な輩というのも(当方を含め)多く存在するわけです。そして真っ暗な世界の中でキング・クリムゾンというバイブルを見つけてしまった人は音楽家の中にも沢山いるようです。古くはザ・ピーナッツ、フォーリーブス、西城秀樹、そしてジューダス・プリーストまでもカヴァーを残していますが、ここではちょっと意外な新しめのクリムゾン・カヴァー曲をご紹介。(2012年1月20日更新/選・文=大久)


Crimson Jazz Trio / I Talk to the Wind (2005)

 ジャズのピアノ・トリオによるクリムゾンのカヴァー・アルバムより。トリオ・ジャズ、とはいいながらもドラムのイアン・ウォレスは一時期(71〜72年)キング・クリムゾンにも参加していた「本人」なわけで、カヴァーとは言えないのかもしれません。このトリオ名義ではアルバムを2枚発表していますが、イアン・ウォレスが2007年に亡くなったことでプロジェクトは打ち止めとなりました。『宮殿』の中でも出色の美しさを持つ「風に語りて」ですが、ジャズ・アレンジだとまた違った楽しみ方が出来ますね。


Judy Dyble / I Talk to the Wind (2006)

 ジュディー・ダイブルはフェアポート・コンヴェンションの初代ヴォーカリストとして知られる女性ですが、実は「風に語りて」のオリジナル・シンガーでもあります。クリムゾン結成前に残された「風に〜」のデモは3バージョンありますが、その中で彼女をフィーチャーしたヴァージョンが残されたからです。で、こちらはロバート・フリップ先生も参加して制作された2006年の彼女のソロ作『THE WHORL』に収録された新録音バージョン。40年振りの録音なのに、原曲よりキーを上げてあるところもスゴイですが、歌声の美しさがそのままだということに一番驚かされます。


The Unthanks / Starless (2011)

 「スターレス」はクリムゾン楽曲の中でも「21世紀の精神異常者」と並ぶ代表曲のひとつですが、日本ではスターレス高嶋(=高嶋政宏)のカヴァー・バージョンでも有名かもしれませんね。こちらはレイチェル&ベッキーの姉妹を中心としたイギリスのルーツ・フォーク・グループ、アンサンクスによるカヴァーで、2011年の春に英チャートの40位まで上がった流麗なアコースティック・バージョン。
Kurt Elling / Matte Kudasai (2011)

 こちらもジャズ・スタイルでのカヴァー。ブルーノート〜コンコルド、と名門レーベルでキャリアを重ねてきた67年生まれのジャズ・ヴォーカリスト、カート・エリングの9枚目となる最新作『THE GATE』に収録された「マッテクダサイ」のカヴァー。元は80年代再結成クリムゾン期の隠れた名曲ですが、タイトルにもなった日本語の響きがちょっと不思議なことも相まってか、英米ではよく知られたクリムゾン作品のひとつです。


kd lang / Matte Kudasai (2011)

 「マッテクダサイ」のカヴァーをもう1曲。2011年の春にイギリスBBCの「RADIO 2 イン・コンサート」に出演したKDラングのライヴ映像です。「驚く人もいるかと思うけど、こんなイギリスの曲を選んでみました。私のアルバム『INGENUE』(92年/彼女の大ヒット作)にすごく影響を与えた曲です。聞いてもらえば判ると思います」と言ってますね。クリムゾンとKDラングという意外な組み合わせにビックリですが、たしかに聞けば納得、の曲です。

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